本屋さんと私

 デビュー作『ふがいない僕は空を見た』で話題をかっさらった作家・窪美澄さん。書店員さんにもファンが多く、「久しぶりにすごい小説を読んでしまった」との声をよく耳にしています。いま、大注目の作家さんなのです。

本屋さんと私

『よるのふくらみ』窪美澄(著)、新潮社

 とくにミシマガ編集部のアライは窪さんの作品がすきでたまらなく、新刊が出ると必ず発売日に本屋さんに走っている次第。はじめて窪さんの小説を読んだ日は、感動と興奮で眠れぬ夜を過ごしました。

 そのアライが「最新刊『よるのふくらみ』を入り口に、ぜひミシマガ読者に窪さんの作品を紹介したい」と熱く語ると、「窪さんの作品は男子こそ読むべき」と代表・三島も激しく同意し、なんとほんとうにミシマガにご登場いただけることに・・・!

 窪さんと作品の魅力を、全3回でたっぷりお届けします。男子も女子も、必読です。

(聞き手:三島邦弘 構成・写真:新居未希)

第112回 まずはお店に

2014.03.20更新

まずはお店に来てほしい

本屋さんと私

ーー「本屋さんと私」のコーナーということで、本屋さんの話も伺いたいと思います。けっこう、地方に行かれたりもしますか?

仕事では行って関西、とくに大阪と京都ですね。それ以外は行ったことがないんです。今度鳥取の今井書店さんにうかがうので、それがとても楽しみですね。

ーーそうなんですね。たとえば地方の本屋さんで、印象に残っていることはありますか。

そうだな・・・そうだ、京都と言えば、この前恵文社一乗寺店さんに行きました。すごい賑わっていますよね。カップルだらけでびっくりしました。デートコースなんだ、って。でもしっかりとセレクトされていて、おもしろかったです。
 うちは家が商店だったので、本屋さんはもちろん、お店という空間が好きなんですね。下北沢のB&Bという書店さんで「美澄の小部屋」というイベントをやったりもしているのですが、なるべく本屋さんに来てほしいということではじめたイベントでもあるので。まずお店に来てほしい、という気持ちがありますね。

ーー とくにお気に入りの本屋さんがあれば、教えていただけますか。

私は東京出身とは言っても、稲城という、もう川崎に近いようなところの田舎の出身だったんです。町に一軒あるような本屋さんにもよく行ってたんですけど、高校生くらいになると、いろんな本を読みたいじゃないですか。だから思い立ってある日、小田急線に乗って、新宿の紀伊國屋本店に行ったんですよね。地下道通って、カレー屋さんの匂いがして。今と本当に変わらないんですよ。短いエスカレーター上って、階段上がるという。

ーー あそこはほんとうに変わらないですよね。

たしか、高校生くらいのときだったかなあ。はじめて紀伊國屋書店に行ったとき、本当にびっくりしました。「世の中にはこんなに本ってあるんだ」って。それも自分が買いたいものばかり。たとえば、寺山修司の隣りに夢野久作があるとか・・・そういうふうにたどれるように書店員さんが置かれていて、わあ! って思いました。だから、今そこで自分の本が売られているのが感動で、あそこは思い出深いですね。


メロンのしわのような繋がり

あと、もうひとつは渋谷の西武B館の地下に「ぽえむ・ぱろうる」という詩の本だけを集めた本屋さんがあったんです。こんなところがあるんだ! と、それにもびっくりして。そしてその詩の書店で、制服のままで立ち読みするっていう(笑)。よく見逃してくれたな〜と思います。文化みたいものに町に出てはじめて触れたから、ショックが大きかったんですよね。

ーー なるほど。結構ガツンときますね。

そのときはネットとかないので、びっくりしますよね。「この本の装画を書いている、宇野亜喜良さんって誰だろう」とか、バーっと広がっていくんですよ。いろんなことがバンって開く感じがあった。メロンのしわみたいに、「高橋睦郎さんって何だろう」「ブルトンて誰だろう」とか、調べられないけど意識に残るというか。

ーー まっさらでいきますもんね。

そう、まっさらなんですよ! 豆知識も何もないもん。でもさっきの紀伊國屋の話も、メロンのしわの繋がりみたいなのをすごく知っている大人のベテランが、駒を置いてくれるみたいに「それ読んだらこっちだよ」とか教えてくれたんですよね、たぶん。「君、この次ここだよ」っていう引っかかりを、いっぱいくれていた。


陰みたいなところが少なくなった

しかもその当時、80年代前半くらいの新宿って、なんかまだ怖かったんですよね。戦後っぽいと言うと言葉が悪いけれど、バブル前夜じゃないですか。今思うと、戦争みたいな匂いが残っていたんですよね。そう思うと、時代認識を新たにしなくちゃなと思いますね。バブル、バブルというけれど、私が体験した80年代はまだ日本は戦後だった。

ーー 思いっきり昭和ですもんね。

新宿なんて、怪しい感じだったんです。怖かったですよね、ガード下とか。

ーー そうだと思います。今はそんなところもなく・・・

ツルンとしていますよね。陰みたいなところがあんまりないなあって思います。

ーー 裏側がなくなってしまったなと感じます。

それはすごく感じますね。おしゃれで、かっこよくて、かわいいんだけど......これは否定をしているわけではないんだけれど、ああいう臭みみたいな陰とか、そういうのはあんまり感じない。そういうお店も楽しいけれど、ここに行っちゃやばいんじゃないのっていう場所があまりがないのが、可哀想かなと。

ーー そこで嗅覚を磨いていきますもんね。

本当にやばいところとかありますもんね。行っちゃ行けないとこに入っていくとか、今はもうそういうことをしない。いきなりオシャレな本屋さんとかに行っちゃうでしょ。うちの息子とかを見ていると思うんですけど、もうそこで済んじゃうんですよね。オシャレなその店がチョイスしたものでOKみたいな。もう、崇めてしまってる(笑)。そのオシャレな店で売っている本で間違いないよなとか思っていると思うけど・・・漫画とかもね。

ーー わかります!

でもそれだけではないし、自分の脚では探してないからね。まあ、これは年月が経ったから言えることかもしれないですが......。


万遍なく、いろいろ行くのがいい

本屋さんと私

ーー たとえば今だと、嗅覚を磨く本屋さんとして勧めるのはどこでしょうか。

うーん、難しいですね......。

ーー 古本屋さんも行かれたりされるんですか。

そうですね。新刊書店も古本屋さんも、万遍なく行っていますね。たとえば吉祥寺の古本屋さんの百年さんとか、おもしろい古本屋さんが増えていて楽しいです。あと、西荻の古本屋さんとかもおもしろいですね。

ーー たしかに今、古本屋さんがおもしろいですよね。

それは大きいですね。行きつ戻りつ、ツルっとしているのは新刊本だけなんですよ。新刊本ばかりだと、ツルっと度合いが高まってしまうので......やっぱり自分が本を読むときも、新しい本と古い本を交互に読むのが好きだから。

ーー なるほど、交互に。

そうなんです。古本屋さんでしか出会わない本って、絶対あるじゃないですか。図書館でしか出会わない本っていうのもあって。それは、子どもが小さいときに感じていましたね。新刊って一斉にバンッとなくなるから、読めないタイミングのときはエッセイとかを図書館で読んでいました。だから、本屋さん、古本屋さん、図書館で万遍なく、いろいろ行くといいんじゃないでしょうか。

ーー うん、それがいいと思います。今日はとっても楽しかったです。ほんとうにありがとうございました!

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ミシマ社編集チーム

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