本のこぼれ話

『女、今日も仕事する』大瀧純子(ミシマ社)

 制度では実現できないこと、女性たち自身が変えていくこと、いけること。
 どうしたら自分の身体も労りつつ、自分も周りの人も幸せにしながら、いい仕事が長く続けられるのか。
 そのためには、何が必要で、何を捨てるべきか。
 どんなところをどうやって磨いていくとよいのか。
 そんなことを、あらためて考えていけたらと思っています。

――まえがきより

 女性として生き、女性として仕事をする。考えてみれば当たり前のことが、この社会では時に非常に困難です。「ワークライフバランス」「自己実現」「バリキャリ」...どれもピンとこない女性たちへ、"女の仕事"を本音で語る『女、今日も仕事する』をミシマ社より出版した大瀧純子さん。かつてはクビを告げられた上司であり、現在は共同経営者でもある若松英輔さんとの対談による出版イベントを、ダイジェストでお届け。今日は最終回です!

(構成:森 旭彦)

大瀧純子さん×若松英輔さん 「しなやかに」働くということ ~突然のクビ宣告から社長になるまで~ (3)

2015.08.13更新

まずは自分がやってみせる

若松言葉のきたない職場は、本当にだめだよね。

大瀧女性のモチベーションを下げますよね。

若松女性じゃなくても下がりますよ。本にもありますけど、美しい言葉をつかって仕事をするのは大切なことですね、僕も積極的に実践しています。言葉は場の空気を支配します。汚い言葉をなげると空気が濁るんですよね。「仕事だからしょうがない」って厳しい言葉を投げ合っていると、どんどん空気が濁っていく。

大瀧本では「選択肢を疑う」という視点で書かせていただきましたが、「しょうがない」と当たり前になっていることを時々疑ってみることは大切ですね。

 時には失敗がそのきっかけになります。私たちの会社でも、同じ職場にいる4、5人が誰も互いにコミュニケーションしていない時期がありました。そうした状況は仕事を大きく非効率にします。仕事を知らないから、お互いに興味も湧かないし、そのうちのひとりが会社を辞めてしまったら、誰もその仕事を代わりにできないという事態が発生します。

 こうした事態に陥ると、ついつい「みんなでコミュニケーションして仕事をしてください」なんて言ってしまいがちですが、どうやって協力したらいいかわかっていない相手に、そんな言葉だけを投げかけてもだめなんです。まずは自分がやって見せなければ誰も真似してくれません。子育ての時に、親がまず子どもにやって見せるのと同じだなと思います。


キャリアと仕事の手応えは別次元のもの

大瀧私が就職したときはまさにキャリア志向でした。大企業でSEとして働きながらイメージしていたのは、大きな企業で女性が男性に混じって、上へあがっていくということ。でも、女性が人生のうちに結婚や出産・育児をし、年齢・体力に見合った働き方を模索していくときに、キャリアという言葉がとても重たく感じてしまいます。バリバリやっていかないと社会でダメな人になってしまうような気さえしてくるのです。

若松キャリアを積むということはある意味、権利を手に入れることですが、そうなっていくと、どんどん見えなくなっていくことがあります。たとえば大きい会社にいたら、自分の前に、企業のブランドや役職の肩書といった形容詞がつきますよね。それによって世の中のことが見えにくくなるんです。そのことに自覚的にならないと、実力や人間性とキャリアを混同してしまうことになります。それらは別のことだと気づけなくなるんです。

大瀧大企業で働いたからデメリットがあるというわけでもないし、小さい会社が全てよいというわけでもないと思います。自分が会社に所属したいのか、仕事がしたいのかという働き方の志向の違いもあります。

 私の場合はまず「仕事がしたい」と考えていました。なぜかはわからないけど無性に「仕事がしたい」と考える時期がありました。育児などで仕事をしていない時期は、心にぽっかりと穴があいてしまったようでした。その穴をなんとか埋めたいとばかり思っていました。もしその時に、大企業のいいポストが用意されていれば飛びついていたことでしょう。でも幸か不幸か若松さんといっしょに会社をはじめる機会をいただきました。いつ潰れるかもわからないし、潰れる前に一度クビにもなっていますけど(笑)、仕事を一から再び考え直せるいい経験になりました。


若松キャリアは他人に与えられるもの。それは他人がつくった基準で自分が評価・把握されること。つまり人生を常に誰かと比べることであり、奪い合うことでもある。キャリアと仕事の手応えは別次元のものです。両方を手に入れればいいけれど、今は多くの場合、キャリアを手にいれるためには手応えのある人生を犠牲にしないといけないのかもしれませんね。


ひとりじゃできないけど、ひとりで始めないと、始まらないことがたくさんある

大瀧〇〇企業の誰々という肩書で付き合うのと、「この人いいひとだな」と尊敬して付き合うのとでは、その関係性は全く変わってきます。私はひとことで言うと、"本物"が好きなんです。"本物"というと、一流だったり、偉大なものを想像しますが、私は小さくていいので本物が知りたいのです。

 それに出会っているとは言い切れないですが、少なくとも仕事には本物の手応えを感じたいと思っています。本当に人の役に立つことをしたい。そもそも本物って何かと考えることが好きでもあります。そういうことが意外と仕事に役立ってきている、というのが最近の私の実感です。

若松この小さな会社を大瀧さんともう13、4年間やってきて、気づくことは、壮大で漠然としたことを考えるのではなく、小さく具体的につくっていくことがいかに大切なことかということです。僕は「こんなことしたい、あんなことしたい」と大瀧さんにいろんなことをしゃべってきましたが、それらはすべて形を変えて実現されてきている。自分の思っていた数十分の一くらいのスケールで大瀧さんが実現してくれているんです。

 結果的に小さく始めるということが「確実に始めること」のもっとも大事なことだったりします。「大きくないと意味が無い」と人はよく言うけれど、小さくやるから意味があるんですよね。

大瀧ひとりじゃできないけど、ひとりで始めないと、始まらないことがたくさんある。最初から「みんなでやろうぜ」では誰もやらなかったり、誰も真剣に考えなかったり。なので私は必ずひとりで始められることを、ひとりで始めます。そうして始まったことに賛同する人が集まって大きなものになっていく。

 ひとりの強烈な個性や、身近なことでも小さな工夫が大きな波紋になったり。さらには、それがその人の人生すらも変えていけたり。私は今、そういうことが信じられる。ひとりだから、なにもできないから無力、ではない。ひとりでも"始める"ことを大切にしていれば、いずれ大きな力を生み出せるように思います。



   

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大瀧純子 (おおたき・じゅんこ)

(株)シナジーカンパニージャパン最高経営責任者。同社の創業メンバーの一人。オーガニックハーブ製品の開発者であり、企画プロデューサーでもある。1967年、埼玉県生まれ。学習院大学文学部心理学科卒。大学卒業後、システムエンジニアとして大手金融会社のシステム開発などに携わった後、出産、子育てのため家庭に入る。その後、在宅での商品開発やバイヤー職など、あらたなキャリアを積み重ねる。大学生の息子が一人。


若松英輔 (わかまつ・えいすけ)

1968年生まれ、批評家。読売新聞読書委員、『三田文学』編集長、(財)松ヶ岡文庫評議員。「越知保夫とその時代」で第14回三田文学新人賞受賞。著書に『井筒俊彦―叡知の哲学』(慶應義塾大学出版会)、『魂にふれる―大震災と、生きている死者』(トランスビュー)、『吉満義彦 詩と天使の形而上学』(岩波書店)、『涙のしずくに洗われて咲きいづるもの』(河出書房新社)、『現代の超克』(中島岳志氏との共著)(ミシマ社)など。

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