本屋さんと私

前々回は谷さんの本屋さんとの付き合い方について、前回は、谷さんが詩人になるまでの道のりや今までの本づくりについて伺ってきました。今回は、谷さんにとって二回目のコラボレーションとなる写真家・青山裕企さんとのエピソードと合わせて、『透明人間』の制作過程についてご紹介します。

『透明人間』、今まで見たことないような本になりそうで、私たちも仕上がりを想像しワクワクしながら作業をすすめております。最後に、『透明人間』のラフをミシマガの読者のみなさまだけにちらっとお見せいたします!

(聞き手:足立綾子・林萌、文:足立綾子)

第61回 番外編 『透明人間』の制作現場から

2011.09.29更新

透明人間のふたつの視点

―― 今回、ミシマ社で出す写真詩集は青山裕企さんとのコラボですが、青山さんとは二回目のコラボですよね。青山さんとの出会いは、なにがきっかけだったのですか?

娘が持ち帰った展覧会のチラシを見ていたら、そのなかに青山さんの「undercover」の個展のチラシがあって、それが青山さんを知ったきっかけです。太宰治の『女生徒』と佐内正史さんの写真がコラボした本を見て、こんな抒情的な本をいつかつくりたいと思っていたんですね。そんな本をつくるんだったら、青山さんの写真が合うんじゃないかと思ったんですけど、僕と青山さんがコラボした『思春期』は抒情的というより、ちょっと扇情的な雰囲気の本になってしまった(笑)。おかげで売れたんですけど。

―― それでもう一回組もうと?

そうですね。一回だけじゃ物足りないと思いましたね。青山さんもエッチな感じじゃない、別の表現でなにかできないかと思っていたみたいで。青山さんみたいに、女の子をポップな記号として撮れる人ってなかなかいないと思うんです。

―― しなやかでピュアなんだけど、どこか逞しさもある点が谷さんと青山さんの共通項なのかなという気がします。今回、『透明人間』というタイトルですが。

『透明人間』というタイトルは、著者の存在が消える感じがあっていいですよね。透明人間って、子どもたちのヒーローでもあるし、自分がなってみたいものでもあるし、一方では亡くなってもう会えない人、死者としての透明人間というふたつの視点があると思うんです。このタイトルで本自体に透明感が出てきますし、いくつになっても変わらない少年っぽさも生まれてくる。読者も透明人間になったつもりで本の世界に入り込んでもらえるとうれしいですね。

―― 「透明人間」というキーワードで詩と写真を見ると、本当にそこかしこに透明人間がいる気がして、じっと写真を見てしまいます。

最初のタイトルは「再出発」だった

この本の企画が動き出したのは、今年の6月。
当初、谷さんと青山さんの写真詩集のタイトルは、『透明人間』ではなく『再出発』でした。

毎日、詩を書き続けていた谷さんでしたが、3月の震災を機に詩がまったく書けなくなってしまったそうです。このような状況のもと、詩を書くことはどういうことだろうか、自問するなかで生まれたのが「再出発」という詩でした。この詩は震災直後の混乱した時間のなかから生まれたものでした。自分自身や社会をめぐる状況を考えるなか、改めてもう一度詩人として再出発をする。そういう意味を込めて、本のタイトルにもつけたそうです。

一方で、青山さんも「再出発」というキーワードにピンとくるものがあったといいます。
青山さんは、昨年発刊した『スクールガール・コンプレックス』をはじめとする女子高校生を記号的に撮った写真で注目されていますが、自分の表現方法はそれだけではないという思いがあったそうです。今回の本には透明感のある世界観は継承しつつも、今まで発表されたものとは一線を画す表現方法で撮られた写真が収録されています。

撮影が行われたのは、青山さんが学生時代をすごしたつくば市。学生時代に写真をはじめた青山さんのいわば原点の風景――つくば市に向かうバスの車窓、よく撮影をしていた公園、大学の構内など――を鮮やかに切りとっています(青山さんが写真家になるきっかけについては、ミシマガの「ソラリーマン」をよろしく!(前編後編)に詳しいです)。

『透明人間』には、日本初のある試みが隠されている!

今回の本は、ミシマ社の本も谷さんの写真詩集も多く手がけている寄藤文平さんと鈴木千佳子さんに装丁をお願いしています。

最初の打ち合わせで、谷さんの詩と青山さんの写真をつきあわせて見ているうちに、「透明人間」という詩が目に留まりました。「透明人間」をタイトルにすえた方が、お二人の世界観にぴたっとあうのではないか。改めて「透明人間」になったつもりで詩や写真を見ると、女の子のすぐそばに、誰もいない公園の片隅に、透明人間が「いる!」ような気がしてくるのです。

「透明人間だから、透けるような紙を使ったりできればいいですね」という意見を交わし、待つこと数日、デザイナーの鈴木さんから前代未聞の夢のようなラフがあがってきたのです! 数日前にいただいたばかりのラフを、ちらっとご紹介します!

本屋さんと私谷郁雄さん
谷さんの手書き原稿とラフ

本屋さんと私谷郁雄さん
薄紙をかけた状態とめくった状態で、写真が二度楽しめます


薄紙に詩を印刷し、めくった次頁の写真は別の紙で印刷するという一枚ずつ違う紙が交互にくるような構成は、製本のコストが割高になってしまうため、今まで実現できませんでした。しかし、最近、ある製本の匠により発明された技によって、コストが抑えられ、実現可能になったのです!

詩も活字にするのではなく、谷さんの手書き原稿をそのまま生かしています。ラフをご覧になった谷さんが「姿の見えない透明人間が書き残していった詩と考えれば、手書き原稿を活かした方が自然かもね」とおっしゃるとおり、薄紙の透け感も手書き原稿も「透明人間」のコンセプトにマッチした造本になっています。

前代未聞の本、『透明人間』は11月刊行予定です! みなさん、どうぞご期待ください!

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ミシマ社編集チーム

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