本屋さんと私

第69回 本屋さんと私

『辺境ラジオ』(内田樹、名越康文、西靖、140B)

今月の「本屋さんと私」は、内田樹、名越康文、両氏との共著、『辺境ラジオ』(140B)を出版したばかりの、毎日放送・西靖アナウンサーにお話をうかがいしました。

関西圏を中心に放送される人気テレビ番組「ちちんぷいぷい」に出演し、2011年からは角淳一氏に代わるメインパーソナリティーとして活躍する西靖さん。関西のお茶の間では、知らない人はいないというほどの大人気で、街を歩くと必ず「西さん!」と声がかかるほどです。そんな西さんは、本、そしてラジオが大好き。書籍『辺境ラジオ』は西さんの本好きからはじまった、同名の不定期ラジオ番組を元にできています。

今回が最後となる、「本屋さんと私」(西靖さん編)第3回は、西さんならではの、本と本屋さんとのつきあいかた方のお話です。本屋さんは待ち合わせ場所? 読書におすすめの場所はテントのなか? さあ、いったいどんなお話がとびだすのでしょう。

前回はこちら!

(聞き手:三島邦弘、文:庄司美乃里)

第71回 待ち合わせは本屋さん。そして、読書はテントのなかで

2012.12.19更新

デートの待ち合わせは本屋さんで

第71回 本屋さんと私

―― 西さんならではの本屋さんとのつきあい方ってありますか。

西僕ね、本屋さんで待ち合わせするのがすごい好きなんです。

―― そうですか、へぇー。

西そのとき付き合っている彼女と待ち合わせをするとして、時間をきっちり決めるのではなくて「7時ぐらいになると思う」と伝えておく。それで早く着いた方が本屋さんのなかにいるっていうのはよくないですか。

―― めっちゃいいですね!

西でしょう? それをテレビで言ったら、意味わからんと言われましたけれど。いいですよね。すごくすてきなんです。携帯電話で、「どこにいる?」って聞くのではなくて、「きっと、あの辺にいるやろうな」と察する。

―― ものすごくいいですよ、それ。

西いいと思うんですよ。例えば、大阪の紀伊國屋書店さんなんて、ワンフロアですごく広いじゃないですか。それで、ちょっと遅れますっていうときに、「あの子のことやから、これ系の本が好きやからこの辺におるんちゃうかな」とか。僕だったら、「趣味の釣り雑誌のところにいるにちがいない」って後ろから彼女にポンポンって肩叩かれて、「なんでわかったの」と出会う、とかね。そんな瞬間、いいじゃないですか。そんなことを言っているので、結婚できないのかもしれないですけど(笑)

―― 『辺境ラジオ』のなかでも内田先生の発言でありますよね。「西さんは・・・」って(笑)

西いや、本の好みが合致しなきゃイヤだ、なんて言ってるわけじゃないんですよ。読んでる本が想像できるというのは、なんか素敵な関係だと思うんですけどねぇ。夢見すぎですかね。

作家さん全著作読みが好き

第71回 本屋さんと私

―― 西さんはどんなふうに本を読みますか?

西小説に関しては、ひとりの作家さんを集中して読むことが多いです。その人の著作を全部読むということが多いです。小学校の高学年から中学生にかけての星新一さんが最初だったと思います。

作品が多すぎて達成できない人も多いんですけどね。社会人になってからだと、村上春樹さんとか高村薫さんとか伊坂幸太郎さん。あとは司馬遼太郎さん。僕ら世代の男は好きですよね。『燃えよ剣』を読んだときに、「これはいい、全部読む」と決めて。

―― 燃えますよね。

第71回 本屋さんと私

大人のいない国~成熟社会の未成熟なあなた』(鷲田清一、内田樹、プレジデント社)

西小説家ではないですけど、内田樹先生の本もほぼ全部読ませていただきました。内田先生は本を出されるペースが早いのでついていくのがたいへんですけど(笑) 鷲田清一先生が大阪大学の総長だったときに、鷲田先生にインタビューすることになって。

そのときに、事前に鷲田先生の著書を何冊か読んだんです。そのなかに内田先生との対談を書籍化したものがあったんです(『大人のいない国~成熟社会の未成熟なあなた』)。なるほど、こんな角度からのモノの見方があるのか、と唸っちゃいまして。

―― いつも行ってらっしゃる本屋さんはありますか。

西うーんと、そうですね。最近は、欲しい本というか、調べ物や仕事のために本を買うことが多くて、大きい本屋さんが多くなってしまいますね。それでもなければアマゾンで。でも、おすすめの本屋さんは、会社の近所にあるスタンダードブックストアという本屋さんです。面積は大きくはないですけど、提案型というか、こんな感じでやっていらっしゃるところを応援したいなと思いますし、同じ本ならネットではなく本屋さんで買いたいなというのはあります。

―― こじつけかもしれないですけど、作家全部読みっていうのは、子どもの時のお父さんの一点買いの反動じゃないかな、と思うんですが。

西なるほど。あるかもかもしれないですね。小中学生のときは、本を読むのがすごい好きで。本当は高校時代が一番読みたい時期だったと思うんですけど、受験のために、本を読む時間がなくなって。ひとつ下に妹がいることもあって、親から「浪人は絶対許さん」と言われていて、くそぉ! と思ってまじめに勉強していました。読書からは遠ざかってたなぁ。

だから、読書に集中したのは、小学校から中学校のあたまくらいまで、そして社会人になってからと波がありました。また、思うようには買ってもらえなかったのが、全巻制覇みたいな変なかたちで噴出したのかもしれません。

山に行って、テントのなかでやけに都会的な本を読む

―― 他の趣味と読書はつながっていますか。

西私、渓流のフライフィッシングとスノーボードが趣味なんです。どちらも山に入っていく。それで言うと、山岳小説系っていうジャンルがあるんですよね。狭い範囲なんですけど、面白い本が多い。あの、服部文祥さんって知っていますか。

―― ああ! サバイバル登山家の。

第71回 本屋さんと私

『サバイバル登山家』(服部文祥、みすず書房)

西そう。すっごいユニークな人で、彼は、食料とかできるだけ持たずに山に入って、木の実を取ったりすることで食料を調達するんです。そのなかに、釣りのシーンがあるからということで、『サバイバル登山家』を釣り仲間にすすめられて、買ったんです。
そしたら、しびれる書き出しだったんです。僕ら世代にとってガツンときた。「気がついたら普通だった」という。

僕たちは、親父たちが全共闘、学生運動世代、さらに言えば高度経済成長期を担っていた世代で、より豊かにっていうのは達成された世の中に生れ落ちてるわけです。仕事でも、放送文化の黎明期は過ぎてしまっていて、どんな企画をやろうとしても、誰かの手垢がついていたり、足跡が残っていたりする。未開の地や未踏峰を探すのに苦労するというかね。

―― やっぱりそうなんですか。

西その、満たされちゃってることの不満って持って行き場がなくて。贅沢な悩みなのはわかってますから。それだけに、この悩みって深くって。で、そこからどっちにいくかというときに、服部文祥さんという人は、あえて何も持たずに山に入っていくという、言ってしまえば極端な方法に走る。

極端なのはわかってるんだけど、変に「気がついたら普通だった」っていう書き出しにやられちゃったものだから、シンクロしちゃって、おもしろくって。

―― それは興味深いですね。

西そこから、新田二郎さんの『強力伝』とか、『孤高の人』『八甲田山 死の彷徨』とか井上靖さんの『氷壁』沢木耕太郎さんの『凍』なんかを読み漁りました。小説家ではなく登山家本人の著書だと山野井泰史さんの『垂直の記憶』、あのあたりがすっごくおもしろくって。

今は、夢枕獏さんが書かれている『神々の山嶺』というのを買って置いてあるんです。仕事で読まなきゃいけない本が終わったら読もうと思って。余談ですけど、本屋さんじゃなくて、「好日山荘」とか、登山用品を扱っているショップに行くと山地図とちょっとした山小説が置いてあるんです。あそこは楽しいですよ。

―― へぇー。それは、至福の瞬間ですね。

西そうです。そこで、「装備の話とかじゃなくて、小説は・・・」と探すのが楽しいんです。

―― そこにちゃんと置いてあるんですね。

西山はおもしろいですよ。テントのなかでランタンで本を読むとか、すごく素敵ですよ。そこに全然関係ない本を読むんです。

―― テントで読んで印象的だった本ってありますか?

西例えば高村薫さんとか、合いますね。逃げてる状況とか。こないだ読んだのは『神の火』。原発事故の後、改めて読み直そうと思って読んでたんですけど。高村薫さんって、取材をガーッとして、こまかく描写されるでしょう。あの緻密な描写をテントのなかで読んでいると、なんか合いましたね。

―― はぁー。おもしろいなぁ。

西テントのなかもね、変に集中力が高まるというか。トイレとか、通勤電車に匹敵するくらいです。

―― なるほど、密室系ですね。

西キャンプって夜が早いんです。夜九時くらいにはやることがなくなって。一通り酒も飲んだしな、とか言って、寝袋にもぐりこんで本を読むんです。あんまり荷物は増やせないから一冊だけ持っていった本を。結構賭けですよね。

―― その一冊はどうやって選ぶのですか。

西基本的にはそのとき読んでいる本を持っていくんですけど。冒険小説とか、パカーンと明るくて前向きなものはかえって合わないかもしれないですね。

―― テントで暗いモノを読む。それいいですね。

西なんだろうな。じっとりしたような感じやつを。

待ち合わせコーナーをつくってほしい

―― 最後に西さんが本屋さんに期待すること、メッセージをひとことお願いします。

西なんでしょうねぇ。本屋さん・・・。うーん、待ち合わせコーナーをつくってほしいですね。待ち合わせに最適なコーナー。けっこうそこ、売れますよ。

―― いいですね。僕も売れると思います。

西僕のように待ち合わせで来ている人が、きっといると思うんですよね。時間つぶしとか。

―― その観点で棚をつくっている本屋さんってないんじゃないでしょうか。おもしろいと思います。

西売れ筋を置くというのとは違った新しい観点が生まれそうですよね。

―― どんな本を置きましょうか。

西入り口に近いところですよね、きっと。センスを問われますねぇ。
大型書店でいえば、ふつうは入り口に女性雑誌とか、ビジネス書とか、話題の新刊がドバーッと置いてある。確かにその配置はわかるし、それが一番効率がいいんでしょうけど、なんかこう、本屋さんの意思が見えるコーナーがあるといいですね。

―― 見てみたいですね。待ち合わせコーナーにどんな本が置いてあるのか。

西彼女を待ちながらこの本でもどうですか、良かったら買っていってというコーナーって、すごくいいなと思います。ショートショートなのか、雑学本なのか、写真集なのか・・・。きっと、みんな模索しているんでしょうけどね。だから、なになにフェアとかやるんでしょうけど。本屋さんで、そういう企画っていいと思うんです。

―― それおもしろい。西さん、本屋さんもできますね!

本屋さんと私 第71回

取材のお礼にミシマ社Tシャツをプレゼント

西考えてみれば、ミシマ社さんの『THE BOOKS  365人の本屋さんがどうしても届けたい「この一冊」』に通じるところがありそうですね。

売れる本とは別に「売りたい」ってきっとあると思うんです。そういう、テーマ性のあるコーナーを提案してもらえたらなあ、と思います。

―― ありがとうございました!

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西靖(にし・やすし)

1971年岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。1994年、アナウンサーとして毎日放送の入社。同社の夕方の人気番組である「ちちんぷいぷい」では、2011年から総合司会を務めている。毎日放送創立60周年記念企画の一環で「60日間世界一周の旅」を敢行。その様子は『西靖の60日間世界一周旅の軌跡』(ぴあMOOK関西)として出版された。

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