本屋さんと私

 実は2年半ほど前に、すでに一度この「本屋さんと私」にご登場いただいた、ひとり出版社「夏葉社」の島田潤一郎さん。その後も続々と名作の刊行を続けられ、ファンも着々と増え続けていらっしゃいます。

第87回 素晴らしき図鑑の世界(夏葉社島田さん編)

『本屋図鑑』
著者:絵 得地直美/文 本屋図鑑編集部
発行:夏葉社 価格:1785円(本体1700円)

 9冊目となる今月発売の新刊『本屋図鑑』は、前回のインタビュー時にすでに構想を語られていたもの。本屋さんの本であるからには、あらためてお話をうかがわないわけにはいかない! まだ見本ができあがる前の、脱稿ホヤホヤの島田さんに、突撃インタビューをさせていただきました。

 ちなみに取材に同行して文章を構成したデッチ廣瀬くんは、夏葉社さんに興味をもったことからミシマガにたどり着き、デッチに応募してくれたのだそうで、当日は大緊張。インタビュー後、優しく対応くださった島田さんに感動しきりでした。

 新刊『本屋図鑑』の魅力と、本屋さんのお話がたっぷりのインタビュー、ぜひお楽しみください!!

(聞き手:星野友里、構成:廣瀬雄規)

第87回 素晴らしき図鑑の世界(夏葉社島田さん編)

2013.07.23更新

レコーダーは使わない

――これは『本屋図鑑』の原稿ですね! 見させていただいても大丈夫ですか?

第87回 素晴らしき図鑑の世界(夏葉社島田さん編)

島田どうぞどうぞ。明日印刷所に原稿を渡さなければならないというタイミングにもかかわらず、かなりまだ赤字が入っています(苦笑)

――本当ですね(笑)。今回、夏葉社さんから出る9冊目の書籍にして初めて、島田さんご自身が原稿を書かれているのですよね。

第87回 素晴らしき図鑑の世界(夏葉社島田さん編)

島田今回、半分くらいを僕が書きました。すごく大変で、一カ月ぐらい何もしたくない気分です。レコーダーなどは使わずに、すべて手帳にメモを取って取材したのですが、その字が汚くて自分でも読めない。読めないからまた電話で聞いたりしていました。一番ひどかったのは、お店の方の名前を書き忘れていて。お前、散々話聞いたのに・・・って感じですよね。

――(笑)。取材のときにレコーダーは使われなかったのですね。

島田お店の人の言葉より、自分が見た印象を再現したいなと思ったのです。レコーダーを使うと、文字に起こしたときに、どうしてもお店の方のお話、物語をメインに据えてしまいます。そうではなく、その街に住んでいるお客さんの視点に立って文章をつくりたいと思いました。


『本屋図鑑』ができるまで

――二年半前にミシマガジンのこのコーナー、「本屋さんと私」で取材をさせていただいたときにすでに、『本屋図鑑』の構想のようなものをうかがっていました。その後、どのような経緯で実現していったのでしょうか。

第87回 素晴らしき図鑑の世界(夏葉社島田さん編)

島田本の雑誌社刊『本の雑誌』」No.347号が、「図鑑で遊ぼう!」という特集だったんですね。そこで、本屋さんを愛してやまないブロガーの空犬さんが取り上げていたのが、福音館書店から出ている、Do!図鑑シリーズの『生活図鑑』や『冒険図鑑』だったんです。その本が僕もすごく好きで。読んでいるとすごく燃えるんですよ!

 『冒険図鑑』は最初の方は〈冒険に必要なもの〉とかスタンダードなんですけど、だんだんエスカレートしていって〈蛇にかまれたら〉や〈自然の草で服をつくろう〉とかが大真面目に書かれているんです。しかも全部イラスト付きで。ほんとに名著だと思います。実生活に役立つかどうかは別にして、基本的なことを丁寧に書けること、図鑑の網羅性みたいなものは本ならではの面白さだと思っていて。

――なるほど。

島田以前から、まちにある普通の本屋さんを題材に、本を作れないかなという思いがあったので、そのときに本屋図鑑をやればいいんじゃないか? と思いました。その後、飲み会で空犬さんと図鑑の話で盛り上がって、『生活図鑑』や『冒険図鑑』に合わせて、イラストで・・・っていうイメージも湧いてきて。得地さんという素晴らしいイラストレーターの存在も知っていたので、頼んでみたら快諾してくださって。すーっと始まりました。

――写真ではなくて、イラストでビジュアルを描くというのも最初からイメージが決まっていたのですね。

島田写真を使うと、写真映えすることが第一になってしまうと思うんです。そうではない、写真映えしない本屋さんのいいところがたくさんある。お店の方とも相談して、その本屋さんの一番特徴ある風景を切り取って、そこを描いてもらいました。

――感動するほど細かいですね・・・!

第87回 素晴らしき図鑑の世界(夏葉社島田さん編)

島田本棚に並んでいる本の背表紙の文字とか、虫めがねでしか見えないようなところも描きこまれています。イラストを描いてくださった得地直美さんは死にそうになりながら、印刷所に入稿するギリギリの時間まで、ずっと描いてくださいました。これはなかなかすごいと思います。


図鑑に見た本の可能性

――1章 本屋さんの中、2章 町の本屋さん、3章 本屋さんの棚をじっくり見る、4章 もっといろんな本屋さん、5章 本屋さんの歴史、附録(「本屋さんの一日」「知っておきたい本屋さん用語集」など)と、章立ても"図鑑"らしい構成になっていますね。

島田雑誌の本屋さんの特集などは、今までにもたくさんあります。それらとは違うものをちゃんと作らないといけないという気持ちがありました。
店の奥には参考書の棚があって、棚の中の本はこういう順番で並んでいる、といったような、今まであえて説明されることの少なかった、お客さんの視点からみた本屋さんの基本的なことを書きたかったんです。

――「本屋さん」と「図鑑」、両方への愛情が込められていますね。

島田図鑑には、有限性というか、この一冊の本にすべての知識がつまっているんだ、というフィクションめいた感覚を得られる魅力があると思います。今のネットの時代は、有限ではなくて、かぎりなくどこへでも開いていけるから、その真逆をいっているのが面白いと思います。本の作り手としては、有限ななかで、紙で、どれだけ全体を作れるかの勝負。なにか、紙の本の可能性を見た気がしています。

――おもしろいですね。ここに全部はいっている!という快感、たしかにある気がします。

島田かぎられた中に全部あるっていうのが嬉しい。やっぱり「有限性」や「網羅性」は本の生きる道かもしれません。

第87回 素晴らしき図鑑の世界(夏葉社島田さん編)

――おすすめの「図鑑」はありますか。

島田「冒険図鑑』や『生活図鑑』は本当に名著だと思いますし、平凡社から出ている『えほん百科』というのもすばらしいです!ぼくはこの本を久住昌之さんの著作で知ったんです。
 子ども用の、「あいうえお」順の百科事典なのですが、「あ」の一番最初の項目が「あいうえお」。ひらがなの説明です。その次がなんと、「アイヌ」。」斬新! その次もかっこよくて「あかり」。街の夜景が描かれています。そして「アジア」「あそび」「アフリカ」と続きます。「アラジンのランプ」にいたっては急にストーリーが始まりますからね。自由すぎる編集方針。もちろん絵もみんな良くて。これも「百科」だからこそなせることだと思います。

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ミシマ社編集チーム

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