本屋さんと私

「なんでもない一週間が、特別な一週間に感じられるよ」
友人にそう薦められてチェックしはじめた星占いウェブサイト「筋トレ」。
テキストだけの超シンプルなこのサイトで、週間占い「週報」や年間占い「年報」を無料で読むことができます。

一読するなり、今までの占いの文章となにかがちがうと感じました。
この文章を書く石井ゆかりさんってどんな方なんだろう。
毎日書き続ける、その創作の原動力になる本とのエピソードがきっとあるんじゃないか。

そう思い、実現した今回の「本屋さんと私」。
お話は占いや思い出の本のことだけに留まらず、
出版すること、旅先での仰天エピソード、写真展の企画など多岐にわたりました。
今月は、深遠なる石井ゆかりさんワールドをたっぷりご堪能ください!(聞き手:足立綾子)

第33回 本の背表紙はコーラス隊(石井ゆかりさん編)

2010.03.04更新

新しい本は、こわい

―― 占いの文章って、ともすれば無味乾燥になってしまったり、先生目線で語ったりしているものもあるなかで、石井さんの占いの文章は、目線が読者と同じところにあるなと感じたんですよね。すごく血が通っているあったかい文章だなとか、これを書いている人はきっとやさしい方なんだろうなとか。

石井ふふっ。

―― 石井さんってどんな方なんだろうと思って、「筋トレ」のコンテンツをいろいろ読んでいったんです。「帽子用カンパ」のページのなかで「伝えたいことや書いたことには、そのもの自体『金銭的価値』はない」って、ずばって書かれていて。それを読むまで、私は石井さんのことを占星術家だと思っていたのですが、「文筆家なんだ!」と。毎日、表現力豊かにテキストを書いていらっしゃいますし、創作の原動力になる本との原体験がきっとあるんじゃないかと思ったのですが、ふだん、本とどういうお付き合いをされていますか?

石井実は私、新しい本を読むのが、こわいんです。知らない人に会ってひどいことを言われて傷つくのがこわい、というのと同じです。すごく感情移入しながら本を読むので、本の中身が私を傷つけるんじゃないかという恐怖があるんですね。映画も、決して嫌いじゃないのに、あんまり見ないんです。感情移入しすぎて、辛くてたまらないからなんですね。

でも見ちゃえば結末がわかるじゃないですか。そうすると、たとえばいじめられるようなシーンでも「あとで仲間になれるんだ」とか思えて、安心できます。だから、一度見てしまえばもう大丈夫で、気に入ったとなればそれこそ、何十回も見るんです。本もそうで、同じモノを何回も読みます。それこそもう、ハンドクリームをオハダに入念にすりこむような感じですね。何度も何度も読むんです(笑)。

―― (笑)。その表現、すごくわかりやすいですね。

石井引っ越しが多かったので、気に入った本がいつの間にかなくなってしまって、同じ本を何回も買いなおしたりね。だから、「本好き」な人の、いわゆる博覧強記とか濫読とかのイメージとは、ちょっとちがうと思います。

―― ほう。

石井「本、たくさん読んでるでしょう」ってよく言われるんですけど、実際、量的にはあんまりないんだと思いますね。「本は好きですか?」と聞かれれば、「好き」としか言いようがないですが、いわゆるたくさん読む「読書家」ではないです。といっても、本を読まない日はないし、部屋のいたるところに本があるのは、そうです。友人の家に遊びに行ってトイレに入ったとき、そこがユニットバスだったら、とりあえずシャンプーの裏とか読むわけですよ(笑)。

―― あはは! それってテキスト中毒じゃないですか!

石井「シャンプーをするときに先に泡だてて」とか、「リンスをする前に水をきれ」って書いてあるとか、シチュエーションが、つまり物語が、あそこにもあるわけですよ。文章がある、言葉があるということ、私にとっては、もうそれしかないですね。ものを見ていても言葉に変換しないと記憶に残らないんです。一緒に歩いてた人に「さっき、すごい大きい黄色いバイクがあったよね」といわれても、それが見えていないときがあるんです。「黄色いバイクだ」って言語化したら記憶するんですけど。いわば、言葉人間なんですね。

読者とこねてつくった文体

―― どういった経緯で「筋トレ」をはじめられたのですか?

石井大学出たあと、IT系の会社でウェブのプログラミングの仕事をしていたんですが、身体をこわしてしまって、1年ほどで退社して、時間ができたんです。そのときに、「ホームページをつくろう!」と思いたちました。で、人が来るウェブサイトってなんだ? と考えると、まあ、エロか占いだろうと。でも、エロはちょっとね、自分にスペック的なものが足りないからムリだなと思って(笑)、それに、占いならテキストだけで勝負できると思ってはじめた、という経緯です。もともとは、占いがしたかったわけじゃなくて、文章が書きたかったんです。

―― なぜ、「ホームページをつくろう!」と思われたのですか?

石井単純にウェブサイトをつくってみたかったっていうことと、書いて読ませたいっていう発信欲求がありました。占いって反応があるんですよ。「あなたは・・・」って二人称で書くので、読み手はやっぱり「私は・・・」って言いたくなるんですよね。だから、反応があると来週も書かなきゃなと思って、仕事でもないのに気がついたら10年も続いちゃいました。

―― いつごろから、定期的に書かれるようになったのですか?

石井「週報」は初期からなので7、8年はやっているはずです。

―― 独特な文体ですよね。

石井本は読者との距離がありますけど、ウェブはそれがないので文体も相当ちがいますね。完全には3人称にならないんです。1人称にもなりきっていなくて、1.5人称とか2.5人称とかそういう変な立ち位置になってくる。

あと、占いは、「切る・別れる・終わる」とか、まるで結婚式の忌み言葉みたいなNGワードが非常に多いんですね。文脈としてはそうじゃなくても、「一つの流れの終わり」みたいな表現が出てくるだけで、恋する乙女は「彼と別れるんじゃないか」って想像してしまう。文章全体の意味よりも、単語に反応してしまうことがあるわけです。強い不安や悲しみを感じている人がそうなってしまうのは、私もその気持ちはよくわかります。だから、使いたい言葉がどうも使えない場面がある、っていう制約が、つらいときもありますね。

まあ、そんなこと気にしない占い師さんもたくさんいるようですが。「人生には別れもあるのよ! 受け入れなきゃダメ!」みたいなね(笑)。でも私はそれはしたくない。そんなこと言われても元気なんかでないです。元気が出ない占いなんか読むだけムダだと思うんです。まあ、いつもそういうものが書けているという自信があるわけじゃないですが、少なくとも目指しているのは、「読んで元気が出る」っていう、そこなので。

―― 読者が少しでも不安に感じたら書き直すって書かれていますものね。

石井読んでがっかりするものはよくないなーって思うんですよね。医者の使命はそれより悪くしないことだってありますけど、それと一緒で占いも今よりいやな気分にするのはどうだろうって。でも、そうなっちゃうときも、あります。力不足だなと思いますね、そういうときは。

―― 漠然とした不安を抱えて読む人もいるでしょうしね。

石井小説や歌なんかのフィクションの世界だと、むしろネガティブなことや悲しいことの方を、人の心は求めていたりするんですよね。悲しい歌とか、泣ける映画とかを、多くの人が好みます。占いは、そこが非常にちがうジャンルですね。

―― 今の石井さんの文体が完成したのって、初期の段階からですか?

石井読者の反応をみて、やりとりをするなかで次第に今の文体になっていきました。私の文体というよりは、私と読者のあいだ、その中間のあたりで、みんなで手を出してこねあげていったという感じですね。やっぱり、私個人の表現というものとは、ちょっとちがうと思いますね。

―― 石井さんの独自の表現は、占い以外の本ということになるのでしょうか。

石井そうですね。いちばん自由に書いているのは「石井NP日記」っていうブログですね。占いじゃない本もいくつか出していて、今やっている仕事の比率は占い9割で占い以外が1割くらいだと思うんですが、いずれはその比率を逆転したいなと思っているんです。

「よく知らないけど、やります!」

第33回本屋さんと私 石井ゆかりさん

『禅語』(ピエブックス)

―― 『禅語』、発売してすぐに重版ってすごいですね。

石井1カ月ちょっとで重版して、びっくりしました。でも1刷のテキストに納得がいかなくて、2刷を改訂版なみに直しました。

―― 禅語についての本のオファーがきたとき、「よく知らないけど、やります!」って答えたというのを読んで、石井さん、チャレンジャーだなって思いました。

石井星占いの仕事じゃない、っていうそれだけで、飛びつきましたね(笑)。

―― そういうものは積極的にやっていきたいと。

石井はい。星占いじゃないって聞いた瞬間に「やります!」って。禅語ってなにかも知らなくて(笑)。

―― 難しい言葉を解釈されていて、相当大変だったんじゃないですか?

石井大変でしたね。漢文の素養自体がまず、高校生レベルですし。一応、参考書をいろいろ読んだんですけど、お坊さんの解釈が腑に落ちなかったりして。

―― 今の時代を生きている私たちの現実の生活と照らし合わせるとちがってくるものもあるでしょうね。

石井禅語の多くは、言葉自体が綺麗なので、なんとなくわかったような気がしちゃうんです。「青い山」とか「澄みきった風」とか「明月」とかが情景として出てくると、それをイメージしただけで清々しくなって、もうそれ以上つっこんで考えようという気がしなくなる。清らかな風景、ああ、煩悩や執着を捨ててそんな境地になれたらなあ、なんてね。でも、本当はそうじゃないんじゃないか、と思って。

―― 全体をとおしてシビアに書かれているなという印象をうけました。

石井そうですね。私のテキストって、じつはみんな、どこか怒ってるところがあるんですね。みんなこういうふうに言ったり、これで満足しているけど、そうじゃないでしょう、って、怒っている。「週報」でも本でも、すべてそうなんです。といっても、読み手に対しての怒りではないので、怒りをそのままぶつける表現になるわけはないんですが、どこかで何か理不尽なものに対して怒っているので、なんというか、パンチが強いんだと思います。

―― でも、石井さんが怒っているって気づいている人、少ないでしょうね。

石井たぶんそうだと思います。ただ、私が言いたいことを見事にストレートに理解して受け止めてくれる方がすごくたくさんいて、それは、びっくりするほどすごいなーって思いますね。感動するというか、ありがたいなあと思います。ときどき、私が読者にカウンセリング受けてるみたいだなあと思うこともあります(笑)。私は読者には、ほんとうに、恵まれてると思います。

今日の乙女座はテプラ!?

――「週報」とツイッターとで書き方を変えられていると思うのですが、ツイッターのほうがより感覚に訴えかけるような書き方をされていますよね。

石井そうですね。もっと脱線したいんですけど。

―― どんどん脱線したほうが、読み手も楽しいかもしれないですね。

石井今、私は8千人くらいにフォローしてもらってるんですけど、その何分の1かは「今この瞬間」を見ているわけですよね。今この瞬間見られながら書くっていうのは、これは、緊張感がありますね。

―― 「今日、何分かかった。」って書かれていますけど、いつも一気に書かれるのですか?

石井そうですね。途中でトイレに行きたくなると、ムカッときますね(笑)。あれはあまり長くかかりすぎると自分が辞めちゃうだろうなと思ったんですよ。一日10分ならやれるけど、30分、一時間かかったら、ちょっとつらいなと思って。だから戒めの意味で自分のために書いているんです。

―― たまに、今日の占いを漢字一文字で表したり、文具に譬えるとかありますよね。「そうか、今日の乙女座はテプラか。あれがテプラかも・・・・・・」って、そこから想像するのがおもしろいですよ。今日はこの書き方でいこうというのも書く瞬間に考えるんですか?

石井そうですね。その瞬間に考えて決めます。恋愛が、仕事が、お金が、って書いちゃうとそれにあてはまらない人が出てきちゃうんですよ。主婦だったら仕事運書いてあっても読まないですよね。そういうのが、いやなんです。恋愛運で「今日は彼と・・・」って書いたら、男性が読んだら困るし、「異性と・・・」って書いたら、ゲイの人が困るじゃないですか。

―― たしかに!

石井っていうと「愛に溢れるでしょう」と書かないとだめなんですよ。子どもがいる人だったら子どもとの愛情でしょうし、というようにちゃんと誰でも読めるようにしないといけない。じつは星占いの体系ってそうできているんです。「引き受けること」とか「自分の責務だと思うこと」というジャンルを「仕事運」って単純に読み替えてしまうと、じゃあボランティアは? とか、いろんな矛盾がでてくるんですよね。

そうじゃない書き方ができるはずで、それをするために比喩や抽象的な言葉を使ったりしているんです。どっちかっていうと、ぼかしたいからではなく、逆に、あやふやなことを言いたくないから、ああいう書き方にしているんです。

―― なるほど。以前、ツイッターの今日の占いで、イエモンの歌詞を使っていましたよね。あれ、すごくわかりやすいなーと思って。

石井ああ、歌詞の引用しますね。イエモンとかエレカシとか。

―― それが、わかる人にはすごくわかるなーと思って、この使い方うまいって思ったんです。ちょうど歌詞って短くてツイッターむきですし、わかる人にはダイレクトに伝わるなーと思いました。狭い共通言語に向けてボールを投げるというのが、おもしろいと思いました。

石井そういうところは、わかる人がわかればいいやって思って出しちゃっていますね。ワガママなんですが。

サイエンス系の本にヒントあり

―― ご自分の本が出たときに、本屋さんに行ってチェックしますか?

石井チェックしますね。積んであれば喜ぶし、なければ悲しむし。『禅語』はいちばんつらかったですね。近所の本屋さんに行ったら、仏教の棚にあったんです! こんな、お店のうんと奥の宗教の棚に、いったい、1日何人くらい来るんだろう? って(笑)。

―― うーん。つい仏教の棚に置いてしまった本屋さんの気持ちもわからなくもないけれど、ベストの棚ではないですよね。『禅語』、どこの棚に置かれていたらうれしいですか?

第33回本屋さんと私 石井ゆかりさん

『星なしで、ラブレターを。』(幻冬舎コミックス)

石井写真がきれいな本ですし、写真集の棚に置いていただけたらうれしいですね。占い以外の本も占いの棚に行くことが多くて、エッセイ集の『星なしで、ラブレターを。』を出したときも、そうでしたね。

―― 本屋さんの占いの棚を見て、どう思われます?

石井うーん。「がんばってこの棚を抜け出すぞー!」みたいな感じですね(笑)。

―― (笑)。占いの他のジャンルの本をチェックしたりしますか?

石井仕事で必要な資料は読みますけど、占いの本に興味をもっていくというのはないですね。本屋さんだったら、文庫の棚に行くことが多いですね。あと、サイエンス系、文系のために書かれた理系の本とか好きですね。ブルーバックスも小さな頃から好きですし。

―― サイエンス系の本のどういったところが、おもしろいですか?

第33回本屋さんと私 石井ゆかりさん

『ヒュウガ・ウイルス』(村上龍、幻冬舎文庫)

石井サイエンス系の本は、文章を書くうえでヒントが多いです。文章を仕組みで考えられるので、そうすると言葉に説得力が出てくる気がするんです。ある線がしっかりストレートにとおってないと、そこに修飾語をつけたときに重みで崩れちゃって、読み手がスムーズに読めない。道筋をまずつくってからお店を置くみたいな書き方がいいと私は思っていて、そういうことの手助けになりますね。

あと、比喩そのものとしてもサイエンス系のものって使えるんです。多田富雄さんの本とか面白かったなあ、免疫システムの話っておもしろくて、思いもよらない動きを細胞がするんですよ。すごく物語性があるなあって思うんです。たしか、村上龍さんの『ヒュウガ・ウイルス』って免疫系を題材にしていたと記憶してますが、気持ちがすごくわかりました、多田さんの『免疫の意味論』を読んで。

第33回本屋さんと私 石井ゆかりさん

『免疫の意味論』(多田富雄、青土社)

―― なるほどなー。

石井タイトルもサイエンス系は、かっこいいものが多いんですよ。『皇帝の新しい心』とか、たまらなくカッコイイのがある(笑)。以前は、文芸の棚を見ていると、すごくペンと紙がほしくなったんです。自分も書きたくなってくるというか、心に書き言葉がうわーって湧いてくるので、それを書き留めたいって思った。

吉本隆明さんが「自分はいつも、頭の中が書き言葉でできてる、書き言葉で考えてる」って言ってたんですが、本屋さんの棚を眺めてるときはその感じが何となくわかった、頭の中に書き言葉が流れたんですね。中学生、高校生のときに、本屋さんの棚に行くとそういう体験をずっとしていたんです。

第33回本屋さんと私 石井ゆかりさん

『皇帝の新しい心』(ロジャー・ペンローズ著、林一訳、みすず書房)

―― 最近ではどうですか?

石井最近は、本屋さんの棚を見ていても、そういう気持ちにならないんです。帯が扇情的だからなのか、わからないんですけど、タイトル見ていても、ドキドキ!っていうのがないんですよ。でもまあ、中学生、高校生の頃は自分の精神が若くて純粋だったから、本屋の棚だけでワクワクできたのかな、と思っていたわけです。でも、それはどうも、ちがったんです。

というのも、青春18きっぷでふらっと何の目的もなく新潟に行ったときに、北光社さんという書店さんのショーウインドウに飾られた本を見て、突然、あの感じを思い出したんです。「とりあえず、こぼれないうちに書かなきゃ!」みたいな感じになって、「うわ、まだこういう気持ちになるじゃん!」と思って、うれしかったですね。北光社さんは、心に残った本屋さんですね。

―― この前、ミシマガジンで北光社さんの佐藤店長にインタビューしたんですよ。石井さんの地元にも北光社さんみたいな本屋さんってありましたか?

石井私、生まれは東京なんですけど、中学・高校のときは青森に住んでいたんです。青森で「ナリホン」って呼び名で親しまれている成田本店って本屋さんがあるんです。田舎の女の子が東京に憧れつつも「いつかは絶対東京に行くけど、とりあえず今は街で一番大きな百貨店に行こう」みたいな感じでですね、「聞くところによると弘前には憧れの紀伊国屋書店があるらしい、でも行けるのはひとまず成本だな」っていう心象風景です(笑)。で、成田本店によく行っていました。

―― 成田本店って、けっこう大きい本屋さんなんですか?

石井そうですね。たしか3フロアぐらいある本屋さんで、青森の中心部の新町通りというところにあります。新潟の人に聞くと北光社さんを待ち合わせ場所に使っていたそうなんですが、青森でもやっぱり「成本」で待ち合わせねっていうのはありましたね。そんなわけで、私はいわば、成田本店で育っているわけです。そこで書棚を見るというのが、本の原風景みたいなものですね。

私小説「ロードムービー」

―― 感情を動かす本屋さんと動かさない本屋さんとでは、なにがちがうんですかね?

石井わからないですね。ただ、自分で本をつくるようになって思ったのが、やっぱり売るっていうことを考えるとつくる側はつらくなるっていうことですね。どこがつらいって、うまく言えないんですが、企画が10あっても1個か2個しかとおらないじゃないですか。その1個か2個がいちばんやりたかったことかというと、そうではないんですね。

今、私がすごく本にしたい企画があるんです。「ロードムービー」というシリーズで、ブログで公開していて、おもしろいからまとめて本にしてほしいっていう読者の声もあって、私もそう思っているんですが、この企画、なかなかとおらないんですよ。

なぜかというと、私が一般の方にインタビューして私小説みたいに書いているんですが、企画会議に出すと普通の人のインタビューなんて誰も買ってくれないって言われるんです。エライヒトの成功談なら売れるけど、普通の人の話なんか売れない、って。だろうなって思いますよ。でも、実際、面白いんですよ、どう考えても。書き手が言うのもへんなんですけど(笑)。

―― インタビューをされた方というのは、ご自分から名乗りをあげられたのですか?

石井私がブログで募集したんです。私は占いをしているけど、ホロスコープなんか見たくない! ホロスコープなしで、あなたと話がしてみたい。それを文章にしたいから、誰か話を聞かせてくれませんか、って募集したら、100人ぐらい応募してくださいました。

そのなかでお会いできたのが、15人くらい。お会いする前にはなんのエピソードも知らないんですが、見事にいろんな人がいましたね。壮絶なエピソードもありました。若いときに恋人とドライブしていたら、事故にあって自分だけ生き残っちゃったとか。全盲になってから株式会社を起業された、という方にもお話を聞きました。

―― えーー!

石井あと、ひとりだけ私が自分からインタビューをお願いした人がいて、その方は、私がよく行く居酒屋の60歳ぐらいのおばさんなんです。そのおばさんがすごくかわいい方なんですよ、かわいいって失礼かなと思うんですが、とにかくカワイイとしか言いようがない。

九州から出てこられたんですけど、いまだに九州訛りのイントネーションで。ある日、一人で飲んでて、そうだ、この人に話をききたい! って思いついて、酔っ払った勢いで、「お願いします!」って話を聞いたら、彼女はなんと、おっぱいも、子宮も全摘していて、壮絶な闘病を経ていらしたんです。でも外見からは全然わからないんですよ。

―― ガンかなにかで?

石井ガンですね。でも、その一方で、「なんで東京に出てきたんですか?」って聞いたら「若い頃、東京に出てきたんだけど、その頃、グループサウンズが流行っていてね。東京で歩いていたら有名人に会えると思っていたの」って。

―― へー! ほがらかなかんじで、かわいらしいですね。

石井もう、たまらないですね(笑)。

―― ちょっとした有名人の話よりもずっとおもしろそうですね。

石井みんな、必ず、ものすごくおもしろいことを言うんですよ。二時間ぐらいしゃべっていると、さあっと鳥肌がたつようなことをすらっと言うんです。それにびっくりするんですよね。そういうときは、頭から水をかぶったみたいに、呆然として、めちゃくちゃ感動します。

―― それを聞きだせるのは石井さんのお力でしょうね。

石井いや、皆さん私の文章を知っているから、話しやすいってことはあるかもしれませんね。信用しているから話すよって言ってくれているわけで、知り合いみたいな感覚かもしれないですね。

―― なるほど。

石井この企画が本にならないのは、私の技量がないからとか、いろんな理由があるとは思うんですが、このことを通して、どんな本が本として最後に生き残っているんだろうって考えましたね。有名な作家さんの本やタレントさんの本とかは、すぐ本になるけれど、そうじゃないところで本になっていくものというのは、いったいどういうプロセスをたどってきているんだろうとか。

ふだんウェブで発信していることもあって、本として持つことの意味、っていうことを、すごく考えますね。情報だけだったらウェブで簡単にとれますから、なんでウェブじゃなくて敢えて本なのかっていうことについて、つくる側がなにかしら、確たる理由を持っていなければならないと思います。

―― ほんと、そうですよね。

石井「ぱっと見て手に取りたくなるようなタイトルを」とか言われちゃうと、たぶん昔の本のタイトルは、もっとわかりにくかったのかもしれないと思うんです。だから昔の本棚は、私の想像の余地があったのかもしれない。

―― たしかに。

石井タイトルひとつ、装丁ひとつ、背表紙ひとつで、なんとなくちがってきちゃう。「私も歌いたい」ってならないんです。私が小さかったとき、たぶん背表紙が全部コーラスとか音楽みたいに見えていたんでしょうね。だから「私も歌いたい!」ってなったんだと思うんですけど、今は歌みたいじゃなくて、ポスターがべたべた貼ってあるみたいにしか見えないんです。

―― タイトルすら広告みたいなかんじの本もありますよね。

石井ええ、そうですね。「情報」になっちゃって、「うた」じゃなくなっちゃったんです。

―― ビジネス書の業界では、「フォトリーディング」というジャンルがあるんですが、「これなら見出しだけ読めばわかるのでは?」というビジネス書もたくさんあるんですよ。確かにそういう本は15分で一冊読めるかもしれませんけど、「ドストエフスキー、フォトリーディングできるんですか?」って聞きたくなるときがあります(笑)。絶対無理じゃないですか。

第33回本屋さんと私 石井ゆかりさん

『ちいさいモモちゃん』(松谷みよ子、講談社)

石井(笑)。ほんとそうですよね。ドストエフスキー、大好きです。背が割れるまで読むと充実感があるんです。カバーは最初に取っちゃう(笑)。好みじゃない解説がついていたりすると、破っちゃったり。私のドストエフスキーになにするんだ! って(笑)。最初にハードカバーの背表紙を壊したのは児童書の『ちいさいモモちゃん』でした。

何回も何回も読んで、本がくたびれて、しまいにハードカバーの背表紙ががくっとはずれて、あの、縦横に糸が貼られたとこが出てくると、ああ、本当に読んだ! っていう充実感があります。私のもんだ! みたいな(笑)。そういう本が何冊かありますが、それは本当に親友みたいな感覚ですね。たぶん、私はそういう読み方しかできないんです。


次週「星占いはトランプみたいなもの」をお届けします。

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石井ゆかり(いしい・ゆかり)

星占いウェブサイト「筋トレ」主宰。ほぼ毎日「今日の占い」をツイッターでつぶやく。
ブログ「石井NP日記」は、毎年バレンタインデーとエイプリルフールに過剰反応する。
年間・週間の12星座占いを無料で楽しめる「筋トレ」は、のべ2000万アクセスという異例のヒットを記録。雑誌や携帯コンテンツなどで占いを執筆するほか、星占い以外の分野でも著作を発表。第7回Webクリエーション・アウォードにて「Web人賞」受賞。『星なしで、ラブレターを。』『星ダイアリー』(幻冬舎コミックス)、『星占いのしくみ』(共著・平凡社新書)、『禅語』(ピエブックス)、など著書多数。2010年3月よりWAVE出版から12星座シリーズが順次刊行。
第一期配本は『牡羊座』『牡牛座』『双子座』。3月から5月に東京と新潟で「筋トレ」開設10周年記念の写真展「星織 2010」を開催。

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