本屋さんと私

鷲田清一さん

鷲田清一『おとなの背中』(角川学芸出版)

 「みんなのミシマガジン」紙版9月号の「はじめに」で私は、鷲田清一先生著『おとなの背中』から、長い引用をさせていただきました。
 「お一人の仕事が丁寧だと、以心伝心、メンバーが入れ替わった異分野の職人さんたちにもそれが感染していって、だれが指示したわけでもないのに佇まいが一定の感度にそろってくる。(略)将来、おなじ職工の眼にふれたときに恥ずかしくないような仕事をしておきたいというのである。職人のこだわりはじつに未来の職人に宛てられていたのである」

(まえがき『おとなの背中』角川学芸出版)

 これを実践していくこと。
 このミシマガジンも、ミシマ社の本たちも、上記の「職人さん」のようでありたい。そう誓った私は、本書をご執筆された鷲田先生に、お話をどうしても直接うかがいたく研究室を訪れたのでした。
 仙台メディア・テークの館長もされている鷲田先生。超がつくご多忙にもかかわらず、これからの人生の指針となるべき大切なことをいっぱい教えてくださいました。
 3回に分けて、ミシマガ読者の皆さまへお届けいたします。
 第2回は、「消費からは、カルチャーは生まれない」。どうぞ。

(構成・聞き手:三島邦弘)

第98回 消費からは、カルチャーは生まれない

2013.11.26更新

イマジネーションを働かせる

―― 大人自身も背中を見せられるようにならないといけませんよねぇ。例えば知の世界で言えばどんどん専門化が進んでいって、先生の言葉でいう知の世界で想像力がうごめかない(『パラレルな知性』晶文社)。大人自身がもう一回背中を見せれる存在になっていくっていうこともすごく必要なんじゃないかなと思うのですが。

鷲田もちろん知識や情報が複雑になったいうことはありますが、それよりももっと根本的な理由は、一つのことをやるのに誰かの手を借りたり誰かの協力を得る、その力がなくなった。どんな立派な発見でも全然違う人と組まなければいけない。職人さんの立場でもね、こんな上等な包丁が作れた、と喜んだところで、包丁だけあってもなんにもならへん。食材の目利きの人と組み、調理師さんと組み、そういうネットワークで作っていく。1人で作れるものって実際にはないんですよ。

―― ないですよね。

鷲田ねえ。そう考えてくると人と組んでしかできないのに、人と組んでやるって力がものすごくなくなってきている。組んでやるためには相手にもその気になってもらわないといけない。自分でこれを作る面白さや意義を伝えることも大事。というか、まずそれがないと意気に感じてくれない。それはオタクだってやる。

―― やりますね(笑)。

鷲田大事なのはこれからそれをやる気になってもらう、乗り気になってもらうために自分とは全然違うプロが、あるいは違う領域の人が何にこだわっているか、どこをぷっと押せばこの人はよっしゃわかった!と言ってくれるか。つまり他者の、自分と全然違う領域の人の関心やこだわりにイマジネーションを働かせること。ただ自分がこれ面白いとかすごいとか思ってそれだけ言うのやったらオタクと変わらない。
 そういうイマジネーションがすごく働きにくくなってると思います。


団塊の世代がカウンターカルチャーをつくったってのは噓。

鷲田その理由は何かっていうと今の大人、70歳よりもこっちの人ってやっぱり、みんなものを作っていない消費の天才たちなんです。特に団塊の世代以降は。

―― なるほど!

鷲田だって団塊の世代っていうのは中学生くらいから小遣い持てるようになった、その最初の世代でしょ。戦後生まれで、高度経済成長に育ったときにお小遣いもらえるようになった世代。大きい家やったら、子ども部屋をもらえるようになった世代で、消費の主体に10代からなった。だからね、団塊の世代は60年代世代ですごいカウンターカルチャーをつくったっていうけど、あれ噓。

―― (笑)

鷲田つくったのはもう一つ前の世代。ホンダがスーパーカブを作った、ソニーがトランジスタラジオ作った、など。もう一つ上の世代なんですよ。終戦を10代で迎えた一、二世代前の人が、いろんなもんを作ってくれた。で、団塊の世代はそれを基盤にバンバン消費したわけです。レコードを買うわ、バイクには乗るわ、子どものときからトランジスタラジオ聞くわ。だから、団塊の世代、60年代後半のカウンターカルチャー世代ってじつはたいしたものを作っていなくて、それをすごく器用に消費しまくっただけ。

―― 器用に!?

鷲田みんな競争になるからね、器用になるんですよ。激しい競争やから。「おまえまだあのアルバム聞いてへんのか!?」とかいう話になるでしょ。

―― 団塊の世代だけですごい人数ですもんね。

鷲田そう。そんで「あれ持ってへんの!?」って言われたら傷つく(笑)。消費の巧妙さやねぇ。その世代が今60代後半に入ってるわけでしょ。だからそれ以降の大人ってのはものを作る、つまり自分とは全然違うタイプの人、気質も違う人らと組んで何かを作っていくという経験がぐーんと希薄になったんと違うかな。で、高度経済成長で企業や文化もどんどんどんどん成長していったから、自分で作らなくってもあとは選ぶだけでしょ。

―― ですね。

鷲田80年代になるとDCブランドとかなんとか言って、おまえ何やおまえは何や言って・・・こんなん、ただ選ぶだけ。 しかも記号を選ぶだけ。前の世代やったら記事を見て、「こんなんあかんわ」って言ったのに。だからホントの意味で、手仕事というか作ることの勉強をしてない世代やと思う。そうではなかったのは、戦前生まれで、戦後に青年として会社を興していった世代。あの世代はすごいと思う。ホンダ、ソニーとかの創業者世代。あの人らっていろいろ工夫して拝み倒してね。「あそこに置かしてくれぇ」とか言ってね。

―― 限りある資源の中から工夫して生み出していく。

鷲田そう、工夫して工夫してね。だからぼくやっぱり消費からはすごいカルチャーは生まれへんと思う。

―― おっしゃる通りだと思います、本当に。

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ミシマ社編集チーム

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