本屋さんと私

本屋さんと私

『わが盲想』モハメド・オマル・アブディン(著)、ポプラ社

 2013年6月に出たエッセイ『わが盲想』(ポプラ社)の著者モハメド・オマル・アブディンさん(35)は、12歳で視力を失ったのち19歳で鍼灸を学びに単身渡日、今年東京外国語大学大学院で母国スーダンの紛争問題をテーマに博士論文を書き上げたばかり。承認されればめでたく博士号取得となります。来日してからの波乱万丈の日々をユーモアたっぷりに綴られたこの作品では、私たちが気づかなかったような日本が生き生きと描き出されています。

 今回の企画は、この本を読んで興奮したデッチの「ぜひお話をお聞きしたい!」という思いをアブディンさんが受け止めてくださり実現しました。
 思いもよらない読書の楽しみ方から本づくりにあたっての御苦労、さらにはお得意のおやじギャグの秘訣まで、魅力たっぷりのアブディン節をぜひお楽しみください!

(聞き手・構成:寺町六花、写真:星野友里)

第114回 旬の本が読みたいけれど・・・

2014.04.15更新

物語に入り込むおもしろさ

―― アブディンさんは三浦綾子と夏目漱石がお好きとのことですが、どんなところが良いとお感じになりますか?

アブディン三浦綾子は物語の展開がすごく無駄がないというか、長いのに引き込まれるところがあって、文章も気取って美しく書いていなくてすーっと入ってくるものがあるんですね。夏目漱石も、とても100年以上前に書かれたとは信じがたいところがあります。

―― それぞれ、何の作品がお好きですか?

本屋さんと私

アブディン三浦綾子だったら、僕は『銃口』という作品が好きです。みんなは『氷点』とかって言いますけど、重すぎて僕はあんまり好きじゃないです。『銃口』という小説には召集令状が出された青年の話があるんですけれども、スーダンの内戦でも強制的に戦場に送られた僕の友だちがいたから、あの話はすごくリアリティがあって面白かったですね。
 夏目漱石はどんなテーマでもすごく明るくて。『吾輩は猫である』とかの笑いのテーマだったり、『こころ』みたいなすごくどっしりしたテーマだったり。いろんなテーマで書かれているところがすごいなあと思います。

―― 私も高校生のときに『こころ』を読んで、なんかこう、重たいだけじゃないというか・・・
 
アブディン重たいんだけど、なんだろうね、究極の話をしないから面白いんじゃない?誰の身にも起きそうな感情、それを描けるじゃないですか。主人公が自分みたいなね。物語の中に自分もすごく入っていける、そういうところがあるんですね。


旬の本が読みたいけれど・・・

―― 普段本屋さんに行かれることはあるんですか?

アブディン以前友だちと二人で行ったことはありますけど、どんな本があるのか片っ端から読み上げてくれと言ったら、すごく退屈そうな声を出されましたね。でもこっちは本の配置もわからないしね。立ち読みとかもしたいんだけれどね。

―― この作家さんが面白そうっていう情報はどうやって手に入れられるんですか?

アブディンそれは悩みの種なんですけど、やっぱり目が見えるとふらっと本屋に寄って、どこにどういう本があるかってわかるじゃないですか。今推してる本はこれだな、とか。そういうことができないのはちょっと悲しいなあと思う。本が出て、今読みたいと思ってもすぐに読めない。旬の本を読めない。どうしても遅れて読むことになるんですよ。

―― そうなのですね。

アブディンどういうところで読むかというと、目の見えない人向けのサイトを利用します。日本点字図書館が管理している「サピエ」という本のデータベースがあって、デジタル化された録音図書から読みたいものをダウンロードして、点字にされるのを待たずとも音で聴けます。また、検索機能がありますので、気になる著者の名前を検索したりします。残念ながら旬の本は読めないから、過去にどんなものを書いたのかを調べます。

―― 新刊が読めるようになるのに、どれくらい時間がかかるのですか。

アブディンもし自分が頼めば、3カ月くらいかかります。その本はもう話題にはならなくなっている。
 ですから僕がずっと言っているのは、本の発売と同時にテキストデータも発売するっていうのをやってもらわないと、いつまでも後追いになってしまうということなんです。データが出回るっていうのは非常にリスキーなことでもありますけどね。でもテキストデータがあればパソコン上で読めます。今そういう出版社は増えてきてはいますけど、大手はやってくれません。でも視覚障害者の人たちは、データが欲しいという強い気持ちがありますよ。


本との出会いは人生を変える

―― スーダンと比べて、来日後に「読みたいものを読める喜び」を感じたと御本の中でおっしゃっていたのが印象的でした。

アブディンスーダンは録音された本とかはないから、それと比べたら自由。でも味を知るとどんどん欲が出てくるわけで、今は逆に不満があります(笑)。スーダンでは知る権利などが提示された政策はほとんどない。ですから残念ながら、日本語で書かれた本のほうが、アラビア語の本よりも、僕が読んだ本の数は圧倒的に多いです。それもまた不思議な現象ですけど。

―― スーダンの視覚障害者への教育支援を行うNPOに携わるなど、積極的なご活動をされていますね。

アブディンより多くの子どもたちが点字を読めるようになることは最初のステップですね。それを支援すると同時に、学校で勉強し続けられるように教材用の点字プリンターを設置して、データ化された教材をプリントアウトし、それを学校で配布できるようにしています。さらに、盲学校に通えない子どもたちにも点字の本を配布します。私は個人的にはそれだけじゃなくて、その次のステップで小説とか一般教養の本を子どもたちが読めるようにしたいですね。

―― 子どもたちがたくさん本を読めるというのは大切なことですね。

アブディン小さいころに本を読むことの意味ってすごくあるじゃないですか。僕は大きくなってから本を読めるようになったけど、やはりアンバランスな感じがあるんです。もうちょっと小さいときにいっぱい本を読めていたらいろいろ違ったのかなあと。子どものうちにいろんなものを読める環境を作れたらいいなあという壮大な夢は持っています。
 本は人の人生を変えますし、人は本を読んで将来に対する考え方をものすごく変えますよね。そういう本に出会わないで大人になるというのは、やっぱりすごく残念なことだと思います。


次回は来日当初の思い、そしてアブディンさんのこれからについて伺います!

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

ミシマ社編集チーム

バックナンバー