本屋さんと私

『生まれた時からアルデンテ』平野紗季子(平凡社)

 パッと目を惹く装丁とタイトル、ページを開くと写真と文章が踊ってる。見たことがないような雰囲気に、「なんだこれは」と見る間に夢中になってしまう......
 今回は、そんな新しい食エッセイ『生まれた時からアルデンテ』著者の平野紗季子さんにお話を伺いました。

 じつはこの平野さん、なんと平成生まれ! 落ちついた文章と底知れぬ食への探究心からは想像できませんが、この春から社会人になったというめちゃめちゃお若いお方です。そして小さいころから食日記をつけ続ける、「生粋のごはん狂」なんです。

 ミシマ社の新人編集・アライもおなじ平成生まれであり、そして以前から平野さんのブログの読者で書籍化を待ち望んでいたということもあり、これはどうしてもお話を聞きたい! と、平野さんへ会いに京都から東京へ飛んでいってしまいました。
 食の話から本屋さんの話まで、全2回でお届けします!

(構成・写真:新居未希)

第119回 心が揺れる食を書く(平野紗季子さん編)

2014.07.28更新

「わたしは全然憩ってない」と思った

ーー 『生まれた時からアルデンテ』、すっごくすてきでした! 本の始めのほうに、小さいころの食日記を掲載されてたのにめっちゃ笑ってしまって。

平野食日記、小学生の頃からずっとつけ続けてるんです。今もつけてます!

ーー 「店がどんなにきれいだろうと、来ているお客さんの雰囲気で印象は決まってしまうと思う」とか、「これ小学生が書く!?」と痺れました。

平野いや、辛辣なこと書いちゃってすみません、ほんとに。でも10年以上前の日記だから時効かなって・・・。じつはもっと辛辣なものいっぱいあったんですけど、さすがに・・・世間怖いのでやめました(笑)。

ーー ただおいしいものや、その味について書いたりするのではなくて、街の雰囲気やそのなかでのお店というものを含めて書かれている感じがしました。なんというか、オシャレなカフェに行きました〜というのではなくて、また違う味があるというか・・・。

平野そうですね、カフェとかも行くんですけど・・・心が揺れるというか、何か感じることがないと文章にしないし、したいと思わないじゃないですか。たとえばファミレスとかタリーズとか、そういう場所って自分にとってのホームなんです。昔から行っているし、何も感じないというか。

ーー うんうん。

平野でも、たとえば喫茶店って一般的に憩いの場っていわれるけど、「わたしは全然憩ってないな」って思ったんですよ。わからないことが多すぎて。

ーー全然憩ってない。

平野喫茶店でアイスティーを頼んだら、最初から甘いものが出てきたりしますよね。レモンスカッシュはシロップが別になっているから、そのまま飲むとめっちゃ酸っぱいとか・・・カフェだったらありえないんですけど、喫茶店ならやる。そういうのは「喫茶店ならではの文化だな」と思います。本当にそういう些細なことから始まって、謎がすごく多くて、キョロキョロしちゃうし考えちゃうし・・・。でもそういうのって、心が揺れている証拠だなって。


気づいていないくらいの豊かさに憧れる

平野でも最近、何も感じない店の良さにも気がついて。スタバじゃなくて、喫茶店でもなくて、コーヒースタンドでもなくて、なんかタリーズ行きたい、みたいなときがあるんです。なんだか私タリーズ大好き人間みたいですけど(笑)、そこに行くと、何も感じずにただボーッとできるというか。そういうのも、それはそれで良さなのかもなって。

ーー 喫茶店は、そこに来ているお客さんのおじさんとか見てしまう。

平野そうなんですよ。自分が異質な存在だから、その異物感を楽しむというか、そもそも自分のための店じゃないんですね。だから客観的になる。

ーー うんうん。

平野ほんとうは、食べ物の写真とか撮らない人になりたいんですけど、なれないんです。

ーー 写真とか撮らない人になりたい?

平野写真を撮るのは残したいと思うからですよね。でも別にそれが日常なら、残すも何もない。今日のうちのお母さんの顔とか、写真撮らないし(笑)。日常の中で当たり前に食を愛せる落ち着いたおじいさんやおばあさんはいいですよね。自然で、何も言いたいこともないような雰囲気で、無表情にのりトーストなど頬張っておられる。それを勝手に観察して憧れてます。





はずさないってそんなに大事?

ーー 平野さんも本のなかに書かれていますが、最近ほんとうに、食べログの星を信じすぎちゃいけないなと感じていて。

平野あまりにもそれを信じすぎると、人生がつまんなくなるだけだと思う。食べログって、はずさないためのレストランガイドなんですよね。でも、はずさないってそんなに大事なことなの? と思うんです。はずしたくないって思っている人は、食を社会生活をなめらかに進めるための手段としてしか扱ってないんじゃないかって(笑)。泣ける!映画とか、笑える!本とかもそうだけど、モテる店とか、接待受けがいいとか・・・わかりやすい効果効能を求めるのは、本当の娯楽じゃないと思うんです。

ーー なるほど。

平野「ごはん好きだよ」ってよく言うけど、外しても面白いとか、失敗してもわくわくするとか、純粋に追求するみたいな楽しみ方、あんまりしていなんだなあと感じます。まずくても楽しいことってあるのに。「ごはんって娯楽じゃないんだな」って、食べログが普及しているのを見て思う。

ーー たしかに、たとえば「お金を貯めて、高いごはんを食べに行こう!」とか言うひとはあまりいないですね。

平野そうなんですよね。大学生でも、服が好きでがんばってお金を貯めて、お金をつぎ込む人はけっこういますよね。それはすごくかっこいいな、と思うんですけど、食文化にも同じことをやる人が増えていいじゃんと私は思っていて。

ーー うんうん。

平野私、この春からOLやってるんですけど、初任給で1人でフレンチ食べに行ったりしました。カエル食べて超楽しかったですよ。

ーー うわあ、すてきです!


いましか味わえない味

ーー 就職されるときは、文章一本でいこう! とは思ってはいなかったんですか?

平野ちょうど3年生のときに行っていたインターン先にたまたま採ってもらえたので、就活は全然していなかったんです。そのまま4年生は食の仕事をしていて、3月になって「どうしよう・・・」と。フリーでやっていける自信はないし、そうしてたら就職しちゃって、OLになっちゃった(笑)。

ーー でもOLっていいですよね。OL同士でランチとか、けっこう憧れます・・・。

平野OLにしか味わえない味に気づくのが楽しい! いましか味わえない。パンケーキってこんなうまいのかあ! とか相席中華は隣のおじさんのばっかり美味しそうにみえるなあ! とか。けど、大学院とかで研究や勉強もしたいんです。立命館大学に、食文化を研究する機関が最近できたらしくて。

ーーへえ~。知らなかった!

平野栄養学とか化学だけでなく、哲学とか、社会学とか、いろんな分野と関わりながら食について研究する機関らしくて。ちょっと、わたしそこ行きたい、みたいな感じなんですけど(笑)。研究員ってかっこいい・・・なりたい・・・。

ーーええっ、いつでも京都、来てください(笑)。


*後編は明日、更新します!

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平野紗季子(ひらの・さきこ)

1991年福岡県生まれ。2014年3月慶応義塾大学法学部卒業。小学生から食日記をつけ続ける生粋のごはん狂(pire foodie)。日常の食にまつわる発見と感動を綴るブログが話題となり、現在「an・an」「SPRING」で連載中。他に「BRUTUS」「ELLE a table」など数多くの雑誌・ウェブマガジンで幅広く執筆。

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