本屋さんと私

本屋さんと私 大野更紗さん編

『困ってるひと』(大野更紗著、ポプラ社、2011年6月刊、本体1400円)

ミャンマー(ビルマ)難民の研究をしていた大学院生女子が、ある日突然、原因不明の難病を発症。自らが「難民」となり、日本社会をサバイブする・・・。『困ってるひと』をはじめて読んだとき、そのあまりに命がけの過酷な状況、貫かれているユーモア、物語としてのおもしろさ、そしてなによりも、全身全霊で書かれた文章の迫力に、圧倒されました。

今年4月からは、明治学院大学大学院にて、難病政策の研究も開始され、「人類は、難病人、作家、研究者、三位一体のわらじをはたしてはけるのか・・・という壁にぶちあたっています」とどこまでもパワフルな大野さんに、本と本屋さんのお話をうかがいました。

 第1回目は、本づくりに込める想いと、生まれ育った福島の山の中での、幼いころの読書体験のお話です。

(聞き手、文、写真:星野友里)

第79回 東北の山の中で読んでいた本(大野更紗さん編)

2013.05.13更新

電子書籍ではできないこと

本屋さんと私 大野更紗さん編

『困ってるひと』発刊以降に書きためたエッセイや対談を編集再構成した一冊。(ポプラ社、2013年3月刊、本体1400円)

――『さらさらさん』、盛りだくさんの内容だったのですが、面白くて一気読みしてしまいました。今回も装丁が素敵ですね。

大野これをつくるときに一番に考えたのは、今、電子書籍ではできないことは何だろうか、ということでした。

電子書籍で何が変わるかというと、街に店舗をもつ、リアルな本屋さんが激減していくことですよね。社会のインフラとしてあるような、地域の本屋さんがなくなってしまうことが、私にはすごくつらいことに思えるんです。

――電子書籍でできないこと・・・?

大野このカバー、実は6色印刷を使っているんです(※編集注:色数が多いほど、手間とお金がかかる。通常多くて4色印刷)。このソフトカバーの質感を出すために、紙にもこだわっています。

自分が難病患者なので、重い本って持って読むのがつらいんですね。しっかりした紙でもできるだけ軽くて、握力や筋力が弱い人でもひらいて読むのが苦でないように工夫しています。余白や組み方なども、読んでいる人に楽しんでもらうにはどうしたらいいかなと考えて、字の大きさにあえて変化をつけたり。

――小口のイラストもかわいくて、見るとうれしくなります。

本屋さんと私 大野更紗さん編

大野私にとっては、イラストを描いてくださっている能町みね子さんや装丁家さんたちは、一緒に戦ってくれる同士、まさしくパートナーという感じなんです。1つの作品をつくりあげる際の、重要な応援団であり、ともに並走する仲間であり、尊敬する方々であり。著者は、基本的に文字しか書けません。それ以外の部分で「こういうものをつくりたいんだ」というビジョンがあるときに、技術として形にしてくれる人がいるというのはとっても大事なことなんですよね。


読みたい本に、赤ペンで○(マル)をつける

――子どものころに、はじめて本を買った本屋さんて覚えていますか?

大野実家が福島の山の中なので、家の近くには本屋さんがなかったんですね。そのかわりに、教員だった母親が加入していた教職員組合が作っている、本の通販カタログみたいなものがあったんです。母親に赤ペンをわたされて、読んでみたい本があったらカタログに○(マル)をつけていいよ、と言われました。赤○を入れたカタログをわたすと、本がおうちに届く、という感じでしたね。

母は、教員になってから今日にいたるまで、ほとんど休むことなく働き続けているという印象があります。「お母さん」というより「働いている人」というイメージが強いんですね。一家の大黒柱。それでも、放っておかれているとか、さみしいとか思った記憶は一切ないです。それは今振り返ると本のおかげだと思うんですよ。町立の小学校からスクールバスで家に帰ってくると、山の中なので近所に同い年の子どももあんまりいなくて、家では一人の時間が圧倒的でした。一人だったんですけど、孤独ではなかったというか。

――そのころに読まれた本で印象に残っているものはありますか?

大野『三びきのやぎのがらがらどん』とか、『ぐりとぐら』とか・・・。何回読んでも飽きなかった。『ぐりとぐら』に出てくるカステラとか、こんなおいしそうなものはどうやってつくられているのだろう・・・と(笑)。東北のド田舎ではめぐりあえない、想像の中の西欧的な食べものに遭遇するわけです。

第76回 本屋さんと私 大野更紗さん編 第76回 本屋さんと私 大野更紗さん編

左:『三びきやぎのがらがらどん』(マーシャ・ブラウン絵 、瀬田貞二訳、福音館書店 )
右:『ぐりとぐら』(なかがわ りえこ著、 おおむら ゆりこ絵、福音館書店)

――なるほど(笑)

本屋さんと私 大野更紗さん編

大野私くらい、1980年代半ば生まれくらいの人って、テレビゲームやインターネットでできる遊びに親和性が高い人が多いと思うんです。Windows95が発売された時が11歳ですから。私もプレイステーションは買ってもらって、ファイナルファンタジーⅧは最後までプレイしましたよ。ぶ厚い攻略本が出ていて、書いてある通りに粛々とレベルを上げて、最後のボスをパーフェクトに倒す。その作業的な面白さって確かにあるんですけど、他人が作った道を追体験するのって、すぐに飽きてしまって。

――私も同世代で、ドラクエをやったので、わかるような気がします。

大野本も、自分がなかなかできないような経験を擬似体験させてくれますよね。それこそ、無限に世界が広がるように。小さいころから、そういう本の世界に囲まれて育ってきたところがあると思います。無限に世界が広がるというのは、一種の子どもの妄想ですが、その気持ちをどこかで持ち続けているのかもしれません。

次回、明日は、高校時代の思い出の本屋さんのお話をお届けします!

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大野更紗(おおの・さらさ)

1984年福島県生まれ。作家。
2008年上智大学外国語学部フランス語学科卒業。
ビルマ(ミャンマー)難民支援や民主化運動に関心を抱き大学院に進学後、自己免疫疾患系の難病(皮膚筋炎、筋膜炎脂肪織炎症候群)を発症。
その体験を綴ったデビュー作『困ってるひと』(ポプラ社)がベストセラーになる。
2012年、第5回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」受賞。
2013年4月より、明治学院大学大学院社会学研究科社会学専攻博士前期課程にて研究を再開。都内で闘病・在宅生活をしながら、執筆も続けている。
『困ってるひと』発刊以降に書きためたエッセイや対談を編集再構成した最新刊『さらさらさん』(ポプラ社)が好評発売中!
Blog:http://wsary.blogspot.com/
Twitterアカウント:@wsary

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