本のこぼれ話

『エピジェネティクス』仲野徹(岩波新書)

 ある日、ミシマ社内で『エピジェネティクス』という本が話題になっていました。
「え、エピジェネ......?」
「ハリー・ポッターに出てくる魔法......?」
「いや、どうやら生命科学のことばらしいで」
 みんなでワイワイ話していたところ、その場に居合わせたデッチ(学生のお手伝いさん)のコバヤシくんが興味津々に。すぐに本屋さんに走り、読んでみました。
 すると、おもしろいのだけれど果たしてこれはちゃんと自分は「わかって」いるのか? ええ、ここって、どういうこと? 頭で考えがちな学生代表・コバヤシくんは、そんな疑問で頭がいっぱいになってしまいました。

 そこで! 著者である仲野徹先生のところへ伺い、生命科学の基礎的な部分から、最新のホットな話題まで、直接教えていただいてきました。

(構成:小林翔太・新居未希、写真:新居未希)

第42回 教えて、先生! 『エピジェネティクス』仲野徹先生

2014.09.24更新


ゲノムは知っておかなあかん!

仲野誰かが自分のゲノムを知りたいと思うのを止めようとは決して思わへんけど、それを自分で決めなあかん時代はね、そこまで来てるんですよ。5年から10年以内に来るやろう。おそらく、1000ドルまではいかへんやろうけど、2~30万出したらできるのは5年から10年以内に来るやろうね。数百万とずいぶんハードル違うやろ。

―― 全然違うと思います。

仲野そうなってきたときにまず一番難しいのは、僕なんかはよく理解したうえで読まずにおこうと思っているけど、ゲノムを読むか読まずにおくかという決断を、どの程度の知識をもってするかというのが第一関門なんや。これはごっつい難しいと思うわ。もうそこまで来てます。誰かが真剣に教育しなあかんねんけどね。

―― そんな時代がそこまで来てるということを今日初めて知りました。

仲野あんまり日本で報道されてないもん。なんでやろう。アメリカはすごいあるよ、検査会社がたくさん。日本でも最近そういうサービスが生まれるとか報道されてたと思うけど、それでも周回遅れで、アメリカではもう禁止しようかとしてて、禁止に近い状態になっているときに日本で始めるってどうよっていう(笑)。

―― (笑)。

仲野そういう議論がなされてない。アメリカではそういう議論がなされた末に、少なくとも今のようなものならやめた方がいいという判断がなされたわけやからね。

―― 日本は、そういう面に対しては遅いんですね。

仲野遅いね。なんでやろう。アメリカではエピジェネティクスに関する一般書もたくさん出ているんです。『1000ドルゲノム』という本はつい最近、2010年くらいにアメリカで、日本では今年出たんやけど、かなり分厚くて、それこそ専門知識がなかったら読まれへんのとちゃうかと思うねんけど、残念なことにね、出てから3~4年経ってるから内容がもう古いのよ。

―― へぇ~。

仲野ゲノムってそのスピードで進んでるから。ゲノムは知っておかなあかんね。エピジェネティクスよりもゲノム知っておかなあかん。エピジェネティクスは付随知識として知っておいたほうが、賢いやろう。


読んだら賢くなる新書を書きたかった

仲野この本書いたのには、もうひとつの目的があるんです。昔の新書って今の新書よりも難しかったのよ。読むのは難しいけど、読み終わったら「賢くなったなぁ」という、知らん分野をひとつ知って、階段をひとつ登ったような気になる。僕もそんな新書を書きたいと思っていたから、少し難しめにしたんですよ。

―― たしかに、最近の新書は流し読みできてしまうものも多いですね。

仲野これなんかパラパラっと見たらね、難しくて絶対読めると思わへんやろうと思うけど、前から読んでいったらそうでもないでしょ?

―― ちょっとずつ小ネタも入っていて。

仲野そうそう、小ネタを入れてあるねん(笑)。講義と一緒で、眠たくなったころに小ネタが入るように。これは目的が3つあって、ひとつはエピジェネティクスのことを広めたい。それから、生物学には面白い小ネタがいっぱいあるから、小ネタ集みたいなところもあって、それがひとつ。

―― たくさん笑いました。

仲野最後一つは、研究の進め方、これは個人によって違いがあるんやけど、科学におけるものの考え方というのはどんなもんかな、というのを書いてみたいというのがあって、その3つを入れた形になっています。一冊読んだら三冊分おいしくて、なおかつ賢くなったと思えるというのを目指してるんやけどね。

―― いや、ほんまに、賢くなった気がします!

仲野もう一回は読まなあかんのちゃう?

―― はい、もう一回読みます!(笑)


【デッチ・コバヤシくんの感想】

 仲野先生はとても気さくで、でも真剣で、私たちの質問一つ一つに丁寧に答えてくださり、さらには小ネタや裏話までたくさんお話してくださいました。興奮して話されているのを見ると、先生は本当に生命科学が大好きなんだ、と感じました。

 エピジェネティクスを理解できた(と感じた)瞬間に生まれた興奮は、とても貴重な体験でした。それは仲野先生が日々の研究の中で感じる興奮や楽しさと繋がっているような気がします。偉そうですが、その共有感に何か自分もその世界の一員になったかのように感じられ、それも学ぶことの楽しさや喜びなんじゃないかと思いました。
 仲野先生、ありがとうございました。わかるって楽しい!


   

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仲野徹(なかの・とおる)

1957年大阪生まれ。1981年大阪大学医学部卒業。内科医としての勤務、大阪大学医学部助手、ヨーロッパ分子生物学研究所研究員、京都大学医学部講師、大阪大学微生物病研究所教授を経て、現在大阪大学大学院医学系研究科・生命機能研究科教授。専攻はエピジェネティクス、幹細胞学。著書に『カラーイラストでよくわかる 幹細胞とクローン』(羊土社)、『なかのとおるの生命科学者の伝記を読む』(学研メディカル秀潤社)。

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