本屋さんと私

作家の方々は、本屋さんとどんなつきあい方をしているんだろう。
自分が書いた本が並べられる場所にたち、どんなことを感じているのだろう。
そんな素朴な疑問からたちあがった連載です。
毎月、気になる作家さんに、本屋さんの「お話」をうかがいます。

第3回 もしも本屋さんになったら

2009.07.16更新

「文庫を買ったとき、大人になった気になりました」

―― ミリさんが自発的に本屋さんに行きだしたのはいつくらいですか。

ミリ自分で本屋さんに行きだしたのは、18歳とかそれくらいでしょうか。

―― 高校卒業後?

ミリよく行くようになったのはそれくらいです。けっこう遅いんです。文庫を買ったときは、大人になった気がしました(笑)。字も小さいですし。

―― なるほどー。子どものときって、「小学生高学年向き」とか書いてあるのが主で、文庫って読まないですものね。子どものころは児童書が中心だったわけですか?

第3回本屋さんと私 益田ミリさん 誰も知らない小さな国 画像

『誰も知らない小さな国』(佐藤さとる著、講談社)

ミリ小学生4年生くらいのとき、親戚のおじさんと一緒に本屋さんに行ったら、「なんでも一冊、買っていいよ」と言ってくれて。なんでもいいなら、なんか立派そうなものを、と思って選んだのが、佐藤さとるさんの本でした。『だれも知らない小さな国』。コロボックルのお話です。物語を読みきったのはその本が最初でしたね。

すごくおもしろい本と思って、シリーズものの残りの3冊ほどを近所の本屋さんで買いました。子どもの本って、カバーの上に「箱」みたいなのがついているじゃないですか。あれも、きれいでうれしかったです。

―― あの箱、いいですよね。


ミリねー。

―― そのときから本屋さんは好きだったんですか。

ミリ好きというか、その頃は、まだ本屋さん自体に慣れていなくて。自分が何を読みたいのかわからなかったんです。だから、本屋さんに行っても選べなくて戸惑っていた感じです。ご夫婦で経営している小さな本屋さんでした。銭湯の近くの。
父が本好きだったので、読みたい本がわかるというのがうらやましく思ってました。早くああなるといいなと。あんなにたくさんの本の中から選ぶなんて、「手品みたいだな」と思っていました。

「あ、うっすぅ。これは読める」

ミリ最近つくづく子どものときに読むべき本ってあるんだなと思いました。

――子どものとき読んだ本ってずっと残りますよね。

ミリある方が子どものときに感銘を受けた本があって、今もずっと心に残っているとおっしゃって、紹介された児童書があるんです。で読んでみたんですけど、私には無理でした。手遅れだと思いました。

―― 手遅れって(笑)。

ミリいえ、ほんとに。遅すぎた、と思いました(笑)。
ただ、最近、母が時間ができだしたようで本を読み出したので、この前『赤毛のアン』を贈ってみたんです。私が大好きなので。母はいま64歳くらいですけど、初めて読んで、そしたら、「すごく面白かった」という熱いメールが来ました。そのときは、「ああ、よかった」とうれしかったですね。手遅れじゃないんだ! って(笑)。

―― 手遅れじゃありませんとも! ミリさんの中では、佐藤さとるさんの本は、今も残っているわけですよね。

ミリそうですね。あのしっとりした感じが残っています。今も売っている本なので、本屋さんで表紙を見かけると、「ああ、懐かしい友だち」みたいなふうに感じます。コロポックルがいると本当に信じたかったので、なつかしいなと思います。

――なつかしい友だちですか。

ミリその友だちっていうのは、自分のような気がするというか、昔の自分のような気がします。

―― なるほど。ところで、ご自身で選んだ最初の文庫本は何ですか。

第3回本屋さんと私 益田ミリさん イラスト 200ピクセル

ミリ高校生のとき、授業中に赤川次郎を読むのが流行ったりして、文庫自体は読んだことがあったんだけど、自分で買ったのは、サガンの本です。フランソワーズ・サガン。サガンの本ってうすいじゃないですか。「あ、うっすぅ。これは読める」と思って(笑)。タイトルも素敵だし。『ある微笑』『愛 という名の孤独』とか。サガンの本が自分で最初に選んで買った本だと思います。

―― それはいつ頃ですか。

ミリ18、19歳ごろだと思います。学校の行き帰りに。ちょっと得意気でした(笑)。友だちも読んでなさそうだし、字もちっちゃいし、「サガン」って名前もオシャレだし。

―― たまたま本屋さんに行って見つけたのですか。

ミリはい。どれ読めるかなと思って探したとき、「薄い」しかも「安い」というので出会った本です。

―― 一冊目の本は『悲しみよ こんにちは』ですか。

第3回本屋さんと私 益田ミリさん ブラームスはお好き 画像

『ブラームスはお好き』(サガン著、新潮文庫)

ミリうーん、たしか『ブラームスはお好き』です。
あれ面白いですよね。年下の男と恋に落ちるあの話。でも、最近読み直してショックだったのは、主人公の女性のポールの年齢を自分が超えていたんです。年下の男の子に「自分は年だから」と何度も言うんですが、たしか38くらいで、あ、わたし、ポールを超えてる!って。初めて読んだときは、おばさんだって思って読んでいたのに......。感慨深かったです。

―― この本以降、ご自分で本を選びだしたわけですね。

ミリそうですね。文庫もこわくない、という感じに。あれ? 最初に買った文庫、星新一だったかな? すみません、はっきり思い出せません(笑)。ただ、どちらも読みやすかった。あ、そういえば、最初に外国の話を読んだのは、『風と共に去りぬ』でした。父が、いい話だからといって買ってきてくれたもので、自分で選んだわけではないですけれど。

「旅のコーナーに一冊置きたい」

―― もしミリさんが本屋さんだったらご自分の本をどう売りたいですか。

ミリ『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』が旅のコーナーにもあるといいなと思います。この前、ある女性誌の 編集者の方と話していて、「読者アンケート」で「今やってみたいこと」をきい たところ、習い事などをおいて、ダントツの一位が「ひとり旅」だったそうなんです。「ひとり旅」ってみんなやってみたいけど、なんとなく「いつか」と思ったり、億劫に感じていたり、実行するのを残している分野です。それだったら、私のような臆病者の「ひとり旅」の本を参考にしてもらったらいいんじゃないかなと。
お金のことも書いてありますし。旅に出たいと思って、ふらっと旅本コーナーを歩いている人に、あの本を発見していただけると嬉しい! エッセイのコーナーに置いていただいていることが多いのですが、旅コーナーにも一冊置いて いただけると、女性の「ひとり旅」のヒントになるのでは? って思います。

―― そうですね。ではこれをきっかけに、全国の書店員の皆さま、ぜひ! 

ミリこれから夏ですし。

―― 他に、何か思い浮かばれますか。

ミリうーー、浮かばないです。すいません......。

―― いえいえ、とんでもございません。今日はとても楽しかったです。ありがとうございました。


次週 「番外編」をお届けします。

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益田ミリ(ますだ・みり)

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に『お母さんという女』『オトーさんという男』(光文社)、『すーちゃん』『結婚しなくていいですか。』『47都道府県女ひとりで行ってみよう』(幻冬舎)、『ふつうな私のゆるゆる作家生活』(文藝春秋)など多数ある。

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