本屋さんと私

第26回 「やっぱりやせ我慢もあります」

2010.01.14更新

めっちゃラッキーな話でした

中島お恥ずかしい話ですけど、わが社はミシマ社の1/10の本も出してないんですよ。それに、書籍ではヒットを飛ばしてないですからね。だから、あまりええことは言われへんな。

―― いやいやいや。『京都店特撰 たとえあなたが行かなくとも店の明かりは灯ってる。』(バッキー井上)、『奇跡の寄席 天満天神繁昌亭』(堤成光)、2冊とも本当におもしろかったです。
繁昌亭さんの話は、大阪人の心意気といいますか、本自体がそういうふうにしてできたんだなと読みながらひしひしと感じました。

中島堤さんという方は、わが社の立ち上げから、なにかと気にかけてくれる人でほんまに男前な人なんですよ。「気は優しくて力持ち、けどいらんことは言わん」というような人でね。

―― なんとなくわかります。本当にきっちりした方だなという印象を受けました。

中島私、何がびっくりしたかっていうとね、4月から書きはじめていって、7月後半には一応原稿全部揃ったのね。それで、その原稿をデザイナーさんに出して、8月頭にはデザイナーさんから文字や写真が組まれたものがあがってきたんです。でも、それと同時に、また新規の原稿が堤さんからきたんですよ。
「ちょっと、気に入らんところあったから全部書き直しました」みたいな(笑)。
もう一度頭から全部直してきはんねん(笑)。それは校正の時に頼んますわ、って感じなんやけど。

―― それはびっくりしますね(笑)。

中島でね、言うたら繁昌亭さんもミシマ社もうちも3周年でしょ。繁昌亭さんは9月15日が記念日やったのね。だから9月15日までには絶対に出したかったんです。だからそういうのもあって、けっこう急ぎながらやったからね、もっと違うことも考えられたかなとは思うんですけどね。

―― でも本当におもしろかったです。まさに奇跡の話だなと思いました。この堤さんの人の良さが前面に出てきてるので、とても好感をもって読みました。

中島堤さんが三枝師匠にインタビューしたとき、私も同席したんだけど、私らに接するのと全然変わらへんのね。そのへんがすごいなと。三枝さんとはもう10年以上の付き合いやからいうのもあるんでしょうけど、それにしてもやっぱりすごいなと思います。三枝さんも堤さんの人柄にぞっこんで、結局いろんな出版社やら新聞社からいろいろ話はあったらしいんですけど、三枝さんはことごとく退けてきたらしいのね。それで、うちにお鉢が回ってくるっていうのはめちゃくちゃラッキーな話やったんですね。

―― そういうお話でできてたんですね。
この判型というのはどういうふうに決まったのですか? 単行本だと四六判が主流ですし、珍しいですよね。

中島うちとしても、(ムックの制作など)このサイズでずっとやってきてるしね。だから「ちょっと変形B5で本をつくったらどうなるか?」というトライがあったんですけど、やっぱり書店ではなかなか難しいですね。

―― 難しいですか。

中島ええ、やっぱり変形B5でやるんだったらもうちょっと写真を活かすように見せなあかんなと。

―― なるほど。でもこの判型は、いままでやってこられた雑誌のテイストを本に活かしたいというのが根底にあったんですか。

中島というか、私らが四六判とか新書判サイズの本をつくる体ができてないんですね。常に写真と活字がワンセットになったところで生きてきたから、はやく活字だけでもつくれるようにしないといかんな、と思いますけどね。

「このオモロさはうちでやったら出せるんちゃうかな」

―― 今後の展望としてはどんな本を出して行こうと思っていらっしゃるのですか。

第26回 140B

中島やっぱり「他は逆立ちしてもでけへんけど、このオモロさはうちでやったら出せるんちゃうかな」みたいなことがあった上の本をつくりたいですね。
堤さんの本もバッキーの本も、たぶん他の出版社はようつくらんと思うんですね。やっぱり、どうしてもこれに1200円ってつけたら「なんやねん。高すぎるわ」となるじゃないですか。

―― これ最初にいただいたときは衝撃を受けました。どうやったらつくれるのかまずわからなくて、すごいって思いましたね。この値段はつけたいとは思いますけど、つけられない定価です。

中島やっぱりね、その辺のやせ我慢と言うか。
だから、営業の青木からごっつ文句言われてますよ。「やっぱり、もうちょっと流した汗に報われるような値段にせなあかん」って(笑)。無謀を通り越してアホやなって思ってる人もいるからな。『京都店特撰』なんか12000部刷ったから。

―― すごい!
実際にはじめて発行発売をやられてどうでしたか。

中島追加の電話があるとか、新聞とか雑誌で紹介されるとかあると、やっぱり喜びもひとしおですね。ただやっぱり、本が動くと言うのはむちゃくちゃ時間がかかるんやなって思いました。

―― 雑誌の動き方とは違う。

中島もう、全然違いますね。もちろん、書籍でも雑誌みたいな動きで売れる本もたくさんありますけど、やっぱり、前の会社におったときにムックを10万部くらい刷って7万部くらいどーんと配本して、最後の3万部は1カ月でなくなって、またすぐ追い刷りみたいなこととは全然違いますね。

繁昌亭は上方落語のプロジェクトX

―― でも、まず2冊ともすごいインパクトがあったと思うんです。どちらも評判いいですよね。

中島評判はいいっていうのと、売れるっていうのはまた違いますからね。

dai26kai 140B

『奇跡の寄席 天満天神繁昌亭』(堤成光)

―― おっしゃる通りです。売るのはまた別の要素だと思うんですけど、ただ、そのインパクトが最初にあるかないかって出版社にとっては大きいかなと思います。
『奇跡の寄席 天満天神繁昌亭』はいろいろな読み方ができますよね。ビジネス書コーナーのなかに置いてもおもしろいだろうなと僕は思います。

中島だから、注文書には「上方落語のプロジェクトXだ」って書いたの。

―― お上からのお金じゃなくて、チャリティーで集まったお金だからこそ開かれたかたちになったわけですよね。どこからのお金かは、同じ2億だとしても全然違ってきますからね。

中島違うと思いますよ。お金出した人も「おれが支えてあげなきゃあかん」っていうのもあるし、お金をもらった上方落語協会も「私らで運営していかなあかんのや」っていう連帯感はあったやろうね。

―― そうですね。そのやりかたをもっといろいろ見習うべきだなと思ったんですよ。大阪はいま第三セクターとか箱もの行政に対して問題が出てきて見直しがあったりしますけど、「これをちゃんと読んでよ」ということを声を大にして言いたいなとすごく思いました。

中島そうよ。

―― だから、もっとビジネスマンが読むといいですよね。

中島行政とか街おこしとかをやる人とかね、そういう人にも読んでもらいたいですよね。

―― そうですね。会社を運営するのにもすごく参考になるなと僕は思いました。ところで、中島さんは「オモロい」っていうコンテンツの側じゃなくて、経営者としてこれだけは守ろうということは何かありますか?

中島やっぱり、真似するとかさ、年度末に売掛たてなあかんとかさ、そういうのはやりたくないな。それやったら終わりやんな。
やっぱり、何か私らでもいままでにないもの? 「はじめて聞く」とか「そうだったんか」とか、こういうフレーズがいまの時代にすっと染みるとか、何か私ら自身に「こういう本があってよかったな」っていう発見があるものをつくって行きたいですよね。

ものごと楽観的に考えます

―― 中島さんの編集の仕方や見せ方へのこだわりは、営業をやってらして見えてきた部分もきっとあると思うんですけど、とくに表紙の決め方というのはどうしていらっしゃいますか。

中島ある人に「街中で持ってても恥ずかしくないもの」がほしいと言われたのね。だから、そのへんは心がけなあかんし、本自体が何らかのパッケージみたいな感じに考えなあかんなと思ってますね。でもまず見た瞬間に「おおっ!」がないとアカンでしょう。

―― 『京都店特撰』、この幅広帯のアイデアはどこから出てきたんですか。

本屋さんと私 140B 中島敦さん

『京都店特撰 たとえあなたが行かなくとも店の明かりは灯ってる。』(バッキー井上)

中島要するにお金がなかったんですよ。本当はカバーに柄がついてるとかしたかったんですけどね。だからamazonにでると、こう出るんです。

―― そうかそうか。なるほどね。
ひとつ、このやり方で気になるところというか、表紙とカバーが一緒だとして、帯つけて守られたとしても、どうしても汚れがついてしまうと思うんですね。
なので、改装して再出荷するのは難しいと思うんですが、そこの問題はどうされてるんですか?

中島もうだから、永江朗さんからぼろかすに言われたよ。でも、こんだけぼろかすに言ってくれるっていうことは、永江さんはうちに愛を思ってくれてんねんなって。

―― それは、カバーの問題とか。

中島それもやし、このサイズでは書店の棚には置かれへんと。
しかも、ロール(注)も効かへん。きみらは何を考えてるんだと。

―― ローリングが効かないのはわかってやってるんですよね。

中島やっぱり大量に刷ってるから、返品されてもローリングせんとどんどん刷って行く方がええかなと。かなりムック的な発想ですよね。

―― そうか、なるほど。実際、改装はできなかったですか。

中島いや、まだわからない。だって、そこまでいってないもん。改装するもなにも新品がたくさんあるし。すごく楽観主義というか、ものごとを楽観的に考え過ぎなんやけどね。

―― なるほど。普通は、まず再出荷のことを考えてつくりますもんね。でも、この形式はそことは違うものなんですね。

中島まぁ、だからね、本の価値って後になって出てくるようなものだから。

―― 本当そうですね。瞬間的には絶対にわかんないですよね。雑誌だと短期勝負なところはどうしても出てくるんでしょうけど、本は本当に「何年後か」かもしれないですし。
今後の140B出版のラインナップを楽しみにしています。


注:ロール......返品された本を再出荷するために研磨すること。専門の機械で本の背以外の側面(天地横の三方の小口)をローラー状の機械で削り、汚れや経年変化による焼けを取り除くこと。


次週「本屋さんに教えられ」をお届けします。

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中島淳(なかしま・あつし)

雑誌やガイドブックの編集者としても15年以上のキャリアがあるが、「販売」という仕事に目覚め、目の前で読者が嬉々として買っていく現場見たさに企画書を書きタイトルをひねり出し書店や取次に通った。そのせいか編集者時代と比べても比較にならないほどタイトルの「切れ」が増す。
140Bの事務所で最も大きな存在感を示す2つの巨大白板は、「必殺のタイトル考案」のために用意されたもの。自分がそれを書きたいというのもあるが、人がつくったタイトルの中から「コレや!」と見いだす快感にも目覚めた。タイトルのことを考えれば考えるほど、川内康範や阿久悠、山上路夫、岩谷時子、安井かずみなど大作詞家に対するリスペクトが深まる。
零細企業の代表としては、「収支が黒字になる」ことも「入金がドッとある」ことも嬉しいが、それ以上に目下の愉しみは「タイトルが月面宙返り的着地で決まる」「信頼するスタッフと新しい仕事が出来る」ことである。そして、つくった本が目の前でバカスカ売れてくれれば言うことナシだが、死ぬまでにあと何度味わえるか……。(140B HPより)
本屋さんと私 140B 中島さん顔

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