本屋さんと私

『西加奈子と地元の本屋』(140B)

 2014年6月、『西加奈子と地元の本屋』という本が発売になりました。代表の三島をはじめ、西加奈子ファンの多いミシマ社メンバー。「西加奈子さんの特集本が出るらしい」と聞いて以降ずっとソワソワしていたのですが、発刊元がミシマ社とも縁の深い大阪の出版社「140B」だと知り、「ええっ、これはほっとかれへん!」と大暴走。編集部に突撃取材をおこなったり、西加奈子さん原作の映画『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』の試写会に突入したりしているうちに、大阪の本屋さんと出版社が一緒につくったこの本の魅力に、どんどん取り憑かれてしまったのでした。

 そしてなんとこの本の発刊記念として、2014年8月3日、西加奈子さんと弊社代表・三島邦弘のトークイベントが開催されました。ああ、好きなあまりの大暴走って、してみるものなんですね・・・! と大感動(マネはしないでください)。
 大阪の本屋さん・ダイハン書房の山ノ上純さんを進行役に、本の話や本屋の話、はたまたプロレスの話まで!? 縦横無尽に進んだ爆笑対談を、全3回でお届けします。
 いやあ、西加奈子さん、ほんまに最高! もっと大好きになりました。

(構成・写真:新居未希、構成補助:市道野愛)

第123回 小説は絶対なくならない

2014.08.28更新

その1その2もあわせてどうぞ

作家の数だけ役割分担

『漁港の肉子ちゃん』西加奈子(幻冬舎文庫)


『通天閣』西加奈子(ちくま文庫)

―― 最近文庫になった『漁港の肉子ちゃん』でも「これ西さんのお母さんちゃうん!?」って思ったりしてしまうんですけど、小説を書くときは、実際の出来事や人物が入ってきたりされますか?

西『通天閣』だけはモデルがいますけど、それ以外はまったくの創作です。『肉子ちゃん』は、昔、大阪でネグレクトの事件がありましたよね。それで、語弊があるかもしれないですけど、子どもってもっと簡単に誰かにゆだねていいんじゃないかって思ったんです。あの人が誰かにゆだねることができたら、あの子は死ぬことはなかったんじゃないかって。そういうとこから広がっていきました。全部創作ですね。

三島なるほど。

西でも、さっき言ってた身体性っていうのはやっぱり出て。なぜなら、書いてるのは自分の身体やから。どうしようもなく自分なんですよね。限りなく自分をなくして書かれる作家もいらっしゃいますけど、自分性をなくすってことで出てもうてるみたいな(笑)。

―― たぶん西さんのファンの方は、ところどころに出る西加奈子性みたいなのがすごく好きで読んでらっしゃるんだろうなと思います。

西私はたぶん、自分のこと大好きなんで隠せないんですね。私の"どや"を(笑)。

三島あはは(笑)。

西自分が書いてるかぎり、自分なんですよ。たとえば何の変哲もない白いシャツでも、絶対に作った人の"どや"はあるんですよ、ボタンのつける位置とか、どこかしらに。それを言ったらうちら作家って全部"どや"っていうか、タイトル決めるわ会話も決めるわ、全部自分じゃないですか。

三島うんうん。

西私はまだ技術がそこまでないから、「自分の好きなものを書こう」って思って、好きなもの書いてる。そのかわり、私の本だけが世界にある本じゃない。もうそれこそ、本屋さんに行ったら何万冊もあるわけじゃないですか。「そっから選んでくれ」って思うんですよね。みんなで役割分担してるようなもんやから。そこはほんとうに、同時代に作家がいてよかったなあと思います。しゃべってるとめちゃくちゃ力もらえるし、みんながいてくれるから個人プレーにいきやすいんですよね。

三島その感覚はなんとなくわかります。出版社はじめて8年目なんですけど、ちょうど8年前から同じ年くらいの人がぱらぱらと出版社を作り始めていて。たとえばナナロク社であるとか夏葉社であるとか、彼らとは頻繁に会ったりはしないんですが、だけど同士というか。全然出している本とかは違うんですけど、同時代にこういう出版社があってくれて本当に良かったなあっていうのはすごくあります。


プロレスと出版業界はイコールだ!?

『こうふく みどりの』西加奈子(小学館文庫)

三島西さんもいろんなところで話されてますが、僕もプロレスが好きなんです。だから『こうふく みどりの』に初代タイガーマスクとか猪木が出てきたときは、本当にうれしかったです。

西アントニオ猪木さんというと、ブルーハーツの甲本ヒロトさんも猪木さんのことが大好きで、「プロレスは八百長とか言われるけど、ファンタジーをやってるんだ」って何かでおっしゃっていて。ファンタジーって、究極にファンタジーをやると、それをファンタジーかどうか疑う人がいなくなるんです。それが猪木さんなんですね。それって小説でも言えることで、小説って嘘なんですよ。でも嘘だと話しだしたらアウトというか、そうじゃなくて「これは自分のことや」って最後まで思わせてくれる力って、絶対あると思う。...無理やりプロレスとつなげてるんですけど(笑)。

三島あはは(笑)。

西あとはなんかリングで......あかん、めっちゃ興奮してきたんですけど!(笑)。リングは四方から見えるから、レスラーの方が「人生見られてるようなもんや」って。隠せない。その感じがとてもわかるし、私はすごい今、プロレスに勇気づけられてる感じですね。

三島強い弱いとか、勝ち負けとか、プロレスはそこにまったく価値がなくて。もちろんそこの面白さもあるんですけど、その攻防のやり取りだとか駆け引きとか「もう3カウント取られていいよ!」っていうのにまだ跳ね返すとか、もう一個一個に涙してくるんですよね。

西あと、この出版業界ともダブらせているところがあって。本屋さんとかもそうやと思うんですよね。小説でいうと、どんどん売り場が狭くなってる。一番見えないところにある本屋さんもあったりするんです。たぶん三島さんは一番苦しかったプロレスの頃、お客さんも全然いなくて、人気も底をついていた頃をご覧になってたと思うんですけど、最近新日本プロレスっていうのがもの凄い人気なんですよ。立ち見が出るくらい。東京ドームも満員やし、今年の夏の選手権は西武ドームでやるんですけど、西武ドームですよ? そんなの猪木さんの頃から考えてもなかったことですし。

三島ええ。

西それはなんでそんなことが起こってるんかって、選手がプロレスをやり続けてきたからなんです。もう、それでしかない。一試合一試合、全力でやってきただけ。で、それって作家でも絶対おなじこと言えると思うんです。あの、一番がんばって新日本プロレスを盛り上げた棚橋弘至という選手がいるんですけど、すごいチャラいんですよ。

三島あはは(笑)。

西最初出てきたとき「チャラいのお~!」と思ったんですけど(笑)、やっぱその人わざとそうしてたんですよね。もう「猪木イズム」を捨てるって決めてやってたんです。すごいブーイングされながら。そんな棚橋選手が、今年のお正月に満員になった東京ドームを見て「プロレス信じてやってきてよかったです」っておっしゃって、私はそのとき泣きながら「これ、絶対いつか言おう」って思った(笑)。小説信じてやってきてよかったって言える日が絶対に来るし、本屋さんにもそう思ってもらいたいですよね。

三島うん、うん。

西もちろんそれは出版社さんにも思ってほしいし、思うってアナログやから、思わないと、それでしか変わらない。それをほんま、今年の1月4日に決めました(笑)。

三島いやあ~。ぐっときました。

西私は、プロレスは蝶野正洋で終わったと思ったんですよ。でも、終わってないんです。作家も絶対おんなじこと言われてて。太宰で終わったっていうおっちゃんもいるし、町田康までやろっていう人もいるし、本当にあからさまに、最近の本なんか読めへんって言われることもあるんですよ。でも、小説は絶対なくならない。なぜなら私たちがいるから、っていうのは、すっごい思ってます。

三島やった〜!


西加奈子さんは、今年中に小学館から新作長編『サラバ!』が刊行予定。今までで一番長い長編というからにはもう、楽しみで楽しみで待ち遠しいですね!
未読の方は、この秋にぜひ、西加奈子ワールドに浸ってみてください。


   

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西加奈子(にし・かなこ)

1977年イラン・テヘラン生まれ。エジプト・カイロと大阪で育つ。2004年『あおい』でデビュー。07年『通天閣』で織田作之助賞、13年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞を受賞。著書に『さくら』『きいろいゾウ』『きりこについて』『炎上する君』『円卓』『漁港の肉子ちゃん』『舞台』など多数。

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