本屋さんと私

今月の「本屋さんと私」では、インタビュアー・木村俊介さんに、ご自身の原点、仕事観などを、愛着のある本のエピソードを交えながらお話を伺ってきました。

最終回となる今回は、木村さんに大きく影響を与えた取材相手、いま、気になっている人などについて。最後に、本をあまり読まない方へのアドバイスもいただきました。

(聞き手:足立綾子・林萌、文:足立綾子)

第68回 インタビューは、その時代がわかる和歌のようなもの

2012.04.26更新

取材相手に侵蝕されるということ

―― スタッズ・ターケルとカポーティの弱いところ、取材相手に侵蝕されるところが木村さんと似ているとおっしゃっていましたが、実際にインタビューをされて、この人に侵蝕されたとか、ものすごく影響を受けた方ってどなたかいらっしゃいますか?

本屋さんと私 第68回 インタビューは、その時代がわかる和歌のようなもの

木村それで僕、いま、成り立っているんですけど、『調理場という戦場』の斉須政雄さんなんかそうですね。丁寧な仕事をするってこういうことなんだろうなって、もちろん、いろんな人に教わったんですけれど、斉須さんにいちばん教わった気がします。

彼は、「掃除と愛情はとっとけない」っていうんですね。掃除も愛情も先延ばしにできないから、いま、やらなきゃいけない。仕事の話を聞くのも一回かぎりだから、整理整頓をするのと情のいちばん深い関係なのは、いましかない。やれるうちはやって、チャレンジして、もう一回やりなおす。斉須さんは、「仕事はやりなおしの繰り返しだ」っていうんですね。

話を50時間ぐらい聞いていると、考え方も斉須さんっぽくなってくるんです。そうなってくると良し悪しで、いいやいいやと思ってやっていた仕事ができなくなったりして、よくなかったりすることもあります。未だにいろいろと考えさせられますし、お会いするときは緊張しちゃうし、そういう意味で、ほんとうに侵蝕されましたね。

―― 最近、インタビューされたなかで、侵蝕された方っていらっしゃいますか?

木村最近、すごく影響をうけた人が、去年12月にお亡くなりになりました。朝日新聞2012年1月7日号に掲載された連載「結婚未満」で取材したシェアハウスの普及をしていた人です。亡くなる三日ぐらい前に話を聞いたんですね。遺族の方とその人の彼女に話を通して、実名で記事を掲載させていただきました。

その方は、亡くなる前に「末期の癌」をしゃべってくれました。不動産情報サイトを運営してビジネスをしていた人ですから、ソーシャルのつながりがあって、未来社会で人と人とのつながりを変えたかったり、その環境のなかで自分のあっているものを探してみたかった人なんです。

病気になって、病室に300人くらい友だちがやってきたとき、自分は「つながり」ってずっと言ってきたし、これからも言うつもりだけど、社会に還元できることや自分が感じられることは、直のつながりのなかにしかないんだなーって思ったのだそうです。肉親や彼女や友だちになにができるか。誠実にどう対応できるかだけしか、自分には残されていないんだなと思うと同時にそれでいいと思っている。つながりという話のなかで、それが結構大きな印象を受けましたね。

その記事、不思議な広がり方をしたんです。彼の友だちのひとりが、ツイッター上に記事をスキャンしてアップしたところ、ツイッターで3700人くらいがリツイートをして、フェイスブックで7000ぐらいが「いいね!」を押したみたいなんです。

記事そのものを張りつけたページは、24万人ぐらいが見ているんですね。朝日新聞って、700万部くらい発行しているので、それに比べれば少ないけれども、ネットのなかではすごく多いばかりか、こういう広がり方をするんだなと驚きました。

ツイッター上でバーチャルなつながりではあるけれども、バーチャルなつながりのなかで、この記事に触れた人は、自分の直のつながりについて考えさせられたってリツイートしながらいっている。これは不思議なことだなと思って、この1カ月ぐらいの間に考えさせられました。

おもしろい人に会うのを待っている

―― 転機になったお仕事ってありますか?

木村『仕事の話』をつくっているとき、編集の児玉藍さんにインタビューについていろいろと相談していたのですが、自分がやってきたことってこういうことなんだなって、本のかたちになったときにわかった気がしましたね。

あと、糸井事務所を退社して少したったとき、インタビューでいろいろなお仕事をいただいたんですが、フリーになってみると、自分はインタビュアーなんだなっていうのが、じっくりわかりました。評論的なものとか、他のお仕事もいくつかしたんですが、やっぱり僕は人と会って仕事をするのが向いているなと思いましたね。

―― いま、気になっている人っていますか?

木村めちゃくちゃいます。たとえば、尾田栄一郎さんにインタビューしてみたいですね。いま、あんなに各方面から圧力を受けている人はいないと思うんです。そんな圧力のなかにいる人っていうのは、どういう人なのかなって。過去のインタビューを読んで、どんな人なのかはだいたい知っているんですが、直に聞いてみたいですね。

おもしろい人に会うのを待っているというのはあります。攻めじゃないんですね。受け手として、調べて待って網を張って、網にかかったら聞くみたいな。

―― さまざまなジャンルの方のインタビューをされていますが、たとえば、美術系で気になる方はいらっしゃいますか?

木村杉本博司さんは、ほんとうにおもしろい方で興味がありますね。現代美術を見立てのゲームとしてやっているんです。すごく質の高い『へうげもの』みたいなことをされていますね。彼の価値のやり取りやゲームは、村上隆さんたちとのギミックとはまたちがって非常におもしろいですね。

そういう意味でいえば、去年、カニエ・ウェストがJAY-Zと組んで出したアルバム「Watch the Throne」のアートワークをジバンシーのデザイナーが手がけたんですね。それは美術というよりは、ファッションに近いんだけれども、カニエ・ウェストたちは美術のコレクターでもあるから、美術の世界の価値の転換というテーマを、アメリカでいちばん売れている音楽の効果でつくりだす。美的センスに通じている彼らのやり取りにすごく興味がありますね。彼らのインタビューを読んでも、すごくおもしろいですね。

―― ここで本を出したいとか、ここから出ている本がおもしろいとか、いま、気になる出版社はありますか?

木村松本大洋さんや五十嵐大介さんの漫画が掲載されている月刊「IKKI」は気になりますね。『海獣の子供』は、五十嵐さんの最高傑作ですね。風景を描くのが好きだという人が描く漫画はすごいですよね。

元気な出版社はいっぱいありますよ。「日経プレミアシリーズ」は新書の世界では後発なのに、おもしろいですね。講談社も一緒にお仕事させていただくと、さすがだなとわかりますし。それいったら、みなさん引くかもしれませんが、僕、文春大好き人間なんです。会社でもいろいろな人がいますし、人次第ですけど・・・でも、僕、文春が好きですねー。

声は文字として刻まれると「感情の遺跡」になりうる

―― 今回、お話を伺っていて思った素朴な質問なんですが、一度読んだ本は最後まで読みきりますか?

木村そうですね。意地で読みきります。小島信夫さんが、「読んで、1ページおもしろいところがあったら、まあいいよ」って言うんですが、だいたい、さらにもう1ページぐらいおもしろいところがあるんですよね(笑)。

―― 一冊、どのくらいで読みきりますか?

木村それもそのときどきです。ゆっくり読んだほうがおもしろい本もいっぱいあって、『失われた時を求めて』は、ゆっくり読まないとぜんぜんおもしろくないんです。書いた人の呼吸で読まざるをえないから、そのうち呼吸があってくる感じですよね。

宮部みゆきさんや伊坂幸太郎さんとか、ある時期からあとの作品に対して批判が多くなるケースってありますよね。そういうケースって、だいたい作者の文章が厚みを持つようになって、少しゆっくり読まないといけなくなったときに、批判をうけることがすごく多いような気がします。でも、ゆっくり読むと前よりおもしろい。それをいままでのミステリーを読まれていた方に伝えるのは、なかなか難しいことなのではないかなと思います。

―― 取材の資料を仕事の合間に読まないといけないと思うのですが、どう時間をやりくりしていますか?

木村みなさんの仕事から会議の時間がなくなれば、結構本は読めますよ(笑)。でも、新書って簡単に読めると思われていますけど、僕、新書の取材をして本当によかったと思ったのが、新書って、5回ぐらい読まないと結構わからないところがあるということです。

新書って、経済史とか、厚みのある世界をわかりやすく書いているんだけど、ちゃんと読まないと全体がわからない。逆に新書こそ、5、6回読むと、その人の世界がすごくよくわかるんですね。5回ぐらい読む取材者って少ないみたいで、著者にお会いすると、こんなに深く私の意図を感じてくれたって言われることもありますね。

―― たしかに新書って、旬なトピックを手軽に理解できるというイメージがありますね。

木村一問一答みたいに、ひとつの答えに答えているだけではないんですよね。『芭蕉――「かるみ」の境地へ』は10回ぐらい読みましたが、これはいい本ですよ。『おくのほそ道』のあとの芭蕉の話です。歴史上、誰にも認められていない芭蕉の「かるみ」という境地を、芭蕉が直に書いた書簡から掘り起こしたものなんです。

芭蕉がこんなところまでたどりついたのに、日本の歴史にはなんにも残っていない。芭蕉の書簡を読むのが専門の先生が著者で、この先生しか書けない本なんですね。インタビューとは、直に歩くとは、声をかたちにするとは・・・ということについて、大変考えさせられました。

―― 『おくのほそ道』の旅で客死したのではなかったっけ・・・とか、芭蕉の晩年については恥ずかしながらうろ覚えでした。

木村これは名著すぎるんですけど、いろんな人にすすめてもなかなか読んでもらえないんですよね。

―― 書店さんで木村さんが選んだ本のフェアとかおもしろそうですね。

本屋さんと私 第68回 インタビューは、その時代がわかる和歌のようなもの

「真夜中 vol.14」(特集:ノンフィクション、リトルモア)

木村去年、紀伊国屋書店新宿本店で、雑誌「真夜中 vol.14」のノンフィクション特集と関連して、「"インタビュー"によるノンフィクション名作」のフェアをやりましたね。「声は文字として刻まれると感情の遺跡になりうる。インタビューは、感情を封入して、その時代のことがわかる和歌のようなものだ」という趣旨のもと、インタビューでまとめられたノンフィクションの本を29冊選びました。

たとえば、渋谷陽一さんがインタビューした宮崎駿さんの『風の帰る場所――ナウシカから千尋までの軌跡』は、個人的に渋谷さんの本のなかでいちばんおもしろいと思っているのですが、あの本はツイッターで「miyasan_bot」とかが好きな人でもおもしろく読めると思いますよ。

―― では最後に、本をあまり読まない人に対して、読書を楽しむ入口として、なにかアドバイスをお願いしたいのですが。

木村僕の場合、本の作者とおしゃべりをしているような感じなんですね。ですから、テレビより厚めにまとめられた声という感じで接したらいいんじゃないでしょうか。みんなが早く読んだりしているかもしれないけど、自分がしゃべる速度でゆっくり読んでいれば、意外ととんでもない世界に最後はいくっていうのがあるので、おもしろいのではと思いますね。

―― ほんとうにそうですね。私も今回ご紹介いただいた本を読んでみたいと思います。今日はありがとうございました。

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木村俊介(きむら・しゅんすけ)

インタビュアー。1977年、東京生まれ。
糸井重里事務所に約7年間在籍し、「ほぼ日刊イトイ新聞」で取材・対談記事の執筆や、同サイトが運営するメールマガジンの編集などに携わる。その後、フリーのインタビュアーに。

4月2日からスタートするNHKのインターネットニュースと連動した新しいタイプのニュース番組「NEWS WEB 24」の金曜日のネットナビゲーターを務める。

著書に『料理の旅人』(リトルモア)、『物語論』(講談社現代新書)、『仕事の話』(文藝春秋)、『変人――埴谷雄高の肖像』(文春文庫)、聞き書きに『調理場という戦場』(斉須政雄/幻冬舎文庫)、『芸術起業論』(村上隆/幻冬舎)、単行本構成に『海馬』(池谷裕二・糸井重里/新潮文庫)、『ピーコ伝』(ピーコ/文春文庫PLUS)、『イチロー262のメッセージ』シリーズ(ぴあ)など。ミシマ社の単行本構成に『やる気! 攻略本』(金井壽宏)、『脱「ひとり勝ち」文明論』(清水浩)がある。

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