本のこぼれ話

『現代の超克〜本当の「読む」を取り戻す』中島岳志・若松英輔(ミシマ社)

 2014年8月22日、いよいよ『現代の超克 ~本当の「読む」を取り戻す』(中島岳志・若松英輔著)が発売となります。

 集団的自衛権、原発問題、TPP・・・私たちが直面している現代の問題に取り組むには、歴史の声を聴くしかない。『近代の超克』あるいは『南無阿弥陀仏』(柳宗悦著)、『ガンディーからの手紙』などを本当の意味で「読み」ながら、著者のお二人が対話したその内容は、私たちが歴史の声を、とくに近代の声を聴くのに、これ以上ないというほど豊穣なものでした。

 さらに本書は単なる対談集ではなく、その対話をもとにお二人がさらに奥深くまで潜って言葉を紡ぎ、ほぼ書き下ろしに近い内容になっているうえに、お二人の言葉が溶け合い、どちらがどちらの発言をしているのかわからなくなるような・・・語りだすととにかくとまらない名著が誕生したのですが、その内容は本書を手にとって読んでいただくとして。

 「本のこぼれ話」では、モノとしての『現代の超克 ~本当の「読む」を取り戻す』ができあがるまでをご紹介したいと思います。「読む」ことの原点に立ち返る本書をつくるにあたっては、本づくりも原点に戻り、紙ができるところからお伝えしたい。
 そんな思いから6月某日、今回装丁をご担当いただいた矢萩多聞さん、ミシマ、編集ホシノの3人で、富士山の麓にある、日清紡ペーパー プロダクツ株式会社、富士事業所の製紙工場にうかがってきました。

 その様子とともに、『現代の超克 ~本当の「読む」を取り戻す』ができるまでをお届けします。テーマはずばり「ヴァンヌーボ」。今は意味がわからない方も、読み終えるころには「ヴァンヌーボ」マスターになっているはずです。

(構成:星野友里、写真:矢萩多聞)

第38回 『現代の超克』ができるまで 前編

2014.08.21更新

ヴァンヌーボづくし

 7月某日、『現代の超克』の制作も大詰めをむかえたある日、装丁の矢萩さんから用紙指定(カバー、表紙、見返しなどにどの紙を使うかという指定のこと)のメールが届きました。

そこには
「なにかの間違いじゃないか、とおもうほどヴァンヌーボづくしです」
という一文が。

 そうなのです。通常、カバー、帯、表紙、見返し、扉、それぞれに、デザイナーの方のイメージに合った異なる紙が選ばれることが多いのですが、今回は・・・ぜーんぶヴァンヌーボ!(本文用紙をのぞく)。そこには深い(?)わけがあるのです。


紙の特色の決め手は、パルプの配合と叩解(こうかい)の加減

 そのわけを説明する前に。世の中には数え切れないほどの紙があり、一般的に書籍に使われる紙だけでも相当な種類があります。まずは、それらの紙の特色はどのように決まるのか、工場で日清紡のみなさまに教えていただいたことを、お伝えしたいと思います。

 紙の特色を決定づける要素は、大きく2つ。
 
 まずひとつ目は、パルプの配合。紙の原料となる木材パルプには、NBKP(針葉樹を原料にしたもの)とLBKP(広葉樹を原料にしたもの)があり、このNとLの配合の割合が、紙の特色を大きく左右します。

 針葉樹由来のN材は、太くて長い繊維でできているため、N材が多いと強い紙になります。実際、N材パルプを試しに破ろうとしたのですが、指力のない私はかなり苦戦しました。一方の広葉樹由来のL材パルプは、細くて短い繊維でできているため、L材が多いと均一な紙になりやすく、ムラなく印刷するのに適しています。

スルッと破けるL材パルプと、途中で破るのを断念したN材パルプ


 もうひとつは叩解(こうかい)の加減。叩解とは聞きなれない言葉ですが、パルプの繊維を毛羽立たせて、結合を強くするための工程です。この工程を経ることで紙に強度が出ますが、やりすぎると風合いがなくなり、フラットな質感の紙になってしまう。そのバランスを紙の用途に合わせて調整するのだそうです。


新しい風

 さて、それではわれらがヴァンヌーボはというと、パルプの配合はLが多く、印刷しやすい特徴をもち、叩解はやりすぎないことで、適度なクッション性や風合いを残しています。その絶妙なバランスが熱く支持され、書籍のカバー等にとてもよく使われます。ミシマ社の本でもたとえば『ドンマイドンマイッ!』や『小田嶋隆のコラム道』のカバーに使わせていただいています。

日清紡ペーパー プロダクツの事務所入り口に貼られているポスター

 そんなヴァンヌーボが誕生したのは、今からちょうど20年前の1994年。「高度な印刷品質に加え、風合いがあり、感性に働きかける印刷用紙をつくる」というコンセプトのもとに開発され、風合いと印刷再現を兼ね備えた「ラフ・グロス」という印刷用紙の新たな市場を開拓されました。
(ちなみに監修をされたのはデザイナー・建築家 矢萩喜從郎氏。偶然にも、『現代の超克』を装丁デザインしてくださった、矢萩多聞さんと同じ苗字・・・!)

「ヴァンヌーボ」とはフランス語で"新しい風"という意味。
『現代の超克 ~本当の「読む」を取り戻す』はまさに、過去に書かれたこと、語られたことを「読む」ことで、現代に"新しい風"を届けたいという一冊であり、ヴァンヌーボにぴったり。
 そんなこともあって今回、「ヴァンヌーボづくしの一冊」ができあがったのでした。

 明日後編では、工場見学のレポートとともに、さらにディープなヴァンヌーボの種類のお話をお届けします!

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ミシマ社編集チーム

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