本屋さんと私

実は2年半ほど前に、すでに一度この「本屋さんと私」にご登場いただいた、ひとり出版社「夏葉社」の島田潤一郎さん。その後も続々と名作の刊行を続けられ、ファンも着々と増え続けていらっしゃいます。

9冊目となる今月発売の新刊『本屋図鑑』は、前回のインタビュー時にすでに構想を語られていたもの。本屋さんの本であるからには、あらためてお話をうかがわないわけにはいかない! まだ見本ができあがる前の、脱稿ホヤホヤの島田さんに、突撃インタビューをさせていただきました。

ちなみに取材に同行して文章を構成したデッチ廣瀬くんは、夏葉社さんに興味をもったことからミシマガにたどり着き、デッチに応募してくれたのだそうで、当日は大緊張。インタビュー後、優しく対応くださった島田さんに感動しきりでした。

新刊『本屋図鑑』の魅力と、本屋さんのお話がたっぷりのインタビュー、ぜひお楽しみください!!

(聞き手:星野友里、構成:廣瀬雄規)

第89回 一番よい本屋さんとは

2013.07.25更新


本屋さんをカスタマイズする

島田そうやって、たぶん全国100店舗くらいをまわっているうちに、どこが一番よい本屋さんか、という結論がでまして。

――おお、どういう本屋さんでしょう?

第89回 一番よい本屋さんとは(夏葉社島田さん編)

島田基準は一つしかなくて、家に一番近い本屋さんが一番よい。これに勝るものはないですよ。自分が通いつめれば、本屋さんそのものを自分好みに少しだけ変えていけるのでは、とも思うんです。たとえば僕がある本屋さんに通いつめて、その本屋さんにない本をリクエストして続ければ、今度はその本屋さんは、僕が好きだから、という理由で、選書して、僕の好きな本を言わずとも置いてくれるようになる。これが理想ですよね。

――たしかにそうですね。

島田聞いた話ですが、ある本屋さんで、いかにもラーメン屋の配達、という感じの人がいつも筑摩学芸文庫を買っていく。配達の帰りに、何もしゃべらないで買っていく。しかしそうするとその本屋さんには次第に筑摩学芸文庫が増えていく。そういうふうに、お客さんがお店を変えていく。直接話す必要もない。ある意味、お客さんと本屋さんのコミュニケーションの一つの究極の形だと思います。

 もちろん、大都市の書店は違ってくると思うし、カリスマ書店員がいて、書店の側から発信していって、次第にそこに通ってくるお客さんが増えるという形もあると思います。様々な本屋さんの在り方があると思いますが、住宅街や駅前の本屋さんは、品ぞろえが悪いということではなくて、読者の需要によって形を変えていくというのは、一つの健全な形だと思います。


高校生に読んでほしい

――『本屋図鑑』は、どんな読者をイメージしてつくっていましたか?

島田高校生が読めるようなものにしようと思っていました。どうしてかというと、地元や、近所のまちの本屋さんって消えていっていて、初めて訪れる本屋さんが三百坪、五百坪の大型書店だと、本屋さんの全体像ってわからない。

三十坪ぐらいの街の本屋さんだと、本屋さんには旅行書、実用書、参考書・・・という様々なジャンルの本があって、どういう場所に置いてあってという具体的なイメージが、自分の中に落とし込める。僕が子どもの頃はそういう本屋さんが地元にあって、本屋さんに通うことで、どういう場所なのかが次第にわかるようになる。その感覚を、この『本屋図鑑』で味わってもらえるようにしたかったんです。

――たしかに、本好きの人でも、大型書店に行くと、どこから棚を見るのか、戸惑うことがあります。

島田大きな本屋さんには、山ほど本が置いてあって、自分の好きな本、たとえば漫画なんかが一生あっても読み切れないくらい置いてある。ただ、そういう自分の好きなジャンルの本ばかり読むようになると、どんどん趣味なんかがタコツボ化していかざるをえない。

 一方で本のセレクトショップみたいなものもあって、僕も大好きなわけですが、そこにはもちろん本当にいい本しか置いていないわけだけれど、そうじゃない本もたくさん世の中には存在しています。セレクトショップに置かれていないような本が「出版」みたいなものを広く支えている、と僕は考えていて、選ばれなかった、こぼれおちてしまったものもちゃんと拾う本にしたいなという思いがありました。

 出版もっとよくなればいいとか、本屋さんもっとよくなればいいとか言うのは簡単だけれど、じゃあ本当の基本ってなんなんだろうっていうのを僕は知りたいような気がして。それで日本の本屋さんをまわってみた結果がこの本で、本屋さんの全体、本屋さんの基本を、若い読者に伝えられるような本にしたいという思いがあります。


本屋さんの思い出

――島田さんご自身の本屋さんのイメージの原点、小さいころに行かれていた街の本屋さんを教えていただけますか?

島田実家の場所が、まわりのどこの駅からも遠い場所にあって、そうすると自転車だとどこの駅へも均等に行けたんです。近辺の8駅の本屋さんと、ほんとに家に近い本屋さん一つ、合わせて15軒ほどの本屋さんが足を運べる距離にありました。

第89回 一番よい本屋さんとは(夏葉社島田さん編)

 学校が終わった後なんかに足しげく通いました。行った本屋さんで自分の探していた本がなければ、別の本屋さんに行く。それでなんとなく、子どもながらにそれぞれの本屋さんの品揃えもわかってきて、それでどんどん本屋さんが好きになっていきました。

 もっとも近かった希望が丘書店っていう今はなくなってしまった小さな本屋さんはすごいデタラメで、本がちゃんと陳列されていなかったりするんですよ。でも、その感じが好きだったりもしました。小学生の少ないお小遣いで本を買っていました。お金が足りないけど、欲しい本があるときは取り置きなんかしてもらったりして。

――小さい書店に通っていると、増えた本の種類もすぐわかるようになりますよね。

島田そう!すぐわかる。1冊レベルでもわかるんですよ。それがまた発見なんですよね。

 高校生くらいになると文庫とかも買うようになって、新潮文庫とかが揃っていたりすると、ランボー詩集とかを買ったりするわけですよ。読まないけど。なんだかそれが、大人になったというか。本屋さんって大人になる感覚がありますよね。

 子どもが自分の少ないお小遣いで、少年コミックを買わずに、ランボー詩集を買う。本屋さんは子どもが大人になれる場所でもあって、このことがすごく重要な気がしています。子どもが自分の足で、本屋に行って、自分で自分の選んだ本を買う。親に車で連れて行ってもらって、買ってもらうわけではなくてね。これは本を好きになるベースですよね。

――本屋さんは、子どもがひとりで行けるお店なんですよね。

島田コンビ二とスーパーと本屋さんが、子どもが一人で何の抵抗もなく入って、出てこられる場所だ、という話をどこかで聞いて、なるほどなと思いました。それはおもちゃ屋さんですら難しいことで。本屋さんは小学生が一人で入って、何もしなくても出てこられる場所ですよね。ほうっておいてくれる場所。少し無愛想なくらい。それが本屋さんのよいところでもあります。

――「こんな本屋さんがあります」というだけではなくて、「本屋さんってどういうところ?」「どうやって使ったらいいの?」という視点の本は、今までなかったと思います。やはり、高校生たちに読んでほしいですね。

島田附録の用語集も、これさえ知っていれば本屋さんで働けるかも、本屋さんという職業をより理解してほしい、そういう気持ちの一つの表れです。

――・・・これは、私も勉強する必要があるような気がします。

島田僕も初めて知ることがけっこうありました。

――書籍の完成を楽しみにしています! 今日はほんとうにありがとうございました。

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