本屋さんと私

尾原史和さん。1975年生まれ。高知出身。デザイン独学。『R25』『Transit』などのデザイン。SOUP Design代表。PLANCTONの挑戦。デザイン界では珍しい新卒採用・・・。次から次へと新機軸を打ち出す、今をときめくデザイナー。
そんな尾原さんの「すごさ」に迫ってみました。
ちなみに、ミシマ社では『アマチュア論。』『謎の会社、世界を変える。』などの装丁を手がけてくださいました。必ず「度肝を抜く」アイディアがデザインに盛り込まれています。
(聞き手:三島邦弘)

第23回 プランクトンって何?

2009.12.17更新

100年後に本当に評価してもらえるかもしれない

―― なるほど。そして、その振り幅を最大限に振ろうと思ったのがこのプランクトンなわけですね。

尾原そうそう。いまの社会状況として、なかなか思ったことをそのままつくるなんていうことはできないですよね。

―― できないですね。

尾原必ずいろいろなデータで裏をとって、売れる確率をどんどん上げて行こうとします。失敗しないための準備をすべてしてからものをつくっている。
だけど、なんかもう、思ったことをそのままつくっちゃってもいいんじゃないかな・・・・・・ って思いまして。主観的にぱっと思った瞬間でつくるほうが、勢いが持続できたままつくっていけるんじゃないかなと。

―― なるほど。

尾原インスタレーションに近いというか。
確かに、売り物をつくってやっていくには、売らなきゃいけないし、むやみに生産できないところもわかります。

―― そうですよね。どうしてもそうなってくるんですよね。

尾原ただ、やっぱりそこも違うやり方をしていかないと。つくらないとはじまらないし、それで会社がつぶれるならそれはそれでしょうがないじゃん、って思います。

―― なるほど。そういうところに一歩踏み出したと。

本屋さんと私 尾原史和さん3回目

尾原このプランクトンっていう会社は、当てに行くためにつくったわけではないですから。たぶん、金を稼ごうと思って動かそうと思ったら、稼げる自信はあると思う。確実に売れる本をつくって、そこに向かって行けばやれる自信はあるけれど、そこには興味はなくて。

―― そうですよね。確かにそっちにエネルギーを費やしたら金儲けはそれほど難しくないとは思います。けど、そこにはあまり興味がわかないですよね。

尾原そうそう。ビジネスでやっている人たちは、お金を稼ぐことが純粋に自分にとって気持ちよいことだからやっていることだろうし。

―― きっとそうだと思います。

尾原それが良い悪いということじゃなくて、それに対して、僕たちはものに向かって同じことをやっているということなんですよね。

―― そうですよね。

尾原ただ、僕らがつくったものは今後に残して行けるし、その可能性がある。つくったものは、100年後に本当に評価してもらえるかもしれないし、やっぱりロマンはあるよね。

―― すごく勇気がでます(笑)。

右脳と左脳の両方を使える状態にしておく

―― でも一方で、新人を採用したり、デザイン事務所を成り立たせていくためには、ものと向きあって新しい発想を生み出すだけじゃない作業に時間をつくらないといけないと思うんですよ。その部分はどうおさえているのですか?

尾原どうなんでしょうね。ただ、会社の運営とクオリティー、その他いろいろなことは、無理して分けてるわけじゃないんですね。すべてに共通するところは、自分がいいと思う状態をすべてに対してやろうとしているところです。スタッフに対しても稼いだ部分は、お金を渡したいし。

―― うんうん。

尾原両方あると思います。右脳と左脳の両方を使える状態にしておくというか。

―― 無理のない自然な状態で。

尾原本当に中間にいるなぁ、とよく思います。クオリティーとお金を両端にもつ幅があったとしたら、本当にこだわったやつだけが理解できる領域のところでも話ができるし、かたやお金の話でもある程度できるという感じ。

―― なるほど。

尾原お金の話は一番端っこじゃないですけど、つくるところは端っこのところまで話ができる。みたいな幅はきっとあるかな。
端と端は繋がっているもので、ひとつの中に入っているものでしかないというか。

―― ひとつの器というか、ひとつのキャパシティ。

尾原だから、いちいち切り替えると言うよりは同じ感覚で考えています。そんなに頑固ではないので、おさえるところはおさえて、トライするところはトライすることもできるし、そこらへんの自由度は高い気はします。

―― なるほど。確かに。「頑固であること=クオリティーを追究すること」と思われ勝ちですけど、全然そうじゃないですよね。

尾原そう。

―― あれは何か大きな勘違いだと思うんですよ。本当にクオリティを追究する方ってやっぱり柔軟ですし、だけど、本当に大切な一点だけはしっかりしているというか。

尾原そうそう。核だけはしっかりしていて、そこが崩れなかったら後はどう変形してもいいんだよっていうかね。

つくることで問題提起をしたい

―― ここですこし本の話に行きたいんですけれども、尾原さんは、昔のインタビューで、雑誌のデザインはひとつのメディアとしてとらえているとうかがっていますけれど、本というものは尾原さんにとってどういう存在ですか?

尾原本は基本的には著者のものだとは思うけれど、なんだろう・・・・・・。

―― 雑誌をデザインするときと、本をつくるときで、何か受け止め方は違いますか?

尾原雑誌はある程度実験できるんですよ。編集的にもデザイン的にもトライしていかなければいけない場だし、その雑誌のにおいをぷんぷん出さないといけない。要は、何か文化をつくっていかなくてはいけないわけで、無難な雑誌をつくってもしょうがない。

―― そうですね。確かに。

尾原だけど、本というのは、それが内容と確実にリンクしていればいいけれど、そこまで癖をもたせすぎるものではないですよね。
だから、文化というよりは、本には「もの感」がしっかりあるので立体的に考えられるところが楽しいですね。

―― なるほど。

尾原紙を選ぶところから、丸背にしたり角背にしたり、そういうところの立体感をつくっていけるのがすごく面白い。本って花ぎれがあったり、しおりがあったり部品がたくさんあるじゃないですか。ひとつひとつ選択していくことでかたちが変わっていく。紙を選ぶだけで全く違ってきちゃうし。

―― まさに作り上げていく感じなんですね。

尾原造本って感覚的には建築とすごく近いんだろうなと思います。だから、そこがすごく面白いし、造本のことを考えるのが一番楽しいですね。

―― なるほど。プランクトンで「本」だったというのも、やっぱり必然だったんですか?

尾原切り離せないところはあります。これからも、本は中心になる存在だろうなと思っています。ただ、同じ感覚で、いまスニーカーをつくっているし、他のものもつくろうとしています。陶器も考えています。

―― いいですね。

尾原ただ、プランクトンの場合はあくまでも、プロダクト(製品)を前提に考えているので、手作りのものではないですね。

―― そうですね。

尾原製品として印刷して、スニーカーも職人の手を通してつくる。誰かの手を通してつくることで、社会に対しての還元になる。アートとしての動きではなくて、製品としての動きをしたいんですね。自分の手ではなくて誰かの手を介してつくることに意義があるんじゃないかなと思います。

―― ほんとうですね。デザインって全部自分でやるイメージを持ちがちですけど、そうじゃないですよね。編集の仕事もそうなんですけど。

尾原それと、プランクトンではプランクトンで考えたものしか出さないつもりです。僕の場合はつくりたいからつくっているけれども、自分がつくって自分が売ることで、社会を多少は動かすことができることも気にはしているんですね。流通をつかわないという、問題提起もひとつしたいなと思っていますし。

―― なるほど。

尾原それは本だけじゃなくてスニーカーもそうですね。ものをつくるっていうことの問題提起をできればいいなと思っているかな。

一点ものじゃないプロダクトでいきたい

尾原スニーカーをつくっているのも、自分で一生履きたいと思ってつくっています。だから、まずは白の一番プレーンなものをつくって、それをつくってしまえば、柄が欲しくなったら柄をつくるというのでいいんじゃないかなと。

―― なるほど。まずは一番プレーンなものをつくる。でも、実はきっと、これはものづくりの根本ですよね。

尾原結局、誰のためにつくってるかわからないものをつくるんじゃなくて、誰かのためにつくったほうがわかりやすいんですよ。

―― はいはい。

尾原大多数の人のためにつくりすぎているから、結局、最高の状態のものは存在しないことになってるじゃないですか。ほとんど。

―― なってますね。「ここはいいけど、ここはダメ」とか、みんなそういう言い方ですもんね。

尾原だけど、ひとりにこだわったものは、そこの趣味が合えばもう完璧にすべていいと言える状態になれる。

―― 確かに。

尾原本当にいいものってきっとそういうものだと思うんです。そういうものをつくっていきたいですね。それに、そこに共感してもらえることのほうが、自分としても気持ちがいい。

―― ほんとうにそうですよね。

尾原いいものを提供することこそ、価値観を変える可能性も提示できるんだと思いますし、それがさっき言った問題提起になる。出すことによって考えるようになる、ということが重要かなと。

―― 確かに。

尾原ただ「自分がつくりたいものをつくって終わり」ってなったら、別に一冊つくって終わりでいいわけですから。

本屋さんと私 尾原史和さん3回目

―― そうですよね。自己完結だと、そこにコミュニケーションが生まれないですもんね。

尾原大量に数をつくってみんなに見てもらうことで、社会に対しての接点になる。それをやることが大事かなと思います。そこに向かわないとね、だから、一点ものをつくって終わりっていうのはちょっとまぁ違うかなぁと。


次週「本屋さんの棚をつくる」をお伝えします。

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