本屋さんと私

 はじまりは年明けに、ミシマガサポーターの方から届いた1通のお手紙でした。

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『坂口恭平然躁鬱日記』坂口恭平(著)、医学書院

 イベント会場等でよくお会いするダンディーな白石さん(@shiraishimas)のことは、ミシマ社メンバー一同もちろん存じ上げていましたが、じっくりと本について、本づくりについてお話をうかがったことはありませんでした。

「ケアをひらく」シリーズの最新刊、『坂口恭平躁鬱日記』も面白くて一気読みしてしまったタイミング、これは突撃させていただかねば! ということで取材をさせていただくこととなりました。
 当事者研究について、ケアについて、本づくりについて、本屋さんについて・・・お話をうかがううち、はからずも色々なキーワードがつながり出して、なんだかとても楽しく、終わってからも興奮冷めやらぬインタビューとなりました。ぜひお楽しみください!

(聞き手、構成:星野友里 写真:赤穴千恵)

第107回 ある種の弱さが他人を動かす(医学書院・白石正明さん編)

2014.02.21更新

他人事のように自分を語る

―― 最新刊の『坂口恭平躁鬱日記』、とても面白くて一気に読んでしまいました。この本はどういうきっかけで生まれたのでしょうか?

本屋さんと私

白石3年くらい前に、奈良であったイベントで、初めて坂口さんにお会いしたんです。そのとき坂口さんは「僕は躁鬱病で医者にも通ってる」とおっしゃっていて、すごく興味をもったんですね。僕は病気の人に目がないので(笑)。で、坂口さんに躁鬱病の当事者研究をやってほしいとお願いしたんですが、「躁鬱病は内省できないし、自分の心の中なんてわからないから、できない」と断られたんです。そしたら、2年後くらいに突然連絡がきて、「やってみたい」と言ってもらって。

―― それが昨年ですか?

白石そうです。昨年の8月くらいかな。坂口さんがひらめいたんですね。実は「内省できない」というところが重要で、それこそが当事者研究なんです。当事者研究って、他人事のように自分を語るところがツボですから。

―― 他人事のように自分を語る。

白石多くの人は、「私はどうしてだめなんだろう」とか「母親にこうされたからかしら」とか、自分の内側や過去に入っていってしまう。けれども、もっと他人事のように反省しないで自分を眺めるのが当事者研究だし、それがまたなぜかセラピューティックな効果ももつんです。

―― それは面白いお話ですね。白石さんが当事者研究の本をつくるきっかけは何だったのでしょうか?

白石はじめは、べてるの家ですね。そこでは統合失調症とかで行きづまった人たちが、「もうやることないな。じゃ研究でもしてみるか」という感じで当事者研究をはじめた。そもそも、「どうしてこんな病気になっちゃったんだろう」と考えすぎて病気になったような人たちだし、すごく誠実でまじめなんですよ。だから、自分の内側に「どうして?どうして?」って入り込んでいってしまう。

―― なるほど。

白石それを「研究」という錦の御旗のもとで(笑)、反省なんかしないで、客観的に淡々と自分のことを見たときに、全然別の境地にいけたんですよね。それがすごいなと思って。内省しつくして苦しくなった人が、あきらめて他人事のようにやろうとしたときに、なにか出口が見つかった。それがすごく重要なことだなと。


ある種の欠陥が相手の力を引き出す

本屋さんと私

『弱いロボット』岡田美智男(著)、医学書院

―― 『弱いロボット』も本当に面白くて、いろいろなことを考えさせられました。こちらはどういうきっかけでできた本でしょうか?

白石『現代思想』という雑誌の「メルロ=ポンティ特集」に、豊橋技術科学大の岡田美智男さんがロボットについて書いていたんです。「自分はメルロ=ポンティ的なロボットをつくってる」って、すごく面白いなぁと。ゴミ箱ロボットっていうのがあって、ゴミは見つけるけれど拾えないんですよ(笑)。一人では何もできないロボット。

―― たしかに、面白いですね。

白石ちょっと専門的な話をすると、精神科のリハビリなんかで、挨拶の仕方を練習させることがあるんです。「挨拶できるようになってから退院しよう」とかいって、相手のいない中で挨拶の練習をする。だけどそれは、挨拶じゃないですよね。とりあえず、一歩出ることによって相手の反応があって、それにまた自分が答えるというやり取りそのものが挨拶なのであって。相手からの反応がない中で一人トレーニングをさせるって、なんかすごく残酷だなって思ったんです。だから、見つけたゴミは誰かが拾ってくれるだろうっていう『弱いロボット』って、僕たちに最初の一歩を踏み出させてくれる思想的なバックボーンになるじゃないかなと思ったんです。

―― 実はミシマ社から1月に発刊となった、益田ミリさんの『みちこさん英語をやりなおす』にも、まさに今白石さんが仰った文脈で、『弱いロボット』(p111)からの引用が載せられているんです。

本屋さんと私

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白石(『みち子さん~』を見て)素晴らしいじゃないですか。嬉しい!! そうそう。その通りなんですよね。会話は、言い直すことを前提に、二人でつくりあげるものなのに、それを一人で完結した形で練習させるって変ですよ。自分だってやってないくせに(笑)。

―― たしかに、そうですね。

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『弱いロボット』p96

白石この写真が好きなんだけど(『弱いロボット』の頁をめくって)、岡田さんって凄く優しい人でね、動かなくなったロボットを修理してるの。

―― この写真と「ロボットを介抱する岡田氏」ってキャプションが読んでいて印象的でした。人間がロボットを介抱するっておもしろいですよね。

白石ある種の欠陥が、場をまわすというか、他人を動かすじゃないですか。自分一人で何かできることを目指さなくたって、むしろその欠陥が相手の力を引き出したりする。そういうことをやったほうがいいんじゃないかなって思います。

※編集部註
■岡田美智男さんが朝日beのフロントランナーに登場されました。


坂口恭平さん=弱いロボット!?

白石その意味でいうと、坂口恭平さんは"弱いロボット"なんですよ。

―― あ~、そうか!!

白石みんな誤解しているけど、そう思います。一つはすぐ壊れる(笑)。できるときのパワーはすごいんだけど、すぐ壊れちゃう。あと、他人のいいなりなんです(笑)。自分の中にある完結したものがあって、「これをやって、あれをやって」というわけじゃなくて、彼は全然自分で決めない。むしろ、まわりの力を引き込むような、ある魅力的な弱さがあって、まわりの人がいろいろしてあげたくなっちゃう。だから、僕は違うけど彼のまわりの編集者ってみんな優秀なんですよ。彼のある種の弱さが、場をまわしている。

―― なるほど~。

白石そこがすごく魅力的です。坂口さんは「新政府総理大臣」とか言ってますが、この本で意識したのは、むしろ彼の鬱期の文章の凡庸さなんですよ。

―― これすごいですよね。鬱期の文章は文体がまったく違います。

白石人間が個人の中にとどまったら・・・つまり、ある種の完結性の世界にとどまったら、誰でも同じように鬱になると思うんですよ。人間ってそんなもので、外からいろんな刺激が無理やり入ってきて、動きがでるじゃないですか。普通の人はもうちょっとうまくバランスをとっているけれど、坂口さんは極端に閉じるときと開くときがあるというだけの話で。まあその振れ幅こそが才能なんだけど。

―― そうですね。

白石坂口さんが言っている「レイヤー」っていうのも、思考の産物じゃなくて、彼にはほんとうに世界が"そんなふう"に見えるという話なんだと思います。頭で考えて言っているわけではなくて、そう見させられちゃっている。その強さがあるんですね。「歩いてるとさ、緑の光がすごいんだよね!」とかって電話かかってきたりするんです。「それじゃ!」ってすぐ切られるんですけど(笑)。

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