本屋さんと私

 はじまりは年明けに、ミシマガサポーターの方から届いた1通のお手紙でした。

本屋さんと私

本屋さんと私

『坂口恭平然躁鬱日記』坂口恭平(著)、医学書院

 イベント会場等でよくお会いするダンディーな白石さん(@shiraishimas)のことは、ミシマ社メンバー一同もちろん存じ上げていましたが、じっくりと本について、本づくりについてお話をうかがったことはありませんでした。

「ケアをひらく」シリーズの最新刊、『坂口恭平躁鬱日記』も面白くて一気読みしてしまったタイミング、これは突撃させていただかねば! ということで取材をさせていただくこととなりました。
 当事者研究について、ケアについて、本づくりについて、本屋さんについて・・・お話をうかがううち、はからずも色々なキーワードがつながり出して、なんだかとても楽しく、終わってからも興奮冷めやらぬインタビューとなりました。ぜひお楽しみください!

(聞き手、構成:星野友里 写真:赤穴千恵)

第108回 「どこが言えないのか」に焦点をあてる

2014.02.22更新

ビジョンはありません

―― 「ケアをひらく」シリーズは白石さんだけが担当されているんですか?

白石はい、そうです。

―― 「ケア」以外にも、白石さんだと色々な企画の広がりが考えられるのかなと思うのですが、軸足を決めて動かさないというのは、あえて意識的にされているのでしょうか?

本屋さんと私

白石基本的に受け身なんですよ。何かの枠の中でやるときに、思いつくこともあって。ある種の制約が、クリエイティビティの入口だというところもあるしね。だから、制約はそんなに嫌いじゃないかな。まあ会社にいると、いろいろストレスもありますけど(笑)

―― 白石さんの本作りから、受け身という感じはしないですけどね。

白石アイディアというか、ビジョンとかないもん(笑)

―― 断言・・・!!

白石坂口さんもビジョンはないと思います。ビジョンのある人って、あんまり魅力的じゃないと思いますよ。つまり他人に開かれてないから。計画を立ててとか、キャリアアップとか、ほんとうにつまらないと思います。

―― たしかに。

白石やっぱり、外からの刺激を受けるだけの自信というか、受容力というか、宙ぶらりんでいる力がある人は魅力的です。平川克美さんなんかそうだし、内田先生もそうですね(笑)。

―― 宙ぶらりんでいる力。

白石むしろ忘却力というかね(笑)。あのとき、ああ言ったけど今矛盾してるんじゃないかとか、そんなこと忘れて、その場その場でいきいきしているというか。それはもっと高次の次元で一貫性があるんですよね。そういう魅力的な人と一緒に本をつくるだけであって、それ以上はないです。


"立派さ"の表現のバリエーション

―― 「ケアをひらく」シリーズはどういうきっかけで始まったのでしょうか?

本屋さんと私

『ケア学――越境するケアへ』広井良典(著)、医学書院

白石広井良典さんの『ケア学』が1冊目ですね。僕にとって広井さんはすごく大きい存在で、彼と話していてケアというものの面白さを知りました。既存のものさしで見るとケアってつまらないものにしか見えないけれど、実は「あまりにも大きすぎて見えないだけじゃないか」と広井さんは言っていて。

―― 大きすぎて見えない、面白いですね。

白石「ケア」をもっと大きなもの、立派なものとして捉えられるようになりました。「あの看護師さん、優しいね」というレベルのことじゃなくて、もっと根源的な"立派さ"を言いたいなと思って。20冊くらいのシリーズになってきていますが、それはその"立派さ"の表現のバリエーションです。どうしてそれを立派だと思うのか、自分でもよくわからないから、20人くらいの人に"立派さ"について語ってもらっている。

―― 「ケア」というと、「する」側の動詞だと思うんですけど、『弱いロボット』や『坂口恭平躁鬱日記』では、どっちかというとケア「される」側の目線が入ってきますね。

白石たぶん、僕の中で「する・される」っていうのを乗り越えたいんでしょうね。そもそもその二項対立がなくなってしまうことってあるじゃないですか。いま『精神看護』っていう雑誌で、哲学者の國分功一郎さんに「中動態の世界」という連載をしていただいているんですが、それも同じですね。能動でも受動でもないことをどうやって語るか・・・。

―― なるほど。

白石既存の言い回しだと、ものすごくつまんなくなっちゃうことってありますよね。今の言葉で言える程度のことなんて、みんな考えてることだから、「どこが言えないのか」というところに焦点をあてることに、自分としては意味があると思っています。

―― とても勉強になります。

白石一般的に、編集という作業は二重性やノイズをカットして、ある一つのメッセージに集約させようとするんだけど、それは・・・鬱になるよね(笑)

―― 鬱的世界ですね(笑)

白石鬱が悪いわけじゃないけど...。なんていうか、例えば商売モードがないと、より鬱になりやすい。

―― 商売というモチベーションが、何かを開かせることがあるんですね。

白石専門出版社の編集者に多いんですが(笑)、ある価値だけに奉仕してやっているとなんか行きづまる。でも、売らなければ、という他者性が入ることによって、自分が更新されて、なんとか生きていけるのかな。たぶん坂口さんもそうやって外部を取り入れて、やっと生きている(笑)。


白石さんが読む『善き書店員』

本屋さんと私

『善き書店員』木村俊介(著)、ミシマ社

白石あ、そうそう。木村俊介さんの『善き書店員』も、言えないことを言おうと頑張っているところがありますよね。

―― あ、今ちょうど、その話題を出そうかと思っていました。

白石だいたい、タイトルに"善き"って価値観を先に入れちゃうって、ある意味反則じゃないですか。でも、その"善さ"そのものは明確に取り出せないとしても、その"善さ"に向かう、それを表現しようとする姿は明らかに"善い"ですよね。それがよくでているなって。

―― ありがとうございます。

白石書店って面白いなと思うのは、「価値のあるのもを送りたい」というところと「利益を得る」というところの調停があるところですね。もちろん会社ってみんなそういうものですが、書店はそのせめぎあいの直接性というか身体性がある。みなさん、その面白さを言おうとしているんだけど、うまく言えないんです。

―― いったりきたりしながら言葉を探してくださっています。

白石それと、「今まで好きじゃなかった好きができました」って言っているところがあって感動しました。「学習参考書なんて興味はなかったのに、担当してみたら面白かった」というように。自分の中だけにいたら好きなことしかしてなくて、ぐるぐるまわりで鬱になる。それが、外から暴力的にあれやれっていわれて、初めて自分が開かれるわけですよね。そこでいきいきとしたものが出てくると思います。

―― 先ほどのお話ともつながってきますね。

白石『善き書店員』というのは、幻想としての"善き"なんだけど、それを実現しようとすることによって、実際に"善き"書店員になってしまうという二重性がある。書店員の方にも、いいものを届けるというところと、商売で利益を得るというところの二重性がある。そうした二重性が溢れていて、あれは読者を選ぶと思うけれど、僕は面白いと思いました。

―― ありがとうございます。とても嬉しいです。

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