本屋さんと私

手書きの秘密、遺跡の魅力、旅で出会った面白すぎる人たちの話。
そして、繊細にしてサービス過剰気味な芝崎さんご自身の話。

前々回前回は、こんな話をお届けしてきました。

さて、思い起こせば、このコーナーのタイトルは「本屋さんと私」。
あまりに面白すぎる話の連続に、聞き手のふたりも思わず忘れかけていましたが、芝崎さんと本屋さんの関わりに話を移していきたいと思います。

「古代遺跡を理解してから旅に出る」スタイルをとる芝崎さん。エジプト本、ギリシア本、マヤ・アステカ本の二部作には、いずれも膨大な参考文献が挙げられています。
これだけの本を、一体どうやって探しているのでしょうか?
参考文献の探し方から、若かりし頃の読書体験、書店体験から涙と笑いの書店営業エピソードまで、今回も盛りだくさんでお届けします。

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左から、『古代エジプトうんちく図鑑』、『古代ギリシアがんちく図鑑』(ともにバジリコ)、『古代マヤ・アステカ不可思議大全』、『マヤ・アステカ遺跡へっぴり紀行』(ともに草思社)

(聞き手:大越裕・萱原正嗣、文:萱原正嗣)

第49回 立ち読み大好き、涙と笑いの書店営業、芝崎さんが本屋さんになったら

2010.09.29更新

「毎回図書館で借りて楽しく読んでます」(涙)

―― これまでとはガラッと話題を変えまして、と言いますか、今回のテーマが「本屋さんと私」ということなので、そろそろその辺のお話を伺っていきたいと思います。

芝崎あぁっ、すいません。そうですよね、「本屋さん」と全然関係ない話ばっかりしていましたね。喋り過ぎですいません(笑)。自分話ができると思うと嬉しくて、ついつい脱線して・・・。

―― いえいえいえ、ホントに面白いお話をありがとうございます。それで、「本屋さん」との関係なんですが、毎回毎回、膨大な量の参考文献を挙げられていますよね。これだけの本をどこでどうやって探されているんでしょうか?

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『古代ギリシアがんちく図鑑』154-155ページ
これだけの内容を書ききるための膨大な参考文献はどこで手に入れているのでしょうか?

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芝崎まずは図書館です。図書館で本を探して、読んで気に入ったら買うようにしています。ただ、この手の学術系の本は、絶版になっているものが多いので、その場合は仕方なしに図書館で借りるか、古本屋で買うかしています。ホントは絶版の本こそ手元にほしいものがたくさんあるんですが・・・。

最近の本屋さんって、少し前に出た本でもすぐに店頭からなくなっちゃいますよね。売れないと返本になっちゃって・・・。特にこの手の学術書は、書店でお目にかかることは滅多にないので、図書館に頼ることが多くなります。
書き手としては、自分の本を図書館で借りて済まされると悲しいので、ちょっと複雑です。例えば自分の本も、「毎回図書館で借りて楽しく読んでます」って手紙で書いてくる方もいて・・・(笑)。あとは「古本屋で買いました」っていうのもありますね(笑)。気持ちはわかるけど、正直すぎるよって・・・。

―― そこは著者に言う必要ないですよね(笑)。

芝崎ホントに・・・、そこは嘘ついてくれていいのに(笑)。なので、図書館は憎い存在でもありますが、図書館にはホントにいろいろな本があるし、検索もできて探しやすいので、ついつい多用しちゃうのが悔しいところです。おまけに、図書館に行くと知らない本が並んでいることも多くて、幅が広がるのもありがたいですし・・・。気に入った本は、買える場合は買うようにしていますが・・・。

昔は朝から晩まで立ち読みしていました

芝崎私はマンガをよく買うんですが、昔は立ち読みできたのに今はビニールで覆われるようになって、買う量が段違いに減りました。買う前に中身を確認できなくなってしまったので。
その影響もあって、最近は新古書店にもよく行きます。新古書店は、本を出している者にとっては敵のような存在なので、そこに通うのもどうかと思いますが、私の場合はマンガの立ち読みができるからでして・・・。新古書店で立ち読みして面白い本を探して、普通の書店で買える本は書店で買う。二度手間になるからちょっと面倒なんですが・・・。

―― 立ち読み重要ですよね。中身がわからなければ、なかなか買うに買えませんよね。

芝崎立ち読みは昔から大好きで、小さい頃は、本屋さんに入り浸ってずっと立ち読みしていました。夏休みには、朝10時から夜7時まで、ご飯のときだけ家に帰ってまた本屋さんに戻る。それぐらい立ち読みしていました。

―― 店の主はどんな顔をされていたんですか?

芝崎確か終始ムスーッっとしていました。あのときはそんなに気にしていなかったんですが、今思い出せば相当嫌がっていたんじゃないかと思います。レギュラーメンバーでホントに毎日本屋さんにいましたので。確か小学校2年生か3年生の頃です。図書館の存在も知らなかったので、とにかく本屋さんに入り浸っていました。

でも、立ち読みした本は、結局後からほとんど買いました。全巻セットでまとめて、それもいろいろなマンガを一気に買っていました(笑)。面白いから入り浸って立ち読みしたわけで、そうなると、やっぱり手元にほしくなるんです。なので、いまマンガの立ち読みができなくなってしまったのは、本との出会いを奪っているようで、勿体ないなと思います。

―― 立ち読みしているときはどんな心境でしたか?

芝崎お店への罪悪感みたいなことはまったくありませんでした。まだ幼いですから、「客だから当然」っていう意識があったわけでもありません。本屋さんで本が読めるのはごく当たり前のことだと思っていました。
でも、今にして思えば、お店にとってもいいお客さんだったんじゃないでしょうか。立ち読みしているまさにそのときは、迷惑な憎たらしい存在かもしれませんが、結局立ち読みしたものはほとんど買いましたし、一日誰もお客さんが来ないような書店だったので、サクラにもなったと思います。
立ち読みされると売り物にならないというのもわかりますが、それが、本との出会いを生む効果も十分大きいんじゃないのかな、と思います。立ち読みの機会はやっぱり与えてほしいですね。

自分の本以外の注文を頼まれたことも・・・。~涙と笑いの書店営業~

―― 書店営業をされたと伺いましたが・・・。

芝崎そうなんです。エジプト本は全国を回りました。最近は著者営業多いですよね。

―― そうですね。やるとやらないとでは全然違いますよね。

芝崎うーん、どうでしょう。私の場合は焼け石に水だったような気がしますが・・・。

―― 書店員さんにとっては、著者の方が来られると「来てくれたんだから頑張って売ろう」っていう気持ちになるらしいですよ。

芝崎それは多分、名のある作家さんの場合だと思います。自分レベルだと、なかなか・・・(涙)。
営業に行くと、まずは近くの書店員さんを捕まえて「本を書いた者で挨拶に来ました」って言いますよね。そうすると、その人が「◯◯さーん」って別の人を呼ぶんです。多分店長さんとか売り場の責任者とかそういう方なんでしょう。で、その◯◯さんが、一生懸命身支度整えながら名刺も手に持って来るんですよ。それも、すごく嬉しそうに。それで、「この本を書いた者です」って自己紹介すると、その◯◯さんが「はぁ~~~」ってため息ついて、見た目にもはっきり失望するんです。しかも、手に持っていた名刺までしまわれちゃって、「え? くれないの?」って・・・(惨)。

何度かそういう反応を見てしまったので、書店員さんに失望を味わわせるのが申し訳ないなぁと思うようになりました。それで、ある時期から出版社の営業っぽく書店を回るようにしたんです。「△△社の芝崎です」って(笑)。そうしたら今度は、ある書店員さんに「あなた出版社の誰さん? 新しく人が入ったって聞いてないけど?」と問い詰められまして・・・(焦)。そこで嘘はつけないので「ホントはこれを書いた者なんですが、自意識過剰みたいで恥ずかしいので、そこは敢えて言わずにご挨拶させていただいているんです」って答えたら、「あなた社員でもないのに何してるの!」って、ものすごいお説教を食らって・・・。「本人でもダメで他人のフリでもダメだったら、もう私はどうすりゃいいの?」状態ですよ(笑)。

―― 出版社営業っぽく書店を廻っていて、他の本の注文も頼まれちゃったりしませんでしたか?

芝崎頼まれましたね(笑)。ただ、その場合は本当のことをお伝えして、出版社に注文があったことを伝えていました。
自分自身の売り込みは下手ですが、本の営業能力はあったみたいです(笑)。1軒で10冊、20冊と注文を取ることもありました。だいたい一日15~20軒くらいは廻っていたので、結構な数でした。

ちなみに、本の営業能力は、出版社からも「バイトで営業やらないか」って言われたほどでした。冗談なのか本気なのかは判別できませんでしたが・・・。やるって言ったら、なんか足元見られそうですし・・・。今となっては「やっておけばよかった」とも思います。北は北海道から南は九州まで回って、しかも旅費は全部自分持ちだったので、交通費分くらい、稼ぎたかったなぁと・・・(笑)。

―― 確かに・・・(笑)。

芝崎その他にも、切ない目に遭ったことはいろいろあります。例えば、九州のある書店では、東京から来たって伝えたのに、「来週また来たら考える」って言われましたし、別の書店では、イジメてやろうと考えたのか、忙しくもないのに「そこで待たせとけ」って、わざと私に聞こえるような大きな声で言って、見るからにみんな暇そうにしているのに、1時間くらい待たされたこともありました。しかも、結局「要らないよ、こんなの」と言われ・・・。

―― そうでしたか・・・。だとすると書店営業は苦い思い出なんですね。

芝崎惨めな思いもたくさんしましたが、必ずしもそうでもないんです。100軒廻って1軒くらいは、拝み倒したくなるほど素晴らしい書店員さんに巡り会うことができました。義侠心たっぷりというか情に篤いというか、「これだけ頑張っているんだから売ってやろう」っていう感じになって、いっぱい仕入れてくれた人がごくたまにいるんですね。そのときは涙が出るほど嬉しかったですね。全国を廻って、たくさんの書店さんを訪ねたおかげで、そういう方々にもたくさん出会えました。

それに、田舎の町の人たちの優しさは感動ものでした。例えば、北海道から青森に行ったときは、津軽海峡を越えるのにフェリーを使うことになっていました。フェリー乗り場までバスで向かっていましたが、船の最終便に遅れそうになってしまいました。そうしたら、バスの運転手さんが、「いまひとり向かっているから待っててくれ」って、電話をフェリー会社にかけてくれたんです。なんだかんだ、手続きも入れれば15分くらいは遅れたのかなぁ。それでも船が待っていてくれて・・・。「青函連絡船がたったひとりのために遅れるんだ」って驚きでした。そんなこんなで旅路はいい思い出も多いです。

―― それは嬉しいですね。

芝崎いずれは、古代遺跡だけじゃなくて、こういう人情話というか、人間を描いた話を本にしたいと思っています。書店営業や出版社への売り込みで自分自身が惨めな思いをした話とか、その中で出会った心温まる人達の話とか。個性的な書店員さん、出版社の人も多いですし、人間について書きたいですね。古代文明の本をもう何冊か出せたら是非やりたいと思っています。

―― それは楽しみですね。是非ミシマ社から(笑)。

誰かが褒められているのを見るのは耐えられません・・・

芝崎書店営業と言えば、書店員さんってしょっちゅう変わるじゃないですか。なので、何冊やっても、そのたびに一からやり直しで・・・。私の知名度では、書店員さんがこれまで出した本を知っているわけもなく、いちいち「こういう本で・・・」と最初から説明しなければならないし、前の担当者が100冊仕入れてくれたところでも、新しい担当者になったら要らないって言われることもあります。
そういうショックの繰り返しですね。「著者が来てくれた!」って喜んでくれた記憶はないですね。むしろ、「何でそこまでガツガツやるの?」と、冷ややかに見られている感じでした。

―― 書店営業を煙たがる書店員さんもいるみたいですね。書店さんもいろいろと忙しいですから。

芝崎そうなんです。みなさんすごく忙しそうにされているから、30秒とか、下手をしたら5秒で本の紹介をしていました。で、パッと帰るみたいな。
私が会った書店員さんは、とてもクールな方が多かったという印象です。面と向かって話していても、一切感情を出さないんですよ。
私はバイトで、愛嬌、愛想を売りにする世界に長くいたので、もう最初はビックリして・・・。「完全に嫌われた」と思いましたね。

でも、出版社の営業の人が言うには、「書店員さんはこれが普通で、全然悪気もないし、俺たちが行ってもみんなそうだから」って。それを聞いて納得しましたが、だからたまに「こんにちは」って気持よく挨拶されると、「えぇっ!? どうしたの?」って驚いちゃいますね(笑)。もちろん嬉しいんですが(笑)。

あとは、自分が書店営業でがっかりするのは、「メディアに出ますか?」「書評は出ますか?」って聞かれることなんです。「ない」って答えると、「惜しいなぁ、じゃあ無理だなぁ」って・・・。メディアに出ないと本を置いてくれないっていうのは、なんか悲しくなっちゃうんですよね。これだけ本が多い時代、書店員さんも世の中の本をすべて読めるはずもなく、メディアの情報に頼らざるを得ない事情や、売れる本を置きたい書店員さんの気持ちもわかりますし、自分の本にそう思わせる魅力がないのが一番の原因だと思いますが、やっぱり悲しいですね。

かと言って、書店員さんがすごく一生懸命売っている本があるじゃないですか。あれはあれで、ものすごく嫉妬するんです。ものすごいヤキモチ焼きなので、誰かが褒められているのを見るのが耐えられなくて・・・。ひとりの作家や本にPOPがガンガンついているのを見ると、「いいなぁこの作家、贔屓してもらって」って思っちゃいますね。それがたまたま自分の本を隠していたりすると、もう耐えられません。

大勢の人がいる中でひとりだけが褒められると、それ以外の人はけなされたような感じになるっていう心理メカニズムを聞いたことがありますが、ホントにそうだなと思います。例えば、男が長澤まさみのことを褒めれば褒めるほど、女は長澤まさみのことが嫌いになるんです。長澤まさみに罪はないのに。書店のPOPもそれと同じなのかな、と思います。

そういうこともあって、自分が書店員さんにPOPを渡すときに躊躇しちゃうんですよね。「つけてあげるよ」って言ってくれる書店員さんもいるんですけど、「横にいる作家がそれを見たら嫌な気持ちがするだろうなぁ」と思ってしまって・・・。
だから、POPつけるのもちょっと考えものだなと思っています。自分がそういう風に思っちゃうタイプなので、少なくとも自分からはあまり押せないです。挨拶に来た口実としてPOPは見せますし、本は見えるように置いていてほしいですが、他の人に嫌な思いをさせたくないなって・・・。

「本読んでないねん」!? トンデモ読者の仰天発言

―― 読者からの反響で嬉しかったことってありますか?

芝崎温かいお手紙が嬉しいですね。「芝崎さんの本を図書館で借りて読みましたが、手元に置きたくて買いました」っていうお手紙を送ってくださった人がいらっしゃいます。先程図書館の話をしましたが、「無料」に勝ったと思って、このときはホントに嬉しかったです。
でも、変わった読者の方もいるんですよね。読者の方から「会ってほしい」って言われることが割とありまして、その中にごくたまに・・・。

―― 読者と会うんですか?

芝崎はい。本を読んでくれて、お手紙を送ってもらえるのはとても嬉しいですし、「会ってください」って言われると、「こんな私でよかったら是非」っていう感じで。断る理由もありませんし・・・。
けっこうたくさんの人に会いました。ほとんどの方はこちらへの気遣いもしてくださるし、私自身もすごく楽しめて、こちらとしてもありがたいんですが、たまに、「えっ!?」と思うような方がいるんですよね。ホントはそこで毅然とした態度をとらないといけないと思うんですが、ついついいい顔しちゃうんですよね。そこを魅入られてしまって、そういう人にどんどんつけ込まれたりすることもあります。

―― 具体的にはどんな風に?

芝崎かわいいのだと、「本が面白かったので会ってお話聞かせてください」っていうから会ってみたら、ネットワークビジネスにしつこく勧誘されまして・・・。そのときは1,500円のクリームを買って勘弁してもらいました(笑)。

―― えーっ!? 読者に会いに行ったら売りつけられた!?

芝崎それはホントにかわいらしいケースです。一番強烈なのは、関西から東京まで訪ねてきた20代の女子ですね。マヤ・アステカ本の「オレほどおもしろいヤツはいない」男がかわいく思えるほど、私の中では強烈な思い出です。

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『マヤ・アステカ遺跡へっぴり紀行』154-155ページ
このコーナーでも毎回取り上げた「オレほどおもしろいヤツはいない」ですが、この男を上回る20代女子って一体・・・?

―― ヤツを上回るとは相当強烈ですね(笑)。しかも女子・・・。どんな風に始まったんでしょうか?

芝崎最初は、「すごいエジプトが好きな女の子です」っていう感じの手紙でした。結構長い手紙で、エジプト好き、エジプトファンをアピールしていました。ただ、最初の手紙からちょっと怪しい香りはありました。一応3行くらいは本の感想も書いてあったんですが、あとはその20倍くらい自分のことをズラズラと・・・。「やばいかなぁ」とは思いましたが、「どうしても会いたい」とのことだったので。

それに、イスラム圏には、「旅人はもてなせ」っていう考えがありまして、私がエジプトやトルコに行ったときはそれに何度も助けられましたし、せっかく私を訪ねてきてくれる旅人なので、精一杯楽しんでもらおうと思ったんです。
「エジプトの話をいっぱいしましょうね」って手紙に書いてあったので、いろんな質問や話を用意していたんですが、いざ会ってみたら・・・。

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『古代エジプトうんちく図鑑』214-215ページ
女の子とエジプトの話をたくさんするはずが・・・

―― 会ってみたら・・・どうなったんでしょうか?

芝崎まず軽く驚いたのは、会って5分後にはタメ口になっていたことです。「あれっ?」と思いましたが、「これは年の差を感じさせないようにしてくれているんだ」と好意的に解釈してみました(笑)。どこかお店に入って話をしようと思っていましたが、「東京のいろんな古本屋に行きたい」と、地図まで出してきたので、それに付き合いました。東京を東の果てから西の果てまで横断する、あまりに広範囲なラインナップでしたが、「これもおもてなしだ」と自分に言い聞かせ・・・。ちょっとした旅行でした。

移動の合間にエジプトの話でもするのかなと思いきや、「エジプトにはこんな神さまおるんやで、知っとるか?」って、「私の本でも書きましたよ」っていう基本中の基本の事柄を、さも得意気にレクチャーされまして・・・。内心呆気にとられながらも話を合わせていたら、エジプトの話は5分で終わり。その後は延々と自分の話の連続で、しかもとりとめのない話ばかり・・・。もちろん自分話オンリーの人たちの定番で、こちらへの質問はまったくなしです。その辺は、「オレほどおもしろいヤツはいない」男と同じです(笑)。

それでもぐっと堪えて古書店廻りに付き合っていたら、荷物持ちまでさせられるわ、古書店内でちょっと単独行動しようものなら大声で呼びつけられるわ、完全に親戚のおばちゃん扱いですよ。それであまりに耐え兼ねて、こっちから本の話を振ってみたら、「本読んでないねん」って・・・。

―― えぇーっ!?!?!? それは確かに強烈です(笑)。「オレほどおもしろいヤツはいない」男が霞んできました(笑)。

芝崎正確には、「うち本読むの苦手やねん。でも最初の方はしっかり読んでんねんで」っていう感じでしたが・・・。でも取り繕うとしたのか「自分の本、あれやろ、犬がエジプト案内するヤツやろ。犬かわいいよなー。ちゃんとわかってんねんで」なんて余計なことまで言い出しちゃって・・・。案内役は著者キャラなんですが、それを犬と見たんですね。まぁ私の絵が下手だっていうこともありますが(苦笑)、それでも普通は3ページも読めば、それとわかるはずです。他の話も総合して、これは最初の方も読んでくれてないな、本屋でチラ見しただけだ、と思いました。
この子のすごさはまだまだこんなものじゃないんです。向こうは1泊2日で来ていたので、密度濃厚でした。驚きのエピソードはまだまだありますが、長くなりすぎるので今日のところはこの辺で(笑)。

―― 残念です・・・。また是非聞かせてください。

ミシマ社は恐ろしいイケイケ出版社だと思っていました(笑)

―― 衝撃冷めやらない状態ですが、ちょっと話題を変えまして・・・(笑)。芝崎さんの本は、楽しみながら世界史、古代文明を学べるわけで、学校には絶対置いておくべきだと思うんです。学校に営業に行かれたことはないですか?

芝崎学校の営業ってあるんですか? そう言えば、ミシマ社でもどこかの学校に呼ばれてやっていましたよね(*)。あれも、学校営業の一環みたいな感じだったんでしょうか?

 * 仕掛け屋だより第13回 相模原高校×ミシマ社×啓文堂書店相模原店

―― いえいえ。あれはたまたま、熱心な先生がいらっしゃって、うちの会社に生徒さんと一緒に見学にきてくださったのがきっかけだったんですよ。

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芝崎そうでしたか。学校の先生まで虜にしていましたか(笑)。書店営業に行くと、あちこちでミシマ社フェアをやっているのを見かけますが、ファン層広いですよね。
実は、某書店の書店員さんから「あそこ(ミシマ社)は持ち込み一切だめなんだよ」っていう話を聞いて以来「なんかいやな感じの会社だなぁ」と思っていたんです。私自身が持ち込みで出版しましたから。「新人が世に出る芽を摘みとるなんて・・・」と思っていたんです。

その思い込みで、イケイケの編集をやっていた人が、昔の実績や人脈を利用してやってきた会社だとばかり思っていました(笑)。それが実際はすごく朗らかで気持ちのいい人たちばかりでビックリしました。私が初めてお目にかかったときも、その翌日に手書きのお手紙を添えて本を送ってくださって・・・。

―― いやいや、ありがとうございます。持ち込みについては、とてもありがたいんですが、まだ自社企画以外に手をひろげる余裕もないので・・・。

芝崎とにかくホントにビックリしました。最初のイメージとあまりにも違い過ぎて・・・。事務所もほっこりしていていいですよね。自由が丘はおしゃれな街なので、気取ったオフィスだったらどうしようかと思っていました(笑)。

芝崎さんが本屋さんになったら

―― 最後に、このコーナー定番の質問なんですが、芝崎さんがもし本屋さんになったら、どんな書店をつくりたいですか?

芝崎自分の好きな本をいっぱい置きたいですね。商売は成り立たないかもしれませんが、私は判官びいきなところがあるので、陽の目を見てないけれども面白い本を売っていきたいですね。

――具体的にはどんな本でしょうか?

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『インドへ馬鹿がやってきた』(山松ゆうきち)、『因果鉄道の旅』(根本敬)

芝崎例えば山松ゆうきちさんって漫画家わかりますか? 何十年もやられているんですが、面白さが知れ渡っていないというか、いまいちブレイクされていないんです。あとは、『じみへん』の中崎タツヤさんとか。中崎さんはまぁメジャーですけど。あとは根本敬さんとか。まぁあの人も売れていますから、敢えて私が応援する必要もないですね(笑)。

メジャーついでに言うと、吉田戦車さんとか野中英次さんとかも、――ってぜんぜん判官びいきじゃないですね。要は、自分が面白いと思っている本を売りたいですね。

―― マンガがお好きというだけあって、みなさん漫画家さんですね。

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『ヒストリエ(1)』(岩明均)、『闇金ウシジマくん(1)』(真鍋昌平)

芝崎そうですね、一番好きなのはマンガです。
今一番はまっていて、毎回新巻を楽しみにしているのは『ヒストリエ』(岩明均)と『闇金ウシジマくん』(真鍋昌平)です。

――『ウシジマくん』は僕も大好きです。読んだあと落ち込みますけどね。

芝崎ホントに。一切甘えや感傷がないですからね。ホントに恐ろしい現実を突きつけてくる感じで。

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『テルマエ・ロマエ(1)』(ヤマザキマリ)、『聖☆おにいさん(1)』(中村光)

『テルマエ・ロマエ』(ヤマザキマリ)とか、『聖☆おにいさん』(中村光)とか、売れ筋も一通り買っています。でも少年誌系は、ほとんど今のものを知らないので取り扱いがないかもしれません(笑)。

―― マンガ以外だとどんな本を置きたいですか?

芝崎旅本や古代文明の本も置きたいですね。あとは、サスペンスコーナーもつくりたいです。ミステリーは推理ものよりも断然サスペンス(*)。ハラハラドキドキが好きです。

 * ミステリーとサスペンス:一般的にはミステリーは謎解きが中心で、サスペンスは宙ぶらりんの緊張感や不安感を描くものとされている。最後まで犯人がわからないのがミステリー、最初から犯人がわかっているのがサスペンス(例、『古畑任三郎』)、という説明も一般的。

―― サスペンスでお好きなのはどなたですか?

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『幻の女』(ウィリアム・アイリッシュ)

芝崎ウィリアム・アイリッシュ(=コーネル・ウールリッチ)が大好きですね。アガサ・クリスティ辺りと比べると知名度は劣りますが、『幻の女』とか、ヒッチコックの『裏窓』の原作が有名です。

ある日突然事件に巻き込まれて、犯人にされたり、逃げたり、真相つかんだりと、主人公が大都会でひとり孤独に奮闘する物語です。
私は子どもの頃から大都会や摩天楼の孤独に異常なほど憧れていたので、本に完全に入り込んでいました。

細かいところでつじつまが合ってないものもあるんですが、そんなことはどうでもよくなるぐらいです。私の中のニューヨーク像はあの世界なので、実際行ったらがっかりしてしまうかもしれないと思っています。

太宰治のギャグ本? POPだらけの店内? 芝崎書店の真骨頂

芝崎あとは、文学界だと、今さらの定番ですが、太宰治が大好きです。彼のギャグセンスが素晴らしすぎてたまりません。

―― 太宰のギャグセンスですか?

芝崎そうなんです。太宰は、『人間失格』の暗いイメージがありますけど、実はギャグというか笑いの王様だと思っています。自虐とか、そういうのではなくて、ホントに天下一の笑いのセンスがある人だと思います。いま読んでも全然古さを感じさせません。大笑いではないですが、含み笑いがたっぷり詰まっています。

―― まったく知りませんでした。どんな作品があるんですか?

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『お伽草紙』『ろまん燈籠』(ともに太宰治)

芝崎太宰が30代のときに書いた短編は、どれも笑いが詰まっていて愛おしいですね。たとえば『佳日』、『お伽草紙』、『新釈諸国噺』、『ろまん燈籠』、『黄村先生言行録』辺りです。人間の見栄や自惚れ、男のやせ我慢を、ユーモアたっぷり、面白く、切なく、愛くるしく、しかもノリノリで描いています。笑いを求めている人には是非読んでもらいたいです。

―― 太宰にギャグのイメージはまったくなかったです。芝崎書店には、「太宰のギャグ小説」コーナーができるわけですね。それは興味深いです。

芝崎太宰はホントに笑いの天才です。松本人志に匹敵すると思っています。いや、どうだろ、そこまでじゃないかも、でも本当に業師なんですよ。

―― それにしてもすごい読書量ですね。恥ずかしながら、知らない作家、本がたくさんありました。

芝崎好きな人から言わせればどれも定番作品ですし、しかもすごくピンポイントなんです。ちょっと外れると知らないことの方が多いです。
いま挙げた本も、あまりに友達がいなくて、本が一番の友達だった学生時代に読んだものが多いですし・・・。特に小学生のときは人生で一番孤独だったので、そのときはとにかく読みました。昔はマンガ・小説大好き少女でしたが、大人になってからはノンフィクションばっかりになりました。

―― 最近はそれほど小説を読まないんですか?

芝崎文章の技巧自慢みたいな小説をある時期立て続けに読んだせいか、嫌気が差して小説自体を少し敬遠しているところがあります。だから今、ものすごく面白い人を見逃しているような気もしています。
と言ったそばから思い出しましたが、貴志祐介さんはすごく好きです。緻密なプロットの上に、エンターテインメントと蘊蓄をうまい具合に取り入れているのは見事だと思います。『黒い家』も『新世界より(上・下)』も全部面白く読ませていただいています。まだ読めていませんが、教師が登場する最新作の『悪の教典(上・下)』も楽しみです。
小説ではないですが、昔から長く語り継がれてきた物語もものすごく好きです。『グリム童話』に『ギリシア神話』、『千夜一夜物語』とか、奇想天外で、話に広がりや奥行きがあるものが好きなんです。

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『黒い家』『新世界より(上・下)』(いずれも貴志祐介)


―― 実に多彩な本棚になりそうですね。
ところで、先程POPへの苦い思いをお話されていましたが、芝崎書店はPOPがない本屋さんになるんでしょうか?

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芝崎そうするか、もしくは全部つけるかですね(笑)。ひとりだけよく扱うことで、自分がいつも惨めな思いをしているので、惨めな人をつくりたくないと思っています。

―― なるほど、作家への愛に満ちた書店になるわけですね。POPだらけの芝崎書店楽しみです(笑)。今日はありがとうございました。

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芝崎みゆきさんが目を泳がせながらおずおずと(本人談)テレビでマヤ文明を語ります!

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『世界史発掘! 時空タイムス編集部』~第14回 古代マヤ文明 天才少年が解き明かした謎の文字~
放送日時:11月9日(火) 20:00~21:29
再放送:11月16日(火)12:30~13:59/11月23日(火)11:30~12:59

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芝崎みゆき(しばさき・みゆき)

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1966年生まれ。
著書は、『古代エジプトうんちく図鑑』『古代ギリシャがんちく図鑑』(ともにバジリコ刊)、『マヤ・アステカ遺跡へっぴり紀行』『古代マヤ・アステカ不可思議大全』(ともに草思社刊)。

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