本屋さんと私

『きみは赤ちゃん』川上未映子(文藝春秋)

 「ほんとうに、すっっっばらしいエッセイなんです!!!」
 ある日オフィスに、編集部・アライの興奮の声がこだましていました。その勢いで自社本と同じかそれ以上の勢いでいろんな人に推しまくり、気がつけばミシマ社メンバー全員が読んでいたエッセイが、川上未映子さんの『きみは赤ちゃん』です。

 ご自身が経験された妊娠・出産・子育てに関して書かれているのですが、笑いも涙も苦しみも痛みもぐるっと書きつつ、重苦しくなく、こんな本ほかにはない! 女性はもちろん、男性にもぜひ読んでほしい! とわーわー言うておりましたら、なんと著者である川上未映子さんにお会いできることに!
 1児の父・ミシマと、未婚の女子・アライが、お話をうかがってきました。

(聞き手:三島邦弘・新居未希、構成・写真:新居未希、構成補助:東海林未歩)

第126回 知らない世界を体験するのはおもしろい!

2014.09.27更新


子どもは、最大の一回性

―― (アライ) この本を読んで、いつか子ども産みたいなあって私はすごく思いました。

川上それはよかった。子どもは色んな大変なことあるけど、でも最高だと思う。だから、迷ってるのであればお勧めしたいけど、でも、人による、生んでみないとわからないというのは大前提ですよね。私がたまたまこうやって最高って思えたのは、本当に偶然でしかないから。それこそ鬱で亡くなる方も多いわけやから。でも、これはわたしの実感でしかないけれど、女性って、生んでも生まなくても人生は基本的にしんどいですよ。子どもの頃から抑圧されて値踏みされて、思春期をこえたらそのあとずっとキレイにしておけと追い込まれて。でも、何をしてたってどうしたってしんどいのなら、まだ自分の知らないもの、知らない世界を体験するというのは、面白いことだと思います。

―― おおおっ。

川上私はたまたまですが、生んでよかったと思います。でも、ポジティブなことであれネガティブなことであれ、子どもについてはあんまり言えない雰囲気もありますよね。色んな状況の人がいるから。

―― 言えないですね。

川上しんどさもしあわせも、うっすらとしたタブー感があります。だからね、自然と秘密結社めいていくんですよね。子どもを持っている人たちだけで集まって、共有するっていうことになってしまうから、どんどん多様性がなくなっていく。

―― ほんとうに、そこはデリケートな生き物というか。

川上子どもを生むって、取り返しのつかなさレベルで言えばやっぱり、空前絶後のものですよね。生んだ以上はなかったことにはならないわけだし、生まなかったら、もう絶対生まなかったことになる。子どもを持つか持たないかということは、人生の中の色々な問題の中でも、少し位相が違うんじゃないかなと思います。なぜ、どこがどう違うのかについては、いま考えているところです。


無痛分娩? 自然分娩?

―― (アライ) でもたとえば、自分がいざ出産ってなったときに無痛分娩を選ぶかどうか、と考えたら、うーん、どうなんやろう......と。その自分の「どうなの」と思うのは、一体なんなんやろう? っていうのを、すごく考えていて。

川上うんうん。ちょっとやっぱり、痛み感じてみようかなって思う?

―― 感じてみようという気持ちが、ないとは言えないかもしれないです。

川上私も、ちょっとだけ迷った。やっぱり一生にそう何回も経験することではないから、自然分娩でやろうかなって思ったけど、やっぱり妊娠すると「ほんまにもう出すしかない」ってなったときに、「や、それは無理やろ」と冷静になるわけです。痛みになんの意味があるのかと。

―― そうですよね。

川上歯医者で麻酔するのに、出産で麻酔せえへん理由はないやろと。神経の剥き出しの束に、清原番長がフルスイング千本とかいうのをどこかで読んで震えました。あとはやっぱり、日本の体質があるよね。欧米では無痛が主流です。無痛と和痛と自然分娩があって選べたらいいけど、日本は「女は出産の痛みに耐えられるんやから、これしかない」、「痛みを経て、母になる」みたいな信仰も腹が立つし。変えていきたいですよね。出産する本人に、選択肢と主導権がほしい。

―― うん、それはそうですよね。本当にそうです。もし同じお金やったら、無痛を選ぶ人はすごく多いと思うんです。

川上そうよー、保険がきけばいいだけの話です。麻酔医の確保の難しさとか利権とか色々な問題が絡み合ってるんだろうけど、社会において出産じたいがたいした問題と認識されてないんでしょう。ピルが認可されるまでに9年かかって、バイアグラは半年で通す日本やもん。何をか言わんやですよ。


合わせて読むのがおすすめです

―― 出産前後を含めて、この本よかったよ、みたいなものがあったら教えていただけないでしょうか。

『母の遺産』水村美苗(中央公論新社)

川上出産直後に、水村美苗さんの『母の遺産』を読んだんです。出産直後で目もよく見えないんだけど、夢中で読んじゃいました。それで、やっぱり女の人生って、産んでもしんどいし産まなくてもしんどいなって思いましたね。うん、ほんとに。今、すごいしんどいけど、また50代には50代のしんどさがあって、70代には70代のしんどさがあるんだなって思ったら、妙に明るい気持ちになっちゃって。調子悪くて当たり前ぐらいの感じでいこうかな、っていう気持ちになりました。それがまあ、生きてるってことなんじゃないのかな、と思って。みなさんにおすすめです。

―― なるほど。

『ママだって、人間』田房永子(河出書房新社)

川上あとは、ちょうど今同じ時期で、田房永子先生の『ママだって、人間』ってコミックエッセイがあるの。漫画だし、すぐ読めるし、妊娠と出産の家庭における女性性と、社会との自分の常識のズレみたいなものに特化して書かれてます。だから、合わせて読んでもらうのも、すごくいいと思います。田房先生と、みえこので、田房みえこ本みたいな感じで、どうかセットで(笑)。

―― それ、すごくいいと思います! 『ママだって、人間』すごくよかったです。

川上同じ妊娠・出産を経験した2人でも、こんなにやっぱり見え方が違うんだってこともあるし、『ママだって、人間』にはあんまり赤ちゃんが出てこないんですよね。その違いも面白いですよね。あと、やっぱり性の問題って大きいじゃないですか。それに対する不安や疑問とか、田房さんが描ききった問題ってすごく大きくって。的確で、鋭くて、そこまで描くのかって、もうびっくりしますよ。男性にはぜひすすめたいです。

『赤ちゃんがピタリ泣き止む魔法のスイッチ』ハーヴェイ・カープ(講談社)

―― 実践的に役立った本はありますか?

川上私、あんまり育児本って読まなかったんですよね。でも、本にも書いたんですけど『赤ちゃんがピタリ泣き止む魔法のスイッチ』っていう本は、すごい嬉しかったなあ。すごい、労ってくれるの、その本が。「よくがんばりましたね」とか3カ月目のときに書いてくれてて。なんか本当に、人と会話してるみたいな感じがして、すごく助けられましたね。

―― それは、この本にもすごく感じました。ほんとうに、川上さんと会話しているみたいでした。


愛情溢れる本屋さんが好き

―― 川上さんは、本屋さんに行かれる時間とかありますか?

川上最近、やっといく時間ができてきました。たとえば買い物をしていて、子どもがベビーカーで寝たときに行って、ゆっくり見てます。やっぱり、ポップを見るのが好きだなあ。ポップって、愛情が伝わるじゃないですか。書店さんのポップとかすごい見ます、人のポップを見るのがすごい好きです。見ていると嬉しくなりますよね。

―― とくに好きな本屋さんはありますか?

川上住んでるところが住宅街だから、行きつけの本屋さんはないんだけど......たとえば渋谷のSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERSとか、そこに行かないと出会えないセレクトとか並びあるじゃないですか。そういうのとかもたまに行くと楽しいよね。あと、本屋さんに行ったら絶対詩集のコーナーに行くなあ。
 最近は大型の書店とかぱっと行けるところにしか行ってないんだけど、もうちょっと時間ができたら、またいろんな本屋さんに行きたいな。

―― 本屋さん、行くのお好きなんですね。

川上大好きですね。あっというまに時間がなくなっちゃう。書店の人が、本がほんとに好きなんだなーっていうのが伝わってくると、すごく気持ちが強くなる。本って書いてると、忘れちゃうんだよね、ときどき。ほんとに物語とか小説とかって必要とされてるのかなとか、どんどんどんどん内に篭っていくというか。でもこんなに本を強く好きでいてくれる人がいっぱいいるんだと思ったら、またがんばろうと思える。読者の方に対しても思うけど、書店員さんにもすごく思うな。だからポップとか見てると、すごい嬉しい。力を貰ってますね。

―― そうですよね、ほんとに本屋さんの力は大きい。

川上嬉しいですよね。子育て中のお母さんとかは家からなかなか出られないし、ネット書店で買ってくださるのもすごく嬉しいんだけど、でもリアル書店でもね、これからも買ってもらえたら嬉しいな。


   

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川上未映子(かわかみ・みえこ)

1976年大阪府生まれ。2007年、初めての中編小説「わたくし率 イン 歯ー、または世界」が第137回芥川賞候補となる。同年、早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞を受賞。2008年、「乳と卵」が第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で中原中也賞を受賞。同年、長編小説『ヘヴン』を発表し、2010年、芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞を受賞。2013年、詩集『水瓶』で高見順賞、短編集『愛の夢とか』で谷崎潤一郎賞を受賞。他の主な著書に『すべて真夜中の恋人たち』など。2011年に作家の阿部和重氏と結婚、12年に男児を出産した。

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