本屋さんと私

 デビュー作『ふがいない僕は空を見た』で話題をかっさらった作家・窪美澄さん。書店員さんにもファンが多く、「久しぶりにすごい小説を読んでしまった」との声をよく耳にしています。いま、大注目の作家さんなのです。

本屋さんと私

『よるのふくらみ』窪美澄(著)、新潮社

 とくにミシマガ編集部のアライは窪さんの作品がすきでたまらなく、新刊が出ると必ず発売日に本屋さんに走っている次第。はじめて窪さんの小説を読んだ日は、感動と興奮で眠れぬ夜を過ごしました。

 そのアライが「最新刊『よるのふくらみ』を入り口に、ぜひミシマガ読者に窪さんの作品を紹介したい」と熱く語ると、「窪さんの作品は男子こそ読むべき」と代表・三島も激しく同意し、なんとほんとうにミシマガにご登場いただけることに・・・!

 窪さんと作品の魅力を、全3回でたっぷりお届けします。男子も女子も、必読です。

(聞き手:三島邦弘 構成・写真:新居未希)

第111回 絶対神になってはいけない

2014.03.19更新

大嫌いから嫌いになるくらいでいい

本屋さんと私

ーー 『よるのふくらみ』だけではなくこれまでの作品でも、世間の目というのがひとつあるからこその闘争と葛藤が入っているかな、と思うのですが。

そうですね。自分の実家が商売をしていたので、地縁や場所に捕われるようなことを何かしら言われちゃう。世間の声みたいなものが入りやすかったのかもしれないですね。
 でも私は、それがいやでいやでしょうがなかった。だからそこから逃げていくために、土地や血とは関係ないところで何かをつくって、そして息を吹き返す、ということを常に書きたいんだと思います。

ーー なるほど。

本屋さんと私

『晴天の迷いクジラ』窪美澄(著)、新潮社

『晴天の迷いクジラ』は最後逃走してしまうんですが、『よるのふくらみ』に関しては、最後のところで親世代を否定してはいないんです。親のことを否定しないで、「あれには到達できないよな」と理解をちょっとだけ深めた、というところを書きたかったのかもしれません。

ーー それはすごく感じました。

そして、それをするのはたぶん時間かな、と思うんです。

ーー 時間ですか。

親も自分も年老いて、ちょっとだけ理解が深まるというのは、やったことに肯定はできないけども、無理解がちょっと理解に近づく、みたいなところだと思うんですよね。それでいいんじゃないかな。別に嫌いなお父さんを好きにはなれないけど、大嫌いから嫌いになるくらいでいいのではないかと思います。


苦しいのは、言えない人たち

ーー ミシマガでも連載していらっしゃる内田樹先生が、「今1番の問題は母・娘関係だ」とここ数年おっしゃっています。自由にさせているっていう言い方でもって実は雁字搦めにしていて、そこから抜け出せない。そうして問題がずっと応用的に広がっているのが、現代社会で女性が抱える問題の原因の、大きな部分を占めていると。

ほんとうにそう思います。

ーー 窪さんの作品のなかにも、そういう母・娘の関係があると感じました。

そうですね。ただ『よるのふくらみ』の場合は、明らかにお母さんが悪いから、わりと攻撃はしやすいんですよね。「あのババァ」とか言いやすいと思う(笑)。苦しいのは、言えない人たちですよ。どう考えてもうちのお母さんは、家庭的で、お父さんも私のことも考えて、ご飯も作っているし家のこともちゃんとやってくれるっていう、「やってるお母さん」だと言いにくいなと思いますね。それが一番しんどい。

ーー 面と向かって否定はしづらいですよね。

何かむこうに攻撃することがあれば言いやすいけど、あまりにも完璧すぎて、何となく自分のことも1番よく知っていてくれて、気持ちも汲んでくれて、話も聞いてくれて、何が悪いんだろうと思っちゃうことが1番苦しいんじゃないかなと思います。そこから抜け出すのが大変ですよね。でもそれはスポイルしている、されていると思うから、どこかで気づくポイントがないと、親と一緒に老いていくっていう人生しかない。


チーズをピーッと裂くような瞬間があるといい

この前1人の女の子と話したときに、「家の外でお母さんの悪口を言ったときに初めて大人になったと思えた」と言ってたんです。その子、もう32歳ぐらいなんですよ。けれど、それまでは非がなくて言えなかったって。それがとても印象的でしたね。

ーー そう思うと、母親ってすごいですね。

「うちのお母さんちょっと変かも」と思うのは、いろんな人に接さないとわからないですよね。パッケージ的にはすごく完璧だけど、なんかおかしくない? っていうのは、誰かが「○○ちゃんのお母さん、なんかおかしいよ」って言わないとわからないじゃないですか。

ーー たしかに。自分のお母さんしか知らないですもんね。

そうなんです。「雁字搦めになってない?」「それ苦しいんじゃない?」とか、誰かが言ってくれないとわからない。だからいろんな世界というか、いろんな人に会ったほうがいいですよね。

ーー 本当そうですよね。

チーズをピーっと裂くような瞬間があるといいですよね。それがないまま大人になると、やっぱりしんどいと思います。それをやらずして新しい家庭っていうのは、難しいんじゃないかな。


子どもの絶対神になってはいけない

ーー 男性でも母親に対して、結構いろいろあるなと思います。自分の経験を通してもそうですし(笑)。知らず知らずのうちに、自分のコントロール下に置くための呪いの言葉をかけられていたのかな、とも。

自分が子どもを育てていたから、すごくわかります。枠をつくったりへし折ったり、「自分の家来になれ」というのは、母親にはすごく簡単なことなんだと思います。

ーー 母親ってまず世界で絶対的な存在で、絶対神として存在している言葉を受けているわけですもんね。

「私は子どもの絶対神になってはだめだ」ということに、お母さんがどこかで気がつかないとまずいですよね。悪い言い方だけど、「ご飯さえ出しとけば死にはしないかな」くらいに思っていたら楽だけど、日々の生活のすべてが子どものためにまわっていると、コントロールしたくなるだろうな、と思うんです。

ーー 本当にそうだと思います。

とくに、息子に対する愛なんていくらでもズルズルズル~ッと出てくるものです。なんでもしてあげるよ、って。だって一緒に歩いてると、もう楽しいんですよね。

ーー (笑)。やっぱりそうですか!

本屋さんと私

うん、楽しい!(笑)。吉祥寺とか行くと、中学生とか高校生くらいの子どもを連れている奥さんがいっぱいいるんです。完璧、あれは仮想デートですよ。
「旦那さんとできないことを息子とやっているな」ということが、私はそこから離れてやっとわかったんです。

ーー ええ、デートですか。

そう、デートです、デート。2人でおいしいもの食べて、欲しいもの買ってあげようっていう(笑)。


お互いにとって、離れてよかった

けれどあれは、やばいと思います。私の場合は旦那さんがいないので、息子とメンタルで「ちょっと近づきすぎてるな」と思った瞬間がありました。だからうちの息子が家を出たいと言ったのは、本能的なものもあったのかもしれません。

ーー なるほどなるほど。

物理的に離れたほうが、自分にも親にもいいってどこかで思ったのかも。そうすることで2人の違う世界がバーンと開けたから、すごくよかったんです。すごく正しかった。

ーー 離れてよかったなって思うんですね。

お互いにとってよかったですね。だって楽しいんですよ。自分のいいように育てているから、音楽の話もできる。自分の好きな音楽しか聞かせてないから。どう考えても、自分にとっていいような子になっているんですよ。トイレは座ってする、ご飯を食べれば皿を片付ける、ご飯も作ってって言えば作る。自分の旦那にはできなかったことを彼にはさせていたわけだから、今ものすごく反省していますけどね(笑)。

ーー (笑)。

すごく話しやすいんですよ。だって、話しやすいように育てたもん。だから、それに気がついたことはよかったし、えらいなって思います。

ーー いやー、えらいと思います、ほんとうに。

子どもがよっぽど反抗しない限りは、自分好みにカスタマイズできてしまう。今の子どもってそんなに激しい反抗をしないから、たぶん親が染めようと思えば、染め上がっちゃうんですよね。鋳型を作れば。だからどこかのタイミングで、どっちかが気づくべきじゃないかなあと思います。

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