本屋さんと私

「なんでもない一週間が、特別な一週間に感じられるよ」
友人にそう薦められてチェックしはじめた星占いウェブサイト「筋トレ」。
テキストだけの超シンプルなこのサイトで、週間占い「週報」や年間占い「年報」を無料で読むことができます。

一読するなり、今までの占いの文章となにかがちがうと感じました。
この文章を書く石井ゆかりさんってどんな方なんだろう。
毎日書き続ける、その創作の原動力になる本とのエピソードがきっとあるんじゃないか。

そう思い、実現した今回の「本屋さんと私」。
お話は占いや思い出の本のことだけに留まらず、
出版すること、旅先での仰天エピソード、写真展の企画など多岐にわたりました。
今月は、深遠なる石井ゆかりさんワールドをたっぷりご堪能ください!(聞き手:足立綾子)

前回「石井ゆかりの臆病旅日記」裏話はこちら!

第36回 お金の回収を考えないことで生まれるもの

2010.03.25更新

新潟での一期一会

―― 「星織 2010」についてお話を伺いたいのですが。

石井私の運営サイト「筋トレ」が十周年を迎えたことを記念して企画した、写真展です。東京と新潟で開催するのですが、写真展のタイトルを「星織 2010」とつけたのは、新潟にある「蔵織」というギャラリーとの出会いがあったからなんです。

なぜそこで写真展をしようと思ったかというと、主なる動機は、この写真の人物です。新潟は古くから栄えた港町で、昔はすごくお金が落ちる場所だったんですね。で、そこに一大花街が形成された。その花街に、明治時代、大変有名だった庄内屋シンという芸妓がいたんです。これは、そのシンさんの、13歳の頃のデビューのときの写真ですね。

―― うわー、すごくきれいですね! 13歳にしては色っぽいですね。

石井彼女が住んでいた家の蔵と母屋ごと、ギャラリーにしたのが「蔵織」なんです。彼女はデビューして数年後、ある華族様に身請けされて東京に行くんですが、数年して旦那様が病気になって、新潟に帰ってくるんです。この人が生涯すごした家がここで、補強はしてあるんですけど、ほぼそのまま綺麗に保存されていて、ハデじゃないんですけど細部もすごく丁寧で、瀟洒なかんじなんです。

第36回本屋さんと私石井ゆかりさん

『星なしで、ラブレターを。』(幻冬舎コミックス)

―― そんな方の生活空間を味わえるなんて、是非一度、訪れてみたいですね。今回の写真展は、本のお仕事でご一緒されたカメラマンさんの二人展なんですね。

石井『星なしで、ラブレターを。』の相田諒二さんと『星栞 2006』の山口達己さんの写真展です。相田さんは新潟在住のカメラマンさんで、新潟のさまざまな場所の写真を撮られています。

―― 新潟とは思えない外国の写真みたいですよね。この魚を干している写真、日本的な風景なのに、バックのビニールシートとの色の取り合わせがおもしろいですね。『星栞 2006』の後半は、絵が挿入されているんですね。山口さんは絵も描かれるんですね。

第36回本屋さんと私石井ゆかりさん

『星栞 2006』(幻冬舎コミックス)

石井この絵、雨にうたせているんです。キャンバスに絵の具をおいて、雨にさらして色をぼかすんです。それに手を加えて絵を完成させるそうです。彼の名刺には「雨を待つ男」って書いてあるんです(笑)。

―― (笑)。それは素敵なキャッチコピーですね!

石井ふたりともおもしろいんですけど、私が話すとどうも、噛み合わないことがあるんです(笑)。カメラマンの目っていうのは、色と形と光でとらえているんですが、私は意味や言葉でとらえているんですね。だから、はっとさせられるんです。私が言葉でくくっちゃっているものを、もっと視覚的に因数分解させられるんです。

―― このおふたりとはどういう経緯で出会われたのですか?

第36回本屋さんと私石井ゆかりさん

山口達己さんの絵

石井山口さんとは、mixiで出会いました。山口さんがmixiに写真を載せていたので、それを見ていいなって思って声をかけました。相田さんは、新潟に行ったときに道を歩いていたら、アート系のショップがありまして、ガラス越しにポストカードが売られているのを見つけたんです。

海外の写真みたいで素敵だなと思って、お店の人に聞いてみたら、カメラマンは新潟の人で、おまけに、全部新潟の写真だったんです。この人と仕事を一緒にしたいと思ったらどうすればいいんでしょう、と店主さんに伺ったら、この店に連絡してくれれば間をつなぎますよって言ってくださって。後日、自分の本とお手紙をその方に送って、相田さんにつないでもらったんです。

第36回本屋さんと私石井ゆかりさん

相田諒二さんの写真

―― なにかピンとこられたんですか?

石井単純に相田さんの写真がいいと思いました。音楽を聴くときでも絵を見るときでもそうなんですが、文章が浮かんできたり、書きたくなってくるものが、私にとってはいちばんいいものなんです。そういう意味ではこのふたりは、すごくそうだったんですね。

リアルタイム大河ドラマ進行中

石井 新潟では地元の人がいろんな地図をつくっているんです。新潟には、入るのがためらわれるような本当に細い路地に、喫茶店とか、古い店、新しい店、いろいろなお店があるんです。細い道につい惹かれて入ってしまう人には、おすすめの町ですね。

第36回本屋さんと私石井ゆかりさん

―― (地図を見て)それぞれの路地のつきあたりにお寺があるんですね。

石井このお寺のほとんどはなくなってしまって、跡地にマンションが建てられたりしているそうなんですが、お寺の門前通りが今も路地として残っているようです。昔は町に水路がめぐっていて、それを埋め立てちゃったから、古い町にしては道がやけに広いんです。

―― 新潟っておもしろい町ですね。行ってみたくなりました。

石井新潟に住んでいる人から「六年住んでいるけど、つまらないところだと思っていました。でも見るものを見ていなかったんですね。明日行ってきます!」というメールをいただきました。

―― ふだん車で移動されていたら、いろいろお店があることに気がつかないのかもしれませんね。

石井シャッター街になったことで賃料が下がったために、若い人が借りやすくなったそうです。それでとんがった若い人が、おしゃれなお店をいっぱい立ち上げているんです。由緒ある町が一回廃れちゃって、そこにいろんなものが入り込んでいることがおもしろいですね。

ふつうの町だったら由緒あるものを中心に観光地としてつくろうとするじゃないですか。でも、ここはちょっとそうじゃないんですね。発想がどこか、都会的なんだなと思います。昔のもので全国から人を寄せようというかんじじゃなくて、今、やりたいこと、いちばんかっこいいことをやろうっていうような雰囲気があると思いますね。

―― うわー、ますますおもしろそうですね!

第36回本屋さんと私石井ゆかりさん

『いつか、晴れる日』(ピエブックス)

石井BOOK OF DAYS」というアート系の本を置いている本屋さんがあって、ここのすぐ裏に「蔵織」があるんです。「蔵織」では本を扱わない予定なので、私の本をお店に置いてくれませんかって頼みにいったんですね。

そしたら机に私の著書『いつか、晴れる日』も入ってる「写真詩集シリーズ」が置いてあって、私の本はなかったんですけど「私、このシリーズの本の著者もやってます! けっしてあやしいものではございません!」って(笑)。そしたら「ああ、『いつか、晴れる日』、こないだまでありました、けっこう売れた本です」ってお店の方が言ってくださって。

―― (笑)。石井さんの本が置いてあったら、話がはやいですね。

石井たとえば、大河ドラマの舞台になっている場所って行きたくなるというか、観光客が集まるじゃないですか。ああいう歴史的なものすごいドラマじゃなくても、どこにでも、誰の生活にも、いろんなドラマがあると思うんです。大河ドラマにしたって、行きたいという気持ちになってくるのは、登場人物の「生身の人間」としての感触がかんじられたときですよね。

たんに偉大な人間だったとか、偉業を成し遂げたとかだけでは、「その人がいた場所に行ってみたい」とはならないと思うんです。そうじゃなくて「ああ、あの人はそういう気持ちだったんだ」「あの景色を眺めながらこんな思いで涙したんだ」とか、そんなふうに、人間的に共感できる気がしたとき初めて、その土地が「知らない土地」から「知っている場所」に変わるんじゃないかと。その場所を見て、そこに生きている人の気持ちに少しでも触れられたら、そこに行ってみたいという思いが湧いてくると思うんですね。

で、なら、ここに住んでいる人にはどういう景色が見えているんだろう、と思ったとき、思いついたのが「インタビュー」です。直球ですが(笑)。この、「上古町商店街」にあるお店や、ここに住んでいる方に、私がインタビューをして、その記事をブログに載せてみよう、と思ったわけです。

―― 拝読しましたが、渾身のインタビューですよね。その人の人生の重みのようなものに石井さんがじっくりと向き合われていて、「ロードムービー」にも通底するおもしろさでした。このインタビュー、多くの方に是非読んでいただきたいです。

ところで、写真展のなかで、「図書室コーナー」をつくるそうですが、どんな本を置く予定ですか?

石井とりあえず、私の著作は全部置こうと思ってます。あと、みんながあまり買わないようなものを。惑星の写真や図鑑とか、入手しにくくなった星占いの教科書や、イギリスに行って買い集めてきた星占いの本なんかですね。あとは、うちのそのへんにあるやつです。とはいえ、ものを食べながら本を読むくせがあるので、だいたい本にしょうゆとかついていたりするんです(笑)。なので、比較的そういう被害にあっていないきれいなもので、それでも、一応、「全部読んだ」って言えるものを置こうと思っています。

理系の科学者が書いた本はいくつか置きたいですね。文筆家じゃない、理系の研究者の文章って、きれいなものが多い気がします。手垢のついた言葉をあまり使わないことや、比喩が鋭いことなんかがその理由かもしれません。それになんといっても、論理的な筋立てになってますしね。メタリックなかんじは全然しなくて、むしろ温かみがあるんです。

あと、たとえば、メートル法がどうやってできたか、っていう本があるんですが、ふたりの科学者の壮絶なドラマで、これもおもしろかった。1メートルって地球の長さを基準に決められたってことになってますが、実は「それは間違いだった」っていうオチなんです(笑)。

―― 石井さんの文章が好きな方は、石井さんの創作のバックグラウンドが垣間見れて、興味深いでしょうね。すごく楽しみです!

「知」を生み出す作家として

―― 石井さんって作家さんですけど、編集者もかねている気がしますね。読者さんに喜んでもらおう、盛り上げようといろいろ仕掛けをご自分で企画されていますし。

石井そうですね。企画するのが好きなんでしょうね。書きたいことと企画ってわけられないものじゃないかなと思うんですよね。

―― 石井さんも読者さんも楽しいことを企画されるのが、すごく得意なんだなと思いました。写真展のDMに誕生日と出生時間を書いて会場で石井さんに渡すと、抽選で短観(ホロスコープをぱっと見てかんじたことを書く一言メッセージ)の応募券になるのも素晴らしい企画だなーと思って。

石井もっと仕掛けをつくったんですよ。(とここでDMにおみくじの番号を書き込む石井さん)このDMにおみくじをつけるんです。ウェブに50までおみくじを用意したんです。DMに書かれているURLに行くと、ページが出てくるんですね。そこにリンクが50まであって、DMにある番号をクリックするとおみくじになっているっていう(笑)。

―― すごいなー(笑)。一枚一枚手書きで書かれるんですね。DM一枚にも石井さんの真心がこもっていますね。

石井こういういたずらみたいなのが大好きなんです。直接お金になるわけじゃないですけどね。ぜんぜんもうかるわけじゃない。無駄と言えば無駄です。「役に立つか立たないか」と言われたら「そんな役に立たないことをしてどうする」ですよね、多分。そういうふうに言われることもよくあります。

第36回本屋さんと私石井ゆかりさん

『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(クリス・アンダーソン著、小林弘人監修、高橋則明翻訳、NHK出版)

最近、ロングテールを提唱したクリス・アンダーソンが『フリー』って本を出して売れていますよね。ネットで内容を公開して本が売れるかっていう。うちも若干そういうところがやり方としてはあります。ほとんどのコンテンツを無料で出して、わずかな有料のところで生きるっていう。でもそれは、「もっといいコンテンツがあってこれは有料です」という意味じゃなくて、どっちかといえば「いつも無料で出せるようにするために、ここだけ、カンパよろしく!」みたいなかんじなんです。私に活動資金をください、と。決して「対価」みたいな位置づけではないんです。

今回の写真展をやったあと、どういう展開になるか私もわからないんですが、たぶんやったらなにかがあると思うんです。それはまだ見えてないんですけど。「筋トレ」の週報と年報も無料でやり続けていて、そこからなにが出てくるかはその時点ではわかっていなかったんですが、そうやっていたら、雑誌から執筆依頼をいただいたり、本を出させていただけるようになったりしてきました。それは戦略でもなんでもなかったんです、むしろ、「あとで回収しよう」とかさえ思わずに、思いっきり無料でやってきたからこそ、叶ったことなのかなと思います。

―― なかなかそこまで思いきりよく、損得勘定ぬきに考えられないと思うのですが、なぜ、そう思ったのですか?

石井「知財」ができたのは産業革命ののちであって、それ以前は、貴族とか、収奪している側で裕福な人たちが「知」を生み出して、みんな使っていいよってオープンにしていたわけですよね。

こうやって著作権のような権利を主張しはじめたのは「産業」と「知」が結びついたからであって、もともと「知」を扱う作家やクリエイターは、このものにお金がつくなんて、決めようもないんじゃないかと思うんですね。ただ、創作者は、生きていかなければいけない。というか、創作を受け取る側は、もっと歌ってほしければ、歌い手を生かしておかなければならないわけです。

もっとつくりだしたい、つくりだしてほしいのならば、つくりだす人間が生きていく費用が必要で、勉強したり旅したりする費用が必要で、だとすれば、なんらかのかたちで、お客さんやユーザが助けてくれるはずなんです。ならば、そのやりとりの仕組みを、なんとかつくらなきゃいけない。その仕組みがどうあるべきなのか、今は、私にはよくわかっていない。今は本を出すのがいちばん納得できるやり方ではあるんですが、なにか他にも方法がないのかなって常に考えますね。

―― 電子出版がこれから盛り上がりそうですけど、石井さんのコンテンツってそういうものと相性がいいような気がしますね。

石井そうですね。書いても書いても時間のなかに流れ去ってしまう「占い」の文章は、デジタルと相性がいいのかもしれません。まあ、占いって「魔術」の世界のものだから、おみくじみたいに、どうしても紙じゃなくちゃ人間の心にとって意味がない、というものもあるとは思います。五感はどうしても残ると思うんです。「五感」と「知」って、思ったよりずっとつながっている気がします。そこは日本はもっと主張していけるんじゃないかなあと思ったりします、個人的に。

これは単なる想像というか妄想に近いんですが、仮名と、カタカナと、漢字と、っていう三つの文字を、図形や音を通して駆使しなければならない言語の構造が、日本の「ものづくり」の力の、根本にあるような気がするんです。音や図形を解する力は、五感の力ですもんね。海外に行って、日本のメーカーの大きな看板ががんがん並んでいるのを見ると、どうもそうなんじゃないかなって思ってしまう。文字がたくさんあって、識字率も昔からとてもよくて、それで、文字の側からも思考が特殊な刺激を受け続けてきたんじゃないかなと。

第36回本屋さんと私石井ゆかりさん

『禅語』(ピエブックス)

それに、私はなんといっても、本が好きだから、本は残ってほしいなあ、とは思うんです。でも、じゃあ、ユーザ側から見て、本ってなんだろうって思ったときに、ここは難しいですね。『禅語』のような、写真もきれいで装丁も凝っている本は、宝物のように持っていたいじゃないですか。でもそうじゃなくて、テキストだけの本だったらどうなのか、キンドルとどう違うのかって言われたら、そこでもなにか言えるものがつくりたいですね。どういうかたちなのかはわからないけど、いつかはやってみたいです。

―― 素晴らしいですね。石井さんのテキストやコンテンツに対する気概をかんじます。

石井本屋さんが、本の背表紙を見ていてわくわくするようなところに戻ればいいなって思いますね。今、本屋さんをべたべたにしているものが全部キンドルに行っちゃったら、ほんとに本屋さんに並べなきゃいけないものだけが並ぶかもしれないのに、とかって思いますね(笑)。

―― それが理想ですよね。本をつくるときに、「もの」を意識してつくるっていうことに意味があると思うんですよね。

石井そうだと思います。

―― 本で読むからこそ、ありがたみのあるものってあるじゃないですか。たとえば、聖書をキンドルで読んでも、あまりありがたみがないですよね。電子でも本でも全然オッケーというものと、どっちでもよくないものがあって、どっちでもよくないものを出していくものに本がなっていくと思うんですよね。石井さんのお話、とってもおもしろかったです! 今日はありがとうございました!


【「星織2010」情報】
『星なしで、ラブレターを。』の相田諒二さんと『星栞 2006』の山口達己さんの写真展示を中心に、「12星座下半期占い」の無料配布、トークイベント、「図書室コーナー」など、石井ゆかりさんのテキストもみっちりコラボレーション。詳しくはこちらをご覧ください。

■東京会場
2010年3月30日(火)~4月4日(日)
GALLAERY LE DECO 2F

■新潟会場
2010年4月24日(木)~5月4日(火)
Craole「蔵織」

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

石井ゆかり(いしい・ゆかり)

星占いウェブサイト「筋トレ」主宰。ほぼ毎日「今日の占い」をツイッターでつぶやく。
ブログ「石井NP日記」は、毎年バレンタインデーとエイプリルフールに過剰反応する。
年間・週間の12星座占いを無料で楽しめる「筋トレ」は、のべ2000万アクセスという異例のヒットを記録。雑誌や携帯コンテンツなどで占いを執筆するほか、星占い以外の分野でも著作を発表。第7回Webクリエーション・アウォードにて「Web人賞」受賞。『星なしで、ラブレターを。』『星ダイアリー』(幻冬舎コミックス)、『星占いのしくみ』(共著・平凡社新書)、『禅語』(ピエブックス)、など著書多数。2010年3月よりWAVE出版から12星座シリーズが順次刊行。
第一期配本は『牡羊座』『牡牛座』『双子座』。3月から5月に東京と新潟で「筋トレ」開設10周年記念の写真展「星織 2010」を開催。

バックナンバー