本屋さんと私

 2011年に放送された、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』。ファッションデザイナーとして活躍する、コシノヒロコ・ジュンコ・ミチコの三姉妹を育てあげた小篠綾子の生涯を描いたこの作品は、放送されるやいなや、関西をはじめ全国で話題となりました。ドラマの舞台となったのは、だんじりの街・岸和田。特徴的な岸和田弁を覚えている方も多いのではないでしょうか。

本屋さんと私

『村上海賊の娘』和田竜(著)、新潮社

 一方、2013年10月に発刊された、和田竜さんによる4年ぶりの最新作『村上海賊の娘』。
瀬戸内海に実在した海賊、村上海賊の長・武吉の娘である景を主人公に、手に汗握る合戦が繰り広げられる歴史小説です。なかでも眞鍋七五三兵衛をはじめとする眞鍋海賊たちが話す、アクが強くてやたら勢いのある泉州弁が強烈! みるみる小説の世界に入っていってしまいます。

 じつはこの『カーネーション』と『村上海賊の娘』には、ふたつの共通点があります。
ひとつは、どちらも登場人物が関西弁(とくに岸和田弁などの泉州のことば)を話すこと。そしてもうひとつは......じつは、方言指導をされた方が同じなのです!
 今回は、この2作品の方言指導をされた、俳優・林英世さんにお話をうかがいました。大阪弁をはじめとする方言のはなしから、小説の話までじっくりどうぞ!

(聞き手:新居未希、寄谷菜穂 構成:新居未希)

第104回 関西弁を、活字にするということ(林英世さん編)

2014.01.27更新

方言指導AtoZ

―― 方言指導は、どういう経緯でやられることになったのでしょうか?

『村上海賊の娘』は、新潮社の知り合いから「和田さんがこの本を書くにあたって、どうしても泉州弁がわかる人がほしいんだけど......英世ちゃんどう?」と。そんなことやったこともなかったけれど、面白そうだったので引き受けました。
 『カーネーション』のときは、事務所の社長に「岸和田の方言指導、募集してるけど、あんたできるよな?」と言われて(笑)。

―― (笑)。ドラマの方言指導を、役者さんがやられているということを初めて知りました。

セリフとして役者さんにアドバイスできるか、が大事なんです。「こういう気持ちでこう言いたい」と相談されたときに、「あぁなるほど。そしたらね......」とできる。ここは、学者さんとは違う点ですね。

―― なるほど。

突然「こういうことになったのでここに言葉が欲しいんですけど」ということにもなるので、役者の方が演じる側としての発想ができるんです。役者さんの方も気持ちがわかるもの同士で考えた方がいい。

―― たしかにそうですよね。

『村上海賊の娘』のときは、はじめに和田さんと直接「こんなふうなシーンで、こういう人たちがこういうことを言うんですが、それはどういう言い方だろうか」といったことを相談しました。そしてある程度いくと、週刊誌の原稿の形になったものが送られてきて、それをさらに直す。新たな言葉が入っていたり「この場面、かけ声をなんとかしたいんですが何かありませんか?」といった具体的な質問が来るので、それに対して答えていきましたね。
 大事なのは、ドラマとは違い活字になるので、文字の表記で伝わるかどうか。表記すると訳がわからないな、というものはやっぱり省きました。


方言表現の、正しさが大事なのではない

ひとつ、『カーネーション』をやっていて、関西弁は母音と子音の構成が標準語とは違うんだな、ということに気がついたんです。

―― ......?

たとえば大阪だったら、「か(↓)き(↓)く(↓)け(↓)こ(↓)」と落ちてくるじゃないですか? そういうところは、なかなか活字ではわからない。
 あとは、語気ですね。「ほんまけぇ!?」と語尾をあげるようにして言うのか、「ほんまけぇ」と下げながら、ゆっくりというのかでだいぶ違います。そのニュアンスが伝わるようにはしました。

―― なるほど。関西弁の表現って、一歩間違えるとすごいイタいというか「あぁ、やってもうたな......」ということになりますよね。けれど大阪弁がしゃべれるからうまいこと書けるかというと、全然そんなことはない。

町田康さんの『告白』という、河内弁の小説がありますよね。この小説を読んでいるとき、私はなんとなく河内弁の感覚があるからこれを音に直せるけど、できない人はどうするのか、と思ったんです。でもあれだけ細かい音の表記、小さな字や母音の伸びた音を書くと、何かが伝わる。これはすごいなぁ、と思いました。漢字をあててみたり、小さな「あ」や「お」を入れてみて、語調やリズムがあれば、元を知らなくても頭の中でリズム感がだんだん補正されていくかな、と。

―― 『村上海賊の娘』の中でも「ん」が小さくなっていたりと、リズムが出ていたように感じます。

たとえば、大阪弁だと「○○が高くて」が「たこうて」となりやすいんですが、泉州だと「たこて」。ちょっと詰まったりします。そういった言葉の調子みたいなものを活字に表していくようにすると、リズムや雰囲気は出やすいですよね。

―― なるほど。

言葉ってやっぱり、そういうリズムみたいなものを土台にできているので。ことに音声のあり方は人間の距離感だとか、ものの感じ方を表現してしまうから、なるべく読み手の頭の中で音になるように考えました。
 ただ大事なのは、そこで生きる人間たちの持っている気質や、風土の持っている何かを伝えたくて泉州弁を使っているのであって、泉州弁がどんなものなのかというのをみなさんにお知らせするためにやっているのではない、ということです。
 あんまり堅苦しく「全員にわかるように」とは考えず、そこを一般的なものにしてしまうよりも、土地柄に寄せた方が和田さんがやりたいことに近いのではないか。そして、そのために私は頼まれたんだろうと思いました。

―― おっしゃる通りだと思います。

もちろんドラマでも、結局方言の正しさが大事なのではない。そこで何を一番に表現すべきか、ということを中心におけば、言葉ってすごく柔らかいものなので「じゃあこっちはどうですか」というのはいくらでも提案できます。だから、そういうやり方を小説の方でもやらせてもらいました。作家の選択肢を増やせればと。

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