本屋さんと私

第28回 もし私が本屋さんだったら

2010.01.28更新

「繁昌亭を見て死ね」

―― では最後にですね、出版社の社長じゃなくて、書店員としてこの2冊を営業するとしたら、どういうふうに売ったら楽しくなるかということをぜひうかがいたいなと思います。

中島私の場合『京都店特撰』(バッキー井上)を読んで決定的に変わったのは、もう熱燗しか飲まんくなったとこですね。
だから、例えば「僕はこの本のおかげで熱燗しか飲まない人間になってしまいました。それが幸せだと思います」とかさ。そういうことを書くかな。

―― なるほど。

中島ほんまにね、この人の熱燗の話はうまそうなんですよ。

―― これでも書店員さんが言ってたら買いますね。「マジか?」と思いますもん。なるほどな、熱燗か。

中島『奇跡の寄席 天満天神繁昌亭』(堤成光)は、「落語の本じゃありません、プロジェクトXです」とそんな感じなんかな。
あと、繁昌亭って知らない人が多いと思うんですよね。だから・・・「繁昌亭を見て死ね」とか、そんな感じですかね。

―― はは。なるほど。それいいですね。
だとすると、それぞれどういう展開をされますか。置き場とか見せ方は? 

中島そら、入口付近がええけどな。レジの近くに置いて、ついでにもう一冊みたいな売り方がいいのかなやっぱり。ただ、レジの近くに置こうと思ったらもうちょっと判型小さい方がいいよね。

―― 棚というか、分け方のジャンルとしてはどこらへんがいいと思いますか。

中島やっぱりジャンルとしては落語の棚に入るとしんどいと思いますね。あまり動かへんから。だから大阪の本と一緒に並べるみたいなのがええんかな。

―― なるほど。大阪ね。

中島バッキーの本はなんやろな。例えばね、エルマガジン社がつくった「バッキー井上のフレーズカレンダー」っていうのがあるのね。だから、名フレーズの短冊と一緒にならべんといかんやろな。

―― なるほどね。フレーズは確かにいいですね。

中島「行く道は行くしかないんじゃ」とかさ。「飲めば木屋町のゼロ戦帰れない」とかさ、「腕も折れよと上げ下げグラス」とかさ、なんかそういう短冊と一緒にはらないかんやろね(笑)。

―― これはたまらんですよね。本当に天才ですよね(笑)。これ読んだとき、本当にそのとおりだと思いました。ひとまず、これで新たなポップ展開していただけたらいいですよね。

去ってからわかる、関西のありがたみ

中島なんていうかね、関西ってありがたみが多すぎるんですよ。実は去ってからの方が、そのありがたみに気がつくところはあるのかもしれない。

―― 本当そうなんですよ。

中島だからね、東京国立博物館の「国宝 阿修羅展」っていうのが、私は信じられへんかったのよ。

―― わかります。

中島「うそでしょ」みたいな。
奈良の興福寺に宝物館ってあるの。そこに阿修羅はおさめられてるんやけど、しょぼいケースに入れられてんねん。「切手の国宝シリーズで見てた阿修羅ってこれ? こんなしょぼいケースに入れられてんねや」みたいな。だから、自分にとっては、そういうしょぼいケースに入れられた阿修羅が普通やったのね。

―― ですよね。

中島だから東京国立博物館で、それが2重3重の列つくってありがたそうにしてるの見ると、「それちょっと別の阿修羅ちゃうの?」って(笑)。

―― そうなんですよね。えらくありがたがりますもんね。

中島だから、そういうものが京都にしても神戸にしても、あまりにも日常やからね。繁昌亭では今日も誰かの独演会やってるし、毎日昼には一応名人、若手ひっくるめて出てるっていう、非常に近しいところなんですよね。だから、そういうのは知らんと死ぬのはもったいないなと思いますね。

―― そうですね。昼席は前売り2000円なんですよね。それで、3時間10組見れたら本当に幸せですよね。

中島若い人に来てほしいですよね。

次の京都本もすごい

――では最後の最後に、今後のラインナップとしてはどんなものを考えていらっしゃるか教えていただけますか?

中島まぁちょっと、これはまだ言えませんが、バッキーの本を読んで「ああ、自分は京都でよかったなぁ、京都が好きだったんだなぁ」と思っていただいた以上のインパクトがある京都の本がもうすぐできると思います。

―― まじですか。それは楽しみです。

中島今年の4月くらいを予定しています。
バッキーが書いた京都とは全然違う本やけどね。
その著者言うてたもん。「あたしの店と一個もかぶってへん。かすってもおらん」って。

―― へー。今からすごく楽しみです。次の京都本に期待してます。
今日は本当にありがとうございました。


と大阪の140Bをあとにしたのだが、自由が丘に着いたとたん、大きな失態をしでかしていることに気がついた。「本屋さんと私」の取材にもかかわらず、本屋さんとの出会いをすっぽり聞き逃しているではないか!?
恥をしのんで後日、メールでお訊ねした。
以下が、そのやりとりです。

―― 子どもの頃、本屋さんの思い出といって思い出すことはありますか?

実はかつて140Bブログで書店さんのことを書きました。子ども時代を過ごした街・福岡市博多区麦野の、西鉄雑餉隈(ざっしょのくま)駅前にある筑紫書房です。決して「近所」ではありませんでしたが、一番近い書店だった。病気の時には配達もしてくれたりしました。こことお付き合いがあったことが実は決定的で、無意識のうちに「出版の道を歩け」と神様から言われていたのかもしれません。

―― 初めて自分の意志で本屋さんに行ったのはいつごろ?

本屋さんと私 中島淳さん

たぶんこの筑紫書房に、『オバケのQ太郎』か『おそ松くん』の別冊を買いに行った小学校1〜2年ごろだったと思います。

―― 本屋さんは中島さんにとってどんな場所ですか?

私が魚だったら海ですな。カッコよすぎますか(笑)。


中島さん、かっこよすぎるなんてとんでもない。
いつも、めっちゃかっこいいですよ!
これからもミシマ社営業部長的ポジションからいろいろご指導くださいませ。
以上、どきどき、心臓が胸から飛び出さんばかりの師匠インタビューでした。


(聞き手:三島邦弘)

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中島淳(なかしま・あつし)

雑誌やガイドブックの編集者としても15年以上のキャリアがあるが、「販売」という仕事に目覚め、目の前で読者が嬉々として買っていく現場見たさに企画書を書きタイトルをひねり出し書店や取次に通った。そのせいか編集者時代と比べても比較にならないほどタイトルの「切れ」が増す。
140Bの事務所で最も大きな存在感を示す2つの巨大白板は、「必殺のタイトル考案」のために用意されたもの。自分がそれを書きたいというのもあるが、人がつくったタイトルの中から「コレや!」と見いだす快感にも目覚めた。タイトルのことを考えれば考えるほど、川内康範や阿久悠、山上路夫、岩谷時子、安井かずみなど大作詞家に対するリスペクトが深まる。
零細企業の代表としては、「収支が黒字になる」ことも「入金がドッとある」ことも嬉しいが、それ以上に目下の愉しみは「タイトルが月面宙返り的着地で決まる」「信頼するスタッフと新しい仕事が出来る」ことである。そして、つくった本が目の前でバカスカ売れてくれれば言うことナシだが、死ぬまでにあと何度味わえるか……。(140B HPより)
本屋さんと私 140B 中島さん顔

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