本屋さんと私

ミャンマー(ビルマ)難民の研究をしていた大学院生女子が、ある日突然、原因不明の難病を発症。自らが「難民」となり、日本社会をサバイブする・・・。『困ってるひと』をはじめて読んだとき、そのあまりに命がけの過酷な状況、貫かれているユーモア、物語としてのおもしろさ、そしてなによりも、全身全霊で書かれた文章の迫力に、圧倒されました。

今年4月からは、明治学院大学大学院にて、難病政策の研究も開始され、「人類は、難病人、作家、研究者、三位一体のわらじをはたしてはけるのか・・・という壁にぶちあたっています」とどこまでもパワフルな大野さんに、本と本屋さんのお話をうかがいました。

第3回目の今回は、ネットにはない、リアル書店と本の役割について、お話をうかがいました。

第81回 「何か、未知のもの」との偶発的な出会い

2013.05.15更新

フェイスブックにいわれたくない

大野アマゾンで買うのと、リアルな本屋さんで買うのと、「何が違うのかな」ってよく考えるんです。ちなみに、学究のはしくれとしてはヘビーなアマゾンユーザーです。専門書が流通しているので、相当アマゾンに依存しています。古書も洋書もすぐ買えるし、身体的にも当然、ラクですしね。だからこそ自戒的に思うことですが、自分の興味関心があるものしか買わなくなるんですよね。リアル書店のよさって、自分の好き嫌いにかかわらず本が目に入っちゃうところですよね。サラリーマンのおじさんとが仕事帰りに「あー、つかれた」って、ふと駅の書店に寄って目に入った文庫に、なんだか心惹かれて買って電車で読んじゃう、というようなこともあったりして。

――そうですね。

大野キンドルがもたらしてくれるアクセシビリティの良さも、それはもちろん重要なのですが。その人の人生があって、その本に出会うストーリーみたいのがあって、その接点が本屋さんだったりして、それがあってはじめて、本はその人にとって大事な物語になるのかな、という感じもするんです。特に、幼少期とか思春期。人間が、若い時。

――旅先で買った本って、内容は忘れても、あそこで買ったな、っていうのは忘れないですよね。

本屋さんと私 第81回 「何か、未知のもの」との偶発的な出会い

大野アマゾンも「オススメ」してくますが、それは私が買っている注文履歴の嗜好を解析してオススメしてくれていてるわけですよね。フェイスブックの広告も象徴的。28歳で大学院生という属性だと、「今なら、まだ間に合う!」みたいな広告が出てくるんですよ。いったい、何に間に合うんだよ!(笑)と。フェイスブックにいわれたくない。

――(笑)


偶発的な出会いの場

大野福島で、いとこが専業農家をしてます。この時代に専業農家をやるって、すごく大変なことです。みんな勉強していて頭が下がります。気候変動は激しいし、世界の情勢にも農産物価格や商品の流行が左右される。叔父さんは大学も行ってませんが、365日必ず欠かさず新聞の全ページに目を通して、毎日いろんなチャンネルのテレビのニュースも見ているんですね。それによって、その年につくるトマトの品種を切り替えたりもするんです。

――なるほど。

大野その叔父さんに、最近はインターネットの本屋さんでどんな本でも買えちゃうし、インターネットでニュースも読めちゃうんだよ、といってツイッターの仕組みを説明したら、ぼそっと一言、「でもこれだと、自分が見たいものしか見ないだろう」と言われたんです。

――鋭いですね。

大野新聞を読むとか、テレビを見るとか、本屋さんに行くとか、見たくないものとか意識していないものも副次的に入ってくるというのがメディアの役割なんだろうなとも思うんです。きっと本屋さんもそういう役割を担う1つで。「想像力を広げる」ってよくいわれて、抽象的なことばですけど、それは具体的には、そういう「何か、未知のもの」との偶発的な出会いだったりする。

――ほんとうにそうだと思います。

大野本屋さんが棚に、ある1冊の本を置くっていうのは、その本屋さんの熱意だったりするわけですよね。東北書店の親父が誰も買わない難しい本を置いていたように。そういう本屋さんが行う営みのよさ、というか、偶発的な出会いの場が失われつつあるということが、やっぱり気にかかります。


いよいよ次回最終回は、生きる技術としての読書について、うかがいました。お楽しみに。

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大野更紗(おおの・さらさ)

1984年福島県生まれ。作家。
2008年上智大学外国語学部フランス語学科卒業。
ビルマ(ミャンマー)難民支援や民主化運動に関心を抱き大学院に進学後、自己免疫疾患系の難病(皮膚筋炎、筋膜炎脂肪織炎症候群)を発症。
その体験を綴ったデビュー作『困ってるひと』(ポプラ社)がベストセラーになる。
2012年、第5回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」受賞。
2013年4月より、明治学院大学大学院社会学研究科社会学専攻博士前期課程にて研究を再開。都内で闘病・在宅生活をしながら、執筆も続けている。
『困ってるひと』発刊以降に書きためたエッセイや対談を編集再構成した最新刊『さらさらさん』(ポプラ社)が好評発売中!
Blog:http://wsary.blogspot.com/
Twitterアカウント:@wsary

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