本のこぼれ話

 それは昨夏。ミシマ社合宿の宴会で、急遽落語会が開催されることになりました。発起人は独立研究者の森田真生さん。急ごしらえの高座にあがった森田さんは、立川吉笑さんの「舌打たず」というオリジナル落語を披露し、ミシマ社メンバーに「立川吉笑」という衝撃をあたえたのでした...。 

 それから半年。昨年の12月に『現在落語論』を世に出した吉笑さんは、その1ヶ月後、『みんなのミシマガジン×森田真生「0号」』にも「数学落語 台本問題」というオリジナル落語を寄稿してくださいました。

 今回は、そんなあらゆるフィールドで「落語×○○」の化学反応を起こしている吉笑さんに、代表・三島がインタビュー。 3月17日には寺子屋ミシマ社にもご登場いただきますので、どうぞお楽しみに!

(聞き手:三島邦弘 構成:田渕洋二郎)

『現在落語論』立川吉笑さん 

2016.03.10更新

落語本、どこまで編集する?

三島改めてなんですけども、『現在落語論』おもしろかったです。あとがきにも書いてらっしゃいましたけど、ウェブの連載のときより、だいぶ順番を入れ替えられたと。

吉笑そうですね。内容はそんなに変わってないんですけど、文体と順番がかなり変わりました。もともと僕、一文長いのが昔から好きなんですよ。接続詞とかたくさん入れちゃって。でも編集の方に、読みにくいからって全部直されました。最初は自分の文体じゃ無くなる気がして嫌だったんですけど、結果的には正解だったなって。

三島なるほど...。僕も編集者としてそれは一長一短だと思っていて、談志師匠の『現代落語論』を読むと、あれって今の編集じゃ「NO」言われるだろうなってとこがたくさん残ってるんですよ。例えば、「〜〜で、しかし、〜〜で、だがしかし」みたいに。それに対して「『しかし』が重なるのでとりませんか」と言うのが、普通の編集なんですよ。でも、談志の本読むと、あえてそうなってることで、談志の声が聞こえてくることかある。

吉笑そうそうそう。だからあの本は、談志師匠がわざとそのままでと言っていたのかもしれない。僕も、もとが理屈っぽいんで、何回も前提条件を反復したいクセがあるんです。この本はもともとメールマガジンの連載を元に書いてるから、反復についてはその名残もありました。自分としてはそれが必要なつもりなんですけど、編集の人は「もういい」って。「それより先のロジック聞きたいから、全部削ろう」って話になって。どんどん削られましたね。

三島それは......よくわかります(笑)

吉笑5万字ぐらい削られましたもんね。内容変わってないんですけど、5万字無駄があったんですね。

三島なかなかの量ですね!(笑)。でも反復は......、やっぱり取ります(笑)。

吉笑自分としては全部言いたいんですけどね。(笑)。



伝えたいのは切り口。「農業×落語」の場合

三島そういった全部言いたいというのを含めて、この本や落語を通して吉笑さんが一番伝えたいことはなんですか?

吉笑落語なんで、業の肯定ですね。ダメな人間を肯定する。最終的にはそういうことができる境地にいきたいんですけど、まだまだです。今は切り口の入れ方を伝えたいですかね。「同じ物事でも見方変えたら楽しめます」みたいな。

三島それを落語に込め実践してるという感じですか?

吉笑そうですね。例えば、農業関係の方から、農業の落語作ってくれと依頼されたことがあるんです。それでつくったのが、「大根屋騒動」という落語。

 あらすじを簡単に説明すると、昔の大根売りは、「だいこ〜、でえこ〜」って言いながらただシンプルに大根を売ってたのに、ある日、ひとりの大根売りが「練馬大根」とかいう名前をつけて売り出すんです。そうすると、長屋の主婦連中が「『練馬大根』って言われたら、ちょっと特別な感じがする」ってんで、がーっと売れちゃう。そしたら、別のやつが「亀戸大根」とか言い出して、そしたらまた別のヤツが「伝統大黒大根」って言い始めて......。それがまた売れちゃうんですよ。言ってしまえば、品物は同じようなものなんだけど、要はネーミングだけで売れ方が変わっていく。
 
 その後は、「とれたて」ってつけてみたり、最終的には「食べられる大根」なんて言って売るやつが出くる。当たり前なんだけど、改めてそうやって言われると、みんなハッとして買っちゃう。でも、名前つけるほうも客を騙してるって意識が芽生えてきて、途中で虚しくなってくる。だから、また、前みたいに「でえこ〜」と言いながら、シンプルに売ろうという話になるんです。

 でもその翌日、外国の人が大根を売りに来てて、それがどうやらめちゃくちゃ人気がある。主婦連中がみんな買うんですね。値段も高いし、味も形も良くないけど、なぜか売れる。なんでかって聞いたら、大根についてる印が可愛いからと。オチとしては、どうやらシャネルの大根が来てた、という話なんです。

三島おお〜〜〜!

吉笑でもそれって今の話で言えば「千葉県の○○農場で作りました」とか、「私が作りました」みたいに細分化することで物が売れることと同じですよね。だからそれも本当はよくないんじゃないかとも思うんです。
 コンビニ行っても、ビールだけであれだけ種類があって迷っちゃう。ちょっと前まではどこの居酒屋も「ビール500円」とかで、銘柄なんか気にしなかった。キリンでもアサヒでもなんでもいい。もしかしたら、そっちの方が豊かな生活だったんじゃないかな。みたいなことをもっともらしく言って、落語へ入るんです。


吉笑ゼミって??

三島なるほど、たしかにそうですね...。主宰されている吉笑ゼミについてお伺いできますか?

吉笑吉笑ゼミをやることになったきっかけは、あるとき落語のお客さんってアカデミックなものと相性良いなって気づいたんです。自分がそういうものが好きでしたし。それで、若手の研究者をゲストに呼んでみようと。

三島やってみてどうですか?

吉笑自分のイベントの中では一番注目されてて、お客さんの入るイベントなんです。この間のゲストの話で面白かったのが、「風鈴は拡張現実だ」みたいな話をされていたんです。「風鈴ってのは、風を音に置換することで風が聞こえるっていういっこの現実の拡張なんだ」、と。これは面白い切り口だなと。

三島おお!

吉笑それをヒントにしてネタできないかなって発想で考えながら思いついたネタもあります。「良薬は口に苦し」って言葉がありますよね。でも薬を作ってて「めちゃくちゃ性能いいけど、おいしい薬」ができてしまう。おいしい時点でお客さんは信用してくれないから、いかに苦くするかを考える。だけど、苦味足したら効果薄まるから......、みたいな板挟みの落語作ったんです。そういうのも、お題頂いて思いつくことだからわくわくしますね。

三島おもしろい!!

吉笑ゼミは、今年ウェイトをかけてやろうと思ってます。最終的に高校を回りたいんですよ。とくに進学校ですね。自分もそうだったんですけど、そういう子たちって受験のレールに乗ってて、その上でしか生きられない価値観になってると思うんですよ。そういうところで、それだけが生き方じゃないよって話が出来たらいいなと思ってます。

三島いいですね。吉笑ゼミではないですけど、僕らも「寺子屋ミシマ社」というのをやっていて、これは本作りの瞬間から読者を巻き込んでしまおうという試みなんです。たとえば、最初の著者との打ち合わせを、公開の場でやる。

 そうすると、「出来たものを読む」という行為しか知らない読者が、これから企画次第でいくらでも面白くなる「本が生成する瞬間」を体験することができるんです。そこって普通は編集者しか味わえないんですけど、実はそこから読書という行為が始まってるってことに気づいてもらえる。とにかく、本の入り口を増やしたいと思ってます。吉笑さんともやってみたいんです。

吉笑やりましょう!

三島じゃあ......、3月だと17日あたりはどうですか...?

吉笑えーーと、空いてます。ではその日!


〜寺子屋ミシマ社 落語家・立川吉笑さん編~

・日 時:2016年3月17日(木) 19時00分~(開場18:30)
・場 所:元・立誠小学校
・参加費:1500円+1ドリンク(ミシマガサポーターの方は1000円)

【お申し込み方法】
メール:event@mishimasha.com まで件名を「寺子屋ミシマ社0317」とし、「お名前・ご連絡先」を明記のうえお申し込みください。


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立川吉笑(たてかわ・きっしょう)

落語家。1984年生まれ、京都府出身。
高校卒業後、お笑い芸人を目指し活動。2010年11月、立川談笑に入門。わずか1年5ヵ月のスピードで二ツ目に昇進。「立川流は〈前代未聞メーカー〉であるべき」をモットーに、気鋭の若手学者他をゲストに迎えた『吉笑ゼミ』の主宰や、2015年には両国国技館で高座を務め(J-WAVE開局25周年企画)、全国ツアーも開催するなど、業界内外の注目を集める。メディアへの露出も増えており、現在、NHK Eテレ『デザインあ』、スカパー! 寄席チャンネル『立川流 ver.3.01』などにレギュラー出演中。

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