本のこぼれ話

『女、今日も仕事する』大瀧純子(ミシマ社)

 制度では実現できないこと、女性たち自身が変えていくこと、いけること。
 どうしたら自分の身体も労りつつ、自分も周りの人も幸せにしながら、いい仕事が長く続けられるのか。
 そのためには、何が必要で、何を捨てるべきか。
 どんなところをどうやって磨いていくとよいのか。
 そんなことを、あらためて考えていけたらと思っています。

――まえがきより

 女性として生き、女性として仕事をする。考えてみれば当たり前のことが、この社会では時に非常に困難です。「ワークライフバランス」「自己実現」「バリキャリ」...どれもピンとこない女性たちへ、"女の仕事"を本音で語る『女、今日も仕事する』をミシマ社より出版した大瀧純子さん。かつてはクビを告げられた上司であり、現在は共同経営者でもある若松英輔さんとの対談による出版イベントをお届け。今日は第2回です!

(構成:森 旭彦)

大瀧純子さん×若松英輔さん 「しなやかに」働くということ ~突然のクビ宣告から社長になるまで~ (2)

2015.08.12更新

「若松さんは、社長じゃなかったらクビだね」

若松自分で本を書いていると、本を書く人って、なんとなくわかります。かつて大瀧さんがいずれ本を書くだろうなと思ったことがあって、その時に「ぜったい僕のことを書くだろうな」と感じました(笑)。

 しかし今回の本をつくり始めた最初の頃は、僕のことがあまり書かれていなかった。僕と大瀧さんの関係を書いても、読む人にとってはあまり良いことにならないのではないか、と大瀧さんも考えていたんです。そうして原稿ができ上がると、まるでおそば無しの七味みたいになってしまって。「これだけじゃ終われない!」と思って進めてゆくうちに、だんだん書かざるを得なくなってきたんですよね。本というものは不思議なもので、生きているんです。

 いやほんと、社長なんてバカばっかりですよ。

大瀧他の社長のみなさんがそうかはわからないけど。

若松会社を立ち上げるのはバカじゃないとできないですよ。でも、この会社はきっと大瀧さんがいなかったら潰れていたでしょうね。

大瀧3回くらい潰れているでしょうね。「若松さんがいちスタッフだったらここでクビだよ」って言ったことは何度もあります。社長だからクビにできなくて残念。

若松「若松さんは、社長じゃなかったらクビだね」とある時、エレベータの中で言われましたね。最初、自分が何を言われたかわからなかったですよ(笑)。「俺は...今、何を言われたんだ!?」と、理解が追いつかなかったです。

大瀧そんなふうに言い合えるようになるまでも3年くらい時間がかかっていましたね。若松さんが45分に1本タバコを吸っている頃、ニコチンがきれそうになるたびにイライラしていた社長時代はまったくそんな話はできませんでしたね。

若松なんか...依存から抜け出した人のトークショーみたいになってきましたね。「私はこうして克服しました」みたいな。

大瀧(笑)。


「自分には書けないな」から始まった執筆

若松僕は、まさに隣で大瀧さんが書いているのを見てきたわけですが、原稿のバージョンがどんどん変わっていって、今の形になるまでにどんな心境の変化がありましたか?

大瀧そもそも、この本にはとりたてて目標や目的がありません。最初にミシマ社の星野さんから出版のお話をいただいた時は「自分には書けないな」と思ったものでした。そもそも本を書きたいという欲求がなかったのです。何か特別な主義主張を持っているわけでもない。私がどんなふうに生きてきたかなんて書く意味があるのかな? と、ずっと思っていました。

 だからこの本に書かれていることは、私がただ感じたことであって、みんなが「こうあるべきだ」とは思っていません。ビジネス書なのかエッセイなのか、女性の生き方なのか、本のジャンルもよくわかりません。読む人の多くは女性かもしれないけれど、男性でも家族や女性について考えるきっかけになることもあるかもしれません。ただ面白いのは、読んでいただいたみなさんが様々に意味を見つけてくださることです。自分ではまったく意図していなかったことに、みなさんからお言葉をいただくうちにやっと気付き、本を書いてよかった、と今はちょっと思っている感じです。

 でも、恥ずべきことをしたわけではないけれど、恥ずかしいなと思っています。自分の名前を出して、仕事・人生を書くというのはとても恥ずかしいことだなと。でも、そうした恥ずかしさを超えた何がこの本を書くことにどう繋がったかは、正直今もわからないところです。1年や2年先に見えてくることかもしれません。

若松何度か読んでいると、作者は大瀧さんなんだけど、その奥に何か"無名の声"があって、それが、書かれていることを超えた何かを表現しているようにも感じました。優れた書き手はそういった声を持っているものだと思うんです。大瀧さんの経験でもあるけれど、もう少し開かれた、違う次元の人の声が届いてくるような、そんな本ですね。とっても不思議な体験でした。


「ちょっとやってみよう」が溶かす、職場の常識

仕事、家庭、子育て、どれも大事にしたいけれど、時間や自分自身の健康との折り合いをつけ、周囲とのバランスを取りながら、ちょうどよい「場所」を見つけるのに、多くの女性が苦労しています。
――まえがきより

若松今、うちの職場はほとんどが女性です。僕は会社の一員でもあるけれど、会社を少し離れた所で見てきました。すると、自分がいた頃には絶対実現されていなかったことが目の前で実現されていることに気づくんです。それは今の社風にもなっている「透明性」と「フラットさ」です。

 会社では、誰が発言しているかよりも、何が発言されているかの方が意味が大きい。僕が社長だった頃は「僕が言うから意見が通る」だった。だから失敗した。今は何が発言されているかに重きを置いた決定や議論がされている。これはどんなふうに実現していったんですか?

大瀧たぶんそれは私が経営者でも管理職でもなく、いちスタッフとしていろんなことをやってきたからではないでしょうか? そのスタンスはずっと今も変わっていないと思います。職場を自分にとっても、みんなにとっても快適な場にしていこうと考えました。具体的な取り組みで言えば、スタッフに声をかけられたら、どんな時でもすぐに振り向いて、話を聞くということです。

 スタッフが上司の顔色をうかがいながら「今声かけていいのかな」と考える時間が、なんだか無駄だなと思ったんです。たとえ難しい英語のメールを集中して書いていても、誰かが声をかけてきたら必ず「いいですよ」「なんですか?」とすぐに応えることを、ある時から実践しています。

若松それを、やろうと思ったきっかけとかはあるんですか?

大瀧なんとなく「ちょっとやってみよう」と思っただけなんです。するとうまくいったんですよ。社内の雰囲気が一気に変わりました。本に書いた「美しい挨拶」なども、そんな感じで始めたんです。思いついたら、まずはやってみるということも大切なのかもしれません。池に小石を投げ入れるとそこから波紋が広がるように、小さなアイデアが徐々に全体を変えていくことがあるなと思います。


    

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大瀧純子 (おおたき・じゅんこ)

(株)シナジーカンパニージャパン最高経営責任者。同社の創業メンバーの一人。オーガニックハーブ製品の開発者であり、企画プロデューサーでもある。1967年、埼玉県生まれ。学習院大学文学部心理学科卒。大学卒業後、システムエンジニアとして大手金融会社のシステム開発などに携わった後、出産、子育てのため家庭に入る。その後、在宅での商品開発やバイヤー職など、あらたなキャリアを積み重ねる。大学生の息子が一人。


若松英輔 (わかまつ・えいすけ)

1968年生まれ、批評家。読売新聞読書委員、『三田文学』編集長、(財)松ヶ岡文庫評議員。「越知保夫とその時代」で第14回三田文学新人賞受賞。著書に『井筒俊彦―叡知の哲学』(慶應義塾大学出版会)、『魂にふれる―大震災と、生きている死者』(トランスビュー)、『吉満義彦 詩と天使の形而上学』(岩波書店)、『涙のしずくに洗われて咲きいづるもの』(河出書房新社)、『現代の超克』(中島岳志氏との共著)(ミシマ社)など。

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