本屋さんと私

2010年9月の「本屋さんと私」のゲストは芝崎みゆきさん。

著作は
『古代エジプトうんちく図鑑』(バジリコ)
『古代ギリシアがんちく図鑑』(バジリコ)
『古代マヤ・アステカ不可思議大全』(草思社)
『マヤ・アステカ遺跡へっぴり紀行』(草思社)
の4冊。

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左から、『古代エジプトうんちく図鑑』(バジリコ)、『古代ギリシアがんちく図鑑』(バジリコ)、『古代マヤ・アステカ不可思議大全』(草思社)、『マヤ・アステカ遺跡へっぴり紀行』(草思社)

いずれも300ページ前後の大作ですが、4冊すべてがイラストも含めてなんと全編手書き!
ページを繰るたびに、古代文明への深い愛情と、手書きならではの凄まじいエネルギーが伝わってきます。

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『マヤ・アステカ遺跡へっぴり紀行』18-19ページ

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『マヤ・アステカ遺跡へっぴり紀行』24-25ページ
メキシコで見つけた、現代日本人の目にはありえなさすぎる遺物たち。古代マヤ・アステカ人の自由すぎる発想力と、これを全て手書きした芝崎さんの古代愛に脱帽です。

「そうだ、コンピュータがなかった時代、人類はみな自分の手で絵を描き、文字を綴っていたんだ!」
芝崎さんの本は、そんな単純なことを思い出させてくれました。

それにしても、
なぜ手で書いてみようと思ったのか?
なぜ古代文明なのか?
こんなにエネルギーが充ち満ちた本を書き上げた芝崎さんってどんな人なんだろう?
芝崎さんの本屋さんとの付き合い方は?

そんなことが気になって、いろいろと伺ってきました。

(聞き手:大越裕・萱原正嗣、文:萱原正嗣)

第47回 すべてはノストラダムスから始まりました(芝崎みゆきさん編)

2010.09.16更新

古代遺跡を知らない人は人生何割か損しています

―― 今日はよろしくお願いします。本を読ませていただきましたが、手書きのパワーに圧倒されました。そもそも、最初に本を書こうと思われたのは、どういうきっかけだったのでしょうか?

芝崎一冊目でエジプトの本を出したんですが(2004年)、エジプトに旅行したときに、あまりの彼らの激しさやテキトーさに驚いて、そのありえなさを愚痴りたいと思ったのがきっかけです。バクシーシ(*)攻撃とかホントに半端じゃなくて・・・。

 * もともとは、富めるものが貧しき者に分け与えるというエジプトでの助け合いの習慣だが、ガイドやツーリストポリスが、ことあるごとに金銭をせびるようになっているのが実態。

周りの友達にはそういう話をしていたんですが、何度も話していたら、そのうち飽きて聞いてくれなくなっちゃいました。それで、本にすれば友達も読んでくれるだろうし、もっと多くの人にこの話を伝えられると思って。

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―― もともとエジプトがお好きだったんでしょうか?

芝崎全然そんなことないんです。もともとは、古代遺跡は好きでもなんでもなくて、もっと俗世間にまみれたもの、例えばハリウッド映画や、マンガや芸能ゴシップといった手近なエンターテインメントにうつつを抜かす女でした(笑)。

―― それがどうしてエジプトに?

芝崎エジプトの前にトルコのトロイ遺跡に行ったのがそもそもの始まりです。
トロイ遺跡には、シュリーマン(*)の本を読んでから行きました。

 * シュリーマン(1822-1890):伝説の都市トロイを発掘したドイツの考古学者。ギリシア神話を題材にした長編叙事詩『イリアス』を研究し、トロイを発掘したとされている。『イリアス』は、紀元前8世紀の吟遊詩人・ホメロスが作成したと伝えられている。

本には、彼がトロイの遺跡を見つけた経緯が書いてあります。
「『イリアス』には、トロイは風がびゅんびゅん吹いているところだという記述がある。そしてここはとても強い風が吹いている。だから私はここがトロイだと思った」みたいなくだりです。それで掘ってみたら実際にトロイだったと。それについてはいろいろな見解がありますが・・・。

私がトロイに行ったときも、風がすごく吹き荒れていました。「シュリーマンの本と同じだ!」と思って、その風になんとも言えないロマンを覚えたんです。その風が古代を運んできているように思えました。ホメロスが書いたものをシュリーマンが読んで、そのシュリーマンが書いたものを私が読んでいるから、孫引きもいいところなんですが、とにかく「そうなのかぁ」とひたすら感動して。

トロイ自体は土台が残っているだけの、見栄えのパッとしない遺跡なんですが、トルコの中で一番面白かったんです。単なる石ころにしか見えないものでも、その時代を生きた人々のことや、それを発見した人の思い、その場所に流れる歴史について知ると、すごく面白く見えるんだなって。そういう感動をトロイで知ったんです。大袈裟に言うと、ヘレン・ケラーが「ウォーター」という言葉を初めて理解したときのような感動がありました。新しい世界が見えた感動です。

って、例えが大袈裟すぎましたが、それで遺跡の味を占めました。トルコ旅行中も一日中あちこち見て回って、ちょっとしたことに「これは◯◯の跡だ!」っていちいち感動して(笑)。それが、古代遺跡が面白いと思うようになったきっかけです。

―― 古代遺跡の面白さにはまって、エジプトにも行かれたということなんですね。

芝崎そうです。エジプトは、ピラミッドとかスフィンクスとか見た目のインパクトが強いので、歴史のことを知らなくても楽しめるとは思うんですが、歴史を知ればもっと面白くなるはずです。

私は高校生の頃、『E.T.』という映画にはまりました。あまりに好きで18回も観に行ったんですが、その面白さを友達にも伝えたくて、映画代をおごってまで友達を連れて行ったことが何回もあります。紹介大好きなんですね。自分が面白いと思ったものは、誰かに教えないと気が済まないといいますか。マンガでも何でも面白いものは人に貸しまくったりプレゼントしたり、とにかく紹介が大好きなので、こんなに面白いもの(遺跡)は絶対に紹介しなくちゃ駄目だと思って。

それで、エジプトの人々の激しさと、遺跡の面白さをわかってほしいと思って本を書きましたが、友達は、本を買ってはくれたものの誰も読んでくれなくて・・・(哀)。

―― (笑)面白さをひとりでも多くの人に知ってほしいというお気持ちはすごくよくわかります。ライターや編集者の仕事ってその気持ちが根底にありますよね。

芝崎とにかくこれは知らないと勿体ない。これを知らない人は人生の何割か損しているよ、と思っちゃいますね。って、強気発言ですいません(笑)。

全てはノストラダムスがきっかけでした

―― 最初にトロイ遺跡に行かれたのはいつごろですか?

芝崎ノストラダムスの予言の前ですね。ありえないとは思いましたが、(1999年に)万が一人類が滅亡したら困るなと思って。万が一ということもあるので、その前にいろいろなものを見ておこうと。トルコに行って、エジプトに行って、インドに行って・・・。

そうしているうちに、価値観が少しずつ変わってきました。まずは、お金の価値観が大きく変わりました。10円20円をすごく大事にするようになりましたね。それから、それまでは野心をすごく抱えていて、人生成功しなきゃ駄目だと思っていたんですけど、「生きているだけでいいや」って思えてきて。インドに行って暑くて疲れて帰ってきて、「自分の野心とかどうでもいいや」って。それで、「本を書くのは楽そうでいいなぁ」と、楽な道を選んだ感じです(笑)。

―― 手書きが楽には見えないんですが・・・(笑)

芝崎やってみたら大変でしたが、その当時は楽に見えたんです(笑)。

―― どういう理由で、手書きにしようと思われたんでしょうか?

芝崎完全に妹尾河童さんのパクリです。似ても似つかないんですけど・・・(笑)。ヨーロッパやインド、トイレについての妹尾さんの手書き本を初めて見たとき、すごいインパクトがあって、言葉が心に入ってくる感じがしたんですね。

エジプト本を書こうと思いはしましたが、自分は学校でちゃんと学んだわけでもない。手書きにすれば、普段馴染みがない人には取っ付きにくい神話や歴史の話も、受け取ってもらいやすくなるんじゃないか、というのがひとつです。

あとは、妹尾さんの本を見て、なんとなく自分でもできそうな気がしたのと、手書きなら、大したことを書いていなくても、すごい内容があるように見せかけられるような気がしたのが理由です(笑)。
やってみたらもう大変でしたね。あれは妹尾さんがすごいんだということに後で気づきました(笑)。

いきなり絵を描いてみました

―― 「自分でもできそう」ということは、もともと絵を描かれていたんですか?

芝崎まったくありません。なので、こんな絵になっちゃいました(笑)。

―― えーっ!? 絵を描いたこともないのにこんな全編手書きにしてみようと思ったんですか?

芝崎根が楽天的なんですかね。何でも「ちょろい」って思えてしまうんです。あまりハードルが見えないというか。それで後から苦労するパターンです。やってみて「実は大変だったんだ」って気づくっていう・・・。

芝崎さん流手書き本のつくり方

―― 絵はどうされているんですか?遺跡の描写がとても細かいですが、現地で写真を撮って、それを後で描き起こす感じでしょうか?

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『マヤ・アステカ不可思議大全』58-59ページ

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『マヤ・アステカ不可思議大全』156-157ページ
マヤ・アステカの遺物や絵文書、壁画の数々。細かい描写と素朴なコメントが実に絶妙な組み合わせです。

芝崎遺跡はそうです。現地でバンバン写真撮って、それを模写して。壁画や絵文書は、元絵があるので、それをトレースしています。そういうのは楽なんですよね、見たままを描けばいいので。マンガっぽい部分の人間の動きが大変なんです、基礎がなっていないので。落書きとしか思えないでしょうが、これでも至難の技なんです(笑)。

―― 文字の並びが綺麗に揃っていますが、これはどうやっているんですか?

芝崎最初に文章をワープロで打ちます。印刷して下に敷くと、ちょっと透けて見えるんですね。同じ印刷したものをもう一枚横に置いて、横も見ながら下も見て書きます。そうすると、字数というか字の間隔はわかるのでそれで揃えています。字も下手くそなんですけど、粒を揃えるだけで少しはマシになるんじゃないかと・・・。

―― 文章は、旅行中メモをとっておいて、それをもとに帰ってきてから書かれる感じですか?

芝崎そうです。現地では日記をとにかくみっちり書きます。一日10ページくらい。あったことを全部記録して、忘れられない印象的なエピソードを、帰ってきてからピックアップして整理します。

―― 1ページ書くのにどれぐらい時間がかかるんですか? 手書きなのですごく時間かかりますよね?

芝崎下書きとペン入れで1ページ6時間ですね。一日18時間書き続けて3ページです。5カ月間、一日18時間ずっと机に座って、一切人とも会わないで、電話もメールもしないで、マヤの2冊はそれで書き上げました(2010年6月に同時刊行)。

―― それは大変ですね・・・。

芝崎でも、ペン入れは一番楽なんです。やったものが全部形になりますから。毎日毎日進んでいく。だから楽なんです。その前の、文章を考えたり、コマを割ったり、推敲したり、その段階は、はっきりとした終わりがないので、精神的に辛いですね。ペン入れに入ったらもう勝ちで、あとはやめなければ終わるので、とにかくひたすら書く感じです。

―― 事前に調べる時間もかかりますよね。

芝崎半年から一年くらいですね。調べる時間、本を読む時間が一番長いです。
勉強し初めは、失読症かって思えるくらい、頭に入ってこないんです。人名・地名、歴史にあまりに馴染みがないので。何度も読み返してようやく理解したつもりでも、後で間違いや取りこぼしがあることに気がついて、立ち戻ってきて検証して。そうやって少しずつわかってくると、ますます勉強が必要なことがわかってきて・・・。自分がちゃんと理解してから書きたいので、時間がかかってしまいますね。
そもそも、学者の先生がやられていることを一年かそこらで理解しようっていうのが失礼な話かもしれませんが。

―― 旅に行く前に、参考文献は全部読んで頭に入れていかれるということなんですよね?

芝崎そうですね。「ああ、これなんだ!」っていう確かめが好きなんです。検証が面白いんですよ。事前の勉強は大変ですが、この面白さのためにやっているところもありますね。

古代遺跡は、時空が歪むSFです

―― 本の中でもその辺りをいろいろと書かれていますよね。前々に読んでいたものを初めて目の当たりにする感動を。

芝崎そうなんです。例えば、ヘロドトス(*)が本に書いた紀元前5世紀のアテネの街並みがいまも残っているのを見たときは感動しましたね。

 * ヘロドトス(紀元前485頃-紀元前420頃):古代ギリシアの歴史家。世界で現存する最古の歴史書『歴史』を著したことで、「歴史の父」と呼ばれる。

アテネのアクロポリスのそでにいろいろな建物があるんですが、それが、ヘロドトスの文章そのままでした。「◯◯から何歩歩くと△△に着く」みたいな(*)。「おぉー! 同じだぁ! 紀元前5世紀とつながったぁ!」って(笑)。

 * 『古代ギリシアがんちく図鑑』324ページ参照

他には、ハワード・カーター(*)が見つけたツタンカーメンの墓につながる階段を見たときも、「カーターがエジプトで発掘に携わってから、この階段を見つけるまで30年以上かかったんだ」って、いちいちそんなことに感動しながら、ドラマ仕立てで勝手にテンション上げて楽しんでいます(笑)。

 * ハワード・カーター(1874-1939):イギリス人のエジプト考古学者。長年の苦難を経て、1922年にツタンカーメン王の墓を発掘する。

―― 遺跡を見ると、そこに何百年、何千年前に生きてきた人を感じるっていうのはありますよね。

芝崎ホントにそうですね。時空が歪むようなSF感がありますね。そういう感覚がたまらなく面白いです。

古代文明を行く、全64巻シリーズ?

―― エジプト本の芝崎さんのプロフィールに、『芝崎みゆき、古代文明を行く全64巻』刊行予定って書いてあるんですが(笑)、今後はどういうところを書かれる予定なんですか?

芝崎あくまで予定なので(笑)。いまのペースで行ったら生きている間に終わりませんし・・・。
次にやりたいと思っているのはインカです。他にも、アンコールワットとヨルダンのペトラは絶対行きたいですね。もちろんイタリアも行きたいんですが、ローマと言うと塩野七生さんという大御所がいて、怒られそうな気がして怖いなぁと思っています。って、相手にされるわけないですよね(笑)。
それに、ローマは戦争が多いんですが、男男した戦争ものがあまり好きじゃないんですね。やんわりした女性的な部分を持つ文明に惹かれます。かといってあんまり女女しているのも苦手なんですが・・・。

―― 戦争が苦手というのは?

芝崎戦争の描写って、画一的で面白みを感じられないんです。平和が好きとかいう理由ではなくて。単純に面白さを感じないんですね。単なるヤンキーとヤンキーのぶつかり合い、男同士の見栄の張り合いにしか見えないというか・・・。それであまり魅力を感じないですね。戦争にはナゾがあまりありませんし。

映画でも戦争ものはどうも興味が持てないんですね。基本的には何かドンパチって・・・。でも男の人は違うんですよね? ワクワクするところがあるんですよね?

―― そうですね。映画でも、古代文明×戦争ものっていろいろあると思うんです。『トロイ』とか『グラディエーター』とか。

芝崎ああいう剣物も苦手ですね。戦いそのものが苦手なんです。

―― でも、マヤとかアステカの文明って、生贄があるし、えぐいというか残虐な一面もあるじゃないですか?

芝崎そういう人間の残酷さみたいのは好きなんです。やる側やられる側の心理はどんなものか? と興味をそそられます。グロテスクなものにもすごく惹かれます。
でも戦争って単純じゃないですか? 国取ったとか取られたとか。それだけのような気がして、面白いと思えないんです。

―― なるほど・・・。世界の文明ということだと、黄河やメソポタミアもありますよね。

芝崎そうですね。その辺りももちろん行ってみたいです。
ただ、いずれは、遺跡だけじゃなくて、旅で出会った面白い人のことや、自分の身の回りのことも書きたいなと思っています。旅のことで真っ先に思い出すのは人のことだったりしますので。人間こそ面白いですよね。

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『マヤ・アステカ遺跡へっぴり紀行』34-35ページ

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『マヤ・アステカ遺跡へっぴり紀行』154-155ページ
マヤ・アステカの旅で出会った「忘れられない」人たち。

―― 確かにそうですね。本の中でも旅のエピソードを書かれていますが、笑いが止まらないくらい信じられない人がいますよね(笑)。

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と、芝崎さんが遭遇した面白い人々に話は移ってきましたが、これについては次回お届けします。
あれ?でもそれだけ面白い人に遭遇するって、芝崎さんご自身がとても面白いんじゃないんでしょうか?
ということで、芝崎さんの人となりにも斬り込んでいきます!
次回も乞うご期待!

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芝崎みゆき(しばさき・みゆき)

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1966年生まれ。
著書は、『古代エジプトうんちく図鑑』『古代ギリシャがんちく図鑑』(ともにバジリコ刊)、『マヤ・アステカ遺跡へっぴり紀行』『古代マヤ・アステカ不可思議大全』(ともに草思社刊)。

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