本屋さんと私

第135回 本はまわるもの

2014.12.28更新

震いつきたくなるぐらいかっこいい

―― 京都の、本屋さんはいかがでしょうか?

いしいお店というよりも、お客さんが本を扱う感じが、他所よりもより本に敬意を払ってるという気がします。ちゃんと身近なんだけれども、大事なものっていうふうに接してる。本が好きなんですよ、京都の人って。近所の人が、この界隈のことをすごい詳しく書いてる歴史書とか、よく本をくれるんですよね。こんなん知ってるか、これ2冊あるし、あげるわ、とかね。それがうれしいですよ。大事なもん、わけてくれてるんやなって。
 織田作之助賞をもらって新聞に出たときに、近所の人たちが「ええ大人がなにしてるんかなって思ってたら、ようやくわかったわー!」って言うてて(笑)。とりあえずね、字を書く人、絵を描く人は、京都の人は大体大事にするらしいんですよ、昔から。残していくことに対する感性があるんでしょうね。そういうお客さんに応えるために、書店もこうなっていったのかっていうのがありますよね。三月書房とか、アスタルテ書房とかね。

―― うちのオフィスの近くに、いしいさんがいらっしゃるというのを教えてくださったのが、ガケ書房の山下さんなんです。

いしいガケ書房っていうのは、山下くんじゃなかったら、あんなふうにできへんね。今年できたガケ書房の九重(三重・奈良・和歌山の境)にある支店、行ったことありますか? 廃校になった小学校の教室をつかった書店なんやけど、行ってほんとにびっくりしたんですよ。完璧なの。本の並びとか、置き方とか、本が置かれているお店の風景として。もう震いつきたくなるぐらい、かっこいいよ。
 僕は、山下くんが本気になってすごい嬉しかったです。ガケ書房がオープンした当初の凄みっていうのは、みんなにわかりにくくなっているかもしれないけども、みんながそこに行くのは、そのオープン当初の勢いや凄みの余韻を感じているからだと思うんですね。あんなふうな書店をしたい! っていう人はたくさんいる。でもみんな、誰も山下くんじゃないから、あんなふうにはならない。「あんなふうなお店」にしかならなくて、ガケ書房にはならないです。
 恵文社は逆に、どこでもやっていける気がします。ちゃんと計画制があって、全体を見ていると思う。山下くんはでも、きっと自分のお店に何が置いてるとか知らないんちゃうかな。「こんなんありましたっけ?」とか言うてそうやね。


作家になろうと思ったことなんてない

いしい書店、という意味で言ったら、京都ではやっぱり古書店ですよね。本はまわるものであって、一方通行なんじゃないと。本屋さんから読者の手に行っておしまいじゃなくて、いろんなところをまわっていく。本はすごい旅をしてきて、自分たちよりもいろんなもんを見てきてるっていうところにわきまえがある。だから本って偉いなあって、みんな思ってるんだと思います。

―― 私も、いしいさんの最初の本『アムステルダムの犬』を、古書店で買いました。この本も日記ですが、デビュー作が日記だということに、ためらいはなかったのでしょうか?

いしいなかったですね。これも日記やから、もっと前後にあるんですよ。まだ会社で働いていたときに『アムステルダムの犬』っていう表紙をつけて、コピーしたものを配ってたら、それが渡り渡って講談社から「本にしたい」と電話がかかってきてん。
 「講談社の者です」と言うから、うそやんと思って「ちょっと電話番号言うてください、切りますしね」とガチャッと切って、かけなおしてみたんですよ。そしたら出はったから、「あ、ほんまやった」と(笑)。それでそのまま、流れるように本になった。僕自身は小説家になろうとか、作家になろうと思ったこと、全然ないんです。

―― そうだったんですね! それにしても「いしいしんじのごはん日記」、本当に毎日書いていらっしゃいますよね。

いしいうん、だって日記やもん(笑)。書かなくなったらずるずる書かなくなるでしょう。読み返すことはほとんどないですけどね。書いた小説も、基本的にすべて。日記を書くときは、他者がいるという意識が薄いんですよね。それが「書き続けている」ということなんかなあと思います。


アクセス数をはじめて知った

いしいウェブの「いしいしんじのごはん日記」も、書いたそのままが翌日にアップデートされてたら、多少は読者の感覚があるのかもしれない。けど、書いたものをまとめて友だちに送ってるんですよ。それを友だちが定期的に更新してくれているという感じなんです。べつに「誰かが読んでるんだろうなあ」くらいにしか思ってなかったんですけど、このあいだその更新してくれている友だちから連絡があって、「○月○日だけすっごい閲覧数が多かったんだけど、なんででしょう」と。何があったんかなあと日記を見返したら、その日に毎日新聞で自分の日記のことを書いたんですよね。「どんなんやろな」と思って見てみた人がけっこういたんやろなあと思ってそのままメールをやりとりしてたら、「ふだんは1万から2万なのに、その日だけ30万くらいアクセスがありました」と返事がきて。
 それでギョッとしたんですよね。「え、ふだんから1万から2万? 誰がそんなに見てんねん!」って(笑)。それで、はじめてアクセス数とか知ったんです。2001年からずーっとやってて、何人ぐらいの人が読んでるのかわかったの、今年ですよ。

―― えええ! それは、アクセス数もすごいけども、十数年も知らなかったのもすごいです(笑)。

いしいそれやったら、ちゃんとうまいこと本の宣伝とかしたら、売れるじゃないですか。今年『京都ごはん日記』を河出書房新社から出したときに、ウェブ上のごはん日記で「『京都ごはん日記』でました!」とか宣伝しようと、編集者も僕も、誰も思いつかなかったんですよ(笑)。あほやなあ、1万から2万、見てはる人がいてるのに、なんで誰も言わへんのん!って、みんなで後で呆れてました。
 来年に、『京都ごはん日記』のパート2が出るんですけど、そのときに体裁とかをぜんぶ変えようという話になってます。ちゃんと読者向けに、いろいろするようにしようと思ってます。

―― 来年に、またパート2が出るんですね! とっても楽しみです。今日は素敵なお話、本当にありがとうございました。


   

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