本屋さんと私

第69回 本屋さんと私

『辺境ラジオ』(内田樹、名越康文、西靖、140B)

今回の「本屋さんと私」は、内田樹、名越康文、両氏との共著、『辺境ラジオ』(140B)を出版したばかりの、毎日放送・西靖アナウンサーにお話をうかがいしました。

関西圏を中心に放送される人気テレビ番組「ちちんぷいぷい」に出演し、2011年からは角淳一氏に代わるメインパーソナリティーとして活躍する西靖さん。関西のお茶の間では、知らない人はいないというほどの大人気で、街を歩くと必ず「西さん!」と声がかかるほどです。そんな西さんは、本、そしてラジオが大好き。書籍『辺境ラジオ』は西さんの本好きからはじまった、同名の不定期ラジオ番組を元にできています。

今回お送りする「本屋さんと私」(西靖さん編)第1回は、西さんの地元、岡山での子ども時代のお話です。西さんと本との出会いは、どんなかたちではじまったのでしょう?

(聞き手:三島邦弘、文:庄司美乃里)

第69回 ラジオへの愛からはじまった『辺境ラジオ』(西靖さん編)

2012.12.05更新

そういえば、本屋でバイトしてた。いま思い出しましたけど

―― お生まれは岡山ですよね。どんなところでしたか?

第69回 本屋さんと私

西靖さん

西岡山市内なんですけど、郊外ですね。父親が末っ子なもんですから、海辺の田舎から岡山に出てきて、県庁で働いていて。僕が4歳のときに家を建てたんですけど、ちょっとした郊外の造成した宅地でした。周りは平べったい田んぼもあれば丘陵地もいっぱいありました。特徴的なのは、丘陵地のかなりの部分が桃畑だったことですかね。

―― 桃畑ですか!?

西子どもの頃は、お花見といえば桃畑にゴザを敷いて、桃の花を見るというのが当たり前でした。

―― 桃の花見はやったことないですね。

西あ、そういえば、初めてやったアルバイトは桃の袋がけ。桃が梅ぐらいの大きさになったらひとつひとつ袋をかけるんです。傷がつかないように。岡山の桃は、高級品種で売ってる清水白桃っていう柔らかい系の桃なんで。
あ! そう、いま思い出した。そうですよ。人生2回目のアルバイトが書店の棚卸しだったんですよ。

―― おお、まさに「本屋さんと私」じゃないですか! にしても、棚卸ってまた珍しいことを・・・。

西在庫のチェックみたいなもんだと思うんですけど。高校1年生だったのかな。先輩の斡旋で、僕の通ってた高校の陸上部のメンバーが動員されたんだと思うんです。年末の閉店後に、なになにが何冊、なになにが何冊って夜通し数えたんです。世の中にはこんな本があるんだと。趣味性の高い雑誌をみつけて、わくわくしたのを覚えています。何でも本になるんだなと。そういう驚きがありましたね。

街なかというよりは、学校の帰りに野いちごを摘んで喰ったり、アケビ探して木に登ったりとか。だけど、自転車で2、30分走れば岡山の市街に出られる、子どもの頃はそういう環境ですね。

―― ということは、まちの本屋さんは、郊外型の本屋?

西今みたいな郊外型のおっきな本屋さんというよりは、小さな本屋さん。さっきの棚卸しのバイトの書店とは違うんですが、中学の近くに、中村書店という小さな本屋さんがありました。中学時代は月曜の帰りにジャンプを立ち読みに行く。たまに参考書とか買ったり。

あとは、最後の深夜ラジオ世代なので、ラジオ番組の本を買ったのも覚えてます。TBSラジオで小堺さんと関根勤さんがやっている番組があって、すごくはまっていたんです。そのラジオが本になったので注文に行ったり。とにかく中村書店が、本屋ワールドへの入り口、原点。ちっちゃい本屋ですけどね。

―― 『辺境ラジオ』のなかでも、ラジオは「インターネットや出版など他メディアとの親和性が高い」という言葉を使われていて、ああ、そうだなと思いました。

西まえがきにも書いたみたいに、ラジオって本にしやすいと思うんです。テレビは本にしにくい。映像が邪魔します。今回、『辺境ラジオ』を本にしていただいたのはありがたかったし、嬉しかった。

子どもの頃から、ギリギリの決断力で本を選んでいました

―― 子どもの頃、西さんにとって本屋さんはどんな場所でした?

西うーん。そうですね。特に小学校の時は自分で言うのもなんですけど、割と勉強のできる、まじめな子だったので、歴史に関する本とか、あとは伝記ものをちょっとずつ買ってもらうのがすっごく嬉しかったです。田舎の本屋さんなので、そんなにラインナップがあるわけではないですけどね。

―― そういう意味では、定番があるだけで十分ですよね。結構、覚えてるもんですよね。

西漫画は一切買ってもらえなかったんですけど、活字の本ならある程度は買ってもらえる環境だったので、歴史もの、伝記ものをねだって買ってもらった記憶がありますね。

―― あのシリーズは欲しかったですよね~。

西でも、妙に聞き分けのいい子どもでね。うちのオヤジが宣言していて、「うちは公務員で、薄給だ。何でも買えると思うなよ。本当に欲しいと思ったものだけ言え」と

―― それ厳しい! 決断を迫られたわけですね。子どもながら。

西そうです。だから、日本の歴史でも、全部は買ってもらえないわけです。だから、僕は奈良時代と明治維新だけしか持っていなかったりするんですよ。だから、阿倍仲麻呂、柿本人麻呂とかにやたら詳しいかと思えば、次はいきなり松下村塾、吉田松陰の話になるというような。なんでそこを選んだかわからないですが、潤沢に選ばせてもらえないときのギリギリの決断力で、そこを選びました。全集を全部買ってもらえるわけではないぶん、活字に飢えていたというのはあったかもしれないですね。

トイレに行ったら『文ナントカ春秋』を開くのが習慣でした

―― まさに、この一冊ですね。

西買ってもらった本はなんべんも繰り返し読みましたね。あと、なんでだかわからないですけど、親父がトイレに『文藝春秋』を必ず置いていたんです。月刊の分厚い方の。

―― それ、めちゃめちゃおもしろいですね。『文藝春秋』は公務員の方の購買率が異様に高いんだそうです。しかも地方の。それが証明されるお話ですね。

西そうかもしれないですね。小学生だから、「藝」の字すら読めないですけど。なにせ活字に飢えているので、しゃがんだら、分厚い『文ナントカ春秋』を開くというのが習慣になりました。

―― 習慣になったんですね。

第69回 本屋さんと私

『小商いのすすめ』(平川克美、ミシマ社)

西だから、そういうのって、受け継ぐんですよね。今でもトイレに本を置いています。ちょっと前までは『小商いのすすめ』がトイレ本でした。

―― おお~、トイレ以外でも読んでいただけると嬉しいですが(笑)、嬉しいです!

西変な話ですが、会社のトイレでも、おっきいほうで入るときも、必ず本を持っていくんですよ。本がないとしゃがめない(笑)

―― えっ、そうなんですか! セットになってらっしゃるんですね。

西習慣で。なんかね、座っている間何もしないのが損した気分になるんです。電車とか、トイレがすごく本を読むにはいい気がするんですよね。本だけを読むときって、むしろ気が散りませんか? コーヒー入れなきゃとか、この綿ぼこりが気になるとか。ソファーに座って読むよりも、電車やトイレなどで意識のなかに3割ぐらいノイズが入っている状態で読む方が集中できる気がします。

―― ソファーって落ち着かないですよね。

西もぞもぞしますよね。あれ、なんでしょうね。今日も、仕事と仕事の間の15分くらいの限られた時間で本を読んでいたんですけど、すっごい集中できるんですよね。危うく番組の本番に遅れそうになりました(笑)

―― ノイズと本。いい読書術ですね。とても納得できます。

想像力を総動員して、深夜ラジオにはまっていました

―― 『辺境ラジオ』の「一番のパートナーは『リスナーの想像力』です」というのは本当にその通りだな、と思いました。

西ラジオって、そういうメディアなんですよね。想像力を駆使する余地が残されている。中学生なんかにとって、深夜ラジオにおけるちょっとしたエロトークほど興奮するものはないんです。なんでもすぐに、インターネットなどで映像として見ることができてしまう今の子たちは、ある意味ではかわいそうだとすら思います。

―― 想像力を喚起できないですもんね。

西そうです。「それはどんなものなんだろう!」というあの感じ。ラジオのスタジオのなかだって、見えないんだから想像するしかないわけですよ。

今は廃刊になってしまいましたが『ぴあ』っていう雑誌があったでしょう。関根勤さんと小堺一機さんの深夜ラジオに沢口靖子さんが遊びに来たことがあったんです。そのとき、関根さんと小堺さんのふたりのトークが深夜ラジオ独特のノリで、沢口さんがついていけなくなって、途中でスタジオに置いてあった、『ぴあ』を読み始めた。

それを見たふたりが「『ぴあ』に負けた」と言っていて。けれど、岡山に『ぴあ』ってないんです。だって、東京版にしても関西版にしても、掲載されているコンサート、ライブ情報なんて岡山にいたらあんまり意味がないので。

―― そっか! 岡山には『ぴあ』なかったのかぁ・・・。

西手には入ったのかもしれないけど、僕のまわりじゃ見なかった。想像で、「『ぴあ』ってなんだろう。このラジオよりおもしろいものがあるらしい」「それを沢口靖子さんが退屈そうに読んでるらしい」と、スタジオのなかを想像するわけですよ。

実際に見れば、なんの面白みもない風景かもしれないけど、想像するとヘンに楽しい。また、ハガキ職人っていう人たちがいて、すっごいおもしろいネタを書いてくるわけです。それで谷村新司さんや、小堺さんが、笑っていて、何がおもしろいかはわからないけれど、でも、おもしろいことはわかる。何を話しているかわからないけれど、どうやら文脈上、エッチな話だったらしいとか。

けれども、知らないから、どうエッチなのかすらわからない。そこで想像するっていう、ラジオ独特の「一番のパートナーは『リスナーの想像力』です」というのは、本当にその通りなんですよ!

―― うん(笑) 実感のこもり具合が違いますね。

西そうです。実感なんです。僕が想像力を総動員してましたから。

―― ラジオに愛があってのお言葉ですよね。

西ラジオに夢中になったことが、放送メディアに対する入り口になったので。「辺境ラジオ」をやるときも、内田先生と名越先生とでやるんだったら、テレビはとてもじゃないけど考えられない。ラジオしかないし、絶対おもしろいと思ったので。

第69回 本屋さんと私

―― その感覚はラジオを愛する西さんだからこその直感ですよね。すばらしいです。

西いやいや、ありがとうございます。それが今や『辺境ラジオ』として本屋さんに並んでたりというのは変な気分ですよ。


(次週に続きます!)

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西靖(にし・やすし)

1971年岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。1994年、アナウンサーとして毎日放送の入社。同社の夕方の人気番組である「ちちんぷいぷい」では、2011年から総合司会を務めている。毎日放送創立60周年記念企画の一環で「60日間世界一周の旅」を敢行。その様子は『西靖の60日間世界一周旅の軌跡』(ぴあMOOK関西)として出版された。

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