本屋さんと私

尾原史和さん。1975年生まれ。高知出身。デザイン独学。『R25』『Transit』などのデザイン。SOUP Design代表。PLANCTONの挑戦。デザイン界では珍しい新卒採用・・・。次から次へと新機軸を打ち出す、今をときめくデザイナー。
そんな尾原さんの「すごさ」に迫ってみました。
ちなみに、ミシマ社では『アマチュア論。』『謎の会社、世界を変える。』などの装丁を手がけてくださいました。必ず「度肝を抜く」アイディアがデザインに盛り込まれています。
(聞き手:三島邦弘)

第24回 本屋さんの棚をつくる

2009.12.24更新

売れなかったら困るけど・・・

―― まず自分が欲しいものをつくって、それを他者と共感して輪を広げていく。本当に、ものづくりの原点だなぁと思います。
今は、下手をするとつくり手も「別に自分はこれ欲しくない」というものをつくって、それが市場に出回っている現実がありますもんね。

尾原特に本は多いですよね。本屋さんに行くとけっこうへこむもん。
すでに一冊あったらいいものを何冊もかぶせて出したり、売ろうとしているのが装丁からもプンプンしている本とかありますもんね。誠実につくってる本って少ないと思うな。
本当によいものを読んでもらいたいと思ってつくるのか、ヒットを出さないといけないからつくっているのかは根本的に違うし。

―― 確かに。

尾原たくさんの人に伝えたいから売りたいという感覚は理解できます。伝えたいことをわかりやすくつくるのはわかるんだけど、伝えることより、まずは買わせることに向かっているからね。

―― そうなんですよね。

尾原そこがずれてる気がする。しかも、こんなに本を大量につくらなくていいでしょ、って気もします。三冊安くつくるより、一冊しっかりつくったほうがいいと思うし。

―― 確かにそうですよね。

尾原でも、たくさんつくらないと採算が合わないからそういうことになってるんでしょうけどね。それは、平均をとっていくっていうことになるから。

―― そうなんですよね。

尾原三冊のうちの一冊売れたらいいけど、全部売れなかったら困るから。
10冊のうちの5冊売れなくても、5冊売れたら平均がとれるわけで。

―― そうそう。ほんとそうですよね。でもしばらくはこの流れは変わらないでしょうね。

尾原やっぱり、買い取りの仕組みをつくらないといけないですよね。実はそれが一番スムーズ。

―― 確かに。でも、5年から10年のスパンで考えたら、そうなっていくと思いますね。

出版社が棚を紹介していく本屋さんへ

―― それがどう切り替わるかですよね。

本屋さんと私 尾原史和4回目

尾原今は、本も書店だけで置かなくなってますよね。だから、今後は本屋さんも他のものを置くようになるんじゃないですかね。その差がすごく広がってくるような気がします。

―― 確かに。

尾原自分たちの本が他の本に紛れてしまうのも残念ですしね。いろんなものと同じように平均化されて置かれちゃうと、その本がどうやってつくられたのかわかんなくなってしまうように感じます。

―― なるほど。

尾原一冊ずつ説明して置いてあげると、その世界に入っていける。けど、そうじゃないと、見た目やタイトルで買うようになってしまうからね。

―― なってしまいますよね。

尾原だから、これからは、出版社が本棚を紹介できるようになると可能性は広がるんじゃないですかね。いろんなカテゴリーでわけるんじゃなくて、フェアみたいな状態で棚を借りる契約をしていく。そうすれば、過去につくったものだって紹介できるでしょうし。

―― その変化はおもしろいですね。単純なポップだけじゃなくて、もう少し詳しい説明とともにやるほうがいいですよね。

尾原そうそう。実はいまプランクトンでやっているものは全部そうしています。「この本のコンセプトはこういうもので、こういうふうに考えて、このシリーズとしてつくっている」と説明をつけて。

―― それはどこでやられてますか?

本屋さんと私 尾原史和4回目

『100 Children』(横浪修)

尾原青山のABCとか、こないだ大きくやっていたのは、六本木ヒルズのTSUTAYAです。横浪修さんという写真家の『100 Children』という写真集をつくったんですけど、それを壁面全体つかって展示していました。あれはけっこうよい出来だったと思います。

―― へー。

尾原プランクトンの本の方も、いまつくっているものは、壁に貼るポスターと、手元に持って持ち歩く文庫、その中間としての作品集(ビジュアルブック)で、そのものの世界を広げるというつくりかたで動いているんですね。それに対して意義を感じてもらうことも重要だと思っています。

本屋さんと私 尾原史和4回目

『ポラーノの広場』(宮沢賢治)

―― なるほど。本もちょっと見せていただいてよろしいですか。

尾原はい。宮沢賢治の『ポラーノの広場』が好きで、そのなかに詩(うた)がいろいろ出てくるんですね。
それがポッドキャストに誰かがつくった詩があって、それがとてもいいんですよ。

―― へー。

尾原そこで、それを秋山花さんっていうイラストレーターさんに聴いてもらって、そこからこの本にあった絵を描いてもらって、この本の世界をつくっていきました。

―― すごいなぁ・・・。

本屋さんと私 尾原史和4回目

『"IHATOV"FARMERS' SONG』(絵:秋山花)

尾原それが、このポスターと文庫と作品集で、同じ紙を使っているけど大きさによって全く違うものになっている。そうすると、本の見方も変わってくるんじゃないかなと思います。

―― なるほど。

尾原文庫を読んで作品集を見てもいいけれど、作品集を見て文庫を読んだらまた全然違ってくるし。

―― そうですよね。

尾原それと、この『あじさいとこころ』(写真:岩崎美里)は夏目漱石の『こころ』を題材にしてつくりました。

本屋さんと私 尾原史和4回目

『あじさいとこころ』(写真:岩崎美里)

『こころ』のなかにはあじさいという言葉は出てこないんですけど、何か心情があじさいの感覚とすごく近いと僕は思っていて。

―― なるほど。これの編集はどうされたんですか?

尾原これは社内で全部やりました。もとはネット上にあるものをベースにして、過去に出版されているものをすべて比較して、もう一度ルールを決めなおしてつくったんですよ。

―― これ内部で編集されたんですか。すごいなぁ・・・。

尾原ただ、横浪修さんの写真集はプランクトンとしても作り方のラインが違っていて、企画、編集、デザインは全部こっちでやっていて、いとうせいこうさんにも解説を書いてもらいました。ただ、プレスと配本に関しては外部の方にお願いしましたね。

―― すごいですね。おもしろいですね、これ。それに、相当コストかかってますよね。

尾原かかってます(笑)。ただ、どちらかというと、横浪さんが世にでる写真集を出したい思いのほうが大きいので、利益はあまり考えてないです。他の出版社だったらなかなかできないことでも、こういう動きで協力できるんだったらいいですしね。

―― そうですね。この文庫も1000円でおさえたのはすごいですね。

本屋さんと私 尾原史和4回目

『こころ』(夏目漱石)

尾原ぎりぎりおさえた感じですね。

―― カバーなしの表紙。紙もすごくいいですね。

尾原まぁ、1000円台にしてしまうと値段的には文庫じゃないですからね。

―― そうなんですよね。この紙は何をつかってるんですか。

尾原それはね、表紙はNBファイバーっていうやつかな。本文はOKライトクリームツヤってやつですね。触ってるとけっこう気持ちいいでしょ。

―― はい。こういう可能性があったのか・・・。

本屋さんで立ち読みを!

―― あ、そういえば、「本屋さんと私」なのに、本屋さんにまつわる話をきいてませんでした! なにか、一番思い出深いお話があれば・・・。

尾原田舎にいたんでけっして感度が高いほうではなかったですが、それでも、絶対的な情報収集の場所としては本屋さんでした。テレビは流れて終わっちゃうけど、本や雑誌はそこがちがうと思う。今思えば、本屋さんに学ばせてもらったものも多いのかも。

―― どういう本屋さんにいってました?

尾原今は残っているかわかんないけど、町の本屋さんですね。ひとりでふらっといくとなると、本屋さんに行ってましたね。
そこで・・・ずっと立ち読みしてました(笑)。

―― 立ち読みって重要ですよね。

本屋さんと私 尾原史和4回目

尾原そう。立ち読みして、それでも「欲しい!」と思ったら買いますしね。最近、漫画の立ち読みができない本屋が多いですが、立ち読みできるほうが結局はよく売れるんじゃないかなぁ。今は目的があっていくところになっているけど、昔は、時間があったらそこに行く、という場所だった。そういう開放された場所として存在するのがいいなと思います。

―― 同感です。いやぁ、そんなこんなで、いろいろ話はつきませんが、今日は本当にありがとうございました。

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