本のこぼれ話

『女、今日も仕事する』大瀧純子(ミシマ社)

 制度では実現できないこと、女性たち自身が変えていくこと、いけること。
 どうしたら自分の身体も労りつつ、自分も周りの人も幸せにしながら、いい仕事が長く続けられるのか。
 そのためには、何が必要で、何を捨てるべきか。
 どんなところをどうやって磨いていくとよいのか。
 そんなことを、あらためて考えていけたらと思っています。

――まえがきより

 女性として生き、女性として仕事をする。考えてみれば当たり前のことが、この社会では時に非常に困難です。「ワークライフバランス」「自己実現」「バリキャリ」...どれもピンとこない女性たちへ、"女の仕事"を本音で語る『女、今日も仕事する』をミシマ社より出版した大瀧純子さん。かつてはクビを告げられた上司であり、現在は共同経営者でもある若松英輔さんとの対談による出版イベントを、ダイジェストでお送りします。

(構成:森 旭彦)


今日は第1回をお送りします。

大瀧純子さん×若松英輔さん 「しなやかに」働くということ ~突然のクビ宣告から社長になるまで~ (1)

2015.08.11更新


偶然の出会いからクビにいたるまで

ーー 本書ができた経緯を、先に簡単にご説明したいと思います。ミシマ社から昨年発刊させていただいた『現代の超克』(中島岳志・若松英輔)に関する打合せで若松さんの事務所にうかがった際に、大瀧さんにお目にかかったのが最初のきっかけでした。

 帯にもありますが、「ワークライフバランス」「自己実現」等、既存の女性むけビジネス書にまったくピンとこないと思っていた中で、大瀧さんのお話は、全然肩に力が入っていなくて、目からウロコがポロポロ落ちるもので、また批評家若松さんが「元ダメ上司」として語られる、そのお二人の信頼関係もとても素敵だなと思い、「このお話は多くの人に届けたい!」ということでご執筆を依頼させていただきました。

 そんなお二人に、本には収まりきらなかったエピソード等々、存分にお話しいただきたいと思います。

若松それでは今日は、僕がいかに彼女にお世話になってきたか、お話しながら進めたいと思います。

大瀧ここで罪滅ぼし?(笑)

若松(笑)、少し自己紹介をさせていただくと、僕はかつて「ピジョン」という会社に12年間勤めていました。女性の方はご存知の方も多いと思いますが、ピジョンは育児用品の大手企業です。僕はそこで介護用品事業を担当していましたが、最後の2年間は新規事業を担当し、新しくつくった会社を経営することになりました。この会社にいた時に僕に与えられた問題は「人間はどうしたら寝たきりにならないですむか」でした。そして僕がチャレンジしたのが今のシナジーカンパニージャパンでも扱っているハーブ、つまり「薬草」なんです。

 これからの高齢化社会において、人間はいかに健康で居続けることができるかが幸せの鍵になります。業界で、ハーブに着目してサプリをはじめてつくったのは我々でした。結果的に全国数千点のドラッグストアで販売され、成功を収めました。しかしある日、百貨店に行ったら同じような商品があったんです。

 「相当な人員と時間かけて開発したのに、わずか数カ月後に同じような商品が出ているとはどういうことだ?」「一体誰が開発したんだ?」と思い、僕はその商品をつくった人に会いたくなりました。
 そうして時が経ち、シナジーカンパニージャパンを創業し、ある会社へ商品を売り込みに行く機会がありました。そこに出てきたバイヤーさんがこの大瀧さんだったのです。その商談の中で、あの商品を作ったのが彼女だったことを知りました。

 僕は「あれをつくったのはあなただったんですか! 僕はあなたに会いたかったんですよ!」と感激しました。
 その後、大瀧さんが育児を理由にその会社を退社される時に「ぜひうちの会社に来てください」とお誘いしたんです。それが2003年の何月くらいですか?

大瀧2月くらいかな? 私が実際に今の会社に入社したのは5月頃ですね。

若松で、僕が大瀧さんに「辞めてください」って言ったのはいつでしたっけ?

大瀧7月の...最後の週ですね。

若松え! それはその年の?

大瀧その年ですよ、もちろん。

若松もうちょっと経ってからじゃない?

大瀧ちがいます。入社3カ月目に「お前はクビだ」って言われたからびっくりしたんですよ。


自分でつくった会社から「お前は必要ない」と言われる

若松そう... 本にも書いていますが、いろいろありまして「もう僕はあんたと一緒に仕事はできない」という感じで、辞めてくださいということに...。でも、それからもご縁があって、また復職して、今は社長をやってもらっているというわけなんです。

 それ以降、いろんな困難を彼女と乗り越えてきました。そのプロセスの中である日、僕は自分でつくった会社から「お前は必要ない」と言われたんです。

 これは僕の持論ですが、健全な会社というものは、働いている人から「この人に社長をやってもらいます」という暗黙のメッセージが出てくるものです。僕が社長をしていた時代にはそういうことが起こらなかった。自分では無自覚だったのですが、僕は創業者としてどこか威張っていたところがあり、会社が不健全な状態だった。

 僕はいわば、会社の自浄作用によって、会社から必要ないとされ、会社が大瀧さんを社長に選びました。
 そういう会社はとても少ないものです。なぜなら、創業者はいつまでも居座るからです。「これはおれの会社だ」と

 でも、本当の意味で健全な会社をつくるのに大切になってくるのが、女性的な要素なんだと僕は思います。ひとりのカリスマが牽引するのではなく、柔軟で柔和なものが必要なんです。


半年や1年たった後で思い出して、ふと良さがわかるような一冊

若松大瀧さんは今の自分の中に何か大きな力がある・ないよりも、実際にやってみて力を確かめる方がより遠くへいけるということを知っている人だと思います。大瀧さんは自分でよく「私には特殊な力はない」と言っていますね? 会社をつくってみれば、力がなくても出すしかない。コピー機なければ借りてくる、椅子が壊れたら自分で直さなければなりません。全部自分たちでやらなければならないのです。

 この本は、そういった仕事の叡智が、大瀧さんというひとりの女性の経験に裏打ちされて書かれている。僕も6、7回読みました。4回目くらいまで自分の過去と対面しているようで辛かったのですが(笑)、5回目以降はとても爽やかな気持ちで読み進めることができました。

 この本には、自分たちでやってみた中でできたことが書かれている。準備が整った中でやったことではありません。みなさんに読んで楽しんでもらいたいと思うのは、他の仕事の本よりもずっと"日常"に近いということです。

 「すぐに仕事で役に立つことが書いていない」と感じられることもあるかもしれません。でも、大瀧さんの本は、半年や1年たった後で思い出して、ふと良さがわかるような一冊なんです。少し長くなりましたが僕からはそんな感想です。大瀧さんはどんな気持ちでこの本を書き進められましたか?

大瀧その前に、この中で若松さんの大ファンの方いらっしゃいますか? ...はい、少ないですね。じゃあ、とくに気を使わなくていいかな(笑)。

若松わからないよ。もしかすると、おふくろが来てるかもしれない...

大瀧若松さんのお母さんいらっしゃいますか? ご親族の方は? ...はい、いませんねー。

若松そういえば、うちのおふくろが大瀧さんに「ありがとう」って伝えてくれと言っていたよ。...なんだか複雑でしたよ、息子としては(苦笑)。

大瀧私は若松さんのお母さんにはすごく申し訳ないなと思いながら書きました...。

若松でもまあ、すべて事実ですから。

大瀧そうですね。事実の10分の1くらいのことを書かせていただきました(笑)。ここに書かれていない大げんかも相当してきましたので、いろんなことを超えて、今ここでこうしてお話しできているのはありがたいことです。奇跡というほど大げさではないですが、素晴らしいことだと感じています。


   

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大瀧純子 (おおたき・じゅんこ)

(株)シナジーカンパニージャパン最高経営責任者。同社の創業メンバーの一人。オーガニックハーブ製品の開発者であり、企画プロデューサーでもある。1967年、埼玉県生まれ。学習院大学文学部心理学科卒。大学卒業後、システムエンジニアとして大手金融会社のシステム開発などに携わった後、出産、子育てのため家庭に入る。その後、在宅での商品開発やバイヤー職など、あらたなキャリアを積み重ねる。大学生の息子が一人。


若松英輔 (わかまつ・えいすけ)

1968年生まれ、批評家。読売新聞読書委員、『三田文学』編集長、(財)松ヶ岡文庫評議員。「越知保夫とその時代」で第14回三田文学新人賞受賞。著書に『井筒俊彦―叡知の哲学』(慶應義塾大学出版会)、『魂にふれる―大震災と、生きている死者』(トランスビュー)、『吉満義彦 詩と天使の形而上学』(岩波書店)、『涙のしずくに洗われて咲きいづるもの』(河出書房新社)、『現代の超克』(中島岳志氏との共著)(ミシマ社)など。

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