本屋さんと私

 デビュー作『太陽の塔』で話題をかっさらい、『有頂天家族』『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』など、続々と話題作を生み出している作家・森見登美彦さん。

 その、ちょっと古風で真面目かと思いきやぶはっと笑わせてくれる文章、他にはない森見さんならではの不思議さに、一度読んだらやみつきになる人も多いのではないでしょうか。また森見さんの作品には京都を舞台にしたものも多く、京都・三条烏丸にもオフィスを構えるミシマ社一同は、一方的に親近感を感じていたのでした。

第84回 小説は、「内なる虎」との共作である。

『聖なる怠け者の冒険』(森見登美彦 著、朝日新聞出版)


 そしてついに2013年5月21日、森見さんの3年ぶりの新作長編となる『聖なる怠け者の冒険』(朝日新聞出版)が発刊されました。
 これまた舞台は京都、しかも六角堂に、烏丸、三条、スマート珈琲店...出てくる出てくる会社の近所(毎日通っていますとも!)。

 自転車に乗って森見さんの事務所にうかがい、とっておきの話を聞いてきました。

 たっぷり4日かけてお伝えします!

(聞き手:三島邦弘、構成:新居未希)

第83回 森見作品は、近鉄文学だ!(ほんま?)(森見登美彦さん編)

2013.06.10更新


「趣味は近鉄の特急電車に乗ることです」

――『聖なる怠け者の冒険』拝読しました。すごく面白かったです。読んでいて感動したひとつは、近鉄電車が出てきたことです。ミシマ社は、いまは京都の烏丸三条にオフィスがありますが、3月まではずっと近鉄・久津川駅という住宅地のど真ん中にオフィスをかまえていました。森見作品に近鉄が出てくるとは! と驚きましたし、すごく嬉しかったです。

森見僕はもともと京都に住んでいたときに、職場に通うのにずっと近鉄電車で通っていたんですね。その後そこは引き払って東京に行って、いまはまた関西に帰ってきて奈良に住んでいるので、今度は奈良から京都まで近鉄に乗ってくるんです。そして僕の数少ない趣味のひとつが、近鉄特急に乗ることなので...

――趣味なんですか?!

森見そうです、趣味です。毎回特急に乗るのは贅沢だと思いつつ、僕は他にほとんど趣味というものがないので、これくらいは許してくれ、と(笑)。近鉄特急に乗って京都駅まで来て、最近は気候が良いので、京都駅から仕事場まで歩いたりとかしてますね。ちょっと運動不足やから、特急乗ったぶん京都駅からは歩くかあって思って。いろんなルートで歩いてみて遊んだりしてます。結構、途中で変な方向に曲がってみたりとかして(笑)。
 なぜか僕、奈良と京都の間は何回乗っても飽きないんです。

――特急に乗ってらっしゃる間は、どうしてるんですか?

森見ひたすら車窓を見ています(笑)。音楽聴きながら車窓を見てると、わくわくするんですよ。そうとう通い慣れてて、さんざん見た景色なんですけどね。それでもけっこう変化があります。木津川も宇治川も渡りますし、小和田くん(*『聖なる怠け者の冒険』の主人公)のいる研究所のあたり(向島)は世界の果てみたいなところですし(笑)。
 奈良のほうから出発してくるときは森も多く、すごく楽しいですね。それぞれ町の個性も見ながらずっとくると、妄想が膨らむというか。

――その妄想が作品に活かされてるわけですね!

森見う~ん、具体的にどこに活かされてるかはわかんないですけど(笑)。
 いつも座る場所も、決まってるんですよ。特急券買ったら指定席だから席決まってるんですけど、その券の座席指定無視してます(笑)。混んでたらちゃんと指定席に座りますけどね。
 なかでもお気に入りの席がありまして。ちゃんとね、窓が中途半端にならないところ。窓の間に席があるんじゃなくて。そして、いつも後ろのほうの景色がいいところに座ってますね〜。そういう、どうでもいいこだわりがあるんです(笑)。

――私たちも普段の生活で近鉄電車に乗ってるからこそ、向島駅のあのなんもない感じとかがよくわかるというか。

第83回 森見作品は、近鉄文学だ!(ほんま?)

森見でもあの駅は、降りてみたいなと思いながらもまだ降りてないんですよね。久津川は一回降りたんですけど(笑)。向島で降りてあのバイパスのあたりを抜けて行ったらどんなんだろうなあっていつも想像するんですけど、想像するだけで。最近特急に乗るようになったからますます降りないという(笑)。でもあそこは毎回見ていたから、小和田くんの研究所がもしあるとすれば、だいたい京都の南のほうの、あんな感じのところだろうなあと思っていました。
 でもたしかに、近鉄電車に乗っていないと、あんなところをわざわざ設定しないですよね。

世界の構造は近鉄を中心にできている

――森見さんの作品に出てくる、吉田山だとか鴨川デルタとか、ちょっとした観光地になってると思うんですけれども、やっぱり近鉄まで乗って・・・という流れはほとんどないですよね。近鉄と文学ってなかなか繋がりにくいのが、とても残念に思ってます。

森見僕の子どものころから考えると、近鉄の手のひらの上で踊っているみたいなもんで。

――おお~

森見子どもの頃に住んでいた学園前
なんて完璧に近鉄が狙って開発したというか、近鉄の社長の家があったりするわけですよね。あそこらへんの住宅地ってほぼ近鉄が「こういう街にしよう」って計画して作っているようなもので、その時点で近鉄の手のひらの上だし(笑)、学校に通うときも奈良まで近鉄で通って、京都まで行き来するときも近鉄で通って。頭の中の地図がJRではなく近鉄でできているので、JRがどう走っているのかわかんないんですよ。世界の構造が近鉄を中心につくられているので(笑)。
 でもやっぱり、中学のときとかに友だちと話をすると、JRで通ってる子と近鉄で通ってる子で世界の認識の仕方が違うんですよ。JRで通ってる子が駅の話とかしてても全然わからない。彼らがどこに住んでるかいまいちイメージできないんです。

――JRと近鉄はもう「別世界」ですよね(笑)。

森見やっぱり世界というのは、視点によるなと思いますね。使ってる路線で世界の見え方が、世界の配置の仕方が変わっている。僕も完全に近鉄派ですから、近鉄の世界です。

――実は森見さんの文学は、京都市内の、森見さんが学生時代を過ごした叡電(叡山電車)のあたりの左京区カルチャーではなくて近鉄カルチャーが生んだものではないかって思ったのですが、いかがですか。

森見実は、叡電とかはあんまり乗っていないですね。僕にとって叡電は見るもの。乗るのも楽しいですけど、日常的に乗って馴染みのあるというものではなくて、馴染みのあるのはむしろ叡電が走っている風景のほうだと思います。叡電はいざ乗ったら面白いですけどね。鞍馬とか、がっと景色が変わるし、短いけれども乗りがいのある路線だとは思うんですけども、どちらかと言うと外から眺めているほうですね。叡電は、ロマンです。近鉄は生活そのもの。

――なるほど!


*「叡電=ロマン」、「近鉄=生活」の両方をあわせもつ森見作品。ですから、森見ワールドをより深くぞんぶんに味わいたければ、近鉄に乗らなければいけないのです! そんな珍説ならぬ教訓を得たところで、明日は、森見登美彦さん式「小説の書き方」に迫ります。

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森見登美彦(もりみ・とみひこ)

1979年奈良県生まれ。京都大学農学部卒、同大学院修士課程修了。2003年『太陽の塔』で第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、小説家デビュー。07年『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞、10年『ペンギン・ハイウェイ』で日本SF大賞を受賞。その他の著書に『四畳半神話大系』『きつねのはなし』『有頂天家族』『恋文の技術』『宵山万華鏡』『四畳半王国見聞録』などがある。今年は作家生活10年目にあたる。

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