本屋さんと私

本屋さんと私―― 福岡伸一さん編

第3回目の「本屋さんと私」のゲストは、福岡伸一先生です。
福岡先生、8月のある日に、なんと自由が丘にあるミシマ社の一軒家においでくださいました。
「昔、こんなところに下宿してましたよ」とおっしゃる元・下宿部屋の一室で、本の思い出と本屋さんへの思いをぞんぶんに語っていただきました。
9月の毎週木曜日は、福岡先生の日です!

第10回 書店行脚に行きました

2009.09.10更新

こわいおじさんに、けんもほろろに扱われ・・・

―― 「週刊文春」のエッセイ「福岡ハカセのパラレルターン パラドクス」で、新刊書のパブリシティ活動として、書店行脚をされたことを書いておられました。それを拝読して、「先生ここまで回られるんだ」と思って驚いたんですが、いつも回られるのですか? 

第10回本屋さんと私 福岡伸一先生 画像

『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)

福岡最初は『生物と無生物のあいだ』を書いた時に、この本を一緒に作った担当の編集者の方が、「一度書店に挨拶に行きますか」ということで、渋谷から山手線を時計回りに、主な書店を一日かけて回りました。
そのとき、「あぁ、こんなにいろいろ本屋さんがあるんだ」ということを初めて知りました。そこで、印象的な出会いがありました。ある大手書店さんの店前に、屋台みたいなコーナーが出ているじゃないですか。

―― 出てますね。

福岡あそこを仕切ってるのは、あるこわいおじさんなんですね。
あの屋台に置かれる本は、彼が「これを読みなさい」と言ってる本でもあります。
当時私の本は出たばかりだったので、ご挨拶代わりに名刺を出したのですが、「とりあえずここじゃないから、奥の担当者にお願いします」と言われました。けんもほろろな扱いだったんですよ。

―― そうだったんですか。

福岡ま、それは当然だと思いますけどね(笑)。
そのときは私の本は置いてもらえなくて、中に入っていろいろお願いしてまわりました。
そのとき痛切に感じたのは、本屋さんが店頭に並べる理由っていうのは、「その本が売れてるということが、最大の要因になっているんだ」ということでした。

―― なるほど。

福岡同語反復みたいなものですが、「この本が売れてるからここに置きます」という循環になっている。だから、売れてる本は、ますます売れることになるわけですよね。
それからふた月ほど経ったとき、ネットなどで私の本が評判になって、けっこう売れてきたんですね。そのときに、「じゃぁもう一度まわりましょう」っていうことになったんですよ。
そこでもう一度書店営業にまわってみたら、今度はそのおじさんが認知してくれてたんですね(笑)。

―― おお。それは嬉しいですね。

福岡あの屋台にはもちろん売れ筋の本が置いてありますけど、大澤真幸さんの『ナショナリズムの由来』のような超分厚い本も置いてあって。彼独特のこだわりがあるのが嬉しいですよね。
それと同時に大型書店は多かれ少なかれ似たような、今売れてる本が並べられているのは、否定しようがない現状かなと思いました。これだけ毎日新しい点数の本が出れば当然といえば当然のことで、全部じっくり読むことなんて誰にもできませんからね。

―― 確かにそうですね。

福岡その中でも神田の東京堂書店とか浜松町のブックストア談とかは、ちょっとずつ違うカラーがありますね。そのカラーの違いをわかって、読んでくれる人がついている感じはありますね。

名古屋で見つけた不思議な本屋さん

第10回本屋さんと私 福岡伸一先生 画像

『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』(木楽舎)

福岡『生物と無生物のあいだ』のときは東京だけだったんですけど、『動的平衡』が出た時に、名古屋、関西営業もしましょうということで、木楽舎さんの担当編集者ともいろいろまわったんですよ。
そこで、三省堂名古屋テルミナ店っていうおもしろい本屋さんと出会ったんですね。

―― ええ。地下に入っていくところですね。

福岡そうそう。三省堂は、名古屋の駅ビルの中に高島屋があって、その上のフロアに大きな店舗を持っているにもかかわらず、地下の一番端の、さらに下に一人乗りのエスカレーターしかないようなところをツルツルツル下がっていくと、そこが細長い本屋になってるんですよね。

―― はい。

福岡そこは、いきなり鉄道コーナーがあって、パノラマカーの写真本なんかが置いてあるんです。そうなってくると、とたんにワクワクするわけですよ。「この本屋ちょっと違うじゃないか」って。三省堂なのに何か変だなと。

―― はい(笑)。

福岡そういうところは好きになりますよね。
鉄道コーナーが終わるとなぜか急に喫茶店になったりしてて、「え、書店はここだけ?」と思うと、喫茶店の向こうにもつながっている。そこには歴史的経緯がいろいろあるんだと思うけど、分断された本屋さんという作りもおもしろいですよね(笑)。

―― そうですね。

福岡そのあたりも含めてちょっと変わった本屋さんなので、今や名古屋では一押しの本屋さんですね。ふっふっふ。

―― 本当に不思議な本屋さんですよね。

「ヘンなところに、ちゃんと虫は集まってくる」

第10回本屋さんと私 福岡伸一先生 画像

福岡ああいうちょっと変なところを、各本屋さんがもっと持ったらいいと思うんですよね。
神保町の書泉グランデも、一番上は鉄道おたくのコーナーになっています。昔はあんなことなかったんですよ。独自の進化を遂げて、こうなったのでしょう(笑)。
そういうのがあっていいと思うんですよね。

―― なるほど。書店員さんの顔が見えると言うか、その人の偏愛ぶりが反映された空間ですね。

福岡そうです。そういうところには虫がちゃんと集ってくるものです。
おたくは、なにも、鉄道おたくだけじゃありませんから。いろんなおたくがあります。
例えば、「私はトルストイ全部読みました」「時代小説ならこれだ」というこだわりがあるなら、そういうのをもっと表に出して、「一人三月書房」みたいなことをやっちゃえばいいと思うんですよね。

―― 確かに。フェアとして短期間でやられることはあると思うんですが、常設っていうのはいいですね。

福岡そうですね。釣とか、山とか、虫とか、なんでもいいんですけど、そういうコーナーが例えば池袋にあるのであれば、わざわざ池袋に行きますよ。
でも反対に、そういうインセンティブがないと、自分の動線以外の本屋さんにはほとんど行かないですもんね。

―― なるほど、動線以外の本屋さんってなかなか行けないですもんね。けど、あそこに自分の好きなコーナーが常にあるとなれば、通いたくなりますね。

「本屋さん、本をもっと愛してください」

福岡本屋さんって本来、本が好きでやってるはずだと思うんです。だから、何か自分の好きな分野があると思うんですよね。三月書房の店主も幅広く怠りなく選書していますが、あの人にも突っ込んで聞いてみたら、「実はわたしはこれが好きなんですよ」というのがあると思います。

―― そうでしょうね。

福岡きっと、目利きの人が三月書房の書棚を見たら、あのおじさんが本当は何が好きなのかがよくわかるんだと思います。ちょっとわたしにはそこまで見ぬけませんが。

―― そうですか(笑)。

福岡何か自分に好きなものがあったら、それを好きでありつづけるっていうことが大事なことです。
「本屋さん、本をもっと愛してください」って言いたいですよね。

―― 「自信を持って愛してください」と。

福岡そして、「私はこれが好きなんです」っていうのを読者に言ってくださいと。
しかも、それは万人に伝わらなくていいんですよ。
だって、1000人とかに本当に伝わればいいわけですよね。

―― もう十分だと思います。

福岡ですよね。

―― そうすれば、出版社も困らないし、著者も困らないし、で、書店員さんのモチベーションも上がりますし。

福岡そう。そうなんですよね。
心底自分が面白いと思っているものは、何十人かの人には必ず伝わると思います。
そういう書店員さんが全国に何人かいれば、1000人ほどの人には伝わるのではないでしょうか。
ですから、遠慮なく、本への愛をどんどん見せてほしいですね。


次回は、「少年の日に出会った幻の図鑑」をお届けします。

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福岡伸一先生

1959年東京生まれ。京都大学卒業。ハーバード大学医学部研究員、京都大学助教授などを経て、現在、青山学院大学教授。専攻は分子生物学。
著書に『もう牛を食べても安心か』(文春新書、科学ジャーナリスト賞)、『プリオン説はほんとうか?』(講談社ブルーバックス、講談社出版文化賞科学出版賞)、『ロハスの思考』(木楽舎ソトコト新書)、『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書、サントリー学芸賞・中央公論新書大賞)、『できそこないの男たち』(光文社新書)、『動的平衡』(木楽舎)などがある。

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