本屋さんと私

コンゴに伝説の怪獣モケーレ・ムベンベを探しに行ったり、
タイで日本語教師を教えたり、多国籍な新聞社で働いたり・・・

高野秀行さんは「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、
それを面白おかしく書く」をモットーに、
世界のあらゆる辺境へ行かれているノンフィクション作家。
旅人を呼ぶ(!?)ミシマ社では、高野さんファンがいっぱいいます。

今月の「本屋さんと私」では、高野秀行さんの最新作『謎の独立国家 ソマリランド』の紹介を軸に、今まで読んで来た本や本屋さんとの付き合い方などをうかがいました。

第三回目の今回は、取材を通して見えてきた国民性についてのお話です。

(聞き手:林萌・星野友里、文:林萌、写真:星野友里)

第77回 ソマリ人は地道に働けない

2013.04.10更新

思ったことをそのまま怒鳴れるのは気持ちいい(笑)

―― 高野さんは東京ご出身ですが、ソマリランド的田舎の付き合い方にシンパシーを感じますか。

高野そうですね。思ったことをそのまま怒鳴れるのは、結構気持ちよくて(笑)

―― 旅の最後、ソマリ人化されてましたものね。

高野慣れるんですよね・・・。

「私はパッと立ち上がり、彼の鍋の中をのぞき込んだ。スパゲッティだった。私は若者の顔を見つめて「バスト!(スパゲッティ!)」と大声で言い、そのまま自分の椅子に戻って日記を書き始めた。 で、十秒くらいしてハッとしたのである。 『俺、今ソマリ人になってる!』 若者が何かを食べているなと気づいてから、鍋をのぞき、声をかけ、日記に戻るまで、何一つ考えていない。ただ目の前にあるものに反応したのだ。」(P.457)

―― ソマリランドでは「カート」と呼ばれている覚醒植物をみんなが常用し中毒になっていて、取材で話を聞き出すため高野さんも「カート宴会」に参加されたり暑さや不快感を吹き飛ばすためにも常時携行されてましたよね。どんな植物なんですか。

本屋さんと私 高野秀行さん編

高野イギリスとオランダ以外は非合法なんですよ。アフリカはだいじょうぶなんですけど。まあ、酒に似ているのですが頭が冴えるので眠気覚ましになりますね。

―― へー!

高野長距離トラックの運転手さんとか、夜勤の人、兵隊なども嚙んでました。ふつうの人は昼飯食ったあとに嚙むんですけど、すごいさわやかな気分になるんです。人恋しくなって、人と話したくなるんですよ。だから、あれがなかったらちょっと、ソマリ人の中には入っていけませんでしたね。

日本語でないと書けないこと

―― 一個の単語を聞けたか、話せたかで引き出せる内容が大きく変わってくると思うのですが、取材は主にソマリ語でされていたのでしょうか。

高野そこは葛藤があって、情報を知りたいだけなら、英語でやる方がいいんですよ。すごく下手な片言の現地の言葉でやりとりしていると、わけがわからなくなってきてしまうから。

―― そうですよね。

高野最初から通訳を通して英語で全部聞いた方が、情報量で言えば圧倒的に有利なんです。ただ僕は、情報じゃない実感みたいなものは、その人のネイティブの言葉にあるんじゃないかと思っているから、どこでもできるだけ現地の言葉でやろうとするんですけどね。どっちでやるか、葛藤があるんですよ。

―― この本レベルのソマリランドの情報って、ほかの国では共有されているのでしょうか。

高野最近のソマリについてBBCの女性記者が書いた本は出ていますが、私の本ほどはソマリ社会の内実について突っ込んでないですね。それはやっぱり、英語だと突っ込めないんですよ。ぼくもこの本が英訳されたら、南部ソマリアには行けないと思う。

―― というのは?

高野要するに、僕はソマリランドを認めてるから。英語で書くと、ソマリ人も読むので立場を問われるんですよ。「お前はどっちだ」って。いままでいくら書いても翻訳されるわけでもなく、世界で通用しないから損だなと思っていたのですが、それならいっそ、好きなことを書こうと思って。この本は舞台裏の話なんです。出てくる人の立場とか身の危険もあるので、英語ではまずここまで書けないと思いますよ。もし今後この本を翻訳するとしたら、かなり書き直さなければまずいでしょうね。

ポジティブなソマリ人

―― 海外の取材を重ねることで、逆に日本のことが見えてくることはありますか。

高野前から思っていたことなんですけど、日本人は「国」っていう言葉をよく使いますよね。とくに震災以後、それが強くなって「国は何をしているんだ」とか「これは国がやらなくてはいけない」とか言ってますけど、「なんでそんな国に頼るんだ?」って思いますね。

―― たしかに。

高野ソマリ人は、そもそも国に頼っていないんですよ。国を作ったり壊したりを日常的に繰り返していて、それをみんなの合意のもとに動かしている。そういうものがあった方がみんなの生活がうまくいく、だから国を作る。という話であって、国が先にあるわけじゃないんですよね。日本人はとにかく「国」という大きなもの、「お上」に頼ろうとしている。そこはもう、すごいひっかかりますね。

―― さきほどソマリ人は「超速」だというお話がありましたが、ほかに日本人との国民性の違いを感じましたか。

高野日本人は物事をネガティブに見る習慣があって、マイナス面にすごいフォーカスしますよね。ちょっとでも歪んでたり曲がってたりすると直そうとする癖は、だからこそ職人気質でいろんなものが工夫されて発達するんだけど、良いことには目が向かない。だからいつも「日本はだめだ」っていう話しかしないわけじゃない。

―― ぜんぶをまんべんなくできなきゃいけない圧力が高いのかもしれませんね。ソマリ人たちは、ほかの民族の人に「あいつはソマリ人だから地道な仕事はできない」って分類されちゃうぐらいだけど、彼らはそれをまったく気にしていないですよね。

せっせと仕事をする男たちはしかし、すべてケニア人だった。現場監督と、倉庫に直接買い付けに来ているバイヤーだけがソマリ人だ。 ソマリ人街で、海外在住のソマリ人に売るためのカートを、なぜケニア人たちが準備しているのか。そう訊くと、アブディは苦笑して言った。 「ソマリ人は座って地道に働くことができないんだ」(P.170)

高野あと、日本人は幸せになるのがすごい怖くて不安なんですよね。幸せになると良くないことが起きそうな落ち着かない感じがあって、そこに安住したらもう終わってしまう、みたいな不安感があるんですよ。

―― ・・・思い当たりますね。

高野自分は不幸で、不安だ、というのが実は落ち着くっていう。「幸せだ」とかって言うと、友だちもいなくなるし。つらい、苦しい、大変、忙しいとか言って話が盛り上がるでしょ。それが科学技術の進歩とか職人技術が異常に発達していることに繋がるし、それってもう裏表なのでしょうがないんじゃないかな、っていう気がしますね。


次回、いよいよ最終回です!

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高野秀行(たかの・ひでゆき)

1966年東京都生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部当時執筆した『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)でデビュー。
タイ国立チェンマイ大学日本語講師を経て、ノンフィクション作家に。
「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、誰も知らないものを探す。それをおもしろおかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。
主な著書に『アヘン王国潜入記』『巨流アマゾンを遡れ』『ミャンマーの柳生一族』『異国トーキョー漂流記』『アジア新聞屋台村』『腰痛探検家』(以上、集英社文庫)、『西南シルクロードは密林に消える』『怪獣記』(講談社文庫)、『イスラム飲酒紀行』(扶桑社)、『未来国家ブータン』(集英社)など。 『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)で第一回酒飲み書店員大賞を受賞。
最新刊『謎の独立国家 ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』が本の雑誌社より好評発売中!

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