本屋さんと私

昨年12月9日、ミシマ社の本屋さんにて行われた「第5回寺子屋ミシマ社」のゲストは、紀伊國屋書店梅田本店の仕入課・課長、百々典孝(どど・のりたか)さん。
ミシマ社社員はもちろん、京都オフィスにいる仕掛け屋ジュニアたちもみんな大好きな書店員さんです。
というのも、百々さんが本をオススメすると、なぜだかどうしても読みたくなる! なぜか本屋さんに走ってしまう! そんな魔法を使う書店員さんなのです。
そんな百々さんの本の話を多くの人にも聞いてもらいたい、という思いから「2012年 百々大賞」を決めていただくことになりました!

今回の「本屋さんと私」は、そんな百々さんの本と本屋の話が満載の「第5回寺子屋ミシマ社」の様子を3回に分けてレポートいたします。
第一回は、いままでつくってきた本屋さんのお仕事についてお話しされましたが、第二回の今回はそんな百々さんの、大切な本屋さんとの思い出のお話です。

前回はこちら

(聞き手:三島邦弘、文:新谷有里)

第73回 第5回寺子屋ミシマ社番外編 今日は、百々ナイト! ~忘れられない本屋さん

2013.02.14更新

ガッツだけじゃあかんよ! ミシマくん

ミシマ僕が百々さんと最初に会ったのは、僕が東京の自由が丘から、大阪に初出張してきたときでした。その最初のとき、集まったメンバーみんなに、「おい、ミシマ社の本絶対売るぞ!」ということを言ってくださって・・・。

百々いや、だってびっくりしました。出版社を立ち上げるって、当時なかったですよ。好きな本出版したいから出版社を立ち上げたなんて。お金もめちゃくちゃいるし。なのに、まだ本も出てへんうちから出張しに来るて! 

ミシマ(笑)

百々おかしいんちゃうか!? と。

ミシマ(笑)

百々いや、ほんま! 出張代、考えぇや!

ミシマ百々さん、いつもこの心配してくれはる。交通費の!(笑)

百々ははははは。

第73回 第5回寺子屋ミシマ社番外編 今日は、百々ナイト! ~忘れられない本屋さん

『謎の会社 世界を変える。』(須田将啓・田中禎人)

ミシマ『謎の会社 世界を変える。』って本を出した時も、著者の須田さんと田中さんと、大阪でイベントしよう! としたときに、百々さんなら「よっしゃあ!」って言ってくれると思って電話したら、第一声で、「ミシマくん、それ出張代どうすんの!?」って!!

一同(笑)

ミシマ「冷静になれ!」とか!「来んでええ!」とか言われて!(笑)

一同(爆笑)

ミシマほんで「営業のワタナベと、仕掛け屋のキムラも連れて行きます!」って言ったら、「連れて来んでええっ!!」って(笑)。

一同(爆笑)

百々だって結構バカにならないよ。往復新幹線代、宿泊費、食事・・・。

ミシマはい、バカにならないです。

百々はっはっはっはっ。

ミシマガッツだけじゃあかんぞ! と、百々さんにはいつも諭されるっていう・・・。

もう僕が次読むもん、決められてたんです。その本屋で。

第73回 第5回寺子屋ミシマ社番外編 今日は、百々ナイト! ~忘れられない本屋さん

ミシマそもそも、百々さんが、本屋さんになろうと思ったんはいつですか?

百々もともと本が好きやったんですけど、家族の誰も本を読まなかったんです。よく、お父さんやお母さんやお姉ちゃんの本読んで面白くなって、それで自分も本買って本棚に増やしていって、とか聞くんですけど、そういうの聞く度に羨ましいなあ、と。

ミシマへえ。

百々僕の家なんて、本棚すらあったんかなあ? っていうくらい。でも、なんでかわからないんですけど、幼稚園のときからクラスにある本は全部読んで、歳上のクラスの本も全部読んで回る、みたいな子やったらしいです。
あのね、それでね。実は僕、『ズッコケ3人組』の第一巻の初版持ってるんです。『ズッコケ3人組』の第一巻を初版で、自分で選んで買った俺って天才でしょ?(笑)

ミシマほんとですねえ。すごい嗅覚です。

百々僕の周りにあった本屋は、商店街のなかでおじいちゃんとおばあちゃんがふたりでやってるようなちっさい書店です。まあだから、たいてい欲しいと思ってたやつはないんです。

で、小学校4年のとき、そこで全8巻ある吉川英治さんの『三国志』の1巻を買ったんですね。当時の僕のおこづかいは500円だったので、毎月、本を一冊しか買えない。『三国志』の2巻を買えるのは1カ月後です。でもね、楽しみにして次の月行っても、(本屋に)ないんですよ、2巻目が。
「なんでないねん!!」って、小学生の僕は、またその次の日も行くんです。・・・まあでも、次の日やから・・・ないんです。

ミシマまあ、ないですよね(笑)。

百々で、その次の日も行っても・・・まあ、ないんです。

ミシマないですねえ。

百々いまやったら、「はよ補充しとけよ」って話ですけど。

一同(笑)

百々でも、そんときにお店の人が気づいてくれたんです。この坊主、毎日毎日自転車かっとばして来てがっかりして帰っていくな、って。で、「2巻がいつまでたってもないんです」と、今で言えば「次いつ仕入れんねん」みたいなことを言ったんですよ。

ミシマふふふふ。

百々そしたら、じゃあ入れとくよ、と言われまして。4、5日したら2巻が置いてありました。

ミシマほう。

百々で、ひと月が経ち、3巻買うために、また500円玉握りしめてチャリンコで行ったら・・・ないんですよ。

ミシマほう。また。

百々ああ、ないやん! って思ってたら、おっちゃんが、「いや、こっちや。」って手招きしてくれて、で、レジのカウンターの後ろにずらっと3・4・5・6・7・8って・・・。

一同ふわああああ。

百々もうめちゃくちゃ嬉しくてね。

ミシマ取っといてくれたんですね。

百々名前も言ってないし、どこの誰かも知らん坊主やのに置いててくれてて。で、最後に8巻まで買ったときに、おっちゃんに「次何読むの?」って聞かれました。でも全然決めてないし知らないんで、そしたらおっちゃんが、「吉川英治さんやったら、『平家物語』。これ読みっ!」って。で、次の月行ったら、カウンターの奥がもう全部『平家物語』になってたんです(笑)。

ミシマうわはっはは。へええ〜すごい。

百々もうその店で、僕が次読むもん決められてしもてたんですよ。あのときの体験が結構強烈でねえ。

ミシマいや、それ強烈ですねえ。

百々あれから読み返したことはないけど、いまでも『三国志』と『平家物語』は内容とか登場人物とかだいたい言えますもん。そんくらい、面白かったしインパクトあったんですよねえ。あれがなかったら本屋になってないんじゃないかなあ。

ミシマそれ、すごいいい話ですねえ。

百々でしょう? みんなに作り話やろって言われるけど。

ミシマ大人になってからそのお店に行ったことあります?

百々あ、もう潰れてました。

ミシマ残念。

百々花屋さんになってました。でもその花屋さん見ても、すっごい懐かしい気持ちになります。たぶん『ズッコケ3人組』の初版買ったんもそこですし。

ミシマいまの職場って、そことは全然規模が違うじゃないですか。でも、そういう体験がいま生きてるなっていうのはあるんですか?

第73回 第5回寺子屋ミシマ社番外編 今日は、百々ナイト! ~忘れられない本屋さん

『大阪アースダイバー』(中沢新一、講談社)

百々さっきの『大阪アースダイバー』のような、「この本は人に届けるべきだな! これはお客さんの人生が変わるような一冊になるな!」っていう本が、直感的にわかることかな。

ミシマはああ。

百々すっごい売れても、嬉しくない本もあるんですよ。

ミシマ売上げはつくれても。

百々そうですね。売上げをつくることができる本はあっても、人の好奇心を変えることができる本は限られています。

ミシマそれは、百々さんのなかで、せっかく売るなら街の読者を育てたいってことですよね。

百々そうですね。それができるのはこの本やな、っていうのを理屈抜きに直感的に感じることができます。

ミシマなるほどなあ。やっぱりそれは意味もわからんままおっちゃんに『平家物語』勧められて、結果良かったってのが宿ってるからですねえ。

百々多分ねえ。


(小学生だった百々さんの、強烈な本屋さん体験。こういうことがあっていまの百々さんがあるんですねえ。
さあ、いよいよ次回はそんな百々さんが2012年最もオススメする本、「百々大賞」の発表です!)

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百々典孝(どど・のりたか)

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