本屋さんと私

 2012年大好評に終わった「昼間だけど百々ナイト!」
 ゲストは、もちろん紀伊國屋書店梅田本店の仕入課・課長、百々典孝(どど・のりたか)さん。ミシマ社社員はもちろん、京都オフィスにいるジュニアたちも大好きな書店員さんです。
 おすすめされると、なぜだかむしょうに読みたくなる! そんな魔法使いみたいな百々さんの声を多くの人に聞いてもらいたく、ミシマ社では2011年から百々さんが選ぶ今年のナンバーワン「百々大賞」をご紹介いただいています。

 皆さんも一緒に参加していただく公開イベントとしては、2012年からスタートしており、今年で2回目になります。サポーターさん、読者の方、書店員さんなど、本当にたくさんの方にご参加いただき、めちゃくちゃ盛り上がった一日となりました!
 
 2回にわたって、昨年12月15日に「ミシマ社の本屋さん」にて行われました第2回「昼間だけど百々ナイト」の模様をお伝えしております。

 後編の本日は、百々さんの普段の仕入課のお仕事や、文化の発信基地としての本屋さんでの取組みなど、普段なかなか聞くことができない興味深いお話が盛りだくさんです。

1回目の様子はこちら。

(聞き手・三島邦弘、文:寄谷菜穂)

第103回 今年もやりました! 第2回昼間だけど百々ナイト! 後編

2014.01.13更新


ベストセラーだけじゃなくて、「いい本」をしっかり売ろう。


三島百々さんはどうやってこの本はいける! と判断されているんですか?

百々案内のFAXだけで、タウンページくらいの厚さになっちゃうんですが、最初はほぼ勘で仕分けていきますね。

三島最初の絞り込みのとき、ベストセラーになりそうでないものも残されるんですよね。

百々そうですね。あと、これは自分がつけたい10冊とかあるんです。誰がつけても10冊なんだけど「これはぼくがつけたい!」っていう。

三島なるほど、そうすると、ただの10冊じゃなく、百々さんパワーのついた10冊になる。

百々そうです。普通は10冊仕入れたら3ヶ月後には9冊くらい売れて、残りは棚差しになって補充がかかる。年間を通したら3、40冊くらいかな。
 でも僕がつけた10冊は「いつまでも積んどけよこれ」って売り場の担当に渡す。なぜかと言うといい本だから。分かる人には分かるいい本だから。
 結果、スタートは同じ10冊でも、年間通すと5、60冊になってくるんです。

三島へえ〜。現場に百々さんの意志を伝えても、「課長の10冊より、こっちの10冊推したいんや」ってないんですか?

百々もちろん売り場の担当者にもイチオシはあります。だから担当者のその理屈に勝てるものがないといけない。いい本なんで置いてください、だけではダメです。きちんと納得してもらうのがとても難しい。特殊な能力が必要になるところかもしれない。10冊つけるのは誰でもできるけど。

三島そうですよね。

百々著者が伝えたい内容だけじゃなくて、その出版社、編集者が目指す本づくりも含め、本のことを伝える。そして書評には必ずのるとか、この本を読めば、いろんな方向に興味がわいてくるから、いろんな本を読みたくなって、後々の売り上げにつながってくるんだとか、そういう内容もミックスして担当者に伝えるようにしています。

三島なるほど。

百々この本がどれだけいい本かっていうのは、著者が1番よく知ってる。2番目は編集者。3番目は営業かと思うんです。次が書店員で、最後はお客さん。
ぼくたちの仕事は、似ているタイトルで同じように見える本を、いかに「こっちの方が断然いい」とお客さんに説明できるかが非常に重要。

三島ほお。

百々それをぼくが担当者に伝えることができなければ、お客さんには伝わらない。何冊仕入れるかということより、「この本でなくてはならない理由をちゃんと共有すること」に一番気をつけています。

三島納得です。


本づくりって濃縮還元なんです。

三島書き手と編集者との打ち合わせでは「あり得ないほど面白いものができる!」って思うんです。「触れたらやけどすんで!」って(笑)。

一同(笑)。

三島それくらい盛り上がる。その熱量がそのままバーン! と届けられたら読者の方もたまらないですよね。でもこれがすごく難しい。
 最初の打ち合わせの興奮って文字に起こす段階ですごく削られるんです。

百々あぁ~。

三島打ち合わせのときは五感をフルに使っています。アイコンタクトやその場のにおいとかも全部含めて。その興奮や感動が、この本はおもしろくなるにちがいないという気持ちにつながっている。
 でも文字というのは五感をフルに使ってだした要素を、いったん視覚だけで味わえるものに落としていくもの。情報量は、元々あったものの数千分の一、数万分の一になると思うんですよ。

百々ふんふん。

三島でも、熱量はできるだけ最初の状態を保ちたい。そこで書き手の技術が問われてくると思うんです。

百々なるほど。

三島例えば読者のみなさんは、この本素晴らしいですね! って著者と握手はできない。熱弁する著者のつばとかも飛んでこない(笑)。
 でも文字を追うことで、著者と編集者の打ち合わせでつくられた世界へ、今とは全く別のところへ羽ばたくことが出来る。それが本のおもしろいところであるし、それを最大限にするために、「この紙で、この組み方をして、こういう書体にした」というのがちゃんとあるわけです。
 そしてそのすべてを編集者が社内できちんとプレゼンでき、営業も「そうか!!」と理解する。もともとあったパワーをもう一度再構築していって、読者の方まで届ける、っていう。

百々そういうことなんですね。

三島ちなみに、その元々あったパワーを最近「おもしろ原液」と呼んでいるんですが、原液って、そのままではどうにもならない。だからどう加工してきちんと届くものにしていくかを考えています。

百々わかります。ぼく、本づくりって濃縮還元だと思うんです。情報はいったん粉末になるけれど、水の量をコントロールして、読者の方まで届くときに100%となるように仕上げていく。やりようによっては、150%にすることだって可能。

三島そうです、そういうことです。
 
 

本屋さんは文化の発信基地、地域のミニFM。

百々本屋さんってお店に来てくださる人のために文化を発信する場所です。だからお店の商圏で流行るものをやれば十分なんです。もしくは流行らせればいい。向こう5キロとか3キロの人に向けて発信すればいいわけです。ミニFMみたいな文化の発信基地として。どこの本屋さんにいっても東京から来た同じものを売っているなんておもしろくない。

 
 7、8年前本町店に勤務していたときに、科学雑誌『Newton』の図解相対性理論を300冊仕入れたんです。普段だったら、50冊とか70冊なんですけど。でもそのときはあっという間に売れて、結局4000冊までいきました。

三島まじですか!? 一店舗で4000冊!?

百々本屋さんは通常、問屋さんを飛ばして出版社と交渉するのはダメなんです。でもそのときは本当にどこにも在庫がなかった。だから直接出版社と交渉して・・・重版も提案しました(笑)。

三島そこまで!?

百々本町で全部買い取るからって。もちろん当時のぼくにそんな権限はないんですけど(笑)。

三島店長ですらありませんでしたしね。

一同(笑)。

百々本町店だけで4000冊売って、余りを梅田とかに「どうせないでしょ」って回した(笑)。紀伊國屋チェーンとしては重版5000部全部売り切りました。

 みなさんも一回は「相対性理論をものにしたい!」って思ったことはないですか? ぼくは図解とか入門とか相対性理論の本を3冊くらい持っているんですが、読んでも全然分からない(笑)。でも『Newton』ならいけるんじゃないか、そういう方が結構いらっしゃるんじゃないか、という仮説の下でやりました。

三島百々さんの生活実感をもとにしたわけですね。

百々そうですね。結果そういうビジネスマンがたくさんいらっしゃって売れていった。
 当時の本町だったら700メートル×1キロという狭い商圏。その中で4000冊。
 かなりの確率で道行く人が相対性理論について考えながら歩いている(笑)。  
 本町の文化をちょっと変えることができた。そうやって開墾していくんです。

三島おもしろいです。ミニFMもわかりやすい。

百々全国の店舗と比べてうちは売れてないからもっとがんばらなあかんなとか、そんなんじゃない。お客さんの顔を見て、生活を想像して、そして打ち出す。
 どこに行っても同じような本屋さんではなくて、その地域に向けた文化や読書の発信基地にならなきゃいけない。

三島本当にそのとおりだと思います。


大阪の、大阪人による、大阪人のための文化発信。

百々"Osaka Book One Project"ってみなさんご存じですか?

三島「本屋さんと私」というコーナーでミシマガジンでも取材させていただいたことがあります。第1回受賞作品は高田郁さんの『銀二貫』。それを動かしてるのが百々さん。

一同へえ〜!

百々大阪の本屋さんみんなで同じ本を押し出していきましょうというプロジェクトです。今回は大阪にゆかりのある小説をダイハン書房の山ノ上さんという方に選んでもらいました。
 各店舗ばらばらに発信していても大阪全体から見たら何も変わらない。みんなが同時に発信することで大阪が少しだけ変わるかもしれない。そんな話を問屋さんの支社長としたことがきっかけです。

 出版の問屋さんというのはシェア争いがメイン。だからそれぞれあまり仲がよろしくない(笑)。

三島やっぱりそうなんですね。「本質的にどうパイを広げるか」を全員で考えないといけないのに。

百々そうなんです。そこで今回のプロジェクトは、いろんな垣根を超えて全部巻き込みました。
 Aの問屋さんの『銀二貫』がなくなったらBやCから流通するというふうに。大阪のどこの本屋さんに行っても『銀二貫』が置いてあるようにしたかった。

三島なるほど。

百々さらに一括でどかんと仕入れるわけですから、ちょっとまけてって言いやすい。まけてもらったお金を社会貢献に使う。美しい流れになるように始めから決めていたんです(笑)。
 大阪という商圏に向けて文化を発信する。そこでうるおったお金を本屋とか問屋が持っていても大したことにはならないんです。だから大阪に返す。
 今回は児童福祉施設に本を寄贈することにしています。あなたが一冊買うごとに児童福祉施設の子どもたちにその分たくさん本が届きますよって。
 
三島いいですね。

百々1社だけでは難しいことも数社あつまったら何かできるかもしれない。
 大阪の著者、大阪の作品を大阪の読者に向けて大阪の本屋と問屋が協力して発信し、それがまた大阪に返ってくる。そうやって大阪の読書や文化レベルを底上げできないかとやっているところです。


 いかがでしたでしょうか。早速本屋さんにかけこみたくなりました。これぞ百々マジック。文化とは、選ばれた特別な人のみが発信できるものではなくて、皆でつくりあげていくものなんだ、そして自分も隣のあの人もその中の一人なんだ、と思えました。素敵ですね。
 
 そしてそして! 高田郁さんの大ファンであるミシマ社新居も大絶賛の、Osaka Book One Project第1回受賞作『銀二貫』。大阪近郊にお住まいの皆様は、ぜひ、お近くの本屋さんで手に取ってみてください!!

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ミシマ社編集チーム

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