本のこぼれ話

『トドマツで、建てる』トドマツ建築プロジェクト 編(発行/トドマツ建築プロジェクト、発売/ミシマ社)

 2015年10月、ミシマ社から『トドマツで、建てる』が発売になりました。ただしこの本、これまでのミシマ社の本とは違い、編集や制作はすべてトドマツプロジェクトによるものです。なぜ自社の本ではないのに発売元となったのか...? 少し長くなりますが、そんなこぼれ話から始めさせていただきます。

 「みんなのミシマガジン」は、2年半前から、循環経済の新たな試みとして、サポーター制度をスタートさせました。著者、出版社、製紙会社、印刷所、書店、読者...本に携わるすべての方々が、一方向ではなく循環するようにつながり、本という文化が未来につながるように・・・そんな願いがこめられた試みです。

 その一環として、2013年には王子エフテックスさんの新富士の工場、2014年夏には日清紡ペーパープロダクツの富士の製紙工場、そして秋には社員全員で王子製紙・苫小牧工場見学をさせていただき、「木から本が生まれる」ということ、そして地産地消をするということの意味を体感してきました。2015年の京都京北町での合宿では、林業にかかわるお話をうかがう機会もあり、次第に、私たちの生活を支えている「木材」というものに、意識が向かっていったのでした。

 そんな中で偶然、トドマツプロジェクトに出会い、今まで建築材としてはほとんど使われていなかった国産のトドマツを使って研究棟を一棟建てたこと、その過程を本にしていることを知り、森林をどう守りどう活用していくのか、それは私たちの生活に直結する、とても大切な取り組みであると感じました。

 この本がただ配られるだけではもったいない、本屋さんにも置かれて循環し、多くの方に知っていただきたい! という想いから、発売元となることが決まったのでした。

 ここからは、プロジェクトの中心メンバーである鈴木貴さんと、建築家の内海彩さんに、プロジェクトに込めた想いをおうかがいしたインタビューをお届けします。

(構成:星野友里、構成補助:寺町六花、写真:池畑索季)

トドマツで、建てる(後編)

2015.10.17更新

安さより、良いものを!

――今の建築業界で、木造建築というのはどのような立ち位置なのでしょうか。

内海今、木造は注目が集まっていますね。戦後しばらく、都市には大きな木造建築を建ててはいけないという制限があったのですが、2000年に他の構造(鉄筋コンクリート造や鉄骨造)と同じく、必要な性能を出せるのだったら建てていいですよ、と法律が合理化したんですね。それ以降はいろいろな場所で、いろいろな大きさの木造建築が建てられるようになりました。

 木造と言うと、大工さんが長年の勘でやるというイメージが昔はあったと思うんです。それが最近は、コンピュータでかなり解析できるようになってきました。建築家の中でも、木造をこれから勉強しなきゃなという動きはあると思います。「木造住宅」はとっつきやすいですが、少し大きな「木造建築」になると、やっぱりちょっとわかりにくい世界というか。意匠設計者が木造建築でお客様に提案してみたいと思っても、木造に関しては構造設計者が不足している状況です。

鈴木それでも皆さん、構造材にどんな材が使われているかなんて興味がないですよね。たとえばフローリングも、無垢が良いとわかっていても、安く仕上げることを考えて、複合材がほとんどです。でも、本当に良いものを皆が知らないというのは、文化レベルも落ちるし、良くないんじゃないかな。多少高くても、少なくとも選択肢に上るという風土は醸成していくべきじゃないかなぁと思います。

 この本一冊で終わることはないと思います。ことあるごとに、「自分たちは今こう考えています」というのを発信していかなければならない。この先どういうことが起こるかはまったく予想できないので、何か起きたらうれしいし、何も起きなかったら次の手を考えます。


「国産材だから高い」から抜け出す方法

――外来材が国産材より安いのには、何か秘密があるのでしょうか?

鈴木僕もずっとそれが納得いかなかったんです。北海道を回っていると、外来材が製材所にたくさん積んであるんですね。山で働いている人も、そこの山からとってくる木よりも、ヨーロッパから持ってきたほうが安いって言うんです。にわかに信じがたい。

 実は林業が成立しているのは、先進国だけなんです。何十年後の山の姿を想像しながら計画的にやらなければならないので、発展途上国ではまだ難しいんです。外来材(主に北米材、ヨーロッパ材)が安いというのは、人件費が安いという理由では説明できない。

 日本の山は手入れがされていないんです。ヨーロッパは機械作業ができるように道をつけました。日本は原木の価格が高い時代があって、ヘリコプターで集材しても採算がとれてしまった。道をつけないまま植えたので、さあ収穫しようという時期になって、その術がないのです。収穫にコストがかかるので、競争に負ける。その点、北海道は、意外に道がついているので、ここで最初に成立すればできるんじゃないかという勘があります。

 これからトドマツを扱うとき、道内だけではさばけないので、外に出ていく必要があります。そのためには乾燥は絶対しなくてはいけないのですが、トドマツは乾燥がとても難しいんです。トドマツを世の中の製材のスタンダードに合わせるために今、コスト競争力のある乾燥をやろうという研究に取り組んでいます。国産材だから高いです、は通用しないと思っています。利益が出て、山に還元できないと意味がない。生産性の高い製材工場が必要です。


本として世の中に「問う」

――プロジェクトを本としてまとめられたのはどういうきっかけからでしょうか。

鈴木記憶というのはすぐ消えるじゃないですか。記憶は危ういので、せっかくやることは記録に残さないといけないというのと、一棟だけでなくこれから広めていきたいと思いました。そう思ったとき、物質のことを伝えようとしているのだから、物質であったほうが良いと思いました。すると、本がベストなんです。ネットは簡単ですが、本は編集する中で理解が深まることもあるし、伝えたいことが整理される。いろいろ詰め込めない分、ストーリーが必要な分、本は非常に良いんじゃないかなと思います。 
 
 本にすれば、これから広めていくうえで、あいさつ代わりに必ず役に立つと思いました。広げたいという意思が根底に流れている。ただ、こういうことをやっている人は、点ではいろんなところにいると思うんですけど、点がやっぱり線にならないといけない。そのためには本屋に並んで、世の中に問わないとだめだと思いました。

 日本で森林をどうにかしなきゃいけないというのは皆思っていることなので、届く人にはちゃんと届くんじゃないかなという気はしています。


中学生、高校生が読んで考えてくれたらいいな

――最後に、本書に込めた想いをお聞かせください。

鈴木この本は次の世代の人に見せたいと思っています。専門用語をほとんど使っていないので、中学生でも読める。こんなに人が出てくる森の写真、いわば森を鍛えている写真というのはほぼありません。

 営林という行為を、最初から最後まで説明しています。「営み」ですから、企業としてはお金が循環するようにやっています。できれば、建築で良い木が使われ、それが山に還元されていくというのが本来あるべき姿だと思うので、そういうためにも現状を知ってもらい、お金が生まれるというのができるといいなと感じています。

 みな、簡単に「木材は、再生可能な循環型資源です」とは言うんだけど、実はそんなことじゃないんだということを言いたかった。そういうことを、中学生、高校生が読んで考えてくれたらいいなというのはちょっとあります。山のおじさんたちも、自分たちのやっている行為が建物や家具になるということをわかっていたほうがいいじゃないですか。この本を一冊渡すだけでも違うのではないかなと思っています。

 林業関係の人は、高齢の方が多いので、これを読んで、若い子が入りたいと思う会社にしたいな、おもしろい会社だと思ってほしいなと思います。校閲メンバーの方が中学1年生の娘さんに読ませたら、「お父さん、これおもしろいよ」って言ったらしいんですよ。だからけっこう良いかなと自負しています(笑)。



  

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内海彩(うつみ・あや)

1970年 群馬県生まれ。
東京大学工学部建築学科卒。
山本理顕設計工場勤務を経て、2002年KUS設立。
東京理科大学非常勤講師。

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