本屋さんと私

コンゴに伝説の怪獣モケーレ・ムベンベを探しに行ったり、
タイで日本語教師を教えたり、多国籍な新聞社で働いたり・・・

高野秀行さんは「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、
それを面白おかしく書く」をモットーに、
世界のあらゆる辺境へ行かれているノンフィクション作家。
旅人を呼ぶ(!?)ミシマ社では、高野さんファンがいっぱいいます。

今月の「本屋さんと私」では、高野秀行さんの最新作『謎の独立国家 ソマリランド』の紹介を軸に、今まで読んで来た本や本屋さんとの付き合い方などをうかがいました。

第二回目の今回は、ぜひ皆さまに読んでいただきたい
最新刊『謎の独立国家 ソマリランド』についてのお話です。

(聞き手:林萌・星野友里、文:林萌、写真:星野友里)

第76回 謎の国ソマリランドへ

2013.04.09更新

本屋さんと私 高野秀行さん編

『謎の独立国家 ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』(本の雑誌社、2013年2月刊、2310円)

アフリカ大陸東端のソマリア半島にある、独立民主主義国家、ソマリランド。国際社会で正式に国として認められていないものの、独自に内線を終結し複数政党制により普通選挙を行っている。

本書は、2009年と2011年の二回にわたり日本でほとんど情報が皆無だったソマリランドと近隣エリアに高野さんが実際に行き、見聞きしたソマリ人の文化、国の仕組みを詳細に記した渾身のノンフィクション。

文化人類学的資料としての詳細なデータはもちろん、ソマリ人の文化のユニークさに驚かされる面白エピソードが満載です。


謎が謎を呼ぶソマリランド

―― 未知の国ソマリランドに惹かれた経緯からうかがえますか。

本屋さんと私 高野秀行さん編

高野独自に内戦を終結して平和になっている国家が、無政府状態のソマリアの中に突然出現してるということが不思議で、わからなかったですね。これは行かなきゃわからないと思って行ってみたところ、僕が想像していたよりもずっとちゃんとしていたわけですよ。

―― ちゃんとしていた?

高野街で銃を持った人もいないし、警察や軍隊も滅多に見ない。国連の介入も断って、伝統社会の長老や掟に沿って物事を解決していったという話をいろいろな人から聞くのですが、ぜんぶ一気にはわからない。実際に会って話すうちにどんどんわかっていくので、謎が謎を呼び、やめられなくなりました。

―― 個人の仕送りで国家が成り立っているなんて、信じられないです。

ベルベラ港の使用料や関税がソマリランド最大の収入源と聞いていたが、実際に見てみると、とても一国の経済を支える規模ではない。こんな港が十もあれば別だが。では、現在、ソマリランドは一体何の産業で成り立っているのか?
(略)
「海外からの送金だ」
「え?! あなたのことじゃなくて、ソマリランド経済の話だけど」
「だから、誰もが海外に家族や親族がいて、毎月送金してくる。それでみんな、暮らしている。政府には金がない。企業も産業もない。しょうがないじゃないか」
なんと、謎の独立国家にして奇跡の民主主義国家ソマリランドの財政基盤は、個人の「仕送り」だったのだ。(P.123より)

―― アフリカ大陸の人はみなゆっくりしているイメージでしたが、ソマリ人は「超速」というのもびっくりです。

高野本当にせっかちで、待てないんですよね。

「乗用車が私たちの横でキキーッと急停止し、運転席の若い娘が目を丸くして『チャイナ!』とこっちに叫ぶと、また急発進して土煙の向こうに消えた。彼らからすると、マウンテンゴリラやパンダが動物園から脱走しているみたいな感じなのか。
 それにしても、思ったことは何でも瞬時に言わないと気が済まず、しかも口に出せば一瞬で満足するようだ」(P.40より)

面白い、かつ実用的な本にしたかった

高野この本はぼくにとって集大成です。ノンフィクション作家として20年以上やってきて本も20冊以上書いているのですが、そうするといろんな知識や体験が重なってくるし、技術的にも上がってくるわけですよ。さすがに。

―― キーパーソンの捕まえ方、質問の仕方、すべて目的が明確で最短時間で最大限のことばを引き出されてますよね。

高野今回の本で目指したのは、とにかくソマリランドとソマリアの資料が日本にまったくないので、研究者やジャーナリストが基礎資料として使えるものにすること。間違ったものは出してはいけないので、勉強してそれに耐えるものを作らなくてはいけないと思っていたのがひとつ。

―― なるほど。

高野もうひとつは読んでいて面白いものを書こうと思いました。言ってみれば、一般の日本人はソマリアのことなんてぜんぜん関心がないし、知らなくていい。そういう人たちがこの本を読むとしたら、面白くなくてはいけないと思うんです。その中で書かれている出来事や物語が、何か人間にとって普遍的なものであるとき、日本人の読者でも面白いと思うわけですよね。それをがんばって両立させようと思って書きました。

―― それってすごく難しいことですよね。氏族(「高野さん」「三島さん」といった名字でつながる関係)を戦国時代の武将を例に「源氏」「奥州藤原氏」さらには「リアル北斗の拳」といったことばで補完し説明されますけれど、あの複雑さは、こういったたとえなしには理解できないと思います。

本屋さんと私 高野秀行さん編

高野あれねー。ソマリ人を説明するには氏族の話が肝だから避けて通れないし外せないわけでしょ。でも日本人の一般読者にはあまりにも難しいので、それをどう書くかは工夫して頭を使いましたね。

―― その氏族ごとの特性というか、日本でいうと関東人と関西人の違いのようなものが高野さんとのやりとりから垣間見えて、わかりやすかったです。

思考を停止させたくない

高野文化人類学的には、ただ「氏族があります」って説明すると思うんだけど、そもそもなぜ氏族があるのか。というところが知りたいんです。

―― その仕組み自体が謎ですものね。

高野すると、氏族っていうのは互助組織にもなっているし、ひとつの群れなので、そこから外れることになると処罰される。その中でみんな助け合って生きている、ということが、だんだん腑に落ちるんですよね。知識でわかることはわかっても、腑に落ちるのは違うと思うんです。実感を持ちたいなと思って。

―― 高野さんが腑に落ちるまで客観的かつ徹底的に調べてくださっているので、読むとどんどん答えがわかってスッキリします。

高野(ソマリア内で事実上独立した国家である)プントランドの海賊なんかもね、誰がどういうふうにして、どんな気持ちでやっているのか、ということが知りたいんです。前にテレビのニュースで海賊のことを報じていたのですが、キャスターが「貧困のせいですかね」とか言うわけですよ。

―― 神妙な面持ちで。

高野貧困のせいだったら、貧困がある地域全部で海賊がいなきゃおかしいわけですよ。そんなことはないじゃないですか。それは、思考が停止しているからだと思います。

―― 本の中でも何度か「理屈ではわかるけど、これは建前な感じがする」っておっしゃって、より調べたりされてますよね。ふつうの人は「そういうものなのか」で、納得してしまっていると思うんです。

高野そういう細部まで調べたことがちゃんと伝わっていたら、良かったです。


次回に続きます!

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高野秀行(たかの・ひでゆき)

1966年東京都生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部当時執筆した『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)でデビュー。
タイ国立チェンマイ大学日本語講師を経て、ノンフィクション作家に。
「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、誰も知らないものを探す。それをおもしろおかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。
主な著書に『アヘン王国潜入記』『巨流アマゾンを遡れ』『ミャンマーの柳生一族』『異国トーキョー漂流記』『アジア新聞屋台村』『腰痛探検家』(以上、集英社文庫)、『西南シルクロードは密林に消える』『怪獣記』(講談社文庫)、『イスラム飲酒紀行』(扶桑社)、『未来国家ブータン』(集英社)など。 『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)で第一回酒飲み書店員大賞を受賞。
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