本屋さんと私

第90回 漫画家には「なるもんだ」と思っていた

『重版出来!』 著者:松田奈緒子 発行:小学館 価格:580円(本体552円)

 ことのはじまりは営業ワタナベがメルマガの編集後記に、『重版出来!』を読んで痺れた、というエピソードを書いたことでした。これに、京都の新人ミッキーが激しく反応。「私も一昨日、『重版出来!』読みました!!!途中でめっちゃ泣きました。・・・わたしも黒沢心に負けんとこうと強く心に決めた一日でした。」
 さらに自由が丘メンバーヒラタが反応。「わたしも昨日渡辺さんに借りて読みました!むっちゃいいね!!むねアツやね!!なんて素敵な仕事に携わってるんだろうと誇らしくなりました。」。・・・同時多発的にミシマ社内を席巻した『重版出来!』。

 柔道に青春を捧げた主人公、黒沢心が体当たりで挑む、漫画の新米編集者という仕事。編集、営業、書店員がチーム戦で漫画を「売る」姿を描くストーリーは、私たちが日々している仕事ともぴったり重なって、読んでいるうちに仕事やる気モードが全開に。もちろん出版業界にかぎらず、就職活動中の学生さんや新入社員の方、いろいろな業種で働くみなさんも、読めば元気倍増間違いなし。
 今回は作者の松田奈緒子先生に、制作秘話と本屋さんのお話をうかがいました。第3日目、第4日目には、編集ご担当の山内菜緒子さんにもご登場いただいています。どうぞお楽しみください!

(聞き手:星野友里、東江夏美、吉田美里、構成:東江夏美、吉田美里)

第92回 『重版出来!』こぼれ話 その2

2013.08.07更新

タイトル紆余曲折

――巻末のおまけ漫画にもありましたが、連載タイトルを決めるまでは苦労されたんですか?

第92回 『重版出来!』こぼれ話その2

担当編集者の山内菜緒子さん(左)と松田奈緒子先生(右)

松田そうですね。最初はもっと編集者に寄ったタイトルで、「火曜日はダメよ。」とか「よいへん」、とかね。

山内なんか違う、これも違うってずーっとモヤモヤ、モヤモヤと。この言葉(重版出来)が松田さんから出てきた瞬間「ああ、これですよ!」って思いましたもんね。連載開始のギリギリでしたよね。

松田 ギリギリでしたね。今も自分のメールのフォルダは「新連載!」になってるんですよ。タイトル決まってなかったから(笑) 『重版出来!』関連のメールを全部そこに入れているんですけど、今も記念にそのままにしてますね。

――たしかに、コレ!っていうタイトルが出るともう、その瞬間に決まりますよね。

山内そうなんですよ。道がすごくきれいに開けるというか。

――さかのぼって、本体もそういう物語なんだ、って思ったりもしますよね。毎回それが訪れるともかぎらず・・・難しいですよね。

松田通るかどうか、っていうのもあるんですよね。連載のタイトルが。『重版出来!』も最初はわかりづらいんじゃないか、って。

山内そう、一般の読者の方々は「重版」よりも「増刷」の方がわかるんじゃないか、という意見も社内であったんですけど。タイトルって本当に難しいですよね。良いと思ったら似たタイトルの連載予告を目にして「ああ、先にやられたー!」と思ったりとか。

――ありますね~! 『重版出来!』は、本当に素晴らしいタイトルだと思います。

山内はい、出版業界の方々には一発で覚えてもらえます。松田さんの粘り勝ちが生んだ、本当に幸せなタイトルです(笑)。


印象的なセリフから組み立てる

――連載があるときは、取材の期間と、執筆にかかる期間とでかなり埋め尽くされているという状況ですか?

松田私ずっと、ありがたいことに、月1で、32ページの連載をベースに、たまに違うところでお仕事させてもらう感じでやってきたんですね。でも、Twitterでほかの先生のお忙しさを見ると、今の状況でいっぱいいっぱい、って思うのが間違っているんだろうなって気がしているんですよね。週刊連載をされている先生たちは上手に時間作ったりしてるし。    基本的にとにかくダラダラしていたくて、できれば毎日映画をみたいというような気持ちなんですけど(笑) それやると破産するので、仕事は真面目にしてます(笑)。

――やっぱり、かなり取材されてますか?

松田そうですね、漫画家関係はアシスタントも経験していたので、蓄積されていましたが、それ以外の、本屋さんであるとか、営業さんとか、自分と今まであんまり関係なかったところは、取材させていただいて、すごく勉強になりました。

――作られるときは、なんとなくお話のイメージがあって、取材を繰り返していく感じですか?

松田キャラクターは最初は考えなくて、とにかく取材に行って、お話をうかがって。それで印象的なセリフが出てくるんですね。それから組み立てていきます。こういう感じなのかなって。だから、わりとどうでもいい話をしているときに、ポロって出てきた言葉とかがキーになる感じですね。


運を貯める

――心ちゃんと社長とを結んでいる運を貯めるっていうくだりがすごく好きなのですが、これは松田さんの感覚としてもありますか?

松田そうですね。アシスタントでお世話になった先生たちもそうですけど、みなさん、徳を積むというか、本当によい方々なんです。けっしてひどいことをしたりしない。成功している人たちの本・・・ビートたけしさんの本を読んだりするとやっぱり同じようなことを仰ってたりとかするんですよね。
 そういうのが、たぶん、人間界だから真理なんだろうなって思って。自分だけが得をしようって人は嫌われるし、嫌われるとサポートも得られないわけだから。人のためにやってれば返ってくるんだな、というのは実感としてありますね。 私はそんなにできてる方ではないんですが、まわり見ていてそういう心がけの方は多くを得ているなと思うので。自分もそうなれるように頑張りたいなと思いますね。

――私もこれを読んでちゃんとしようって思いました。ごみを拾おう、とか(笑) ほんのちょっとしたことなんですけど、やるかどうか迷う瞬間に。

山内わかります。私も社長の回を読んでからそうなりました(笑)

――きっとこれを読んだ多くの人がそうなっているにちがいない(笑)

松田一番おもしろいなと思うのは、そうやって、落ちてるものを拾うとがが、実は人のためじゃなくて、「良いことがあるぜ!」って自分に返ってくるためにやっているという。我が欲望のため、というのが、人間ってかわいいなあって思いますよね(笑)。


   

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