本屋さんと私

コンゴに伝説の怪獣モケーレ・ムベンベを探しに行ったり、
タイで日本語教師を教えたり、多国籍な新聞社で働いたり・・・

高野秀行さんは「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、
それを面白おかしく書く」をモットーに、
世界のあらゆる辺境へ行かれているノンフィクション作家。
旅人を呼ぶ(!?)ミシマ社では、高野さんファンがいっぱいいます。

今月の「本屋さんと私」では、高野秀行さんの最新作『謎の独立国家 ソマリランド』の紹介を軸に、今まで読んで来た本や本屋さんとの付き合い方などをうかがいました。

最終回の今回は、取材を通して見えてきた日本についてのお話です。

(聞き手:林萌・星野友里、文:林萌、写真:星野友里)

第78回 ものごとには、いいことと悪いことがある

2013.04.11更新

日本人とソマリ人は「世界」より「社会」を重視している

本屋さんと私 高野秀行さん編

高野ソマリ人とずっと付き合っていると、日本人と似てるなと思うことがあります。ひとつはすごく排他的・閉鎖的なところですね。

日本が中国文化圏にいながら中国に占領されたことがないのと同じで、ソマリの人たちも中心部にいるほかの民族には占領されたことがなくて、イスラム文化の辺境にずっといるわけですよ。それでたぶん、独特の閉鎖的な民族になったんじゃないかなと思いますね。

―― なるほど。

高野ソマリ人はほんとに、自分たちの社会以外に、びっくりするくらい関心がないんですよ。ぼくもいろんな国に行ったけれど、日本で何食べてるのか聞かれないなんてソマリ人が初めてです。ふつう好奇心があるから、目の前にいたら聞きますよ。でも関心がないから、聞かないんですよね、ぜんぜん。

―― それもすごい話ですね。

高野あと、いくら外国に行って成功しても、それだけじゃだめなんですよ。ソマリの社会で名前が上がらないと意味がないと思っている。日本人もいくら海外で評価されていても、日本で評価されなきゃだめだと思ってるわけでしょ。なんかそのへんの感覚が、すごく似てるなって。

人の情報は、ぜんぜん信用できない。

―― 場が人に与える影響って大きいですね。自分がソマリランドに生まれていたら、そこの常識を常識としていたと思います。

高野こういった国を知ると、常識がどんどん覆されていきますね。20年も無政府で内戦が続いてるのに、吉祥寺みたに繁栄しているところがあるなんて、夢にも思わない。ぜんぜん自分の想像と違いますよね。

―― 実際見聞きしないとわからない1次情報をすべて自分で知るには限界があると思うのですが、世界のニュースや日々の情報は、どのようにして集めていますか。

高野ぼくはあんまりテレビを見ないので、新聞、ネット、本ですね。

―― それでもわからないところには、行ってみると。

高野そうですね。人の情報はぜんぜん信用できないってことはわかっているんで。同じような型に入れて「戦争やってます。悲惨です」という型に流すような報道がすごく多いですよね。それをぜんぶ信じちゃいけないんだなって思いますね。

考えたこともなかった「遺族にラクダ百頭」

―― ソマリランドの方が平和だけど、それは平和好きの人が多いからじゃなくて、むしろ戦争が好きだから戦争をしないのであって、南部ソマリアは戦争が下手だから戦争の止め方を知らないというお話がでてきて、なるほどと思いました。

高野面白いですよね。

「(略)ソマリランドの人間は戦争が好きなんだよ」 私は一瞬、聞き違いだと思った。それで「南部の人たちが好きなんでしょ?」と聞きなおした。ワイヤップは間断なく葉っぱを口に押し込みながら、首を振った。 「ちがう。戦争好きなのはソマリランドの人間。南部のやつらは戦争をしない。だから戦争のやめ方もわからない」(P.119)

―― ソマリランドはある意味特殊な環境ですが、そこから垣間見えるものに普遍性がたくさん詰まっているように感じました。

高野人を殺したときの賠償の話も面白いですよね。ラクダ百頭って・・・。でも「じゃあ日本ではどうしてるんだ?」って聞かれて困っちゃうわけですよ。ないんだから。「なんでないの? 遺族困るだろう?」って。

―― ほんとそうですよね。

高野加害者が終身刑になっても死刑になっても、遺族は生活的にはぜんぜんサポートされないわけだから、ほんとはそれとは別次元のことをしなきゃいけないですよね。考えてみたこともなかったので、そういうことにも気づかされましたね。

―― いろいろと、改めて考えるきっかけになりますね。

高野あとソマリランドの人がよく言ってるんですけど「ものごとにはいいことと悪いことがあるんだ」って。「氏族という仕組みも、いいことばかりじゃない」ってみんな言うわけですよ。

―― そうなんですね。

高野弊害もたくさんあって、コネ社会になっていくとか、氏族の対立も生まれやすいし、そういう良くない部分も改善していくことを含めて氏族主義なんだ、と言っていて、それはもうぜんぶに当てはまりますよね。いいことと悪いことがあって、そのなかでやりくりしていくしかできないんですよね。

―― あらゆるものにいいこと悪いことがある、という考えから、今で言えば原発の問題などにも広がりますね。なにかを考えるための「種」みたいなものがたくさん書かれていて、ひとつずつ触れたらきりがないです。

高野あとはそういうふうに、読者のみなさんが発展的に汲み取ってくれたら、言うことないですね。

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本屋さんと私 高野秀行さん編

『謎の独立国家 ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』(本の雑誌社、2013年2月刊、2310円)

アフリカ大陸東端のソマリア半島にある、独立民主主義国家、ソマリランド。国際社会で正式に国として認められていないものの、独自に内線を終結し複数政党制により普通選挙を行っている。

本書は、2009年と2011年の二回にわたり日本でほとんど情報が皆無だったソマリランドと近隣エリアに高野さんが実際に行き、見聞きしたソマリ人の文化、国の仕組みを詳細に記した渾身のノンフィクション。

文化人類学的資料としての詳細なデータはもちろん、ソマリ人の文化のユニークさに驚かされる面白エピソードが満載です!

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高野秀行(たかの・ひでゆき)

1966年東京都生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部当時執筆した『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)でデビュー。
タイ国立チェンマイ大学日本語講師を経て、ノンフィクション作家に。
「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、誰も知らないものを探す。それをおもしろおかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。
主な著書に『アヘン王国潜入記』『巨流アマゾンを遡れ』『ミャンマーの柳生一族』『異国トーキョー漂流記』『アジア新聞屋台村』『腰痛探検家』(以上、集英社文庫)、『西南シルクロードは密林に消える』『怪獣記』(講談社文庫)、『イスラム飲酒紀行』(扶桑社)、『未来国家ブータン』(集英社)など。 『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)で第一回酒飲み書店員大賞を受賞。
最新刊『謎の独立国家 ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』が本の雑誌社より好評発売中!

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