本屋さんと私

益田ミリさんの「本屋さんと私」、いかがでしたか?
3回に分けてお届けしてきましたが、どの回を読んでも「なんて控えめな!」と感じられたのではないでしょうか。
実際、こちらが恐縮してしまうくらい、謙虚な方。
お会いするたびに、やわらかな対応をしてくださる素敵な作家さんです。
それは、作品の端々にそのまま出ているようにも思います。

さて、取材を終えた私には、一つのことがとても気になっていました。
「第3回 もしも本屋さんになったら」でお話になっていた「女性はひとり旅がしたい」という言葉です。
男性の私は、そうなんだ! と驚いたのです。
これは体験してもらうしかない、と思いたち、実際に「女ひとり旅」に行ってもらいました。
行ってくださったのは、某出版社の編集者アダチさん。
さて、彼女はどんなひとり旅をしたのでしょう?

第4回 番外編 ミリさんワールドを体験しよう

2009.07.23更新

■2009年7月18日 栃木県(日帰り)

みなさん、はじめまして。アダチです。
社会人になってからおもだった休みを神社めぐりにあてているため、お目当ての神社をひたすら目指すひとり旅はしたことがあるものの、ふらっと立ち寄った町でのんびり散策するような旅は、今回初体験です。

早速、『47都道府県女ひとりで行ってみよう』を手に入れようと、日頃愛用しているジュンク堂書店池袋本店へ。本を探すと、なんと旅コーナーに! ミリさん、ご希望の棚にありましたよっ!! と心のなかでガッツポーズ。

さてと。ひとり旅にでる日を7月18日と決め、目的地を考える。
梅雨明けしたあとの最初の連休だし、海方面は込んでいるんだろうな~。だからといって、千葉や埼玉じゃ近すぎるし......と思いつつ、東京近県のミリさんレポートを読んでいると、気になる県を発見。

それは、栃木県。
「4キロほどつづく川沿いの遊歩道は、土蔵や瓦屋根の古い町並みが美しい。つまらなかったらすぐに宇都宮に行こうと思ってたんだけど、栃木駅はなかなか面白い。」
よし、ここに行こうと決める。女子は意外性に弱いのだ。

栃木駅の近くで、もうひとつ旅の行き先を探そうと、栃木市観光協会のホームページで情報収集。栃木駅からみっつ先の駅に、下野国最古の神社と伝えられている大神(おおみわ)神社があることを知る。まず大神神社に行ってから、栃木駅付近を自転車で散策しようとざっくりとしたプランをたてる。

いざ、栃木へ。自宅の最寄り駅から約二時間半の行程。
がらがらに空いている車中は、ふつうの休日ムードだ。
ぼーっとしていたら、新栃木駅で乗換えをする際にホームを間違え、乗るべき電車に行かれてしまう。待ち時間30分。まあいいか、ひとりだし。
曇りでお天気がもっていたのに、電車を待っている間に小雨がぱらつく。
野州大塚駅に着いたあとも、狐の嫁入り的雨に降られながら、大神神社へ(その後、すぐに雨はやんでくれた)。

駅からてくてく15分。こんもりとした小さな森にいだかれるように大神神社があった。
創建年代は不明だが、延喜式内社ということは、平安時代には実在していたわけで、かなり古い神社だ。個人的に大好きな奈良の大神神社から分祀したとのことで期待をしていたけど、微妙な気持ちになる。

本屋さんと私 番外編 大神神社画像 400ピクセル

確かに歴史のある古い神社なのだろう。はっとするほどの清々しい場所もある。
だけど、社殿は古いままなのに、社務所とおぼしき建物が真新しいのって、本末転倒じゃないのか!?
意外に広い社叢を散策するも、人の気配、人の手入れが感じられないのがさみしい。
むー、と釈然としない気持ちを抱え、栃木駅へ移動する。

栃木駅からほど近いレンタサイクル屋さんへ行く前に、「自家焙煎コーヒー」の文句に惹かれた喫茶店にたちよる。近所のおじいちゃん風のマスターに「これしかメニューないんですよ」と申し訳なさそうにされる。その喫茶店は、地元のおじちゃんがつっかけで来るような、おじちゃんのための社交場的なお店だ。いかにもよそ者の私に対して、マスターに気をつかわせちゃっているのかも......と思うとこちらも申し訳ない気がして、早めに退散することにした。

散策マップによると、栃木駅には二軒のレンタサイクル屋さんがあるようだ。
一軒目は喫茶店のすぐそばにあったが、声をかけづらい雰囲気だったので、二軒目に向かう。次のお店も同じような感じだったら困るなー。いっそのこと歩いて巡ろうか......などと不安を抱きつつ向かっていると、「ヘアーサロン ミシマ」を発見! ゆかいなイラストに予期せぬ元気をもらう。

本屋さんと私 番外編 ヘアーサロンミシマ 250ピクセル

ひとりで旅をしている時って、ただそれだけで何の脈略もないんだけど、気分があがるものに出くわすことってあると思う。その「ヘアーサロン ミシマ」の隣が、二軒目のレンタサイクル屋さんで、ここなら大丈夫だと直感的に思い込む(実際にお店の人は、はにかんだ笑顔が素敵ないいおじさんだった)。

まずは、メインストリートである蔵の町大通りをゆっくり北上して神明宮(しんめいぐう)へ。
「栃木のお伊勢さん」らしい。

本屋さんと私 番外編 神明神社 250ピクセル

あまり期待していなかったのに、すごくよかった。
境内の雰囲気は明るくて軽やかで、年月を経て黒光りしている社殿の存在感とあいまって、小さいながらもとても立派な神社だった。
神社に隣接している公園には噴水や水遊び場があり、水と戯れる子供のはしゃぐ声が聞こえる。本殿の裏では部活帰りっぽい中学生が、木陰でおしゃべりに夢中だ。その土地の人に大切にされて、生活に溶け込んでいてこその、神社よねーとしみじみ感じ入る。

本屋さんと私 番外編 味噌田楽 250ピクセル

神明宮をあとにし、ミリさんも本で紹介している油田(あぶでん)味噌へ行く。どうせここまで来たのだからと田楽盛り合わせをたのむ。たのんだあとで、蒸し暑い日にこってりとした田楽をひとりで食べられるか心配になる。が、無用な心配だった。豆腐・こんにゃく・さといも、それぞれ味噌の味付けを変えてあって飽きなかった。個人的には、さらっとしたしょっぱめの味噌にくるまれたこんにゃくが美味しかった。

本屋さんと私 番外編 街並 250ピクセル

その後は目的地を決めずに、気ままに自転車を走らせる。有形文化財に指定されているレトロな建物が現役だったり、見世蔵をリフォームしたカフェがあったりして、新旧がむりなく融合した町並み。千葉の佐原と雰囲気が似ているなーと思って、あとで調べてわかったことだが、栃木・佐原・川越で、過去に「小江戸サミット」を開催したこともあるのだとか。

本屋さんと私 番外編 街並 250ピクセル

メインストリートからちょっと脇道に入ると住宅地に
なり、昔ながらの八百屋さんや魚屋さんがぽつんぽつんと点在していた。
観光地と地元の人の生活空間がひとつづきになってい
る印象をうけた。
町の大きさも丁度よく、古い建物が好きな人には、楽
しく散策できるなーと感じた。

本屋さんと私 番外編 街並 250ピクセル

夕方、ひと息ついていたカフェから出たところで、またもや狐の嫁入り的雨にあう。これが試合終了の笛のように感じられて、この旅を終えようと思った。帰り道、夕陽が川面をきらきら照らしていて、とても綺麗だった。栃木のみなさん、今日一日、ありがとうという気持ちになった。

■ひとり旅を終えて

ひとり旅だと自分の行動につっこむのも自分。やっぱり私ってどんくさいなー、臆病だなーと再確認。でもいいじゃん、それで。だって、ひとりだし。と思いながら旅を続けました。タイムスケジュールを守る必要もなく、自分の本能と直感に赴くままにふらふらっと、その土地の風情を楽しめる気安さがあるなーと感じました。

本屋さんと私 番外編 本の画像 200ピクセル

『47都道府県女ひとりで行ってみよう』(幻冬舎)

旅先で人に声をかけるのに勇気が必要だったり、女ひとりでどう思われるんだろう? と周りの視線が気になったり(私も気になりました)。ミリさんの本には、ひとり旅にでる(おそらく多くの)女子が一度は抱く感情が、淡々ともりこまれています。そこが読んでいて、ついぷっと吹き出してしまうところだったりします。

自分の出身地や好きな土地が、ミリさん目線でどう切り取られ、実際どこに行ったのか見るのもおもしろかったです(ここ数年、毎年夏に山形に行っているのですが、鶴岡にアマゾン民族館があるなんて知りませんでした!)。今年の夏、ミリさんの本を片手にふらっとひとり旅に行ってみませんか?


【今回の旅で遣ったお金】
交通費 3030円
レンタル自転車 400円
-----------------------------------
[食費]
トースト+ブレンド 430円

田楽盛り合わせ 500円
ウーロン茶 100円

チーズケーキ
ベリーソーダ 550円
なずなブレンド 400円
(ケーキとソーダは単品でたのんだのに
おまけでケーキセットの値段にしてくれた)
-----------------------------------
[家族にお土産]
四葉(すいよう)きゅうり シャキット 150円
おかのり(ほのかに海苔の味のする青菜) 100円
干し柿 300円
(蔵の町大通りにある野菜直売所で。
目のきれいなお兄さんに気持ちのいい接客をしてもらう。
このお兄さんに売れられる野菜たち、本望だろうよと思った)
本屋さんと私 番外編 野菜 250ピクセル
-----------------------------------
合計 5960円

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

益田ミリ(ますだ・みり)

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に『お母さんという女』『オトーさんという男』(光文社)、『すーちゃん』『結婚しなくていいですか。』『47都道府県女ひとりで行ってみよう』(幻冬舎)、『ふつうな私のゆるゆる作家生活』(文藝春秋)など多数ある。

益田ミリさん

バックナンバー