本のこぼれ話

『シェフを「つづける」ということ』井川直子(ミシマ社)

 ミシマ社合宿in沖縄の日程は2015年2月21日~23日。そして『シェフを「つづける」ということ』の見本が自由が丘オフィスに届いたのは、出発前日、20日の19時頃......。

 そんなできたてホヤッホヤの本をお届けすべく、そして本のこぼれ話をおうかがいすべく、向かったのは首里城のほど近くにある青木善行シェフのお店、「リストランテ ラビュー」

 本のなかで、青木シェフの奥様の、青木シェフの第一印象は「あ、武士みたいな人がいる」だったというエピソードが出てきますが、お会いしてみるとその言葉どおりでした。こちらをまっすぐに見て、迷いのない言葉で語られるお話に引き込まれるうち、あっという間に時間が経っていました。

 著者、井川直子さんとの出会いから、沖縄でイタリアンのリストランテをするということ、そして青木シェフにとっての「つづける」ということ......。どうぞお楽しみください。

(構成・写真:星野友里)

『シェフを「つづける」ということ』青木善行さんを訪ねて ~沖縄特集号~(後編)

2015.03.28更新


体調が悪かったら今日は閉めよう



青木沖縄でお店をやるときめたときには、人が求めるものじゃなくて、自分がやりたい料理をやって、それでなんとか生活できれば僕はもう満足だったんです。やりたくないことをやって、いっぱいお金をもらうより、僕はそっちに舵をきったんです。最前線から退いたというか。

―― 最前線から退く。

青木自分でいうのもおかしいけど、イタリアにいたころは僕は最前線を走っていた。ガイドブックの星とか点数で評価される世界で、イタリア人のシェフと対等に料理で勝負してた。それも一つの世界だし、生き残る人は経験や知識だけじゃなくて腹黒くないといけない。僕はそこまで強くなかった。とりあえず自分と奥さんがなんとか食べていければという方向性が決まって、じゃあ奥さんを説得しなきゃなって。

―― 奥さんの反応は?

青木あっさり「いいよ」って。もうどうしよう、いつ話そうって思っていたのに拍子抜けしちゃった。でもいざ、場所決めて、施工が始まって、お金も借りて、営業許可書もらって、開けるぞってなったときに、奥さんは怖くなっちゃって泣きだして、夜も「怖い」って寝れなくて。

―― 奥様はお店のサービスを担当されているのですよね。

青木夫婦二人でやってるから、僕もサポートしたくても行けなくて。はじめの一年は彼女の様子をみながら休み休みでした。オープンして2、3年くらいはお客さんが「今日は開いてますか?」っていうのが第一声(笑)。僕はそれでもよくて、長くつづけていくつもりで来ているから、それは奥さんも理解していたし、無理だったらいいし体調がわるかったら今日は閉めようって。それで、もう5、6年になるんです。


シェフを「つづける」ということ

―― 本書でも「つづける」がキーワードとなっています。シェフをつづけることにたいして、青木さんが思うことがあったらうかがいたいです。

青木僕も昔は、正直、ひとつの職場に定年まで勤め上げるということが、別にいいともなんとも思っていなかったです。あほらしいとまで思っていた。儲かる仕事があったら、そっちにいけばいいじゃんって。ただ、たまたま僕の場合、料理が好きでこの世界にはいったので、仕事って割り切れないところがあって、スタート地点からそこに好きって部分がプラスされている。

―― なるほど。

青木やっているうちに、僕は年代が上の人から影響を受けた。つづけるってこともわるくないなって。衝撃的だったのは、60過ぎのシェフが豆を炊いてるときでしたね。前の本(『イタリアに行ってコックになる』)にも出てくる話なんですが、トスカーナの料理で、鍋にニンニクと塩を入れて、コトコト豆を煮るんです。炊くのに時間がかかるんですけど、しょっちゅう調理場にはいってきて、にこにこしながら一個すくって食べて「うん、まだだ」って、それを楽しそうに繰り返すんですよ。

―― いいですね。

青木自分はその日まで、その仕事を楽しそうにやってる人なんて見たことがなかった。40年以上やってきた人が子どものような笑顔で豆炊いてるっていうのが、ほんとに衝撃だった。「俺こんなふうになれるかな? なりたいな。じじいになってにこにこしながら料理つくれたら最高だよな」って思った。それが自分の目指す道になった。どこどこの料理長になるとか、ガイドブックで有名になるなんてことじゃなくて。そのときが、イタリアに残る決断をしたときだし、それがまだ僕の中で生きているので。

―― そこが原点なのですね。

青木まだ僕47なので、まだまだやらないと60になれないし。先は長いので、だからこの場所でゆっくりっていうのは、走りつづけちゃうとあんなふうにはなれないのがわかっているから。60歳で僕がここにいて笑顔で豆炊いてるっていう。今の目標はそこなんです。偶然沖縄に来てこの場所でやりだして、狙っていたわけではないけど、自分の望む道にきているなって。案の定貧乏だけど。


借金を背負ってでもお店をやる価値

青木「つづける」というのは、結果として「つづいている」んだと思う。今でもつづけてるけど、まだ終わってないから、「つづけました」じゃない。この後どうなるかもわかんないし。最初に入った店でずっと働いていくことがつづけることかもしれないし、料理人をつづけながらも、当然考えもなにも変わってきているし、人としての成長も多少はあるだろうし。だから「つづけるぞー!」って熱い思いをもってやっているわけではない。結果としてそうあればいいってスタンスですね。

―― たしかにそうですね。

青木料理人って、自分で幕引きができる。会社であれば、定年という境界線を会社や人様から引かれる。僕ら料理人は、自分で店を開けてしまえば、この店を閉めるのは僕自身なんで。やり方次第では、80歳でもやれるかもしれない。まあ、できるとも思っていないけれど、自分で幕引きができる。それは、借金を背負ってでもお店をやる価値があると思う。

―― なるほど。



青木別の視点でいえば、今さら料理人以外できないっていうのもあるわけ。それしか生きていく術をしらないし、今から新しいことやる勇気もないし。これ誰が言ってたのかな・・・「10年やったら天職だ」って。好き嫌いにかかわらず、ひとつの仕事を10年やったら天職だからつづけなさいって意味なんだけど。ほんとに嫌いなら3日でやめてるんだから。僕もそう思ってるし、そう思わざるをえないというか、これが天職だって自分に言い聞かせている。

―― いい言葉ですね。

青木お店を開けていれば、当然いやなことも起こるけど、つづけていけば笑い話にもなる。ほんとに儲からないでやってますけど、でもつらさは全然ないよ。ストレスはゼロじゃないけど、昔のような胃が痛くて立っていられないようなストレスはない。そういう意味では自分が歩いてる道は間違ってはないよなって。もしかしたらもっといい道があったかもしれないけど、そのなかでもまったく検討違いの道を歩いているわけじゃないよってことは自分に言い聞かせてる。だからこのまま歩いていけばいいって。

―― お話をうかがっていて、力が湧いてきました。今日は本当に素敵なお話を、ありがとうございました。


リストランテラビュー

〒903-0826
沖縄県那覇市首里寒川町2丁目18‎
電話:098-886-6679
営業時間:Lunch/12:00〜15:00(水〜日)
     Dinner/18:00〜21:00(火〜日)

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