本屋さんと私

本屋さんと私 アノニマスタジオ

東京・蔵前にある出版レーベル「アノニマ・スタジオ」をご存知ですか?
そもそも「蔵前」って東京のどこにあるんだろう・・・?
たしかに、あまり聞きなれない地名かもしれません。

東京の東側、隅田川のほど近く。
下町情緒が色濃く残る浅草・蔵前・馬喰町エリアには、ここ数年、カフェやギャラリー、雑貨店などがぽつりぽつりと増えはじめていて、新たな人の流れが生まれているそうです。

その人の流れをつくっている発信源が、アノニマ・スタジオ! といっても過言ではないくらい、毎月さまざまなイベントを企画しています。

「ごはんとくらし」をテーマに本を出版しているアノニマ・スタジオは、設立当初から出版記念イベントや各種ワークショップをとおして、著者と読者が交流する場を積極的につくるなど、出版社の枠にとどまらない活動をしています。

今月の「本屋さんと私」では、本好きによる本好きのためのイベント「Book Market 2010」(ミシマ社も参戦!)とアノニマ・スタジオの本の仕掛け方を中心にお話を伺ってきました。(聞き手:足立綾子)

第29回 本好き集まれ!「Book Market 2010」(アノニマ・スタジオ編)

2010.02.04更新

Book Marketは出会いの場

―― 書店でいろいろな出版社の本を集めてフェアをしているのを見かけますが、出版社のスペースで開催する「Book Market」みたいなイベントってとても珍しいですよね。なぜ、このようなイベントを企画しようと思ったのですか?

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三谷毎年、東京国際ブックフェア(以下、ブックフェア)に出展させていただいているのですが、会場がとても広くて、どこに自分の行きたいブースがあるのかわかりづらかったり、興味のあるブースどうしが離れていたりして、本をご紹介するうえで、もう少しうまくできる方法があるのではと感じることがあったんです。

ブックフェアに出展されていない出版社の中で、お客さんにアノニマの本と一緒におすすめしたい本を出されているところもあって、最初、ブックフェアに合同出展できないかと思ったのですが、調整がつかなかったんですよね。であれば、うちのスペースがあるじゃないか! とひらめいたんです。

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安西うちでブックフェアのミニチュア版をやろうと思ったんですよ。

―― なるほど!

三谷出版記念イベントや料理教室などは、今までも数多くしていたのですが、営業チーム主体で企画するのは、「Book Market」が実ははじめてだったんです。

安西それに、事前に参加者を募った予約制のイベントの経験は豊富だったんですが、出入り自由のイベントは、あまりしたことがなくて。なので、どのくらいお客さんが来てくれるのだろうって、おっかなびっくりはじめました(笑)。

―― 去年の「Book Market」、私もお邪魔しましたが、ふたを開けてみたら大盛況だったじゃないですか。告知には、結構力を入れたんじゃないですか?

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三谷出版社や雑誌社にプレスリリースのFAXを送ったり、営業先でチラシを配ったり、地道に告知しました。アノニマのスタッフも無料で出せる雑誌や新聞の広告枠を調べてくれたり。ご出展いただく出版社の方にもいろいろとご協力いただきました。

安西告知関係ではマーブルトロンさん、チラシやDMなどのデザイン関係はミルブックスさん、イベントの運営面ではラトルズさんといったように、「Book Market」って、いろいろな方が快く手伝ってくださっているから成立しているんです。

―― それぞれの得意分野でみんなが手伝うっていう。それはいい話ですねー。出展された出版社は、どういった経緯で集められたのですか?

三谷まず、ブックフェアに一緒に出展できるようなイメージから企画を考えたので、ラトルズさん、8plusさん、ミルブックスさん、マーブルトロンさんなど生活実用書を出している出版社を中心にお声がけしました。

安西アノニマと同じ読者層に向けて本を出されているところですね。

三谷あと、ご近所の筑摩書房さんにもご参加いただきました。意外に思われるかもしれませんが、アノニマの読者さんなら絶対好きなんじゃないかなーっていう本を、筑摩書房さんは、たくさん出されているんですよね。そこを出会わせる機会ってなかなかないのかなと思って。

―― 筑摩書房さん、生活実用書では根強い人気のある辰巳芳子さんや平松洋子さんの本も出されていますよね。

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料理家・高山なおみさんの日記エッセイシリーズ『日々ごはん』。最新刊は、今年7~8月に発刊予定。

三谷そうですよね。あと私は、武田百合子さんが好きなんですけど、高山なおみさんが『日々ごはん』で、武田さんについて取り上げられているんです。『日々ごはん』のなかで武田さんのお名前を知ったとしても、そこから本を手に取るまでには、ちょっとハードルがあるような気がするんです。「書店では棚が離れている」とか、ちょっとしたことですけれど。でも、高山さんの本の読者なら、きっと好きだと思うからおすすめしたいと思って。そういう目線で、筑摩書房さんとやりとりしながらラインナップを揃えました。

安西『自分の仕事をつくる』(西村佳哲著)と『間取りの手帖 remix』(佐藤和歌子著)の二冊がバカ売れしていました。『間取りの手帖 remix』って、男性向きなのかと思いきや、意外に女性が買われていましたね。

三谷『自分の仕事をつくる』がすごく売れているのを見て、会社に就職するっていう働き方だけじゃなくて、自分だからできる仕事ってないかな? とか、そういうニーズがうちの読者さんにあったんだなーと感じました。

―― うちのこの本を買った人が、他社さんのあの本も買っているっていうのが、直にわかりますよね。

三谷書店さんに私たちが営業に行っても、アノニマの本を買ってくださった方が他社さんのどんな本と一緒に買うか見れる機会はないですし。

安西ちくま文庫、早々に在庫切れの本が出たりして、ちょっとくやしいぐらい、たくさん売れたんですよ(笑)。

三谷筑摩書房さんが、他社さんが出していない生活文芸書のジャンルをカバーしてくださったので、「Book Market」の選書にも奥行きが出たように思いますね。

本気で本をつくっている出版社が集結!

三谷告知を見てくださったのか、アノニマの読者層ではない方々も来てくださったんです。アノニマの読者層って、20代、30代の女性が中心なんですが、ふだん、アノニマのイベントでは見かけない40代、50代の男性がアノニマの読者層の次に多いぐらい、たくさん来てくださいました。

―― 年齢や性別問わず、本好きの人たちも来てくださったんですね。

三谷それを見ていて、そういう方達にむけたイベントができそうだなって思ったんです。第一回目で、いわゆる暮らしのジャンルにとらわれずにイベントが成立するんじゃないかって手ごたえを感じました。これが、今回の「Book Market」の出展一覧です。
アノニマ・スタジオミルブックス8plusミシマ社INAX出版理論社(よりみちパン!セ編集部)医学書院筑摩書房クレヨンハウス風土社くくのち学舎、古本ユニットricca)

安西ぱっと見た感じでは、どういうセレクトなんですか? って、違和感たっぷりですよね。

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選りすぐりの本が、あなたを待っている!

三谷前回もそうですが、今回も私たちがとにかく「この本、すごい!」「すごく好き!」っていう本を出されている出版社に集まっていただきました。

―― 今回の「Book Market」のテーマって、あるんですか?

三谷「本気で本をつくっている出版社」です(笑)。本当におもしろい本だけを集めました。どの本も一本、筋が通っているんですよ。

安西先程の筑摩書房さんの話じゃないですけど、「Book Market」が出会いの場になって、ミシマ社さんとアノニマの読者さんがつながったらおもしろいなーと思うんですよね。

―― まず、本を手に取っていただくことが第一ですものね。

安西アノニマの読者さんは、ミシマ社さんの本がおいてあるビジネス、人文、プロレスといったコーナーに、なかなか足を運ばないと思うんですよね。自分たちも含めてそうだと思うのですが、書店に行ってもだいたい行く棚って決まってくるじゃないですか。でも、なにか取っ掛かりがあれば、おもしろく読んでいただけると思うんです。

本の質が尋常じゃない!

三谷理論社さんの「よりみちパン!セ」編集部にも出展をお願いしました。対象読者層が中学生以上のすべての人と幅広いですし、ファンも多い。もっともっと多くの人に手に取ってもらいたいと思うんですよね。

―― このシリーズ、私も大好きです。カバーをはずした表紙にも凝ったデザインが施されていて、新刊が出たら、つい手にとって見てしまいます。

安西これは暮らし系の本が好きな人には、評判が高いシリーズですよね。

三谷あと、医学書院さんの「シリーズ ケアをひらく」もすごくいいんですよ。

―― この出展一覧のなかで、まず医学書院さんに目が行きますよね。「Book Market」の本気な感じが伝わってくるというか。

安西書店さんにフライヤーを持っていくと、みんな、「え? 医学書院?」って反応をしますね。

三谷医学書院さんは、「よりみちパン!セ」の編集さんにご紹介いただいたんです。「『シリーズ ケアをひらく』というのがあって、最近出している本の質が尋常じゃない!」とおっしゃって。

―― 「よりみちパン!セ」の編集さんにそう言わしめる本を出しているなんて! とすごく気になりますね。

三谷それで、さっそく本を読んでみたんです。母が看護師をしているので、『感情と看護』(武井麻子著)を母から聞く現場の話と照らし合わせながら、とてもおもしろく読ませていただいたし、内田樹さんの『死と身体』もすーごくよくて。今まで読んだ内田先生の本のなかで、一番腑に落ちた本ですね。「人間は、死んだ者とも語り合うことができる。」っていうコピーもすばらしい。これはもう、医学書院さんには、絶対出展してもらおうと思いました。

安西実際に本を並べてみたら、お客さんも納得すると思うんですよ。社名だけで見ると違和感はあるけど、なんとなくまとまっているので、是非来てみてください!

三谷本と人との出会いの場、ですよね。「Book Market」に来て、たまたま手にした本が「こんな本、探してもみなかったけど、私、まさにこういう本に出会いたかったの!」という出会いが生まれたら、とてもうれしいです。

―― 古本ユニットriccaさんは、どういう方達なんですか?

三谷以前からriccaさんには、アノニマでイベントをしたいって打診をいただいていたんです。古本が好きな人って一定の層がいるものの、一般的には多くの人が手に取るとか、わかりやすく古本と人が出会える場所ってあんまりないんじゃないかと考えられていて。

―― たしかに、そうですね。

三谷riccaさんは古本を売るのに、ちょっとした工夫をしているんです。昔、図書館で借りる本には、貸出カードが付いていたじゃないですか。riccaさんが売られる本には、貸出カードみたいなカードが一冊一冊に挟まれていて、この本が生まれる背景やおもしろいポイントなどの解説が書かれているんですよ。

―― 本を買った人は、そのカードも一緒にもらえると。本、一冊一冊に対して愛情を込めて売られているんですね。

三谷本のセレクトも、うんとよかったんですよ! 私が川喜田二郎さんの『鳥葬の国―秘境ヒマラヤ探検記』をずっと探していたんですけど、いろいろな古本屋さんをめぐっても全然なかったのに、riccaさんのイベントに行ったら、なんとその本があったんです! ちょっと運命感じちゃいました(笑)。

絵本の読み聞かせは総合芸術!

―― 次にイベントについてお聞きしたいんですが。

三谷12日(金)は前回大人気だったtico moonさんのライブです。ミルブックスさんのアートブックのスライドをしながら、それに合わせた曲を演奏していただきます。イベントでライブをすると、場がとても華やぐんですよ。13日(土)は、読み聞かせのイベントをします。

―― 読み聞かせのイベントを企画したいきさつを教えてください。

安西おはなしpotの関口さんは、去年閉店したABC自由が丘店のスタッフをされていた方なんです。書店の仕事をしつつ、読み聞かせの活動もしていると以前から伺っていて、大人向けの読み聞かせのイベントをいつかしたいですねって話をしていたんです。

三谷詩の朗読会とかはあると思うんですけど、大人になってから、絵本を読み聞かせてもらう経験ってないじゃないですか。

―― 絵本なんですね! 大人向けの読み聞かせと聞いて、児童書の朗読会とかをするのかなーと想像していました。

三谷絵もちゃんと味わっていただきますよー! 関口さんが「絵本の読み聞かせは、目や耳や想像力をめいっぱい使う総合芸術だ」っておっしゃっていました。

―― 言われてみたら、そうかもしれないですね。数十年ぶりに読み聞かされる側になるって、新鮮ですね。

三谷意外なことに大人って、子どもよりも集中力がないそうなんですが、実際に関口さんの読み聞かせを体験したら、やさしい語り口にすーっと引き込まれて絵本の世界にすっかり入り込んでしまいました。

―― 最終日14日(日)は、ミシマ社のイベントですね。

三谷寺子屋ミシマ社スペシャル編で、ミシマ社さんの本のポップをつくるイベントです。本作りについてのトークのあとに、ミシマ社さんの本のなかで好きなものを一冊選んでもらって、ポップをつくっていただきます。出来上がったポップは、実際に書店さんの店頭で使っていただくそうです。ほんと、こういうイベントをしてほしかったんですよ。

―― 「Book Market」から、その先の書店さんにも導線がつくれますしね。

安西ミシマ社さんらしい「動」のイベントですよね!

今年も筑摩書房セレクト、ご期待ください!

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昨年に引き続き、日本全国のフリーペーパーからBook Marketの「とっておき」だけを集めて、展示・配布します。

―― 「Book Market」、大盤振る舞いのイベントですね。本が大好きな人たちが集まって企画しているからこそ、濃密な空間が生まれるんでしょうね。それに、書店では埋もれがちな既刊の良書をアピールする場でもありますしね。

三谷一社あたり机ひとつ分の限られたスペースですし、自然と本が絞られるんですよね。考えられた選書を見ていただくので、おもしろいと思います。私たちも他社さんがどんな本を持ってきてくださるのか楽しみにしています。うちも机ひとつです。特別扱いは一切なしです!

―― 盛りだくさんの「Book Market」ですが、おふたりのイチオシを教えてください。

安西イチオシは、筑摩書房さんのセレクトです。先月末、惜しまれながら閉店された新潟の北光社さんの佐藤店長が、ちくま文庫を中心に選んでくださいました。

―― ミシマガジンにご登場いただいた北光社・佐藤店長も参戦!

安西筑摩書房さんの話によると、北光社さん、佐藤店長のセレクトでちくま文庫の売上がとてもよかったみたいです。今、閉店するというので、お客さんがたくさん来ているようなんですが、その大変お忙しい中を無理やりお願いしました。

―― すごいなー、それは期待しちゃいますね。

安西他の書店さんでは売れない本が、北光社さんでは売れていたようなので、佐藤店長セレクトを楽しみに来てください!

―― では、三谷さんのイチオシは?

三谷もう、私は選べません! 「Book Market 2010」が全部、おすすめです!(笑)

―― (笑)。たしかに、そうですね!

三谷どれも100%全部おすすめです。イベントも出版社も古本も全部おすすめです。ちょっと違うかな? というものをひとつも入れていないんです。お客さんに「本って楽しい!」ってことが伝わったら、とてもうれしいです。

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本を三冊以上お買い上げの方に特製エコバッグをプレゼント!(写真は昨年のもの)今年は男性でも使えるをテーマに渋めのエコバッグがお目見えします。

―― 前回もおもしろかったですけど、パワーアップしている気がします。その都度、最善を尽くしているというか。それって遊びに来る人たちに伝わるものですよね。

安西毎回、出し惜しみゼロです。今回は、いろいろなジャンルの本があるので、余計におもしろいつながりが見えてくるんじゃないかなーと思います。新しいなにかが・・・・・・こころの扉が開いちゃうかもしれませんよー(笑)。


■「寺子屋ミシマ社」は定員に達したため、受付を締め切りました。たくさんのご応募をありがとうございました! 「tico moonライブ」「おはなしpotの絵本の読み聞かせ」は、ご予約受付中。詳細は、アノニマ・スタジオのHPをご覧ください。

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安西 純(あんざい・じゅん) 三谷 葵(みたに・あおい)

安西 純(あんざい・じゅん)
1979年千葉県出身。アノニマ・スタジオ所属。おもに都内周辺の書店営業を担当。幼き頃は自然と一体になって遊んでいた。中学生当時には台風で学校が休校になると喜び、友人とともに台風の雨で増水した川に飛び込み、川の急流に流されるのを楽しんでいた。たまに過去を思い返すと、今生きているのが奇跡かもしれないと思ったりもする。好きな食べ物は「カレー」。

三谷 葵(みたに・あおい)
1981年長野県出身。アノニマ・スタジオ所属。雑貨店など書店以外の取引先への営業を経て、現在編集/広報を担当。「雨が降ったら、三谷は休み」といわれるほど、学校嫌いだった学生時代が嘘のように、2010年2月にミームデザイン学校基礎課程修了、四谷・くくのち学舎に関わるなど、どういうわけか「学校」に通いつづける日々。山伏歴7年目。好きな食べ物は「目玉焼き」と「ぬた」。

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