本屋さんと私


 現代社会は、ファストフードやコンビニ食、イタリアンに中華料理、言い出したらきりがないくらいたくさんの食べ物に溢れていて、なにかを食べたいと思えばすぐに手に入れることができます。
 食べることがすき。料理をすることがすき。そんな人は、きっとたくさんいるだろうなあ。

『ナチスのキッチン』藤原辰史(水声社)

 けれどたとえば、今日食べたサラダのなかに入っていたトマトは、たくさんの農薬がふりかけられてできています。そしてその農薬は、近代化されたハイテクな機械でまかれていて、そしてその農薬を使うことによって、農家のおじさんが......。そんなふうに、毎日わたしたちが必ず手にしている「食べ物」のすがたの後ろ側を、想像したり、考えたことはあるでしょうか?
 すべての食べ物には、歴史があります。そしてそれをめぐる政治があり、思想がある。
 そんな当たり前のようでそうではない、普段はまったく考えも及ばないことに気がつけたことは、とても衝撃的でした。

 そんな驚きをたくさん与えてくれたのが、『ナチスのキッチン』や『食べること考えること』の著者であり、京都大学人文科学研究所の准教授である、藤原辰史さんです。ずっと聞きたかったあんな話やこんな話、そして本屋さんの話を、たくさん伺ってきました。

(構成:太田明日香・新居未希、写真:新居未希)

第132回 ひたすら古本屋を巡ってた

2014.11.12更新



自分を確認する場所

―― まだまだ聞きたいことはたくさんあるんですが、そろそろ本屋さんのお話を伺いたいと思います。京都ではどこの本屋に行きますか?

藤原いちばんよく行くのは、京大生協のブックセンタールネですね。あとは三月書房。ゼスト御池の地下のふたば書房もよく行きますね。わーっと買っちゃうのは三月書房です。

―― 三月書房はあんなに小さいのに、不思議な本屋さんですよね。

藤原ね、信じられないですよね。小さいのに充実していて、揃え方に筋が通っている。本当に素晴らしい!
 三月書房に行くとついつい買っちゃいますね。院生のころから行っていて、憧れの場所だったんです。ある日見たら自分の本が並んでいて、2回目か3回目に行ったときに、「私の本を置いていただいてありがとうございます」と言ったら、「あれは3〜4年前から同じ場所にあるなあ」と言われてしまって、「すいません」と帰ったことがあります(笑)。そのあと『ナチスのキッチン』を出したときにも行ったら置いてあったので、恐る恐る「どうですか」と聞いたら、「何冊か出ましたよ」と。うれしかったなあ。柱に切れ目を入れて昔の自分との背比べじゃないけれど、自分の研究を確認する場所ですよね、三月書房って。

―― それは嬉しいですね! 前職では東京にいたそうですが、その頃はどんな本屋さんに行かれていたのでしょうか?

藤原東大にいたので、本郷周辺の古本屋はよく行きました。神田神保町もよく行きました。早稲田の古本屋がよくて、安くていいものが棚に並んでいる。住んでいたのは品川なんだけど、本屋がありませんでしたね。よく行ったのは新宿の紀伊國屋かなあ。このあいだ新宿の紀伊國屋と青山ブックセンターで『食べること考えること』フェアを企画していただいて、とてもうれしかったです。青山ブックセンターは今まであまり行かなかったけど、選書のセンスがいいですね。でも、三月書房にあたる店は最後まで発見できなかったなあ。あるんだろうけど、見つけられませんでした。


学生時代は、古本に夢中だった

―― 学生のときは、どんな感じだったのでしょうか?

藤原僕は古本屋が大好きだったので、ひたすら古本屋を巡っていました。京都にある本屋もひととおり行ったけれど、いちばん多いのは古本屋。とにかく暇さえあれば、古本屋に通っていました。田中元町の福田屋書店、一乗寺にある文学専門の萩書房、今出川の外山書店とか。外山書店の社会科学の品揃えはすばらしかったね。もうなくなってしまったのが残念。

―― 古本屋さんで、どんな本を買うのですか?

藤原ナチスや農業や思想の本を買っていましたね。だんだん趣味が広がってきて、最近では農民小説を買ったりするようになりました。農民小説というのは、農民の貧しい生活を書いたような小説。価値が認められていないので、そんなに高くはないのだけど、このぼろい本は2万円くらいしますね。

―― に、2万円!

藤原新刊書店はぐるっと見て回りますし、常連の店は決まった棚しか見ないですね。このあいだ秋田の板澤書房というところに行ったんですけれど、そこはマニア垂涎の学術書の店なんです。ネットでよく購入してて、現物が見たいと思って、秋田に行ったときに秋田駅でママチャリを借りて行きましたが、ものすごい品揃えでした。
 このあたりの本棚が板澤書房で買ったものです。


―― おもしろそう! 出稼ぎの本とかありますね。知らない出版社がいっぱいあります!!

藤原秋田でしか買えないですよ! 秋田の人が樺太に出稼ぎに行っていたことなんて知らないでしょう? 今は1900年ごろから60年くらいまで活躍した、秋田の伊藤永之介という作家の本を集めています。


いつか、カフカみたいな文章を

―― 最近、料理がテーマのマンガや小説が多いですよね。

藤原料理をテーマにすると、人が読むってことを出版社がわかってるんですよね。ドイツの古本屋でもいろいろ料理本を購入しましたよ。この本を発見したおかげで、この論文を書けたってあるよね。

―― 本を見るときは、研究に関連するものが多いですか?

藤原だいたい8割くらいがそうだけど、好きな作家さんの本も探していますよ。好きな作家は冒険小説の船戸与一さん、山田風太郎、帚木蓬生あたり。ミステリーなら京極夏彦、島田荘司。もちろん夏目漱石とか太宰治も好きだし、外国だとカフカ、ドストエフスキーが好きですね。

―― オールジャンルですね。

藤原でも、ぬるいのは苦手です。恋愛とかよりは、冒険とかミステリーとか不条理ものとかが好きですね。永遠に無理だけど、カフカみたいな文章を書きたいんですよ。ああいう文体が理想だな〜。

―― なるほど、カフカを目指していらっしゃるんですね! どうりで、なんだか学術書ぽくない文体だなあと。

藤原ちょっと素人っぽいんです。アカデミックな世界に完全に入り込めない自分がいて、文章を書くたびにそういう自分を確認せざるをえない。だから、素人っぽい文章になっているのかなとは思いますね。歴史学者ならもっとドライな文章にならないといけないけど、歴史学者になりきれていないのかなあ。

―― 逆にそれが面白いと思います! まだまだ聞きたいお話がたくさんあるんですが、話は尽きないので、そろそろこの辺で。今日はたくさん興味深いお話を、ありがとうございました!


   

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藤原辰史(ふじはら・たつし)

1976年北海道生まれ、島根県育ち。京都大学人文科学研究所准教授。専攻は農業思想史、農業技術史。著書に『稲の大東亜共栄圏』(吉川弘文館)、『カブラの冬』(人文書院)、『ナチスのキッチン』(水声社)、『食べること考えること』(共和国)などがある。

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