本屋さんと私

第69回 本屋さんと私

『辺境ラジオ』(内田樹、名越康文、西靖、140B)

今月の「本屋さんと私」は、内田樹、名越康文、両氏との共著、『辺境ラジオ』(140B)を出版したばかりの、毎日放送・西靖アナウンサーにお話をうかがいしました。

関西圏を中心に放送される人気テレビ番組「ちちんぷいぷい」に出演し、2011年からは角淳一氏に代わるメインパーソナリティーとして活躍する西靖さん。関西のお茶の間では、知らない人はいないというほどの大人気で、街を歩くと必ず「西さん!」と声がかかるほどです。そんな西さんは、本、そしてラジオが大好き。書籍『辺境ラジオ』は西さんの本好きからはじまった、同名の不定期ラジオ番組を元にできています。

今回お送りする「本屋さんと私」第2回は、関西の人気アナウンサーとして活躍する、現在の西靖さんのお話です。西さんが感じる、東西アナウンサーの違いとは? 『辺境ラジオ』完成後のお話もうかがいました。

前回はこちら!

(聞き手:三島邦弘、文:庄司美乃里)

第70回 関西のアナウンサーだからこその「知らないポジション」

2012.12.12更新

関西のアナウンサーは知らない側のポジションを求められる

本屋さんと私 第70回

―― 僭越ながら、西さんてすごい勉強家ですよね。『辺境ラジオ』を読んでいても、感じました。

西とんでもないです。両先生に比べたら、全然不勉強です。お二人ともお忙しいのにいつそんなに本を読まれているんだろうと思うくらい読んでますから。

―― いやいや、両先生は専門家なので、特別です。でも、そこに入って、話しを引き出して、必要なタイミングで止まって、流すところは流して、というタイミングが絶妙だと思いました。僕らが疑問に思っていて、聞けないところを両先生に聞いてくださるところとか。

西ありがとうございます。あの、「辺境ラジオ」の3人のやり取りで言うと、関西のアナウンサーに求められることは、そういうことのような気がするんです。

―― それおもしろいですね、ぜひ伺いたいです。

西一般的に言って、アナウンサーは、みなさんの知らないことをお伝えする、という「アンカーマン」の役割がメインです。私がすべてを引き受けて伝えます、つまり、「このことについてわたしは知っています。知ってるサイドの最後の人間です」という意味でのアンカーですよね。でも、関西のアナウンサーは、「俺も知らんねん」という、「知らないポジション」で番組を進めていくことをしばしば求められるというか。

―― なるほど。

西この、知ってるサイドと知らないサイドの境界線を超える技術を身につけるって、僕のなかではすごく大変で。僕の出身の岡山は、田舎だし、建前社会ですから、関西とはぜんっぜん! 違うんです。関西のように、カメラの前で自分の旦那をけちょんけちょんに言うなんて、ちょっと考えにくいわけです。「うちのだんなホンマあかんねん、頼りないわ~」とか楽しそうにおっしゃるでしょ(笑) 岡山育ちの私の感覚ではすごい違和感があった。

それと同様に、建前を大事にする社会の田舎では、人前でしゃべる立場の人間が「知りません」とはなかなか言わない。僕も元々は、放送記者になりたかったいうこともあって、知りたい、知っている人間という立場に立ちたいという欲望は強いと思うんです。本当は人にものを教えるという偉そうな立場で「知ってる?」って言いたい。つまりは本質的にはイヤなやつなんですよ、きっと(笑)

でも、「知らんねん、なんで、なんで? その話もっと聞かせてくださいよ」というサイドに回れると、会話そのものが楽しくなってくるんですよね。そういうことを、関西のアナウンサーって発揮できる場面が多いような気がするんです。なかなか東京のアナウンサーが、「へ、うそぉ」っていわないでしょ。

―― (笑) たしかに、あんまり聞いたことない。アナウンサーにかぎらず、東京ってそういう街かもしれないですね。「知らない、わからない」ってことを言わない空気感があるというか。

西うーん。ある種、それはそれで楽かもしれないですけどね。知らない人はほっといてもらえるというね。

―― 絡んではこない。

西そう。関西はそこに生まれるカラミを愛するので。「うっそーしらんのーっ?」っていう。でも、知ってる人同士が知識を開陳しあうよりは、知らない人が「ほな教えて」といっているほうが健全だと思います。

―― ほんとうに。なんだか気持ちいいですよね

西いいですよね。辺境ラジオは取り合わせがおもしろいと言われるとしたら、内田先生と名越先生の前で、「知らない人間」が必要だったのかもしれませんね。

―― そうでないと成り立たないし、それがメディアのあるべき姿だと思います。西さんがいて、初めて成立していると思いました。

本屋さんと私 第70回

西よく、「話を引き出してますね」とか言われるのですが、そんなつもりは全然ないんですよ。だって本当に知らないんだもん(笑)

―― でも、西さんがいないと、両先生もここまで話していないんじゃないでしょうか。すくなくとも、「こんなふう」な形での面白さにはなってなかったはずです。

西ありがとうございます。辺境ラジオをやっていて、一番の驚きは名越先生のドライブ感でした。名越先生は、よくテレビに出ている方なので、テレビ独特の時間のサイズ感とか、よくわかってらっしゃるんです。「ここは1分でまとめなきゃ」とか「この話をしちゃうと、ちょっと話がそれちゃうな」ということについて、テレビのなかでは抑制を効かせていらっしゃる気がします。でも、辺境ラジオのときは、内田先生よりも名越先生のほうが、グウァーって行っちゃうことがよくあるんです。

―― なるほどなるほど~、おもしろいですね。

西それは、内田先生や、ラジオに対する信頼感があるのかもしれないなと。しかも、さらに興味深いのは、そういうときの名越先生は、おっしゃってることがグイグイと深まっていくせいか、その場でリアルタイムで聴いていると、理解できないことがままあるんです。でも、活字になって読み返したり、何度もポッドキャストなどで聴いていると、ある瞬間に名越先生に追いつくことがあるんですよ。

内田先生はスパッと、きれいに理論を立ててお話しされるので、その場でなるほど! と唸るんですが、名越先生のことばはあとから、はっ! っとわかることがたまにあるんです。

これは、その場に居合わせている僕だけが感じている不思議な瞬間だと思います。時間をかけて置いておいたほうが、後から深くわかるということがある。私の立場だから味わえる、役得だと思います。

書籍『辺境ラジオ』はラジオとは違う味が出せた

第70回 本屋さんと私

『西靖の60日間世界一周 旅の軌跡』(西靖、ぴあ)

―― 『辺境ラジオ』と『西靖の60日間世界一周 旅の軌跡』(ぴあMOOK関西)では思い入れは違いますか。

西『世界一周』が本になったというのは嬉しいんですけど、基本的には番組の企画で、60日かけて世界一周をした体験がダイジェストになっているものです。ですから、「切り取っていただいたもの」っていうか。テレビで見ていただいた人には楽しんでいただける内容だと思います。

『辺境ラジオ』は詰め込んだものという感じです。『世界一周』を買って読んでいただいた方には申し訳ないですが、僕としては、『辺境ラジオ』がかたちになった感慨とはだいぶ違いますね。これは私がつくりましたという感じが強いです。

―― 『辺境ラジオ』はめっちゃ売れだしてますね。近くの紀伊國屋書店さんでも、ぶわーっと並んでいました。

西ありがたいです。やっぱり気になるので、ちょくちょく見に行きました(笑)

―― どうでした?

西めちゃくちゃ売れている実感はわからなくて。嬉しいなとは思うのですが。僕ね、自分の番組の録画を見るのはだいっ嫌いなんです。アラばかりに目がいって、気が滅入っちゃう。仕事として、次によりよい放送をするために我慢して見ますけど。放送に出ている人はそういう人が多いんじゃないかと思います。

でも、この本はね、何度も読んでみるんです。この本は嬉しい。何度も手にしています。すごく好きです。まあ、コンテンツのほとんどが内田先生、名越先生の発言ですし、出版がほぼ初めての経験ですから、自分の出番のところにアラがあっても気づいてないのかもしれないですね(笑)

―― 店頭に置かれているのを見るのってどんな感じですか。

西妙な気恥ずかしさがあります。でも同時にすごくこの本に納得しているところもあって。名越先生と内田先生とご一緒できたというのはもちろんですし、ラジオもおもしろいと思っているし、また、ラジオとは違う味が出たなとも思っているし、自分で読んでおもしろいです。

―― だって、おもしろいですもん(笑)

第70回 本屋さんと私

左:『辺境ラジオ』
右:『西靖の60日間世界一周 旅の軌跡』

西『世界一周』は、僕が毎日つけた日記をベースにしてるんです。個人的には思い入れの深い国やシーンでも、その部分は編集で落とされちゃったというところもあります。そういう意味では、ちょっと残念な部分も残ってはいるんです。でも、自分の旅のどの部分を切り取るかは、本を作る方にお任せしたほうがいいだろうという割り切りみたいなのはあって。

でも、『辺境ラジオ』は、本当に納得していて。納得してるから、手にとってほしい。それと同時に、納得してるから、変な話、やたらめったら売れなくても、それはそれでいいっていうのがもあるんです。誰がなんと言おうとおもしろいという変な確信がある。本はスピンオフ的なもので、望外の喜びとして生まれたもので、本体はラジオだと思ってますしね。

―― 確かに、そうですね。

西『世界一周』は、いろんな人の手を借りてつくったものでしたから、たくさん売れると嬉しいな、と思ったんです。僕に関わってくれたみんなが喜ぶと思うから。『辺境ラジオ』は、ああ、そやなと深く思う人がひとりでも多いといいなと思います。バカみたいに売れることは期待していません。でも、結果としてはかなり普遍性のあるメッセージを発信していると思うんですけどね。

―― まさに、そういう本になってますよね。どの人にも、響く部分があって、それが大きな発見になる部分が多いと思います。出会えて良かった本だと僕も本当に思いました。

西ありがとうございます、嬉しいなぁ。

住んでいる人が機嫌が良いということと、経済的に熱狂しているということはリンクしない

―― 「辺境ラジオ」をやっていくなかで、変わったことはありますか。

西内田先生とお話をするなかで、最大の転換は、「大阪を元気に」論の見方が変わった、ということなんです。僕は岡山から大阪に来たときに、日本で2番目に大きい町にきたなあと思っていた。でも、大阪の人が「昔はよかってんで」という話ばかりするのに違和感があったんです。

―― なるほどなぁ。

西『辺境ラジオ』の巻末で茂木さんもおっしゃってますが、放送業界も、東京の一極集中のヒエラルキーが強いところなんです。大阪も、独特の番組をつくっているんだけれども、なんかね、東京に対する妙なコンプレックスがあって。

―― 「東京と比べて、こっちは」という語り口ですね。

西そんななかで、「経済的にハイパーな状態であるということ、熱狂しているということと、住んでいる人が機嫌が良いということとは必ずしもリンクはしない」ということを内田先生が言われてたのを聞いてから、辺境ラジオ以外の番組でも、ネタの選び方も展開の仕方もずいぶん変わりました。

第70回 本屋さんと私

元気と言う言葉はとても便利で、メディアの人間は簡単に使っちゃうんですけど、経済というひとつの物差ししかない状態は、ある意味、機嫌がよくなるチャンスを見逃してるともいえるわけで。

―― すばらしい言葉ですね。

西僕にとってはすごくありがたいことで、ひとつの軸になっていることです。大きい出来事ですね。


(次週に続きます!)

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西靖(にし・やすし)

1971年岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。1994年、アナウンサーとして毎日放送の入社。同社の夕方の人気番組である「ちちんぷいぷい」では、2011年から総合司会を務めている。毎日放送創立60周年記念企画の一環で「60日間世界一周の旅」を敢行。その様子は『西靖の60日間世界一周旅の軌跡』(ぴあMOOK関西)として出版された。

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