本屋さんと私

 デビュー作『太陽の塔』で話題をかっさらい、『有頂天家族』『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』など、続々と話題作を生み出している作家・森見登美彦さん。

 その、ちょっと古風で真面目かと思いきやぶはっと笑わせてくれる文章、他にはない森見さんならではの不思議さに、一度読んだらやみつきになる人も多いのではないでしょうか。また森見さんの作品には京都を舞台にしたものも多く、京都・三条烏丸にもオフィスを構えるミシマ社一同は、一方的に親近感を感じていたのでした。

第84回 小説は、「内なる虎」との共作である。

『聖なる怠け者の冒険』(森見登美彦 著、朝日新聞出版)


 そしてついに2013年5月21日、森見さんの3年ぶりの新作長編となる『聖なる怠け者の冒険』(朝日新聞出版)が発刊されました。
 これまた舞台は京都、しかも六角堂に、烏丸、三条、スマート珈琲店...出てくる出てくる会社の近所(毎日通っていますとも!)。

 自転車に乗って森見さんの事務所にうかがい、とっておきの話を聞いてきました。

 いよいよ最終回、4日目をお届けします!

(聞き手:三島邦弘、構成:新居未希)

第86回 本屋さんと森見さん

2013.06.13更新


注文した本が届かない・・・

――これまでいろいろな本屋さんに行ってこられたと思いますが、子ども時代に印象的だった本屋さんはありますか?

森見実家のそばに、「サン書房」という本屋さんがあって、街のちんまい(小さい)本屋さんなんですけど。今もやってるんですよね。本屋さんの奥が住居になっている、そういう本屋さんです。僕ももう10年以上行っていないんですけどね。けどバスで前を通りかかると、ちゃんと「サン書房」という看板があって本が並んでます。
 僕は、小学校のころそこで本を注文してました。学研マンガで、世界の推理小説について紹介しているようなものがあったんですよ。タイトルももう忘れましたけど...それをすごく欲しくて、そのサン書房で注文した記憶があります。

 ちなみに、その後、サン書房で違う本を注文したんですけど、全然連絡がなく、ず〜っと待ってたことがあります。で、ある日連絡したら、「ああ、あれは問い合わせたけど出版社がもう絶版ですって言うてました」と言われました。なら、そう連絡してよ!(笑)
 あ、そのとき注文した本覚えてる(とおもむろに本棚に向かう森見氏)。

第86回 本屋さんと森見さん


 『スティーブンキング読本』。これの旧版ですね。これはたしか古本屋さんで見つけたんかな? その頃は古本屋さん探すとかそんな知恵はないから(笑)。最初は、図書館で見つけたんですよ。スティーブンキングの小説の解説などがいろいろ書いてあって、これは欲しいと思って頼んだんですけど、ほったらかし。そういう悲しい思い出でもあります(笑)。

 けどその前の学研マンガはちゃんと届いて、嬉しかったなぁ。ああ、ちゃんと届いた、と喜んだのを覚えています。


深夜2時の罪深い喜び

――大学生になられてからはどうでしたか?

森見大学生のときは・・・本屋さんというよりも古本屋さんを回ったり、あとは大学の生協の本屋さんをよくつかってました。京大の生協「ルネ」です。あとは京都の北白川にある丸山書店が、僕が学生のときはまだ24時間営業でした。今はもうなくなってしまったんですけど・・・。

第86回 本屋さんと森見さん


 24時間やってるというのはすごい不思議なかんじでしたね。
 深夜2時ごろ、下宿からふわ〜っと自転車で行くと、輝いてるわけですよ、24時間営業の書店が。すると、ちゃんと客がいてるんですよね。「君たち、そこでなにやってんねん」っていう(笑)。


 明け方にライトノベル立ち読みしてる人がいたり。あの、「ここに浸っていたらだめになる〜」っていう甘美な感じに、罪深い喜びみたいなものがありましたね。「僕はずっとこんなところにいてはいかん、こんなところに浸っていてはいかん」。でも楽しくてしかたがない(笑)。あれは丸山書店ならではでしたね。

――東京にいらっしゃったときは?

森見千駄木にいたんですけども、そのときはやっぱり往来堂書店さんが面白かったのでよく行ってました。あとは、仕事場が小石川にあったので、近くの、あゆみBOOKSがすごい好きでした。ある大型書店だと、行っても本が死んでるというか、死体が並べてあるような感じを受けることがあります。けど、あゆみBOOKSに行けば、本が全部ぴかぴかしてる。いろいろ買ってみたくなる。並んでる本自体には罪はないんですけども・・・品揃えは、その大型書店のほうがいろいろ置いてはあるけども、そこでは買わずにあゆみBOOKSで買ってましたね。

――往来堂書店さんとかも、あとになって、「あれ、こんなに小さな場所だったっけ?」って思ったりしますよね。

森見そうそう、信じられないんですよ。なんでそんなことができるんだろうと。中に入ったらすぐにわかりますよね。やっぱりそういうのがわかる本屋さんで、できるだけお金を遣おうと思ってます。
 世の中の大半の人は、本が買えりゃどこでもいいと思ってるかもしれません。でも、せめて同じ本を買うんであれば、自分が「この本屋さんはいい本屋さんだ」と感じる本屋さんで買う。これは、自分のなかでルールとして決めています。やっぱり、努力している人が報われてほしいと思いますよね。

――まったく同感で、涙が出そうです・・・。関西に戻られてからはどうですか?

森見本を買うときは京都が多いですね。中心地に書店が集中しているので。
 そうですねぇ・・・あっ、あそこ好きです。四条烏丸のくまざわ書店さん。文庫とかに「おや?」と思うのが、意外にあるんです。単行本はあんまりわからないですけど、文庫本はかゆいところに手が届くことがあって、あれはなんだか不思議な感じ。

――三月書房さんがいいとおっしゃってたとお伺いしました。

森見ああ! 三月書房は、ちょっと別格というか。なんと言うんだろう、ちょっとやそっとではできないですよね。他と比べることはできません。あのお店は、すごいですよ。語るのはちょっと畏れ多いという感じです(笑)。
 僕、学生のときはお店に入ったことがありませんでした。けど、東京から来る編集者の方なんかが「良い」というので行ってみたら、びっくり! 面白すぎて。いずれ僕が年をとっていくに従ってこういう本棚ができていけばいいな、という憧れの本棚が、すでにそこにある。ほんとにすごいですよね。

――まったくです。私も、すごいのひとことしか思い浮かびません。
最後に、ミシマガ読者へひとこといただけますか?

森見 いろいろ変なことを喋りましたが、「本屋さんと私」ということなので、「本が輝いて見える本屋さんを大事にしましょう」ということでしょうか。あと、近鉄特急は伊勢へ行くルートもステキです。 


第86回 本屋さんと森見さん


森見さん、ありがとうございました!

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森見登美彦(もりみ・とみひこ)

1979年奈良県生まれ。京都大学農学部卒、同大学院修士課程修了。2003年『太陽の塔』で第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、小説家デビュー。07年『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞、10年『ペンギン・ハイウェイ』で日本SF大賞を受賞。その他の著書に『四畳半神話大系』『きつねのはなし』『有頂天家族』『恋文の技術』『宵山万華鏡』『四畳半王国見聞録』などがある。今年は作家生活10年目にあたる。

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