本屋さんと私

北尾トロさんのインタビュー。
今回も、前回に引き続き、雑誌『季刊 レポ』(以下、『レポ』)の話。
前回は、どうして『レポ』をつくったか、『レポ』で何を目指しているか、そんな話を中心に伺いました。
今回は、さらにいろいろ伺っています。あんな話にこんな話。『レポ』の未来が朧気ながらに見えてきます。

(聞き手:三島邦弘・萱原正嗣、文:萱原正嗣)

第54回 『レポ』でなければできないことを

2010.12.09更新

いまさら後へは引けません

トロ実は、郵送費のことを考えるのを忘れててさ(笑)。1回80円で送っても、毎月だと年間1,000円かかるんだよね。

―― ミシマ社も直販で本屋さんと取引しているんですが、定価が1,000円くらいだと、送料が結構きいてくるんですね。『レポ』本体1,050円(税込)で出してらっしゃってて、年間購読料4,200円(税込)で「ちびレポ」までついくるなんてすごいなと思ってたんです。

トロそのカラクリは、コストを忘れてただけ(笑)。4,200円の4分の1は郵送費でなくなるんだと・・・。
創刊号は2,000部からスタートしたんだけど、原価を回収できるのが1,200部くらいで、郵送費もろもろを入れると、1,500部を越えて利益が出てくる感じです。いまの時点で1,200部くらい買っていただいているので、もう一息というところです。

―― それはめちゃくちゃハードル高いですね。

トロそうなんですよ。でもツイッターとかいろんなところで「やります」って言っちゃってるから、もう後戻りできなくて(笑)。なので、郵送費は極限まで切り詰めて、メール便80円を死守します(笑)。版型はこだわらないけど、80円を超えないように厚さは1cm以下で確定です。

手紙だから表紙はいりません

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『レポ』創刊号の「表紙」。この文字も、トロさんからの「手紙」の一部です。

トロただ、その辺りは、デザインでかなりカバーできそうなんです。ノンフィクションの専門誌だし、読む人もみんなそれをわかって読むわけだから、「ギュウギュウに文字入れちゃえ」って。
デザインということだと、通販でやっていて、本屋さんとの取引は買い切りのみでお願いしているから、本屋さんのことをあまり考えなくていいわけです。
なので、最初は「表紙はいらない」ってデザイナーさんに依頼していました。そもそも、「手紙」なわけですから。「表紙じゃなくて、はじまりっていうことでいいじゃん」って。それで実際に表紙から始めてもらったわけです、もったいないよって。

―― これがデザインになってるからカッコいいですよね。

トロ実は、デザイナーもがんばっているんです。ギュウギュウに文字を詰めてますが、それでも読みやすいとか、何もやっていない風に見せかけているとか、実はすごく手が込んでいるんです。
通常、商業誌では逆のことを要求されるから、デザイナーは面白がってやってくれています。

―― いつもはパラパラってなかを開くんですが、思わす表紙の文字から読んでしまいました。手にしたときに「おぉっ、ここからか!」って(笑)。

トロありがとうございます。溢れ出してるからね(笑)。プロフィールも「スペースがもったいなから、表4(裏表紙)でいいよ」って(笑)。

アマチュアの登場で、プロの心も揺さぶられる

トロこんな感じで始まりましたが、とにかく楽しいですね。
こういう形で読み物だけが集まると、プロもアマも関係なく、完全に横一線の勝負になります。たとえば、えのきどいちろうさんはよく知られていますが、このなかに入るとそんなことは一切関係なくて、面白いヤツが勝ちなんですね。創刊号では、アマチュアのひとにも何人か書いてもらいました。アマチュアの登場で、プロは負けられないから、いつも以上にがんばるんですね。

―― そうですよね、プロの心が揺さぶられますよね。

トロ創刊号の感想もぼちぼちいただいていますが、「これが面白い」っていうのがひとりに偏らずにバラけているのも面白いですね。
そういう緊張感からか、著者も思いがけずノリノリでやってくれています。みんな締切りより早く原稿送ってくるのには驚きました。12月半ばに出す2号なんて、まだ何もやっていないのは僕だけですよ(笑)。

 * インタビューは11月上旬に行ないました。

『レポ』でなければできないことを。

トロ2号から新しい執筆陣も増えていきますが、そこで著者にお願いしているのは、「『レポ』でなければできないこと」です。
よその雑誌でできるようなことは、よそでやってもらった方が、お金にもなるしいいと思うんです。でも、本人が「それだけじゃないんだよな」って思っているところがあるんであれば、「ここにやる場所はありますよ」と。『レポ』はそういう場所でありたいと思っています。

―― 「ここでしかできない」雰囲気は、実際に創刊号から感じました。それは、編集長・北尾トロさんの存在がすごく大きいように思います。もちろん、すべての雑誌に編集長はいるわけですが、どうしても断片的にならざるをえないところがあると思うんです。その点『レポ』は、全面にトロさんを感じられて、ある意味、編集の原点を改めて見させていただいたような気がしています。

トロシンプルな話ですよね。面白いと思ったものを出せばいい。「バランスが・・・」とか、「世間が・・・」とか考えないで、自分の判断でやればいい。
もちろん自分の判断だけだと問題がある場合があるから、それがおかしいかどうかをジャッジできる人が、『レポ』の場合は、副編集長の平野さんひとりいればそれで十分です。「これはないでしょ!」っていうのを止める係ですね。

―― そういうのは今回あったんでしょうか?

トロ創刊号に関してはなかったですね。基本が友達なので、好きなものも似ている部分があるんです。本当は、「僕が載せたい」って言っても平野さんが反対することがあった方が、トガってるっていうことだと思うので、その辺りは、なあなあにならないように気をつけながらやりたいと思います。

「手紙」だから「返事」も来ます

トロ嬉しいのは、『レポ』で書いた人の活躍の場が広がっていることです。
国連の記事を書いた川内有緒(かわうち・ありお)さんは、書籍化の問い合わせが来ていますし、コンビニの記事を書いた和田静香さんは、『月刊コンビニ』で連載が決まりました。
そういう広がりが増えてくるといいなぁと思っています。
最初は、僕と平野さんで著者を探していましたが、なかには、ツイッターでいきなり原稿送りつけてきて、そのまま載せちゃった島田十万(しまだ・じゅうまん)さんのケースもあります。
面白いことに、そういうのがひとつ出ると、それを見てまた送ってきてくれるひとがいるんですね。

―― どんな方でしょうか?

トロ学生なんですけど、ひどいんです、ヘタクソで(笑)。でもしょうがないじゃない、やったことないんだから(笑)。
彼の体験自体は面白いんです。それなのに、何のメリハリもない、ただ長いだけの文章を書いてきて・・・。面白いのに面白く読めない感じがもどかしいんですよ。

―― それは読むのツライですね(笑)。

トロ「これをどうすればいいのかな」っていうのが悩ましいところです。上手でなくてもいいというより、むしろヘタクソなままでいいんだけど、いまはヘタな上にわかりにくいからね。でも、それをこっちで指導しちゃうとよくないなぁと思って。
ちなみに、相手がプロだったらめっちゃ言いますよ。「全ッ然面白くないんですけど」って。それぐらいは余裕で言います。

―― (笑)プロはそれで食べていくわけですからね。言ってもらった方がありがたいように思います。でも、学生さんはそうじゃないですもんね。

トロ素人にしか書けない文章ってあるんですよ。ホントにダメならボツなんですけど・・・。

―― 何か光るものはあるっていうことですよね、原石みたいなものが。

トロちょっとあるんですよ。だから何とか載せたいなぁと。
編集人として、僕はいろんなひとに参加してほしいと思うんです。ラジオでもお便りを読むし、「手紙」はやりとりするものだから、「返事」も当然来る。読者が返事を出したくなるような雰囲気づくりをしたいと思っているんです。

だから、この学生の原稿は、『レポ』に参加する最低レベルとして設定したいと思っています。読んだ人が「これでいいんだ!」って思えるようなね(笑)。
文章力に関しては気にしないでほしいんですが、それをいくら言っても、掲載している原稿がみんなうまかったら説得力がないんですよね。なので、「キリ」の部分もちゃんと見せておきたい。そのためにこの学生はちょうどいいなと・・・。

―― そこはある意味勝負のしどころですよね。低く設定しすぎると、とんでもないひとが殺到したりしますからね(笑)。

トロ確かに危険なところでもあります。ただ、全体のバランスとしては、3分の2くらいはちゃんとしたもの、残りは、読者からの「返事」がそのまま載るような形にしたいと思っています。雑誌の読者ページにありがちな、「毎回楽しみにしてます」みたいなものではなくて、「こんな面白い体験をした」っていうのを載せていきたいですね。
そういうことを、読者にやんわり伝えるためにも、この学生の原稿はちょうどいい。だから、何とかがんばってほしいわけです。

自分たちの居場所を自分たちで決めて、そこで食べていく

―― 過去のインタビューで、『レポ』は「ミドルメディア」っていうお話もされていましたが、その辺りのイメージをお聞かせください。

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トロミドルメディアはありだと思うんです。
マスな雑誌がどんどんダメになっていく。それは面白くないからだと思うし、なんで面白くないかっていうと、多くのひとに満足してもらおうとするからです。

雑誌を成立させるのに本来必要な部数は、10万部とか20万部っていうレベルではありません。『レポ』のスタイルだったら、5,000部くらいで十分です。これぐらいの部数があれば、何人かがそれで食べていけて、編集部が成立します。
もちろん、もっと部数が増えればより多くの人が食べていけるようになりますが、一方で、編集人としての僕の度量の問題もあります。1万部辺りが限界だと思うんですね、僕の好みで押しきれる人数は。

それ以上になると、僕の場合「いろんな読者がいるしな」とか余計なことを考えだしてバラエティを求めだしちゃうと思うんです。そうなると、創刊当時から読んでくれている読者がつまんなくなっちゃう。
マスコミとも違う、ミニコミとも違う、こうした規模感、距離感は、最初から意識してつくっていく必要があると思うんですね。最初から意識するっていうのは、「これ以上はつくらない」っていうことです。

『レポ』の場合、面白いものをつくりながら編集部が食べていける境目が、5,000から1万くらいだと思います。まずは5,000部を目指したいですが、どんなにがんばっても1万部は越さないようにしようと思っています。

―― 面白いものをつくるために部数はしぼるけれど、そのなかで食べていけるようにする、というのが重要ですよね。ミニコミの場合は、食べていくというよりも、出すことに意味を見出している感じがします。

トロひょっとすると、初期のミニコミは『レポ』に近かったのかもしれない、とは思います。ただ、ある時期からそうじゃなくなっちゃいましたよね。流通に乗って会社もついて、普通の雑誌になってしまいました。
そうじゃなくて、自分たちの居場所をここなんだって決めて、これまでの出版界の常識とは別のベクトルでやる。いまの状況を考えると、そういうひとが出ざるをえないでしょ、と思います。特に電子はやりやすいんじゃないでしょうか。

実際、『AiR』っていう電子書籍のサイトをやっている堀田純司さんにも、『レポ』でお願いしようと思って会ったんです。結局、堀田さんは『AiR』の方に力を入れていたので、「じゃ、そっちで頑張って」っていう話になりましたが(笑)。
彼が考えていることも、版元に寄り添って生きていくんじゃなくて、自分たちで自分たちのメディアを持って、ちゃんと回して、それで生活していくっていうことなんですね。そこには、はっきりとしたコスト意識があります。

ミニコミの人は、身銭を切って「トントンで上出来」っていう感じですよね。僕も、もともとはトントン派の人間なので、その感覚はよくわかるんです。楽しいんだから、それでお金いただくのはよくないような感じ。
それはそれでありなんですが、『レポ』でやりたいことはそうではない。中規模のサイズできちんと利益を出して、ライター然り、編集部然り、それで食べていける人をつくっていけるようにしたいですね。

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『レポ』を最初に手にしたとき、「雑誌」のようにパラパラとめくり、気になるページ、記事から読んでいた。

取材を終え、改めて『レポ』を読んでいたら、あることにはたと気がついた。というより、トロさんが何度も言っていたことが、実感として腑に落ちてきた。
『レポ』はまさしく「手紙」だ。トロさんは、『レポ』をまさしく「手紙」としてつくっている。

DJ、もとい編集人トロさんが、表紙にはみ出す溢れる思いで語り始める。しばらくすると曲の代わりに原稿を紹介する。うん、面白い。
原稿の余韻を感じていると、またトロさんが語り始める。そして、また原稿を紹介する。その、繰り返し。

もちろん、『レポ』は「雑誌」なわけで、パラパラと読んでも楽しめるようにできている。ひとつひとつの記事もそれぞれ個性があって面白い。

でも、「手紙」を途中から読む人はまずいないだろう。
別にそうしなければいけないわけではないけれど、その方が、書き手、送り手の気持ちを感じながら、一通の手紙を味わい深く読むことができる。誰に言われるまでもなく、みなそのことを知っている。

同じように、『レポ』も頭からじっくり読んでみてください。

最初にパラパラと読んでしまったひとは、是非もう一度頭から。
これから『レポ』を手に取るひとは、トロさんの語りに耳を済ませて、順にページを繰っていってみてください。

夜の静寂にひとりラジオを聴いているかのように、トロさんからの言葉が、じんわり心に滲みてくるのではないかと思います。

と、何やらエンドロールのような雰囲気を漂わせてしまいましたが、トロさんのインタビューはまだ終わりではありません。
次回、高遠(長野県伊那市)で取り組んでおられる「本の町」づくりの話や、本屋さんとの関わり、出会いについて伺います。
こちらも、是非お楽しみに。

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北尾トロ(きたお・とろ)

1958年、福岡市生まれ。
小学生の頃は父の仕事の都合で九州各地を転々、中学で兵庫、高校2年から東京在住。小倉市立高坊小学校、尼崎市立武庫中学、東京都立日野高校、法政大学卒。
インド旅行から戻ったら追試が終わっていたという情けない理由で5年かかって大学を卒業後、フリーター、編集プロダクションのアルバイトを経て、26歳でフリーライターとなる。おもにスキー雑誌、テニス雑誌で原稿を書いていた時期もあった。
本名時代の著作に、『サラブレッドファン倶楽部』、『馬なりの人生』、『図解で企画ができる本』がある。
30歳を前にバンド活動、同名の“脳天気商会”という会社を、ライターの下関マグロ氏たちと設立(3年後に解散)。
同時期、北尾トロのペンネームで原稿を書き始め『別冊宝島』『裏モノの本』などに執筆し始める。また、『ダ・ヴィンチ』『裏モノjapan』には創刊時からお世話になっている。
40歳を前に、インディーズ出版活動を開始し、『廃本研究』を制作。以後、『廃本研究2』『オンデマンド版銀座八丁目探偵社』『Secret of DragQueen』『なんて素敵!』『西荻カメラ』『ばいぶる』を制作。
1999年、インターネットを使った古本屋『杉並北尾堂」をオープン。期間限定のブックカフェ、ロゴスギャラリー(@渋谷パルコ)での古書イベントなど、古書関連の仕事(?)や知人が増えた。
40代後半からは、日本にも『本の町』を作りたいと考えだし、2008年5月、長野県伊那市高遠町に、仲間とともに『本の家』を開店。第一歩を踏み出したばかりである。
個人事務所(株)ランブリン代表。NPO法人西荻コム理事長。西荻ブックマークスタッフ。

〈連載中〉
* 走れ!トロイカ学習帳(ダ・ヴィンチ、メディアファクトリー)
* 超越大陸(ラジオライフ、三才ブックス)
* 北尾トロのそら飛ぶえほん(この本読んで! JPIC)
* 中野さぼてん学生寮(一冊の本、朝日新聞出版)

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